Episode 11.0 Upside Down
Summary : GSR. Sequel to "Harassment". / ウォリックは「デート中」だと主張するグリッソムと出会ったが・・・ / Warrick met Grissom who claimed that he was "dating".
Rating : T
Genre : Humor / Romance
AN : ご無沙汰しました。やっと書く時間が取れました。いえ、推敲する時間が取れました。
Real life is suck! です:P 完全ユーモアです。お楽しみ下さい。今回は全三話で短めです。
レビューを下さる方、本当にありがとうございます。一言だけでも、とても励みになります。小躍りして喜んでいます。
「・・・どう?」
「もうだめ」
「もう一回、ダメ?」
「ダメ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
「なあ、あと1回だけ。頼む」
「いや!」
「サラ・・・」
「一人でして」
「そんなの寂しいよ」
「とにかく、ダメ、もう無理!」
グリッソムはサラの背中にそっと手を置いた。
「待ってるから・・・一人で、どうぞ」
俯いて顔を上げないまま、サラは言った。
グリッソムは溜め息をついて、周囲を見回した。
「・・・じゃあ、後一回だけ。待ってて。すぐ戻る」
額に軽くキスをして、そっと離れていくグリッソムを見送り、サラは深々と溜め息をついた。
行列の最後に並び、ふと振り向いて、グリッソムはサラに向かって手を振ってきた。苦笑しながら、サラはそれに手を振り返した。
ふうっと息を吐いて、ベンチの上で体を起こす。
風がサラの額に浮かんだ汗を冷やしていった。
グリッソムが改札に消える。間もなくして、コースターがプラットフォームを出て行くのが見えた。
サラはその後を思い出して、思わずまた口元を抑えた。
「何回乗れば気が済むのよ・・・」
胃のむかつきを堪えきってから、サラはジェットコースターマニアの彼氏に向かって、秘かに愚痴をこぼした。
************
戻ってきたグリッソムの満面の笑みに、サラは苦笑を隠さずに話しかけた。
「満足した?」
グリッソムがおどけたように眉を上げるのを見て、サラは勘弁してと言うように首を軽く振った。
「何か飲むか?」
グリッソムに聞かれ、サラは園内を見渡した。
「ジェラート買ってくる」
そのままフラっと彼の元を離れて行きかけて、サラは足を止め、軽く振り返った。
「いる?」
グリッソムは少し考えて笑顔で答えた。
「チョコバニラレーズン」
サラは分かった、と小さく手を振って売店の方へ歩いて行った。
グリッソムはふぅっと額の汗を拭い、それから近くのベンチに腰を下ろした。
リニューアルしたジェットコースターに乗りに、二人はベガスの遊園地に来ていた。
サラが全く乗り気ではないことは彼にも分かっていたが、彼女自身が以前、「一緒に行く」と約束していたので、渋々ながらついてきた。
当初、サラはコースターに乗るのを嫌がった。彼女が怖がっていると分かってからは、グリッソムはなおのこと彼女を乗せようと躍起になった。
一度も乗ったことがない、遊園地にもそもそも遊びには来たことがないと知ったときは、少しだけ彼女の過去に胸が痛んだが、それ以上に彼は「新しい体験」に彼女を引っ張り出したかった。
それには一応成功したのだが、どうやら、彼女にもジェットコースターを好きになって欲しいという目論見は、叶わなかったようだ。
二度連続で乗せたのが間違いだっただろうか?
サラは蒼い顔で吐きそうになっていたので、さすがにそれ以上の無理強いはしなかった。
まあ、仕方あるまい。
遊園地に付き合ってくれるだけでも、有り難いと思うべきだろう。
グリッソムはまるで高校生に戻ったかのようにはしゃいでいた。サラは呆れながらも、彼に付き合った。
メリーゴーランドに恥ずかしがりながらも乗ったり、ミニカートで真剣にぶつけてきたり、巨大迷路で喧嘩しながら脱出したり、「高校生のような」デートを、二人とも大いに楽しんでいた。
それでもサラは、彼が腕を組もうとしたり手を握ろうとする度に、そっとそれを押しとどめていた。ベガスは彼らと彼らの知り合いのホームタウン。どんな知り合いに見咎められるか分からない。それをとても気にしているのが分かった。
次はやはりベガスの外に行かないとな、と思いながら、グリッソムは再びふぅっと息を吐いた。
冬の終わりかけのこの日、ラスベガスの午後3時は暑かった。
ベンチの背もたれに寄り掛かって、グリッソムは伸びをした。
「あれ?グリッソム?」
声に周囲を見回して、グリッソムは人なつこい笑顔を見つけた。
「ウォリック」
片手を上げて挨拶すると、ウォリックは周りをキョロキョロ見回しながらグリッソムに近づいてきた。
「仕事ですか?」
「いいや」
「じゃ、どうして・・・」
「デートだ」
笑顔で答えたグリッソムを、ウォリックは驚いたように見た。
「へえ・・・」
目を丸くしているウォリックに、グリッソムは逆に問い掛けた。
「君は?」
ウォリックは肩をすくめた。
「ティーナと」
「家族サービスか」
「そんなとこです・・・最近喧嘩ばかりしてたから、埋め合わせです」
どこの男女も同じか、と思いながら、グリッソムはふっと笑った。
その微笑に、ウォリックは少し意外そうに彼を見たが、特にコメントはしなかった。
「それで、奥さんは?」
「ああ、いまジェラート買いに行ってます」
グリッソムは一瞬言葉に詰まった。
・・・サラとティーナは面識があっただろうか。
「そうか。・・・暑いな、今日は」
「ええ」
ウォリックはベンチの隣に腰を下ろした。ほんの僅か、グリッソムは居心地悪そうに身動ぎしたが、ウォリックは気付かなかったようだ。
二人はしばらく、他愛ない会話で時間を潰していた。
「サラ?」
お金を払って両手にジェラートを持って店を離れかけていたサラは、腕を掴まれて飛び上がらんばかりに驚いた。
「サラ、でしょ?えーと、・・・」
サラは目の前の女性を見つめた。直ぐにその名前が脳裏に浮かんだ。
「確か、ティーナ。ウォリックの」
「ええ、そうよ。ええと・・・」
「サラ・サイドルよ」
「良かった、合ってた」
ティーナはにこりと笑った。
「ウォリックと?」
サラはぎこちなく笑い返しながら尋ねた。
「ええ、そう。久しぶりのデート」
「そう」
会話しながら、ティーナはジェラートを注文し、代金を払い、両手に受け取った。
「あなたは?」
ティーナは振り向いて肩越しにサラを見た。
「あなたもデート?」
「あたしは」
慌てて言いかけて、サラは瞬間的に頭を整理した。
「友達の、付き添い」
「友達?」
ティーナが疑うようにサラを見る。
「そう、友達」
なぜかサラは、ウォリックに「デートで遊園地に行くようなサラ・サイドル」だと知られたくなかった。
「ふうん」
ティーナは面白そうにサラを見たが、それ以上は突っ込まないで、歩き始めた。が、サラが付いてこないのに気付いて立ち止まると振り返った。
「行かないの?」
サラは両手のジェラートを見つめた。少し溶け始めていたが、並んで出て行くわけに行かなかった。
グリッソムといるところをティーナに見られたら、すぐにウォリックに知られることになるだろう。
そうしたらあっという間に秘密はバレてしまう。
サラは思わせぶりに周囲を見回した。
「ここで・・・待ち合わせてるから」
「そうなんだ」
ティーナは納得したようにいい、ジェラートを持った片手を軽く挙げて振った。
「じゃあ」
「じゃあ。・・・ウォリックによろしく」
「ええ」
ティーナはもう一度にこりと笑って、去って行った。
サラは軽く目を閉じ、大きく息を吐き出した。
「ウォリック、お待たせ」
女性の声に、ウォリックとグリッソムは顔を上げて同じ方向を見た。
二人は同時に立ち上がった。
「あら・・・」
ティーナはグリッソムを見て、少し首を傾げた。
「あなたは、確か・・・」
「上司の、ギル・グリッソムだよ」
ウォリックがそっと囁く。
「覚えてるわよ。ティーナです」
グリッソムはティーナが差し出した手を軽く握った。
「ギル・グリッソムです」
「以前お会いしましたよね?」
「あまりお話しする時間はありませんでしたが」
ウォリックは少し居心地悪そうに頭を掻いた。
上司に妻を紹介するというのは、なんともばつが悪いものだ。
「お仕事ですか?」
ティーナはふと、眉を寄せて聞いた。まさかデートは中止だろうか?
「いえ」
グリッソムは慌てて両手を振って否定した。
「彼も、デートだって」
ウォリックが小さく言うと、ティーナはにこりと笑った。
「まあ」
それから、ふと、ウォリックを振り返った。
「あなたの同僚に会ったわ」
「同僚?」
「ええ。サラっていう人」
グリッソムはぎくりと肩を上げ、それを誤魔化すかのように両手をズボンのポケットにゆっくり入れた。
「サラが、遊園地に?」
ウォリックが半分笑いながらティーナに聞き返している。
何がそんなに可笑しいんだ?
グリッソムはややふて腐れたように思った。
「ええ。友達の付き添いですって」
「付き添いねえ・・・」
ジェラートを食べながら、ウォリックが笑っている。
「何か可笑しいの?」
ティーナが不思議そうに尋ねている。
「遊園地ってキャラじゃないと思ってたからさ」
ウォリックはそう言って肩をすくめた。
ひどい思い込みだ、と憤慨したいのを、グリッソムは堪えた。
ウォリックはふと、グリッソムを見た。そしてティーナを振り返り、もう一度グリッソムを見た。
「ここで待ってれば、あなたの彼女に会えたりします?」
グリッソムは小さく首を振った。
「恥ずかしがり屋だから。どうかな?」
言いながら、グリッソムは近くの木陰にちらりと視線を走らせた。ウォリックとティーナは背を向けているから、気付かなかったようだ。
「あなたのデート相手は、ミステリーにしておきます」
ウォリックが言うと、
「頼む」
グリッソムは片方の眉を上げて答えた。
ウォリックとティーナはもう一度グリッソムに挨拶をして、離れていった。
二人の姿が人混みにまみれて、数分してから、やっとその人影は木陰から出てきた。
「・・・見てたのか?」
「・・・ええ」
サラは両手のカップを交互に見た。
「・・・溶けちゃった」
苦笑しながら、グリッソムはカップの一つを受け取った。
スプーンで一口すくって舐める。
「・・・甘いな」
顔をしかめるグリッソムに、サラは一瞬笑ったが、直ぐに俯いて、不安そうに足を踏み換えた。
「もう、帰るか」
グリッソムの言葉に、サラは明らかに安堵したように頷いた。
「・・・友達?」
並んで歩き出したグリッソムが、ふと尋ねる。
サラはちらりとグリッソムを見た。
「ティーナに、友達の付き添いだと言ったそうだな」
サラは何も言わず、目をそらした。
「私はデートだと言った」
「だから?」
「・・・友達?」
サラはもう一度グリッソムを睨むように見て、首を小さく横に振って、何も言わなかった。
************
その日のシフトが始まるとき、サラはウォリックが会議室にいるのを見て驚いた。
「ウォリック。今日はオフじゃないの?」
「だったけど、呼ばれた」
ウォリックのがっかりした声に、サラは思わずウォリックの肩に軽く手を置いた。
「残念ね。奥さん、怒ってるでしょう?」
「そうか、ティーナに会ったんだっけ」
ウォリックに言われ、サラは少し焦ったように周りを見回した。ニックとグレッグはゲームに夢中で、キャサリンは何かの書類を必死で書いていた。
「ええ、まあ」
サラは曖昧に笑って答えた。
「友達の付き添いだって?」
ウォリックは、隣の椅子に座ったサラの肩を、自分の肩で軽く押した。
サラは苦笑気味に唇を噛んだ。
「ノーコメント」
「お、じゃあデートだったのか?」
「ノーコメント」
ウォリックは小さく笑った。
「サラ・サイドルがデートで遊園地かあ」
「うるさい」
サラは小声で言いながら、今度は自分が肩でウォリックの肩を押し返した。
ウォリックはクツクツと笑った。
「なに?どしたの?」
ニックとグレッグが、ゲームを終えて二人の側に来て座り直した。
「何でも無い!」
サラは抑えた声ながらも強く言って、ウォリックを睨み付けた。
「おお~こわ」
「なになに?」
「教えてよ~」
ニックとグレッグをニヤリと見て、ウォリックはそれからサラをちらりと見た。
サラは唇を噛んでウォリックを見ていた。その請うような瞳に、ウォリックは一瞬驚いたが、直ぐに肩をすくめてニックとグレッグを見た。
「ティーナのご機嫌取りをしたって話」
ちらりとサラを見たウォリックは、サラの唇が「ありがと」と動いたのに、小さくウィンクを返した。
「揃ってるかな」
その時グリッソムがアサインカードを持って入ってきた。
ニックもグレッグも、書類を覗き込んでいたキャサリンも、全員が顔を上げてグリッソムを見た。
「キャサリン、ニックと三重殺人だ。ウォリック、サラとストリップ通りの死体遺棄を頼む。グレッグは私と死体農場だ」
アサインカードをグリッソムが振り分ける。
「えー、あたしも死体農場がいい」
不満そうに声を上げたのはサラだった。
ニックとグレッグが目を白黒させながら顔を見合わせる。キャサリンは目を剥いて信じられない、というようにサラを凝視した。
「ボク、替わってもいいですけど?」
グレッグが控えめに申し出たが、グリッソムは一睨みして黙らせた。
「ゴミ箱あさりは次は君の番だろう、サラ?」
グリッソムが首を傾けながら言うと、サラは頬を膨らませた。
「分かったわよ」
グリッソムはアサインカードをウォリックに渡しながら言った。
「ウォリック、すまないな、オフなのに。出来れば呼び出したくなかったんだが・・・」
ウォリックは肩をすくめた。
「しょうがないですよ。ま、昼間眠いの我慢して付き合ったんで、少しは埋め合わせになったでしょう」
グリッソムは首を傾げた。
「女性にとってはデートの後の夜が大事なんじゃないのか?」
キャサリンが再び目を剥いてグリッソムを見た。
ニックとグレッグも目を丸くしてグリッソムを見ている。
サラはなぜか俯いていた。
ウォリックは肩を揺らして笑った。
「そういうあなたも、夜のデートはお預けしてきたんでしょ?」
グリッソムはにやりと笑った。
「続きは予約してきた」
サラはなぜか机に頭をぶつけた。
「デート?」
キャサリンの声が裏返っている。
「遊園地でばったり会ったんだ」
ウォリックの説明に、キャサリンはなぜかむせたように咳払いをした。
グリッソムは心外そうにキャサリンを振り返った。
「私だってデートくらいする」
大まじめなグリッソムに、キャサリンは口角を上げた。
「そう・・・良かったわね」
「あー、そういえば、ジェットコースターがリニューアルしたんでしたっけ」
ニックが言うと、サラを除く全員が、「ああー」という合点がいったという声を漏らした。
「何が悪い?」
横目でサラを見ながら、グリッソムはわざとらしく尋ねた。
サラはなぜか額を撫でていた。
「あなたのデート相手って、どうせ修理工とかそんなでしょ」
キャサリンが笑いながら言うと、グリッソムはムッとして言い返した。
「ちゃんと女性とデートした」
キャサリンは一瞬驚いた顔をしたが、首を振りながら言った。
「あなたとジェットコースターに乗る女性?ホントにそんなのいるの?」
キャサリンがウォリックを振り向く。ウォリックは肩をすくめた。
「お相手には会ってないんだ」
「なあんだ。じゃあやっぱり女性とデートしたのか証明出来ないじゃない」
「グリッソムのデート相手ってもしかしたら人じゃないかも?」
「虫とか?」
「あーありえそう!」
ニックとグレッグまでが悪のりする。
グリッソムがむすっとしたとき、サラが静かに立ち上がった。
「グリッソムが誰と・・・『何と』デートしようがどうでもいいじゃない。ウォリック、行くわよ」
サラが「何と」と言ったときにニヤリと笑ったのを、グリッソムは見逃さなかった。
「あたしが運転する」
廊下で追いついてきたウォリックに、サラはちらりと視線を投げかけながら言った。
「仰せの通りに」
笑いながら言って、ウォリックはサラの耳元に囁いた。
「死体農場のほうがいいって?」
サラは横目でウォリックを見ただけだった。
「それぞ俺の知るサラ・サイドルだ。遊園地は、やっぱり君のガラじゃあない」
ウォリックの肩を、サラは軽く拳で小突いた。
TBC.
