1.憂うつな朝

それはとてもお天気の良い休日の朝。

宮廷魔法使いのセドリックは魔法の薬を作るために徹夜で仕事を続けていました。
日が登るとまぶしい光が窓から射し込み、彼の暗い研究室も光で満たされました。

「よし、これでいい。もう少しで完成だ。」
赤い液体の入った試験管を取り、青い液体で満たされたフラスコに注ごうとしたその時

「おはよう、セドリックさん!良いお天気だよ!」

研究室の扉が突然開き、にこにこと笑顔の少女が入ってきました。

「ソフィア姫!?」

驚いたセドリックは試験管の中身を足元にこぼし、慌てふためくと同時に手にしていたフラスコも宙を舞いました。

「ああ、大失敗だ!」

フラスコは床に落ちると、緑色の煙を吹き出し小さな爆発を起こしました。

「カッカッカッ」
止り木で休んでその様子を見ていたカラスのワームウッドが笑います。

「笑うな、ワーミー!」
尻もちをつき、痛めた腰をさすりながら
セドリックはイライラとした声をあげました。

「セドリックさん、大丈夫?」
ソフィアは心配そうに駆け寄りました。

「ノックをしろと何度言ったらわかるんだ?プリンセス、君は魔法使いの仕事が危険なことをまだわかっていないのか?」

「ごめんなさい。怪我はない?」
心から心配しているソフィアの顔を見たセドリックは軽くため息をつくと
「ああ、問題ないよ。それで何の用だ?」
と不機嫌そうに尋ねました。

「あのね、お買い物に付き合って欲しくて」

「買い物だって?なぜ私が君の買い物につき合わなければならない?」
セドリックは驚き、そして立ち上がると不服そうに言いました。
「私は城の魔法使いなんだぞ。徹夜して仕上げられるはずだった魔法の薬を台無しにしておいて、買い物!?誰か他に頼めるだろう!?」

「セドリックさんじゃなくちゃダメなの。」
ソフィアは首を横に振り
「これを見て。」
と、一本の杖を差し出しました。それはソフィアがアカデミーの、魔法の授業で使っている杖でした。

「ん?」
セドリックは杖を手にすると、それを注意深く調べました。
「ヒビが入ってるのか。」
ソフィアは小さくうなづきました。

「随分と乱暴に扱ったものだな。杖はある程度しなりを持たせてあるから、そう簡単にこんなヒビは入らないぞ。」
セドリックは杖を摘まむと軽くしならせながら言いました。そのヒビは小さなものでしたが、魔法を使うには不十分でした。

「新しい呪文の練習をしてたら、テーブルに思いっきりぶつけてしまったの。そうしたら…」

「ヒビが入ったというわけか。」

うなづくソフィアを確認すると、目線を外し
「練習用の杖なら学校が手配出来るはずだ。わざわざ買いに出掛ける必要はないだろう?」
とセドリックは冷たく言いました。

「そうなんだけど、それじゃあ間に合わないの。明日テストがあるから今日中に用意しておきたくて。」
ソフィアはうつむいて話しました。

「学校に予備くらいあるんじゃないのか?」
淡々とした口調でセドリックが続けると、ソフィアはパッと顔をあげて言いました。
「パパに相談したら、新しいのを買ってもいいって!だから私、セドリックさんならきっといい杖を選んでくれるって言ったんだよ!」

「何、ローランド国王?」
セドリックの顔は思わず引きつります。

「うん!そうだよ。そうしたらパパ、一緒に買いに行ってもいいって!」

「ああ、私には相談もなしか…」

ブツブツと文句をいいながら研究室をウロウロし
「行くなら早いほうがいい。少し遠出することになるが構わないかな、ソフィア姫?」
そう言うとセドリックはいくらかの簡単な荷物を手にして出掛ける準備を始めました。

ソフィアは輝くような笑顔で大きくうなづきました。