原作「ワンピース」は尾田栄一郎先生の作品で、私のではありません。
ゾロは駅の前で立っていた。空は薄い青で雲はぽつぽつとありました。今日はそんなに寒くは無い、でも三十分ぐらい待っていたから鼻先が冷たくなっていた。鼻水も出そうになって、袖で拭いた。鼻を拭き終わったら、再びゾロはチラチラと彼が通った道を見た。
待っていたのに、あいつは来ない。さっきは「すぐ行く」と電話で言ったのに。
ゾロは反対側の雑貨屋に目をやった。お店の前にイミテーションの花がいっぱい置いてあった。どんな季節でも咲いている。いつ見ても綺麗なイミテーションの花。でも本物ではない、ただの偽物。
そう、今のゾロの恋のように。
あいつが突然、おれと付き合え、といわれたときゾロはうれしかった。ずっと片思いだったけど、言う勇気が無かった。彼は百パーセントの女好きだ。奇跡なんて本当にあるんだ、とここで始めてゾロは思った。で、ゾロはまんまとはめられた。あいつ、サンジ、はゾロと付き合い始めた理由は「愛」がまったく入ってなかった。
「最近のレディたちはよ、男同士がイチャイチャしてるのが好きなんだよ。そういう野郎共がけっこうもてるんだ。だからよ、ちょっと付き合っている「フリ」をしてくれねぇか?」
すっごくショックを受けたけど、なぜか「ノー」と言えなかった。
ゾロはまた腕時計を見た。もう一時間もここにいた。あいつは多分来ないだろう。また知らない女とヤッているのだろう。ため息を少しついて、ゾロはそこを離れた。今日はあそこへ行こう。
-.-.-
「カフェdeワンピース」という喫茶店まで足を運んだ。ここはゾロの一番好きな場所だ。小さいときから通っていて、今はもうマスターたちと仲良しだ。
ドアを開けると、小さなチャイムが鳴った。カウンターにいたマスターが「いらっしゃいませ」と優しく迎えてくれた。突然ゾロはしんみりとなってしまった。
―サンジもこんな感じで呼んでくれたらな・・・
ゾロはゆっくりといつもの席に座った。
「お、ようゾロ。元気にしてるか?」
「ま、まぁな。エースは?」
「んー、まぁまぁかな?で、なにする?」
「いつものやつ」
「あいよ」
マスターは器用にコップを肩に滑らせてからコーヒーを注いだ。シンプルなカウンター・ショーだけどゾロはそれを見るたびに感動した。自分はちょっと不器用なほうで、そんなことをしたら絶対コップを割ってしまう。
コップはアイススケートのようにカウンタをスーとゾロの手まで進んだ。自分の手にコップを包むように持った。手が少し温まってきた、けっこう冷えてたみたい。ゾロは今日の「待ち合わせ」を思い出してため息をついた。それに気づいたマスターが覗き込むように尋ねた。
「おいゾロ、大丈夫か?」
「あぁ、なにもねぇよ」
「何もねぇような面じゃねぇぞ、そりゃ。言ってみろ、気が晴れるぞ」
マスターは知っていた、何もかもゾロのことなら。ゾロは自分がゲイだと話したとき、エースは全然驚かなかった。だって、エースもゲイだから。最近はマルコという男と付き合っている。ゾロも一度会ったことはある。なかなかいいやつだった。
だから、ゾロは安心して何でも話せた。でもやっぱりこういう話題は苦手だった。胸のあたりがくずぐったくなる。ゾロは目をそらして会話を始めた。
「・・・またすっぽかされた」
「また?」マスターは大きくため息をついた。「ゾロ、あいつはもうやめとけ。よくねぇぞ」
「う、うん・・・でも、」
「でも?」
「嫌いになれねぇ」
「・・・仕方がねぇよなぁ・・・中学から好きだったんだろう?」
「あぁ」
「はぁ、『恋の盲目』ってやつね」
「てめぇもなっているだろう?」
そうだな、とエースは軽く微笑んだ。「・・・で、どうするんだ」
「なにをだ」
「まだこの『恋愛芝居』を演じるのか?」
「まぁ・・・」
「手をつながったことも無い、キスもしてない、恋人のふりをしているだけ。ゾロ、満足してんのか?」
「・・・満足はしてないけど、このチャンスめったに無いんだぞ」
喜びの無い返事だった。
「ゾロさ、ちょっと気分を変えたらどうだ?」ゾロは眉毛を上げた。「お前んとこの学校が文化祭をやるんだろう?お前も参加して、お前のじいさんも呼べよ」
「じいさんも?なんで?」
「てめぇに惚れているんだろう、あのじいさん。誰かに抱かれてぇ、と顔に書いているぜ」
エースはニヤニヤと笑った。
「う・・・」ゾロの顔が突然赤らんだ。「でも、なんかサンジに浮気してるみたいだな・・・」
「あいつも浮気しているんだぞ!そんなこと気にしているとハゲるぞ!」
ゾロは黙ってしまった。確かに、エースの言うとおりだ。サンジと「付き合い」初めて何回も浮気されてる。もともとサンジはゾロのこと全然思っていないからこうなるんだけど。サンジとゾロの間には愛はまったくない。そう思えばちょっと気が楽になってきたような気がしてきた。
あんまりうれしそうな顔をしてないけど、数分前の暗い表情よりましになった。
「考えとく」
「おう、結果を楽しみに待っているぜ」
そのあと、二人はちょこっと会話をして、四時あたりになったらゾロが喫茶店を出た。薄いブルーの空はもう桃色と紫。空を眺めながらゾロは家に帰った。
-.-.-
家に帰るのに四十分もかかってしまった。(途中に迷子)家と言っても本当は寮。親戚がゾロはいい高校に行けるように塾といろんな教師を呼び集めた。おかげさまで、ゾロはすんなりと町で一番優秀な学校に入門するようになりました。その親戚がゾロのおじいさん、シルバー・レイリー。
物心を着く前に、ゾロはレイリーに引き取られ、息子として育てられた。今は親子以上に愛し合っている。キスは普通に交わすほどだ。ゾロが巣離れ(寮に入った)してからあんまり会わなくなった。
ゾロは真っ先に机に向かって便箋と万年筆を出した。ペンの先をなめてから紙にのせた。軽く押して、すらすらと字を書き始めた。短く、簡単に。
『拝啓おじいさま、お元気ですか?おれは相変わらず元気にしております。来週の月曜日に学校で文化祭があります。おれのクラスでは「和風スタイルの喫茶店」をやるつもりです。もし時間があれば、ぜひ見に来てください。』
ゾロは文章を読み直した。これを読んでも来ないような気がしたので、下の文章を足した:
『おれも参加するつもりです。着物を着てお客さんの注文を聞いたり、隣に座って会話もします。ようにするにホストクラブのような感じです。』レイリーは着物が大好きだ。たぶん、かわいい息子(孫?)の着物姿を見たいのだろう。
こんなに簡単にレイリーを誘えるのに、サンジはどんなに上等な餌で釣っても寄ってこない。たまたま釣りの紐にからまってしまっただけ。一応、携帯でメールを送った。サンジは別の高校へ通っているので、文化祭のことは知らないはずだ。
でも、返事はこう書いてあった:
『知っている。ビビちゃんが教えてくれた。おれは行く』
―あぁ、同級生のビビか。いつの間にか仲良くなりやがって。
また気分が重くなってしまった。ゾロは携帯電話を後ろへ放り投げ、ずるずるとベッドにもぐりこんだ。
―早く文化祭きやがれ。そしたらじいさんに会える。
-.-.-
「ゾロ、ちょっと帯を締めてくれます?」ゾロはビビのほうへ向いた。彼女は明るい紫色の着物を着ていた。ビビの小さな白い手には緩くなってしまった帯を持っていた。
「ちょっと待って」ゾロは急いでお盆をテーブルに置いて彼女を助けた。突然帯が外れて、みんなの前に全裸になってしまったら、どんな女の子でも悪夢のようだ。着物と剣道だけは手馴れているので、すらすらと綺麗に閉めた。
ビビはニコッと笑って頭を下げた。「あ、ありがとうございますゾロさん」
「あぁ」
着替え室は静だけど、お外は別の話。うるさく騒いでいる。着替え終わったら、ゾロはそっと外を出た。偶然に店に入ってきた客がサンジだった。ゾロはぎゅっと着ていた青い着物を握ってサンジを見た。サンジのほかに四人の友達を連れてきたみたいだ。なんとなく雰囲気が同じだ。女たらし軍団だ。
「よ、ゾロ」サンジが手を振った。「五人分の席を頼むよ」
ゾロは唇をへの形をしながら「ついて来い」と目で言った。喫茶店の中に二つの部屋があった。ひとつは普段のレストランのような感じのブースがいっぱい並んでいた。ここでは、お客は食べ物を注文して食べるだけ。男子たちはもうひとつの部屋へ連れて行かされた。二つ目の部屋は広い。和室のような感じになっていた。ここでは食べるだけではなく、喫茶店で働いている人はお客さんと一緒にしゃべったりもできます。ただ、お料理の値段は高め。
五人が座って、キョロキョロ周りを見始めた。やっぱ大金持ち学校は違うよな、なんでも豪華だぜとか適当なことに感心していた。ちょっと落ち着いた頃に突然一人がゾロのほうへチラッと見た。
「こいつがお前の『彼氏』か、サンジ?」
「おう、けっこういけるタイプだろう?」
一人は皮肉に鼻を鳴らした「まぁ、おれがホモだったらな」その台詞を吐き捨てたあと全員が笑いこけはじめた。ゾロは一緒に笑えなかった。胸の辺りがだんだんきつくなってくるのが感じた。早くこの場所から出たかった。
「・・・あのさ、なににする?」
「あぁ、どれどれ・・・」
「げぇ!けっこう高けぇじゃねぇか!」
「水にしとけ、美女が来たら注文しようぜ」
「おいゾロ、誰か呼べよ!」
すごい不機嫌になってきたゾロがすくっと立ち上がった。黙ったままで外を出ようとしたら、突然障子が開き、カヤちゃんが入ってきた。あまりに険しい表情のゾロを見てしまったので、口を開くのにちょっと戸惑ってしまった。
「ゾ、ゾロくん!お客さんが貴方を注文したよ!」
「誰?」
カヤがこんなに緊張していると見れば、なんとなく誰だか見当はついた。レイリーは大金持ちで、『力』を持っている大物だ。しかも、レイリーは学校に毎回寄付しているから自由だ。なにやっても、学校は抵抗できない。そのおかげで、ゾロは時々早退しても誰も文句は言えない。
「あ、貴方のおじいさま・・・」
「あぁ、わかった。で、どこの部屋?」
「あ、あちらで」なんと、サンジ達の隣の部屋だった。本当はもうちょっと離れた場所で話したかったけど、混んでいるから仕方がない。ゾロもそんなに気にしていない。この部屋の壁は頑丈に出来てて、耳をすまさない限りなにも聞こえない。
「カヤ、悪いけどあいつらの相手をしてくれねぇか?」ゾロが後ろへ親指を刺したあと部屋を出た。
レイリーは待っていた。銀色の長い髪の毛は肩まで下りてた。時々その髪の毛をくくるときもあるが、ゾロは下ろしているほうが好きだ。ゾロが障子を閉めて座る前にレイリーが優しく微笑んだ。
「綺麗だな、ゾロ」
ゾロはちょっと照れて、目をそらしてしまった。正座をしてからそっとレイリーに近づいた。
「久しぶりです、じいさん」
「学校は楽しいか?」
「あぁ」
「そのわりには返事が弱いの。なんかあったのか?」
「うん・・・まぁ」レイリーは黙ってしまったから、「続けて」という意味だ。「あのさ、おれ今好きな人がいるんだ―」
「サンジという小僧だったかな」
ゾロの顔が一気に赤くなってしまった。この部屋は密閉していて、さらに壁が厚くてよかった、と内心安心した。
「うん、であいつと付き合い始めたんだ」
「ほう、それはよかったじゃないか」
「・・・よかねぇよ」ゾロはムスッと怒ってしまった。
レイリーがゾロの苛立った顔を見て声を小さくしてから訊いた。「私に話してくれるか?」
レイリーの声を聞いただけで少し落ち着いた。ゾロは小さくうなずいてから話した。「あいつが告ったんだけど、ただの演技なんだ。別におれのことが好きで付き合い始めたんじゃねぇんだ。
ゾロの声がちょっと震え始めた。怒りか悲しみ、分かりにくいほどだ。
「くやしいんだ。好きなのに、あいつは浮気するし、誘っても忘れるし、会ってもすごい冷たいんだ・・・」ゾロは着ていた青い着物ににらみつけた。でも、その目には涙がなじんでた。「サンジの好きな色を着たのに、何も言ってくれなかった・・・演技でもいい、綺麗、て言って欲しかった」涙が自然にぽろぽろと落ちてきた。クヤシイ、カナシイ。その言葉がぐるぐると頭の中で回っていた。ゾロは乱暴に着物の袖で顔を拭いた。
レイリーはそっとゾロの方に腕を回し、自分の身体に寄せた。
「・・・ゾロ、お前の今住んでいる寮を見せてくれ」
「え・・・?」突然話が変わったので、ゾロの悲しみが吹っ飛んでしまった。「お、おれの部屋?なんで?」
「どんなとこで暮らしているかが見たい」
「あ、あぁ、いいぜ。ち、ちょっと待って、先生に訊いてみる」ゾロが立ち上がろうとしたとき、腕がつかまれた。ゾロはレイリーに「なに」と訪ねているような顔をした。
「着替えていくのか」
「そうだな、着物で寮へ歩くのはちょっと変だろう―」
「着替えるな。そのままで、案内してくれ」ゾロはビクリと身体が震えた。レイリーの目が光っている。ゾロを求めている目だ。
ゾロはうなずき、何も言わずに部屋を抜け出した。レイリーもあとを追うようについて行った。
-.-.-
サンジ達は最初は盛り上がっていた。こんなに派手で綺麗な文化祭は初めてだったから。ビビのクラスが考えた「和風喫茶店」は一番ゴージャスで上品。女子生徒はみんな美しい着物を着こなしていて、見ているだけで鼻の下が伸びそうでした(男性も着物を着ていたけど眼中に入ってなかった)。もうみんなはわくわくしていた。いっぱいワンダフルな着物姿のレディ達を注文して、楽しい宴になるはずだった。
カヤが入ってくるまでは。
彼女が「ゾロのおじいさま」と言ったとき、サンジが凍りついた。シルバー・レイリー。あんまりいい予感がしない。サンジはゾロのことを中学から知っていた。レイリーを呼ぶときはゾロがものすごく落ち込んでいるときだけだ。
最近、ゾロはちょっと様子が変だとは思っていたが、重症だったとは知らなかった。友達も空気を読んだみたいで、せっかくカヤちゃんが来たのに、丁寧に断った。五人とも水の入ったコップを飲みほし、それを使って壁に当てた。
予想どうり、ゾロは落ち込んでいた。
内容は、予想外だった。
会話を聞いた後、お部屋はまるで海底のように冷たく、暗くなってしまった。誰も笑わなかった。軽い冗談で始めた「レディにもてる計画:ゲイ作戦」。みんなは嘲笑ったのに、ゾロの顔は引きつっていた。
なぜあの場で気づかなかったのだろう。
いや、以前に、ゾロにこの作戦に誘ったときになぜ気づかなかったのだ。あんなに喜んでいた顔がみるみると悲しくなっていた表情、今でも思い浮かぶ。
どんなに傷ついたんだろう。こんなにゾロを苦しめ、めったに表情を表さない彼を泣かしたのに、サンジは考えもしなかった。
重い空気の中でやっと一人が喋るようになった。
「お、おい・・・お前の『彼氏』、あのじいさんに抱かれるぞ」『彼氏』という言葉に重みを感じた。サンジが無意識に立ち上がり、障子を開けた。ゾロとレイリーの姿が見えた、ゾロがクラスの担当と喋っていた。ここからはちょっと距離があったけど早足で歩けば間に合う。でもサンジが靴を履こうとしているとき、二人が喫茶店を出た。急いで片方の靴を履き、追いかけていった。部屋に残った四人は静にとサンジを見送った。
喫茶店から出たのは簡単だ。でも、このあとが難しい。文化祭は広い校庭で行われていた。ここの学校の生徒と赤の他人がわんさか歩いていたり、並んでいたりしてる。四方八方人だらけ。もうゾロとレイリーの姿を見失った。でも、どこに寮があるのかはサンジが知っていた。彼は時々遊びに行ったことがある。たまにはゾロが誘ったり、たまには女子生徒。絶対に学校内の生徒の許可が必要だ。
サンジが舌を鳴らし、急いで寮のほうへ向かった。多分、いつものゾロの方向音痴が発動していれば時間は稼げる。ゾロのじいさんが案内してない場合だけど。
迷路のようにひとごみをすり抜けたサンジはようやく寮の入り口の前にたどり着いた。お外にはガードマンが二人立っていた。綺麗な紺色のスーツを着ていて、時折文化祭のほうへ眺めていた。一人サンジの気配を気づき、近づいてきた。
「どうなさいました?」
「ちょっと忘れ物で、入ってもいいかな?」
「生徒手帳を見せてもらいますか?」
「あ、あぁ・・・」サンジが黙ってしまったあと、小声で訊いた「やっぱりいる、手帳?」
「規則ですから」
サンジの目が魚のように泳いでいた。待つか、それとも強引に入るか・・・?彼の目がパッと開きまたさっきのガードマンに近づいた。
「あ、あの」
「はい?」
「緑髪の男と銀色の髪をしたおじさんを見ました?」
ガードマンがびっくりした風な表情を作った「シルバーさんとその息子さんですね。ちょうど貴方が訪れる前に寮に入りました。何か、息子さんがシルバーさんにお部屋を見せたいとか何とか・・・」
サンジが唖然としました。
遅かった。
-.-.-
寮は十階まであるとても大きい建物だ。女子と男子にはちゃんと別れていた、女子は東側で男子は西。ゾロの部屋は六回目の111号室。
レイリーが番号を見てふっと笑った。
「お前らしい部屋だね」
「そうか?」ゾロは答えながら部屋の鍵を開けていた。カチッと鳴って、ドアが開いた。最初はゾロが入り、後にレイリーが入って、彼がドアを閉めた。
部屋は性別関係なく、みんな同じ。ただ、女子のベッドのシーツは薄い青、男性は青。勉強の机とリラックスをするための机と広いベッドがある。すぐ左には自分専用のおトイレとお風呂とシャワー。あとは生徒の趣味でお部屋を自分の物のように飾る。ゾロの場合はほとんど借りたままで、あんまりオリジナリティがない。
「ほほう、これがお前の部屋か・・・なかなかいいな」
「うん・・・」ゾロはベッドの近くにある窓を見ていた。
―サンジは何をしているのだろう・・・いや、考えないほうがいい、だって今は・・・・・・
「さて、どうしようかな・・・」レイリーが近づいてくるのを感じた。自然に身体が熱くなってきた。レイリーがゾロを自分のほうへ引っ張られ、いきなりくちづけした。
「ん、ふ・・・」
くらくらしそうな深いキスだった。足に力が入らなくなり、ゾロがガクッと倒れかけた。レイリーがゾロを担いでベッドに下ろした。レイリーがゾロの上に跨ぎ、さらに口づけを落とした。ゆっくりと唇からあごに、あごから首筋に。あとを残しながら下がっていった。着物の衿をめくり、乳首をやさしく噛んだ。
「んあぁ、じぃさ・・・」
「こういう時は『レイリー』と呼べと何度も言ったでしょう」レイリーが笑顔で叱った。
着物を早く脱ぎ捨てたい、だんだんきつくなってきた。でも、レイリーはそれを許されない、だってそれは彼の仕事。ゆっくりゾロを乱れるまで愛撫って、三回ぐらいイッたらあとはレイリーが入れる。もう年だからな、と言っている割りにはすごいスタミナを持っている。本当はゾロの疲れ切っている姿を見たいだけのエロ親父だ。
ゾロはグイッとまた引っ張られ、レイリーの膝に乗せられた。彼の足の間に座り、そしてゾロの足を開かれた。ゾロは後ろの頭をレイリーの肩に倒して待ち構えていた。今回は何をされるのだろう?もう息が荒くなっていて、半分裸の状態だ。
「もう勃っているではないか」とレイリーは言い、硬くなって着物の布から小さな山を作っているアレを握った。ふ、とゾロは短く息を吐いた。布はもうぬれていて、べとべとしていた。かわいいな、とレイリーはゾロの耳に囁いてから両方の手を動かし始めた。ひとつは前、もうひとつは後ろ。ゾロの腰がビクッと揺れて、甘ったるい声が口からこぼれた。
「あ、っんぁ、レ、レイッ―」
「そうそう。いい子ね」レイリーが手を休まずにうなずいた。次から次へ、ゾロの後ろに指をくわえた。そのたびに、ゾロは物欲しそうに腰を揺らした。早く入れて、と言っているようだった。
「まだ早いよ、ゾロ」
「っあ、でも、も、いっちぁっ」
「しかたがないな・・・ほれ」レイリーがちょっとだけ手をゾロから離し、自分のズボンのベルトを取った。カチャかチャと音がゾロの耳に入ってきた。開かれていたゾロの足の間からレイリーの性器が現れた。大きく、赤くなるまで育っていた。
「ここ、自分で入れな」レイリーの低い声を聞くだけでもうイキそうだった。ゾロは震えている下半身をゆっくりと上げ、レイリーの欲望の上に座るように下りた。自分で入れたのに、まるで準備をしてないように悲鳴をあげた。体ががくがくと振るえ、レイリーの全部が入った。
「んん、きついね、お前は」
「ああ、あん、た・・・のは、ぁ、」
「『気持ちいい』と言いたいのかね?」息を吐くように笑った、「恥ずかしいことを言うな」
ゾロの上気で真っ赤になった顔に口づけをした。そっと、緑色の髪をなでた。「痛いのか?泣いているぞ」
「い、いやぁ、ちがっ」でも涙はゾロの目から落ちていった。止まらずにぽろぽろと。痛いから泣いてはいない、むしろ快感にあふれていた。ただ、こんなことはサンジとは絶対しないと思うと悲しくなってしまう。永遠にミセモノだけの可哀想な恋の花。
レイリーがゾロを突き上げ、強く抱きしめた。「いいのだ、ゾロ。泣いて、涙がかれるまで泣きなさい」
泣きはじめたらもうとまらなかった。ゾロが快感に溺れて、もうなにも考えなくなるまで、泣き続けた。
-.-.-
窓の外からにぎやかな音楽が鳴っていた。もそもそとシーツの中から最初に起きたのはゾロだ。文化祭のメインイベントのフォークダンスだ。
―もうこの時間か、長くここにいたな・・・・・・
「踊りに行くのか?」レイリーが横たわり、ゾロを下から眺めていた。彼がつけた跡を美味しそうに見ていた。
「行かねぇよ」ゾロが鼻を鳴らした、「だいたい、こんなにケツがだりぃのにおれに踊れってか?何回ヤッたんだ、あんた?」
「さぁ、久しぶりだったから・・・五回かな?」
「は、すごいな」他人事のように答えた、その五回を全部受けたくせに。
「痛くなかったら踊りに行ってたのかい?」
「・・・あいつのヘラヘラした面は見たくねぇ」
「なんだ、結局行かないつもりだったのか」レイリーが笑った。ゾロはもっとレイリーに寄り添って目をつぶった。今頃サンジはカヤと一緒に踊っているかもしれない。いや、もしかしたらビビかも。いろんな女性を口説き、あとで一番気に入った子とあんなことやこんなことをする。フラットスクリーンのテレビみたいにきれいに映してくれる、いやな想像だ。
気を散らすために、床に残した着物に集中した。「で、どうするんだ着物。ぐちょぐちょだけど」
「インクをこぼした、とか適当な言い訳を言えばいい。私があずかる」
あっそ、とゾロはあくびをしながら返事をした。「あともう一時間寝るわ」ゾロはレイリーに囁いてから眠りに落ちた。
-.-.-
文化祭の終わりの頃にやったゾロは外へ出た。レイリーは「疲れた」と一言を残し、口づけをした後に帰っていった。ゾロは新しい制服の襟を整え、後片付けの仕事をしにいった。担当の人は「遅い」と言っただけであとは何も言わなかった。
ゾロとほかの男子は重い荷物運びをした。女性はテーブル拭きと着物の片づけをした。ゾロの分は、と一人が訊きに来たけどゾロは汚したと答えた。太陽が沈み始めたときにようやく片付けが終わった。早めに終わらせた同級生はもう寮に向かっていた。ゾロが勝手に抜け出したからもうちょっと残った。もうやることはなかったけど、ほとんど箱を持ちながら担当の先生のあとをついていった。
ゾロが先生と別れたときはもう空は暗い青だった。星がぽつぽつと光り始めた。ほんの少しだけ歩きながら夜空を眺めていたとき、人の気配を感じた。
サンジが門の前に立っていた。いつから待っていたのだろう。
「おい、鼻、真っ赤だぞ」電球の黄色い明かりでもよく見えた。彼の表情もはっきりと見える。見たことのない表情だった。太陽が完全に雲に隠れたように陰気。息をしていないように静かに立っていた。ゾロが呼んでも動かなかったし、返事もしなかった。
「どうした?ビビと踊れなかったのか?」
サンジはビクッと肩が揺れ、地面に睨みつけた。
「知らなかった」
「なにが」
「お前は、ゲ、ゲイで、おれのことが好きだったてことを」
今度はゾロが固まってしまった。やっぱり離れた場所で話せばよかった。とっさに征服の襟を上げた。
「で、てめぇはどう思うんだ?」
「・・・最悪だ」
ゾロは顔を下げた。言われる、と恐れていた言葉を聞くと胸がすごく痛い。あんなにいっぱい泣いたのに、また目が熱くなってきた。
でも、サンジがまだ答えの途中だった。
「最悪だ、お前がおれに惚れていたのに、無視してたなんて・・・」
え、とゾロは見上げた。今、サンジがなんて・・・?
「き、気持ち悪くねぇのか?」
「そういう問題じゃねぇだろう!おれはお前の気持ちを聞かねぇで、お前をいっぱい傷つけた!おれはすっごいわるいと思ってる、でも、どうやって償えばわからねぇんだ」サンジの必死で誤っている顔には悲しみと涙でいっぱいだ。
ゾロはうつむいた。「誤るな、てめぇを許す。だけどよ、まだこの『作戦』を続けたきぁ、おれを、意識して欲しい」
「いや、おれはこの企画はもうやめた。正式にお前と付き合う!」
「えっ!ちょっ、待って!そ、それって、てめぇ、今言っている意味を分かってのか?だいたい、野郎に惚れたことはあんのか?」
「ない!」サンジが自信満々で答えたので、ゾロはよろけた。「でも・・・てめぇらの会話を盗み聞きをしたとき、おれ、むかついたんだ、てめぇのじいさんに」
「じ、じいさんに?何で?」
「だって、てめぇはおれの物なのに、じいさんとヤッたんだろう!」
「大声で言うな!」
サンジが短く誤った「で、でも、これってさ、やっぱりおれはお前に惚れたて意味だよな?
「知るか!」ゾロの口調はまるで怒っているような感じだけど、表情は幸せそうだ。サンジがゾロがゲイでも手放さなかった。すき、と言ってはないけどゾロのことをちょっと思っていた。ゾロの胸は大きくふくらんだ。
-.-.-
本当はもう寮へ戻る時間だけど、寄り道をした。サンジが美味しいハンバーガ屋をおごってくれると言ったので、今はそこへ向かっている。『本当』の付き合いが始めたとたん、変に恥ずかしい気持ちになった二人。目が合うたびに、てれてしまう。前はこんな事はなかったのに。でもゾロはこの新しい感情をけっこう気に入っていた。
サンジは男にキスするのはまだ自信はないけど、手を握ってくれた。レイリーとの関係みたいになるまでは時間がかかりそうけど、もう困ることはなさそうだ。サンジは浮気はしない、と堅く誓ったから(たぶん?)大丈夫でしょう。
ゾロとサンジの間に生まれた恋の花、ようやく春の香りがしてきた。
終わり
