Title :加わるもの
Author:ちきー
DATE:2007/05/13
Series:Death Note
Rating:NC-17
Category:Romance,Drama,AU,Crossover(harry Potter)
Paring:L/月
Warning:slash,Sexual Situations,OOC-ness
Archive:Yes
Sequel:紡がれるもの
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。
Summary:
Lはある殺人事件で、生き残ったミサ似の少女を連れてきます。月が背負う罪とは、事件解決後、少女はどうなるのか?

連絡用の端末の表示が変わった。

「月君、いますか?」

「Lか。どうした?」

よほど規模の大きな事件でない限り、Lと一緒に依頼を担当しない。現在、彼が手がけているのは、国内で起こった殺人が絡む事件だったはずだ。まだ解決したと聞いていないが、どうしたのだろうか?

「リビングにいるのですが、こちらに来て頂けますか?」

「あぁ」

耳に掛けていたインカムを外し、リビングに向かった。

辿り着いたリビングにはソファーに座るLと、その隣にもう一つ小さな頭があった。

「ミサ…!」

思わず、そう呼んでいた。僕の声に反応し、虚ろな眼をした少女が顔を上げた。見上げる顔をよくよく見ると細かい違いはあるが、この子はミサにひどく似ていた。自分を省みず、一途に愛してくれた少女。僕が死んだと聞かされ、後を追ったと聞いた。

驚きを飲み込んで、自分を落ち着かせた。ソファーに近づき、ぼんやりとしたままの少女の前に膝をついた。揃えた膝の上に行儀よく置かれた手を取り、彼女を覗きこんで尋ねる。

「こんにちは。僕はライトと言うんだ。君の名前、教えてくれるかな?」

確かに瞳は僕を写しているのに、僕も周りも見えていない。

「お腹は減っていない?何か食べようか?」

反応はなかった。

「ココアを入れてあげる。温まるよ」

少女の膝を軽く叩き、床から立ちあがった。ドアから振り向くと、少女は同じ格好のまま空を見つめていた。

キッチンに立つ僕の後ろから手が回された。肩に重みを感じ、はねた髪が首筋を擽った。

「L、あの娘は?」

「今、手掛けている事件の被害者家族の唯一の生き残りです」

首の後ろにキスをされる。僕を抱く確かな腕に体を預けた。

「名前は?」

「ミーシャ・セルディゴ。セルディゴの3人の子供のうち、2番目の子供で、4歳と半年です。ちょうどキラと1歳差ですね」

「………どうして彼女を連れてきた?」

「彼女は家族を殺した犯人を見ています。再び狙われる危険がある」

「4歳の子供を、か?」

「えぇ…」

僕の腹の前で組まれたLの手に手を重ねた。互いの左の手には指輪が嵌っている。僕の指にはLから贈られたワイミー家の指輪。Lの指には僕が選び、贈ったシンプルな指輪。そっと滑らかな表面を撫でた。

「…僕に会わせたかったのか?ミサに似ているあの娘を」

「確かに似ています。が、別人です。先ほども言いましたが、彼女は狙われる危険があり、私では彼女から証言を聞き出すことが出来なかった。だから、貴方にお願いしたいと思っただけです」

ことことと鍋の中で白い表面が揺れたのを見て、僕はLの囲いから抜け出た。

私の囲いから抜け、鍋を見下ろす月の細い項を見た。

常に月の心の中に弥 海砂と言う棘が刺さっているのに気付いていた。そして、それを外させることは私では出来ないことも。

弥 海砂。第二のキラであり、月の手足だった少女。一途に彼を愛し、私が偽装させた月の死を知ると、彼女は彼の後を追った。彼女にとって月がいない世界は何の意味も持たなかったのだ。

キラだった月が捕まり私の元に来た当初、彼は傲慢とも言える姿勢を崩さなかった。それが、ノートと離れ、徐々にその影響が抜け始めるに従い、罪が彼を覆っていった。

軟禁状態の月は、私に殺せと助けを求めることもせず、罪が彼の精神と身体を食い尽くし、生きながら己が朽ちていくのに任せた。

彼は知っていたのだ。あまりにも多くの人間を殺した己が死を選ぶことは、罪から逃げることだ、と。

幾度となく部屋に訪れる私に無言を突き通す月が、ある日、話しかけてきた。それは、被害者家族がキラ事件に関して話したものを何であろうと全て見せて欲しい、との頼みだった。

何故自分を痛みつける真似をするのかと尋ねた私に、彼は自分が引き受けるべき咎であり、恨みであり、痛みなのだと静かに話した。

それは今でも続けられる。私が月に提示せずとも、彼自身が集めている。その時の月に私は触れられない。彼も望まない。それでも、彼を案じる私は、彼のすぐ後ろに立ち、彼が倒れる事があるならば、支える腕を何時でも用意している。

月の被害者の中で、弥は別格だった。彼女は被害者と言われることを嫌うだろう。が、彼女が喜んで月に従っていたとしても、月にとって弥は彼の被害者なのだ。

利用するだけ利用し、最後は一人で逝かせた。己は罪にまみれていても、私と息子を持ち人生を送っている。月が幸せを手に入れる度に、弥に対する罪を重くする。同じキラだった彼は、そう思っている。

だから、弥に似たミーシャを見た時、月に逢わせようと決めた。弥と同じ境遇に陥った彼女を慈しむことが、月にとって弥に対する罪を軽くすることになればいい。

暖かいココアを手にリビングに戻った。僕が出ていった時と同じ姿のまま少女は座っていた。

「ミーシャ、ホットチョコレートだよ」

少女の隣に座り、カップを握らせた手の上から手を包み、適温にしたココアを彼女の口元に運んだ。鼻をくすぐる甘い匂いに、カップを掴む指に力が入った。

「温まるよ。飲もう?」

カップが傾き、こくりと喉を鳴らすのをほっとしながら見守った。半分を飲んだところで、口からカップを放したミーシャから、カップを受け取った。

「ミーシャ、少しお話したいのだけどいいかな?」

話しかけた僕の顔を見て、ミーシャは口を引き結び、ふるふると首を横に振った。

「そっか。じゃあ、今日はもう休もうか?知らない人に知らない場所に連れて来られて、疲れただろう?」

今度は頷いた彼女をソファーから立たせ、ワタリさんが用意してくれたゲストルームに彼女を連れて行った。

休む前に、ミーシャをバスに浸からせた。

家族が生きていた頃のミーシャはどんな子供だったのだろうか。キラみたいに走る事を覚えたら、僕たちの手を振り払って駆け出すような子供だろうか。世界は多くの謎に満ち溢れ、両親を困らす程質問を重ねただろうか。

まだ幼い彼女の人生は良い事や幸せな事で占められ、無限の可能性が開けていたはずだ。なのに、今は身体に降りかかった災いがあまりにも大きくて、彼女を押し潰している。キラを持つ今の僕には、それは耐えようもないほど哀しいことだった。

湯で温められたミーシャを、キラの幼い頃のパジャマで包んだ。髪を乾かし、彼女をベッドに寝かしつける。

うとうとし始めたミーシャの髪を撫で、シーツを掛け直した。おやすみと、僕が離れようとすると、半分眠りに落ちながらミーシャは僕のシャツの袖を掴んだ。

「うん、眠るまで傍にいるよ」

ベッドに腰をかけ、ミーシャが穏やかに寝息を立たせるまで髪を撫でていた。

部屋に戻る前にキラの部屋に向かった。今、とてもキラの顔が見たかった。

この時間ならきっと眠っているだろう。夕食を一緒に取れなかったから、キラは拗ねてしまっただろうか。起こさないように、そっと扉を開けキラの部屋に入った。

「寝かしつけてくれたのか?」

眠るキラの横にLが座っていた。キラを見下ろし、髪を撫でている。Lの立てた膝の上にはキラの気に入りの絵本。

「パパの顔を見ると駄々を捏ねましたが、眠ってくれました。眠る前にキラにミーシャの事を話しました。しばらく一緒に暮らすことも承諾してくれました」

「ありがとう」

僕もベッドに腰を掛け、キラを眺めた。口を微かに開き、両手を軽く握って眠るキラを見飽きる事はない。

額に掛かる髪を払いキスをする。Lと僕の愛しい子供。この子がいつか自分の足で立つまで、何事からも守ってやるつもりだ。きっとミーシャの両親もその想いは、同じだっただろう。

「L、捜査資料を見せて貰ってもいいか?」

翌朝、食事を作り、ミーシャの部屋に向かった。まだ寝ているかもしれないので、小さくノックをし扉を開けた。

だが、ミーシャは既に起きていて、身支度を整えていた。僕が部屋に入ってくるのを見て、所在なさげに座っていたベッドから立ち上がった。

「おはよう、ミーシャ」

こくりと頷く顔は、昨日よりも顔色が良く見えた。

「よく眠れた?」

再びこくりと頷く彼女を抱き上げた。突然抱き上げられ驚いたミーシャは、慌てて僕の肩に手を置いた。

「さて、ご飯にしようね」

彼女の緊張がほぐれるように、にこりと笑って言った。

部屋には既にキラとLが座っていた。それを見て、僕の肩に置かれた彼女の手に力が入る。

「おはよう、キラ」

「おはよう、パパ」

椅子から立ち上がったキラは僕に寄り、ズボンをくいくいと引っ張った。キラの望みが分かって、ミーシャを片手で抱き直し、もう一方の腕でキラを抱き上げた。

ぎゅうと頭に抱きついたキラの頬にキスをしてやる。キラは声を上げて喜んだ。ミーシャが動いたのを感じて、僕はミーシャの頬にもキスをした。背に回っていたミーシャの手が僕のシャツを掴んだ。

「二人とも降りなさい。パパが重いでしょう」

キラを取り上げたLが僕にキスをした。顔を離したLに挨拶を交わし、僕からもLにキスをした。

大人の足元に下ろされたキラはミーシャに話しかけていた。

「ミーシャ?」

キラに話しかけられてミーシャは、僕の足の後ろに隠れた。それでも気になるのか、少し僕の足の影から顔を出した。

「怖くないよ。僕はね、キラって言うの。おいで、一緒にご飯食べよう」

下から窺うように見上げてきたミーシャに頷いてやると、差し伸ばされたキラの手におずおずと手を伸ばした。キラに手を引かれ、並んだ子供用の椅子に収まったミーシャにキラが甲斐甲斐しく世話を始める。

「大丈夫そうですね」

「あぁ、キラもミーシャも受け入れてくれて良かった」

突然現れたミーシャに僕を独占され、一人っ子だったキラが嫉妬する可能性があった。その心配は杞憂に終わって安心した。微笑ましいお兄ちゃんぶりに、僕の誕生日に兄弟が欲しいと言ったのを思い出された。

隣に座るミーシャの前に、キラがジュースやパンを用意していた。

「ミーシャ、何のジャムが好き?何でもあるよ。僕が塗ってあげる」

「…ベリー」

「なあに?」

「ストロベリーがいい」

「ん、たくさん塗ってあげるね」

この家に来て初めてミーシャが話した。それを引き出したキラに誇らしさが溢れた。二人を見る顔が微笑んでいるのが分かる。ふと隣を見ると、Lが僕を見ていた。

「何?」

「良かったです」

「あぁ、言葉が出て良かった」

「いえ、そうではないのですが…」

「え?」

「何でもありません。私たちも食事にしましょう」

ミーシャと同じように、Lに手を引かれて椅子に座った。ポットから紅茶を入れてやりLに渡す。ぼちゃぼちゃと砂糖を入れていくのを、ミーシャが驚いたように見ていた。

「端についてますよ」

キラの口の端にジャムが付いていたのをLの指が拭った。

「ありがと、ダディ」

「ダディ?じゃあ、キラのママは?」

「僕にママはいないよ。その代りにパパとダディがいるの」

ミーシャは不思議そうな顔をしたが、次いで下を向いてしまった。ぽつりと小さな声が、いいなと呟いた。

「じゃあね、僕がミーシャのお兄ちゃんになってあげる。だから、寂しくないよ」

「いいの?」

「うん!ご飯食べたら、お家を案内してあげる。一緒に探検しようね」

急いで食べ終えた二人が期待して僕を見た。まだ大人が食事しているが今日は仕方がない。椅子から立ち上がり、キラとミーシャの口を拭った。

「キラ、言いつけは覚えているね?」

4人しか住んでいないのに、無駄に屋敷は広大だった。その分、子供のキラには遊ぶところが多いが、危険も多い。

「覚えてるよ。お家の外に出ない。大人がいない時はプールと温室の噴水に近づかない。納屋には行かない。それから、パパとダディのお仕事する部屋には入らない」

「そう。お昼には帰って来るんだよ。それから、ミーシャはキラよりも小さい事を忘れないようにね」

キラの元気な「行ってきます」と、ミーシャの遠慮がちな「行ってきます」を聞き、二人を見送った。

「キラはすっかり兄気分ですね」

Lの空になったカップに紅茶を注いだ。自分には新しいカップを出し、コーヒーを注ぐ。

「兄弟を欲しがっていたからね。それより、捜査のことだけど。現場の状況から見ると単独犯の可能性が高いね」

「私も同じ意見です」

「じゃあ、再び犯行を起こすと推理しているのも同じだな?」

「えぇ」

「なら、そこで犯人を捕らえよう。お前が狙われる可能性があるとした候補者に捜査官を配置させ、監視するんだ」

「すでに手配済みです」

「だったら、ミーシャに事件を思い出させる必要はないな」

「そのようですね」

「…L」

砂糖を溶かしていたスプーンの動きが止まった。

「僕は大丈夫だよ」

カップを持ち上げ、コーヒーの匂いを嗅いだ。こうして僕は生きて、コーヒーの匂いを嗅ぐ事も出来る。Lがどう言うつもりで、ミーシャを連れてきたのか分かっているつもりだ。傍若無人で他者など省みないこの男が自ら動くのは、僕とキラのことだけだと言うのも。

これまでも罪を背負ってきた。どんなに今の生活が幸福であっても、自分のした事を忘れた事はない。僕の幸せは僕の犠牲者の上に成り立っていることも理解している。

「弥なら貴方が幸せなら、自分も幸せだと言うでしょうね」

罪の記憶も他の記憶と同じように、川の水が尖った石を丸くするように、時間の穏やかな手が記憶を耐えられるものに変えていく。どんなに辛く苦しい事があっても、人生は続く。生き残りの為のメカニズムは等しく誰の上にも訪れる。被害者家族にも、加害者の僕の上にも。だが、そうであっても、僕は救いを求めてはいけないのだ。

「それは誰にも分からない。ミサはもう言う事は出来ないから」

「愛しています、月君。何時だって、どんな貴方でも、例え貴方が私を殺そうとした瞬間でさえも」

「うん、分かっている…。僕も愛しているよ」

どれだけ深い闇に沈み囚われても、僕の意思など関係なく腕を掴み引き上げるのはLだった。僕から救いを求めないのに、Lがそうするのを拒ばない甘さを許してくれるだろうか。

数日が経ち、ミーシャが僕たちに馴染み始めた頃、事件は進展した。

監視対象の一人が住むマンションの警備員が体調を崩し、他の警備員には馴染みのない男が替わりに入った。その連絡を受け、当番だった警備員の自宅に向かうと彼は殺されていた。子供たちをハリーに預け、ワタリさんを含め僕たちは捜査に張り付いた。

マンション内部と付近に捜査官を配備し、動きを待った。だが、捜査官の一人がミスをし、監視されているのに気付いた犯人は逃走を図った。が、既に厳重に捜査網は敷かれ、逃走路を塞がれた犯人に逃げる術はなかった。

抵抗も自殺も試みることのなかった犯人は、大人しく捜査当局に身柄を拘束された。その一方で、いくら探しても、現場で捜査の指揮を執った茶髪の捜査官は見つからなかった。

今日はライトを見ていない。

子供たちだけになるからと、知らない男の人にキラとミーシャを預けてしまった。キラはその人に懐いているみたいだから、彼にとっては見知らぬ人ではないのだろう。

連れて来られた彼の家には、キラと同じ年ごろの男の子と赤ちゃんがいて、皆で赤ちゃんを見たり、一緒にゲームをして遊んだ。

日が暮れると、ワタリさんが迎えに来てくれて、キラのお家に帰った。ミーシャのお家ではないけれど、帰るとほっとしてしまった。お部屋に戻ると、ワタリさんが優しく寝かし付けてくれた。ベッドサイドの明かりをつけたままにしてくれて、ワタリさんは部屋から出て行った。

ワタリさんが帰ってきて優しくしてくれても、ライトはいないし、今でもちょっと怖いLと言う人もいない。パパとママたちみたいに、このままミーシャを置いて行ってしまうかもしれないと、怖くなった。それでも、探しに行く事が出来なくて、ベッドに潜り込んで泣いていた。

扉が小さな音を立てて開いた。ライトかもしれないとシーツをずらして覗いてみたら、そこにはミーシャと同じくパジャマ姿のキラがいた。

「ミーシャ、泣いてたの?」

ベッドに乗り上げてきたキラがパジャマの袖で、顔を拭ってくれた。

「寂しくなっちゃったの?」

キラが拭いてくれるのに、どんどん涙がこぼれて、しゃっくりまで出てきた。

「ライトがね、いないの。ミーシャのパパ達みたいに、キラのパパ達が、…っ、いなくなったらどうしよう」

「大丈夫だよ。ワタリさんがもうすぐ帰ってくるって言ったでしょ」

「でも…」

「今日はパパの変わりに僕が一緒にいてあげる。こうしてたら怖くないよ」

隣に潜り込んで来たキラがぎゅうと抱きしめてくれた。まだ涙は流れているけど、キラの胸にくっついて、ちゃんと生きている音を聞いていたら、徐々に眠くなって寝てしまった。

眼が開けられなくて、お返事できなかったけど、ライトに似たキラの声がおやすみって言ってくれたのが嬉しかった。

溜め息を吐き、扉に額を付けた。そうして、一つ深呼吸をしてから扉を開けた。

扉が正面に見える位置にあるソファーにLが座っていた。膝の上に置いた指で左手の指輪を弄っていた。

手にした現場の捜査員と揃いのジャケットをテーブルに置き、Lの隣に座った。ことりと彼の肩に頭を預ける。

「キラは寝た?」

「えぇ…」

「ミーシャは?」

「彼女も寝ています」

「二人の顔を見てくるよ」

子供達の部屋に向かおうとソファーから立ち上がった僕の腕を取られ、Lに抱き込まれた。

「私にはフォローはないのですか?」

「子供たちを見てから…」

「もう寝たと言ったでしょう」

「ミーシャが心配なんだ。知らない人間の家に預けられて、きっとまた不安定になってる」

「先ほど見に行きましたら、キラが付いていました。ミーシャと並んで寝ていましたよ」

「そう、キラが…」

力を抜いて、Lに身体を預けた。抱きしめてきた体からは、甘味の匂いが混じったLの匂いがした。それに包まれてほっとするだなんて。他者をこんなに受け入れてしまう日が来るなんて、昔の自分からは想像が出来なかった。

「明日、ミーシャの家族を埋葬する。彼女に付き添って来る」

「きっと彼女も心強いでしょう」

少し身を離しLを見た。これから言う事にLはどう反応するだろうか。

「L…」

「いいですよ」

「まだ何も言ってない」

「ミーシャを引き取りたいのでしょう?ですから、良いと言いました」

「本当にいいの?」

「貴方と私、そしてミサさんと3人で過ごした時間を、私は嫌いではなかったんですよ」

「そうだね、あの時は楽しかった」

「もっとも、私はミサさんに変態と言われましたがね」

「ははは、そうだった。あの時のお前ときたら…」

言葉は最後まで行かず、Lの肩に吸い込まれた。Lが僕の頭を抱え、腰に回った腕が僕を強く抱きしめてくれた。僕もLの背中に回した手で彼の服を掴んでいた。

「んぅ…、あ、はぁ…」

入り込んできた舌が僕の舌に絡み、引きずり出された。舌を舐めあげられ、深く合わせられた口内に侵入したLの舌に上顎を擦られるようにされると、ぞくぞくと痺れるくらいの快感が走る。

服は寝室に入りベッドに辿り着くまでに全て剥がされて、途中に散らばっていた。もちろん、僕の服だけではく、Lの服も同じ様に。

今はベッドにLと向かい合うように横たわっている。キスから離されて、濡れたLの唇を僕の舌で舐めた。それが再びキスの始まりになる。

片足をLの腰に掛け、脚の間に彼の足が入り込む。重なったLの身体と密着し、二人の腹に挟まれた僕とL自身が互いに熱を伝えてくる。

背筋をゆっくりと辿るLの指に体が震えた。強烈な快感に直結する愛撫はまだ加えられなくて、ゆるゆると熾される快感に、恥ずかしい程僕自身から滴が溢れ、Lのものと擦れ合う度にぐちゅりと水音が立った。

「ん、ん、ん…」

ゆるゆると腰を蠢かして、Lのものと擦れ合わせる。Lの肩に額を擦り付ける僕の耳に、熱くなった彼の吐息がかかる。気持ちがいいかと尋ねる声にも反応してしまうから返事が出来なくて、ただ頭を頷かせる僕の胸に指が触れた。

「ああっ!」

胸を中心に広がった快感は確かに気持ちがいいのだけど、いつもみたいに指で挟んで、捏ねたり摘んだりしてくれない。

指先で転がすだけの愛し方にLを見てねだったのに、キスをされて誤魔化された。離れたLの唇を指で触れ、そのまま彼の口内に入れた。抵抗なくLの舌が僕を迎え入れ、指を濡らした。しっとりとLの唾液で濡らされた指で自分の胸に触れ、期待して尖った乳首を摘んだ。

「ふぁ…あっ…」

片方を自分で嬲り、もう一方をLの親指が押し潰す。その指は僕が身体を丸め、Lの胸に舌を這わせても、僕を追ってくれた。

唾液を纏わせた舌で彼の身体を降下し、僕のものと彼のものでまみれたLを頬張った。

「ん、ふぅ…」

喉の奥を開けても含みきれないLの根元に指を絡め、彼のものを伝って濡れた会陰にも指を這わせた。口の中のLが震え、彼が感じている快感を伝えてくれた。

「月君、身体をこちらに」

顔を中心にくるりと下肢をLの顔に向けた。くちゅりと先端に舌を這わせられ、腰が彼の口の中に埋まりたいと揺らいでしまった。

「L、…あっ…」

首を捻りLを振り返ると、僕を掴み、深く銜えようとしたLがいた。先端に舌が触れ、尖らせた舌が穴を突付いた。とろりと新たに溢れた雫がLの顔を汚す。

「あ、あ、はっ…」

頬を拭った指を舐めるLに、かぁと頬が赤くなったのが分かった。脚の下から見えるLの顔がにまりと笑い、手近にあったチューブを渡された。

「準備をして下さい」

くちゅくちゅと僕を煽るだけの舌の動きに必死に快感を我慢して、ローションで濡れた指で後ろを解す。

「ん、ぅん…」

中にローションを擦り込め、指を広げてLを受け入れられるように準備をする。目の前で高ぶったが揺れる。Lが腰をずらして僕の口に押し付けてくるそれを、ぱくりと銜えては、Lの舌に喘がされ離してしまう。それの繰り返しなのに、Lは楽しそうに僕を追いかけては口に含ませた。

「2本は余裕になりましたね。指を増やしてください」

「L…」

振り向くと、指を含んだところを見ているLと眼があった。Lの唇が濡れていて、それがどうしてなのか分かっている僕は、思わずきゅうと指を締め付けていた。眼が離せなくなったLの口からは、舌がちろりと出て唇を舐めた。

「あっ…!」

ぞくりと震えてしまった体から、Lが僕の手を捕んで引きずり出した。指を3本に纏められ、Lの手で再び埋められた。とっくに圧迫感は快感に変わっている。内壁を擦るのは自身の指なのに、動かしているのは僕じゃない。

「はっ、あっ、ああ…。L、L…」

喘ぎを漏らした唇に再びLを押し付けられ、口いっぱいに彼を頬張った。Lが動かす指と同じ動きを口内に埋められたLに返した。下肢で震える自身が耐えられなくなって、身体を支えていた指を伸ばした。

「だめですよ、これは私のです」

もう少しで触れられた手をLに取られた。

「L、もっ、う…」

「えぇ、私も限界です」

Lが汗に濡れた僕の背を舐めながら、身体を起こす。ローションでまみれた僕の手にチューブを絞ると、その手を取ってL自身を潤した。手の中の彼は他のどの部分より熱くて、硬く完全にそそり立っていた。

再び向かい合うように寝かされ、片足を捕まれる。大きく開いた脚の間にLの腰が入り、いつもよりもゆっくりとLが埋められていく。

彼が身体に入り、僕が彼を馴染み歓迎するのをまざまざと知らされた。根元まで収められて、僕の腹の中が彼の熱で熱くなる。思わず下腹に手を触れていた。皮膚や肉を越えて、彼の熱が伝わるかのように。

顎を捕まれキスをされる。激しいキスだけど、この状態ではそれも穏やかな快感で、気持ちいいけれど物足りない。いつもならとっくに動き出しているのに。腰を擦りつけ、Lにねだった。

微かに笑う気配がして、Lは掴んでいた僕の足首から手をずらし膝を掴んだ。体の角度が変わり、僕の眼にLが刺さった僕の後口が見えた。

「あっ…!」

見せられるのは初めてじゃないのに、思わず手で覆っていた。上からLの手が僕の手を押さえつけ、僕から出し、再び含まれようとするL自身に指を絡めさせられた。

「L、ふ、ああ…」

Lの手が離れても、激しく動きだしたL自身から手を離すことは出来なかった。

「あ…はっ…ん、んんっ…」

尖らせた舌で突付かれた乳首から電気が走る。背を反らせ押し付けた胸に舌を這わせてくれる。

持ち上げられた脚が引きつれて震えるのを見て、Lは脚を降ろし自身の腰に絡ませた。僕は彼の背に手を回し、動きやすくなった腰を彼の動きに合わせて蠢かした。

Lに腰を抱かれ深く抱き込まれる。脚も腕も絡ませて僕はLと密着し、彼の熱を身体で感じていた。

「L、L…」

快感で視界が滲む。Lの名前を呼び続ける僕にLは深くキスをしてくれた。肉を打つ音が激しく短くなり、僕は彼の口の中に絶頂の喘ぎを漏らした。

最後の時、ぎゅうと彼を締め付けた僕に遅れてLが中で爆ぜた。遮るもののない交わりに、体内でLの熱が広がり僕は満たされていた。

家族が埋められていく間、ずっと握ってくれていた手の主を見上げた。

「ミーシャ?」

皆いなくなった。ママもパパもビリーもアニーも狭い箱の中に入れられて、冷たい土の中に埋められてしまった。

もしかしたら、ライトのお家の扉を開けて「遅くなってごめんね、ミーシャ」と迎えに来てくれるかもしれないと思っていたのに。埋められてしまっては、もうそれはない。二度と生きた家族と会うことは出来ない。

地面を見た。みんなが埋められた地面。ぽた、ぽたと地面が丸く濡れた。

ママやパパは怒るだろうか?でも、一人でいるのは胸や喉がぎゅうと痛いし、涙だって止まらない。ライトのお家に来てから、ミーシャは泣いてばかりだ。その度にライトとキラが涙を拭いてくれ、抱きしめてくれる。

「ミーシャ?」

優しい声に顔を上げた。声と同じで優しい顔が今は哀しそうになっていた。繋いでくれていた手をぎゅうと握った。

「あのね、ミーシャは悪い子だったの。ママの言うことを聞かなかったり、パパにだめだよと言われたことをしたり。それに小さなアニーをいじめたの。ミーシャが悪い子だったから、みんながいなくなった…」

ライトは汚れてしまうのに、地面に膝をついて手を握ってくれた。近くになったライトのキャンディみたいな眼が覗きこんでいた。

「ミーシャ、そんな風に考えちゃいけない。みんな、ミーシャを愛していたよ」

ライトはうんと言ってくれるだろうか?初めて逢った時、ライトが呼んだ名前の子供だったら、いいよと言ってくれるだろうか?

「だからね、ミサは良い子になるから、ライトのお家の子供になっていい?」

ぎゅうとライトは抱きしめてくれた。ちょっと苦しかったけど、ライトがそうしてくれたら、誰かがミサとライトを離そうとしても簡単には離れないだろう。

「良い子じゃなくていいんだよ」

ライトの声が震えていて、ミサもライトにしがみついて一緒に泣いた。

いっぱい泣いた顔をライトがハンカチで拭ってくれた。それから、全部の指をくっつけるように合わせて、ライトはパパとママたちにお祈りをしてくれた。

見たことのないお祈りの仕方だけど、ライトがするならきっと正しいのだろう。ミサもライトの真似をして、みんなが天国に行けるようお祈りをした。

手を繋いで、墓地を歩いた。朝からずっと空には雲があったけど、今は晴れて少しだけ青空がのぞいていた。きっとライトとミサが一生懸命お祈りしたから、神様はみんなのために天国の入り口を開けてくれたのだと思った。

墓地の入り口にLとキラがいた。キラはミサを見つけると、Lと繋いでいた手を払ってミサのところに走って来てくれた。

「ミーシャ!」

走ってきた勢いのまま、キラにぎゅうと抱きしめられた。キラはライトと同じ位強く抱きしめてくれて、きっとミサはキラとも離れなくてすむんだと思った。

頭の上では、ライトとLが話していた。ライトはLに抱きしめられていて、ミサと同じように泣いていた。大人があんなに泣くのは始めてみた。時々、Lはライトにキスをしていた。

「キラ、私ね、妹になったんだよ」

「うん、ダディにもそう言われた。ミーシャが大人になるまで、ずっとずっと守ってあげる」

「あのね、ミーシャじゃないの。ミサって呼んで?」

「ミサ?」

「うん。ミーシャはだめなの。ミサがいい」

キラの返事を貰う前にLに持ち上げられていた。隈のある黒い大きな眼が怖いけど、頑張って見返した。

「ミーシャ、ミサになることはないのですよ。ミーシャは、貴方の両親が付けてくれた大切な名前です。それを捨てることはない」

でもね、ミーシャはパパたちと一緒に行くの。ライトたちと生活するにはミーシャじゃだめなの。だから、首を振った。

「ミサがいい。L、だめですか?」

じっとLはミサを見た後、ちゅうと頬にキスしてくれた。Lにされる始めてのキスで、ひどく驚いてしまった。

「歓迎しますよ、ミサ」

ちょっと口の端が持ち上がっていて、それがLの笑い方だと分かった。

「僕もだよ、ミサ」

そう言って反対側にライトがキスしてくれた。下からキラが僕もと言うから、Lは降ろしてくれた。キラにキスされて、ミサもキラにキスを返した。

キラと手を繋ぎ、反対の手をキラはLと、ミサはライトと繋ぎ、墓地を後にした。道路にはワタリさんがにこにこと私たちを見ていた。

車に乗り込む前に私は振り返り、パパとママとビリーとアニーが眠る場所に手を振った。そして、心の中で彼らにまた来るよと約束をした。

END