Title :言うべきもの
Author:ちきー
DATE:2009/04/13
Series:Death Note
Rating:PG-13
Category:Romance,Drama,AU,Humor,Angst
Character:L月、ワタリ、ミサ、オリジナルキャラクター
Warning:slash,MPreg,OOC-ness
Archive:Yes
Prequel:紡ぐもの
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。
Summary:
月はワタリに話があると切り出される。Lは二人の会話に同席することは許されなくて・・・

月くんが気に入ったこの屋敷には温室がある。霧と雨が多いこの街で、いつも穏やかな暖かさで満ちているこの温室を心地よいと思うのは人間だけではないようで、野良猫たちがよく紛れ込んでいた。

対猫であっても屋敷を自由に出入り出来るルートがあるのは許しがたいのだが、月くんに「天気が良くないのに可哀想だ」と顔を曇らせて言われてしまうと、なしくずしのうちに猫の存在を許してしまうのだった。

今、私の目の前で体を伸ばして寝ている黒猫も私が腹立たしく思う一匹だった。月くんは別だが私にはひときわ強い警戒を見せるが、飢えを満たした後は触れさせてくれる。それが彼にとって礼代わりなのかもしれない。

「腹が満たされたら眠る。貴方の生活はシンプルでいいですね」

柔らかい背中を撫でる。滑らかな毛並みはぬいぐるみのようだが、掌で感じる熱が自分と同じ生物だと思い出させた。

「何かに悩む事はあるのでしょうか」

もちろん私は猫になど返事を求めていない。だが、髭がひくひくと動いた反応に気を良くして言葉を続けた。

「そうですね。猫にも悩みくらいはありますね。ですが、猫の悩みなどせいぜい餌と眠る場所でしょう」

くわわーと欠伸をして、猫が寝返りを打った。

「私、世界の切り札と呼ばれる名探偵で、この屋敷の主なんですよ。それなのに、月くんとワタリは二人で話し合う事があるそうで、こうして温室に追いやられて猫の貴方に対して独り言ですよ。ひどいと思いませんか?・・・そもそも、私に内緒でする話ってなんですか。繰り返しますが、私はこの屋敷の主で、月くんの恋人で、ワタリの主人です。なのに仲間はずれです。ひどいと思いますよね?」

陽だまりで気持ちよく昼寝をしていた猫は頭を上げ、昼寝を邪魔し続ける人間を迷惑そうに横目で見た。

「二人の会話を盗聴する手段も奪われて、月くんには話が終るまでここで大人しく待っていろと言われ、ワタリにはケーキと紅茶のトレイを押し付けられました。ケーキで誤魔化される子供じゃないんですよ。全くあの二人は私を誰だと思っているんでしょうか」

食べかすだらけの白い皿をちらりと猫は見た。そして、甘い香りがする手をすり抜けて立ち上がると、ここにいない二人への文句を言い続けるLの手をかぶりと噛んだ。

「っ!!何をするんですか!?」

ぶんぶんと手を振っても、猫は離れずはぐはぐと歯を立てた。力任せに首を掴んで引き剥がそうとするLをするりとかわして、軽やかに地上に降り立った。そして、噛まれた手を包んで猫を睨むLに一瞥をくれると体を反転して歩き出した。

「待ちなさい!餌を貰っているんですから、私の愚痴を聞く義務があります。猫、戻ってきなさい!」

猫は尻尾をゆるりと左右に揺らして、振り返りもせずLの元から去っていった。

*** *** ***

「Lがよく大人しく温室に行きましたね」

「ごねても聞き入れられない時は分かるのでしょう」

そう言って、穏やかな表情のワタリさんは目の前に紅茶を出してくれた。立ったままのワタリさんを促して向かいのソファーに座ってもらう。Lはどうか分からないが、年上のワタリさんを立たせたままなんて落ち着かない。

食事の後、Lを温室に行かせて僕とワタリさんは仕事部屋に下がった。話がございますとワタリさんから切り出されたけれど、ワタリさんの顔から何かを読むことは難しかった。

「それで話と言うのは?」

「率直に聞かせていただきます。月様、Lをどう思われていますか?」

口に含んでいた紅茶を吹いていた。

「っ!」

何の件かいろいろと想像したが、まさかワタリさんにそんな事を聞かれるなんて全く想像していなかった。思わず僕は動揺してしまった。上昇した熱で耳まで赤くなっている。

「大丈夫ですか?」

差し出されたハンカチを受け取った。口元を拭い冷静さを取り戻す頃には、僕の前には紅茶の新しいカップが置かれていた。眼鏡の奥の瞳が僕をじっと見つめている。

「死刑にされるはずだったのに僕はこうして生きている。拘置所から解放してくれたLには感謝しています」

「感謝だけでLの傍にいるのですか?」

キラ事件の最初からずっと僕たちを見ていたワタリさんの言葉には含みがあった。かつては想いを通じ合わせた者同士の様に振舞っていたこともある。ワタリさんの言葉も当然だとは思う。

「・・・ワタリさんはキラがLの傍にいる事を許せるのですか?」

「Lが望んだことですから私には何も言うことはありません。ですが、Lが心に入れた人間は貴方が初めてです」

知ってる。僕にとってもLがそうだから。でも、牢から解放され、暖かな食事とベッドを見返りを求めることなく提供され、その上、彼のところに来る依頼も分けて貰っている。そんな今の僕に彼に対し言える言葉はなかった。

あれだけ面倒を嫌うLが様々な国や機関に交渉し、キラを得ようとした理由は分かっている。彼が求めるなら「愛している」と言うことも出来る。だけど、その言葉を全てに対する代償と受け取って欲しくなかった。

Lに言うのなら・・・、かつてのあの時の様に対極にはいるけれど対等な立場になって・・・。

そこまで考えて、自分の考えが可笑しくなった。とんだ妄想だ。拘置所から出された日、僕は全ての権利を失った。正しく罪を償う機会も。二度とLと対等な日なんて来ない。

膝に置いた手を硬く握った。その手にワタリさんが触れたのを感じて、のろのろと顔を上げる。

「Lは月様、貴方自身を愛しています。それ以外の事は重要ではありません。貴方が何者であって、何をしたかさえも」

「・・・僕にはまだ言えません」

「分かっています。貴方はLと同じくらい頑固ですから」

慈愛に満ちたワタリさんの微笑みに僕もつられた。緊張が体から抜けていた。その時、屋敷の奥から声が聞こえてきた。

「月くーーーん、血が出てます。馬鹿猫に噛まれました。どこにいるんですか、月くーーーん」

ワタリさんと話していたのは30分も満たない時間なのに、もう我慢が出来なくて屋敷中を探している猫背の男の姿を想像して僕は困った様に笑った。

「行かれてはいかがですか?」

「そうします」

立ち上がった僕は、不思議と心が軽かった。

「あぁ、その前に一言だけ宜しいですか?」

そう言って、ワタリさんが僕を引き止めた。

「私はお二人の事を心から祝福しておりますが、もしLを傷つける様な事がありましたら・・・お分かりですね?」

火口の車をライフルで狙った時の眼光が眼鏡の奥で光り、僕は背に汗が伝った。

「・・・承知しています」

*** *** ***

リビングで膝を抱えて指を噛み続ける夫を見て、月はため息を吐いた。

「L、いい加減にしろ。もうすぐ来るって言うのに支度もまだなのか?」

「支度ってなんですか、アイツ相手にする事なんて何もありませんよ。それにしても、何からすべきでしょう。まずは一発殴ったほうがいいのでしょうか?」

「アイツって言うな。クリスはお前も良く知っているだろ」

「ワイミーズハウス育ちの弁護士なんて最悪です。言葉は巧みでしょうが、腹の中に何を溜め込んでいるか分かりません!」

「お前と同じだな」

この期に及んでまだ駄々をこねるLに呆れて首を振った。

「・・・なぜ月くんは落ち着いていられるんですか」

「ミサが選んだ相手だから。あの子は僕たちが育てたんだぞ。馬鹿な相手は選ばない」

「でも・・・、でも、気に入りません!」

「お前はミサが誰を連れてきても気に入らないだろうね。キラとエルはお互いが相手で良かった」

ワイミーズハウスで働いているミサが久しぶりに帰ってきて、会って欲しい人がいるのと頬を染めて言った日からLはこんな調子だった。これでは花嫁の父になった時が思いやられる。

「やはり蹴りを入れてから・・・、いや、まずは玄関にトラップを仕掛けて・・・」

「ミサも一緒なんだぞ」

「あの子なら避けられます」

「いい加減にしろったら。何を言うのかは僕が知っているから、お前は大人しく・・・睨んでもいれば?」

「・・・なぜ月くんが知っているんですか?」

「僕は言われた事があるからね」

「・・・誰にですか?まさか私以外の相手に結婚を申し込んだ事が・・・!?」

「後5分で支度しろ。いいな?」

背後で「誰ですか、月くーーん」と叫んでいる声を聞きながら、かつてのワタリさんに感謝してミサたちの到着に備えて拳を鳴らした。

END