Title :引き換えにして余りあるもの
Author:ちきー
DATE:2008/02/24
Series:Death Note
Rating:NC-17
Category:Drama,AU,Romance
Paring:L/月
Warning:slash,Sexual Situations,OOC-ness
Archive:Yes
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。
Summary:
月、誕生日おめでとう!!月の誕生日祝いを兼ねて、南の島にバカンスに来た一家。けれど、Lの様子が普段と違っていて…。
ロンドンの冬は厳しい。じっとしていると寒さが下から這い上がり骨の髄まで冷やすようで、毛糸がへたれたマフラーを巻き直した。目の前の店の中では、家族に囲まれた小さな男の子が頭に紙の王冠をかぶって笑っている。床から浮いた足がぶらぶらと揺れて、子供の楽しさがどのくらいか分かる。
楽器を手にした店員がテーブルを囲み、流れ出したメロディはバースディソング。それに気づいた周囲の客達もメロディに合わせて手拍子や歌い出し始めた。曲の途中で大きなケーキが運ばれてきた。子供から歓声があがる。灯された蝋燭の明かりが暖かな線を描く。
曲が終わりテーブルに乗り出した子供が蝋燭を吹き消す。火の消えた蝋燭から煙が立ち昇る中、家族や店員、その場に居合わせた客達からたくさんの祝いの言葉を、当たり前の顔をして受け取る子供。
同じ子供なのに自分とは大違い。よく磨かれた硝子に映る、ぼさぼさの髪の自分。暖かな店内の中、家族に囲まれてケーキを食べる子供。あの子供と自分は何が違う?
生意気だと言われる大きな目で違いを見極めようとしても分からなかった。自分が何故誕生日を祝われないのか、自分が何故誰の誕生日を祝った事がないのかが。
*** *** ***
目が醒めた。仰向けのまま、手を伸ばして隣を探る。指に何も触れない。頭を傾けると、月がいた痕跡を残して隣は空だった。窓の外の雨とは別の水の音。目を閉じて、その音を聞く。時折音が乱れるのは、月が水の流れの下で身体を清めているからだろう。
月が眠っていた場所に寝返りを打つ。枕に埋まった鼻先には彼の残り香。ずっとこうしていたいが、早く支度をしなければ子供たちが乱入してくるだろう。
今日は月の誕生日に合わせて計画した島でのバカンスに向かう日。家族で旅行するのが始めてのエルは、表面には出ないが相当興奮していたようで、昨日まで微熱を出していた。だが、本人の強い希望と、昨日の昼にはエルの体調が落ち着きを取り戻し、計画通り数時間後に島へ移動する。
バスルームに繋がる扉が開く。バスローブを纏った月が髪を拭きながら現れた。
「おはよう」
「おはようございます、月君」
柔和な月の表情。バスローブの袷から滑らかな月の肌が覗く。いつもならそこに私が刻んだ跡が消えることはないが、水着になるからと言われて私の跡が消えていた。
「お前も早く支度したら?待ち切れなくなった子供たちが来るぞ」
「そうですね、そうします」
「L…?」
私に近づいてくる月の脇をすり抜け、バスルームの扉を潜った。
私達が降り立ったのは、雨のロンドンとは一転して温暖な南の島。滞在するサマーハウスは、私達が滞在するからには普段の屋敷には劣るが、きっちりと設備が整えられていた。
家の裏の桟橋にクルーザーが停泊しているのを見て、子供たちが乗りたいと騒ぎ出す。今日は海に行く予定ではなかったが、子供たちの希望を叶えた。
子供たちに日焼け止めを仕上げた月が私に日焼け止めを手渡す。
「本当に来ないのか?」
「えぇ。ここから見ています」
「海は嫌いだった?」
「計画したのは私ですよ。2月は日本でもロンドンでも寒いですからね。たまには温暖な気候での誕生日もいいでしょう?それに、水着の月君も見れますし。…ずらしますよ」
背中を塗り終え、水着に指を掛ける。境目もしっかり塗っておかないと、日焼けの跡が残ってしまう。指がするりと丘の谷間を擽る。
「…っ。L、止めろ」
息を詰めた月の首筋が赤かった。思わず舌を這わしてしまった。
「まずいです…」
舌を出した私を振り向いた月が笑った。
「自業自得だ」
苦い顔をしたままの私を残して、月が子供たちを連れて梯子から降りていった。デッキから見下ろした先では月に抱えられたエルがスノーケルの先を出して海面に潜っていた。視線の先は水中の魚ではなく、少し離れたところでミサと手を繋いで海面に浮かぶキラだろう。
年長の子供たちは、時折海面を叩いて移動する。エルも彼らのところに行こうとするが、月に抱かれたままでは動けない。
「ダディ、魚がいっぱい!」
「青くてね、大きいの!こーんなだよ!」
興奮して喋るキラとミサ。手を広げて魚の大きさを表現していた。頷いてやると、二人が満足そうに笑う。
「私も見ますー」
楽しげに話す二人に耐え切れなくなったエルが、月の腕を振り払い泳ぎ出す。ライフジャケットを着けさせているので、沈む心配はない。ばちゃばちゃと足を動かしてキラたちの元に向かうエルだが、海で泳ぎ慣れていないエルはなかなか二人の元に辿りつけない。徐々に水面を叩く音も苛立ったものに変わる。
必死になったエルを可哀相に思ってかキラがミサを連れて、エルの元に泳いでくる。ようやく辿りついたキラに、エルは喜んでしがみ付いた。けれど、エルの重みでキラのバランスが崩れた。
「エル、そんな風にしたらキラが苦しいでしょ」
自分もしがみ付いているのに、ミサはキラの腕を離さない。
「ミサばかりずるいです」
キラを挟んで争いを始めたミサとエルに月が仲裁に入る。
「全くお前たちは喧嘩ばかりだね。少しは仲良くしなさい。ミサとエル、二人で手を繋いで。キラはおいで。僕と手を繋ごう」
えーと嫌そうな声を上げ、口を尖らせて拗ねたミサとエルだったが、ミサがエルに魚を教えてやり一応仲良く見ているようだった。
ワタリが頃合を見計らって休憩を薦める。月のバースディケーキも運ばれてくる予定だった。毎年、バースディケーキは子供たちがワタリの指導の下に作成するのが習慣だが、今年は旅先と言う事もありワタリが用意したものだった。
月がタオルを広げて、一人ずつ子供たちを包んで陽にあてる。タオルを肩に掛けた子供たちはデッキの上を走り回り、海を覗いていた。
素肌にパーカーを羽織って、私の元に来る月。傍にある体からはひんやりとした涼気が伝わった。
「月君、楽しいですか?」
「…楽しいよ。家族と一緒だもの。楽しくないわけがない」
「そうですね」
ベンチの上に脚を乗せ、立てた膝の上に腕を置く。指で唇を弄った。月の形のいい眉が顰められた。
「キラ。ミサとエルを連れてサロンに行っててくれる?僕はLとお話があるから。…ワタリさん、お願いします」
南の島でもきっちりと着込んだスーツ姿のワタリが月の言葉に頷き、子供たちを船内に連れて行った。お腹が空いたと騒ぐ子供たちに、用意してありますよと普段通りのおっとりと穏やかな口調でワタリが答えていた。
船内に通じる扉が閉まった途端、月が私に詰問する。
「どう言うつもりだ?」
「何がですか?」
月が私の異変に気付かない訳がない。当然だ。昔からお互いを探ってきたのだから。ここに来るまでの道中、ずっと月は私を視ていた。隠したものを暴くのはもう習慣となっていたが、私自ら言い出さないなら、月は気になるだろうが私に時間を与えてくれた。がりっと親指を噛む。
「止めろ!」
銜えていた指を払われた。打たれた肌が軽く衝撃を残す。見上げた月の表情は、私に見せないよう耐えていたが、それでも傷ついたものだった。そんな表情をさせたことを悔やむ。
「…もう、終わりなのか?…お前は終わらせたいのか?」
「違います」
「今日のお前の態度からは、そう思えない」
「…」
視線を月から膝の上に戻す。足の指がベンチを掴んだ。視界の端で月の羽織ったパーカーが風で揺れている。茶色の髪も一緒になって揺れているのだろう。海上の強い風にはためく布の音だけが私達の沈黙を遮る。
「月君。月君は幸せですか?」
「え…?」
「私は貴方からキラを奪いました。夜神の戸籍では、すでに貴方は故人です。日本の家族たちにもそう伝わっている。貴方が夜神月として、以前の友たちと逢う事も出来ないでしょう。自由に、好きな時に好きな場所へ行く事も出来ず、私は貴方を縛り付けている。人前では偽名を名乗らねばならず、私と夫婦だと言う事すら誰にも言えない。それなのに、月君、貴方は私の傍にいて、家族を与えてくれました。そして、何より貴方自身を」
手を伸ばした。体の脇に垂らされていた月の手首を握る。
「貴方が私に与えてくれている幸せを、私は貴方に返せていますか?」
触れた肌から伝わる、暖かい確かな存在の月。
「L…」
「私は不安です。何時も。貴方と出会う前が不幸だったと言うわけではありません。ただ、貴方との生活がとても幸福すぎるんです。私にとって、幸福とは縁遠いものだった。だから、いつか貴方が眼を覚まし、なぜ私などと暮らしていたんだろうと、子供たちを連れて出て行ってしまうのではないかと恐れています…」
「…お前は馬鹿だね」
身傾けた月が私の頬に手を当て、上を向かせる。キスは唇だけでなく、額にも頬にも降ってきた。ふと頬に濡れたものを感じ、月が涙を零しているのを知った。
「そうですね。きっと馬鹿なんです」
こんなにも。こんなにも愛しい人を泣かせてしまうなんて、それ以外の何者ではないのだろう。
「愛してる、L Lawliet。お前は、ずっとなんて信じないだろうけど、僕はお前みたいな馬鹿で、子供っぽくて、嫉妬深くて、負けず嫌いで、でも僕と同じくらい天才な奴なんて見たことない。だから、僕はずっとお前を愛し続けるよ」
「私も月君が嫌がってもずっと愛してます。それから、Lawlietじゃありません。私の名前は、L Yagami=Lawlietです」
引き寄せた身体を膝の上に座らせた。すぐに私の首に回る腕。私の中に月を取り込むように強く抱きしめる。
ワタリを神父に結婚の誓いをした時の事を思い出した。「死が二人を分かつまで」。だが、死が二人を分けても、きっと私は月を、月は私を探し出す。
「貴方がどこに行ってしまっても、私は貴方を探し出しますから」
「それでこそ僕のLだ」
辺りを輝かせる月の笑顔。私も口元が緩むのが分かった。現金なもので、月の言葉と笑顔で、身体に澱んでいた不安が氷解する。それは一時の事だろうが、それでも今だけは不安を感じない。
陽に透けて金色に見える月の頭を引き寄せ、深く唇を合わせた。私に開けられた月の唇を過ぎ、舌を絡める。微かに漏れた月の呻き。下半身を直撃するそれに、腰を抱いていた手をするりと水着の中に潜らせた。
「ん、やめ…」
私の肩に顔を埋めた月が首筋に熱くなった吐息を零す。拒否の言葉には力がない。眼の前で揺れる、つんと尖った乳首を舌で包んだ。
「あっ…」
月の甘い喘ぎが風に漂う。
「パパ?ダディ?」
サロンに続く扉が開けられ、覗いた小さな頭が三つ。月が一つ咳払いをして、身に纏い始めた快感を振り落とした。すっかり親の顔に戻った月が膝から降りて、子供たちにおいでと手招きをするとサロンから小さな塊が駆け出してきた。月がいなくなった膝が物足りなくて、再びベンチに足を乗せて膝を立てる。
「もう仲直りしたの?」
月を見上げて、恐る恐る尋ねたのはミサだった。
「喧嘩なんてしてないよ」
「本当に?」
「えぇ。私が月君を怒らすことはあっても、私達が喧嘩をすることはありません」
「月様、こちらにランチをお持ちしても?お子様たちがご夫婦と一緒でないと嫌だと仰いまして」
「ごめん、お腹が空いただろう?Lと座ってて。ワタリさん、僕も手伝います」
月は腰にしがみついているエルを持ち上げて、私の隣に座らせる。私とエルがいつもの格好で並ぶと、キラとミサが笑った。下にあるエルの頭を見下ろして、ずっと気になっていた事を尋ねた。
「エル、なぜマスクをつけたままなんですか?」
月と子供たちがクルーザー脇の海で遊んでいる時、水中マスクとスノーケルを着けさせた。ライフジャケットも着けさせたので、潜る事は出来ないが、海面で浮かんで魚を見ることは出来る。
「ダディ、外してやって!おかしいって言っても、エルは聞かないの!」
「気に入ったんだって」
エルとは逆隣からミサとキラが答える。
「これをつけていると、海の中でもキラが見えました。気に入りました」
エルが私を見上げる。スノーケルは外したようだが、小さなエルの顔が紺色に縁取られたマスクで覆われている。
「海の中ではそうでしょうが、上がっては必要ないでしょう」
外そうと手を伸ばすと、エルは身体を退いて逃れた。
「いいんです。気に入っているんです」
「そうですか。気に入っているならそれでもいいですが、そうなると私が困ります」
「ダディが困るんですか?」
指を銜えて私を眺めるエル。小さいのに訝しげな表情を作るのが可笑しかった。
「えぇ。顔がはっきり見えなくては、エルがどうしているのか分かりません。エルが元気になったなら、ワタリに用意させた苺のショートケーキを快気祝いにしようと思ったんですが…。元気になったか分からないのでは仕方ないですね。私が全部食べる事にします」
苺のショートケーキと聞いた途端、急いでマスクを取ったエル。小さな手を伸ばして、私の首を自分の方に捩った。
「私、元気になりました」
「その様ですね」
隣ではキラとミサが手で口を押さえて笑っていた。
「ねぇ、ダディ?」
「なんですか?」
「パパと仲直りのキスした?」
「…そんな事、どこで聞きました?あぁ、言わなくていいです。どうせまたニアでしょう」
「ううん。メロちゃん」
「困った名付け親たちですね」
「ねぇ、ねぇ、したの?」
ミサが重ねて聞いてくる。どうもロマンチックすぎるアニメを見させすぎたようだ。
「楽しそうだね」
ワタリを連れてサロンから上がってきた月。軽食が積まれたトレイをテーブルに置き、紅茶のカップをワタリから受け取る。
「月君」
私が月を呼びかけると、何が起きるか予想していた子供たちが笑った。
「なに?」
テーブル越しに月の頭を引き寄せて、唇に軽いキスをした。触れてすぐに離れたそれだったが、見ていた子供たちからは歓声が上がった。
「良かったね~、ダディ」
状況が分かっていないが満足そうな私と子供たちに、微かに頬を染めた月は口にし掛けた疑問を不問にした。エルをずらして月が私の隣に座る。自動的に巻きついた私の腕に、月の頭が私に傾いて、こつりとぶつかる。月から満たされた溜息が漏れるの聞き、私は幸せだった。
*** *** ***
月の誕生日の夜は私が独り占めなのは、キラが幼い時からの決まりごと。本当はニアの戯言から出たのだが、都合がいいのでそのままにしている。
子供たちをワタリに託して、二人で夜の海にクルージングに来ていた。
「夜の海もいいね」
後方のデッキで遠くの灯台の明かりを見ながら月が呟く。
「周りは海だけですので、貴方と私しかいない」
強く吹いた夜風で、後から抱き込んだ体が震えた。
「中に入りましょう。少し風が強くなってきました」
サロンを通り過ぎ、ベッドルームに向かった。中は船内と言えど、豪華なものだった。部屋の中央に置かれたキングサイズのベッドに月を座らせた。部屋に備え付けられたバーカウンターからに、用意してあったグラスを手渡す。
「ねぇ、L。バースディ・プレゼントを貰ってもいい?」
「持って来ます」
グラスをベッドサイドに置き、プレゼントを取りに立ち上がると月が止めた。
「ありがとう。でも、それは後で貰ってもいいかな?欲しいものがあるんだ」
「何でも仰って下さい。用意します」
「それじゃあ、そこに横になって?」
「…プレゼントは私ですか?」
じっと顔を覗き込むと、そうと答えた月が無邪気に笑う。けれど、その笑顔が無邪気なだけではなく、奥に私と同じくらいの欲を隠しているのを知っている。
早くとシーツを叩いて催促され、大人しくベッドの上に横たわった。
歌でも歌い出しそうな陽気さで、私から服を取り去る。そして、私と視線を合わせたまま、月は自身から服を剥いでいった。
日焼け止めを塗っていても、微かに太陽に愛された肌。外気に晒され、つんと立ち上がった乳首。含んでくれと誘っていた。無駄がなくしなやかな月の脚。女では持ち合わせない美しさがあった。それが快感にどんな風に震えるか知っている。そして、力を溜め始めた月自身。淡い茂みから勃ち上がったそれも恥ずかしげもなく私に晒してくれる。
思わず喉が鳴った。全て私のものだった。
私の腰に跨った月が顔を下ろしキスを始める。舌がするりと忍び込み、絡めようとした私の舌から逃れて口内を蹂躙する。二人の間に手を伸ばして、私に跨った月の太ももを撫で上げた。
「こら。プレゼントは動くな」
月の内腿を撫でていた手が取られて、頭の上に置かれた。
「今日は僕が好きにやるんだからLは動くな」
「月君の誕生日ですよ。逆ではありませんか?」
「僕の誕生日だから、L、君を好きにする事をプレゼントに貰ったんだ」
「これでは私が喜ぶだけです」
「世界の切り札を好きにするんだ。最高のプレゼントだよ」
まるで悪戯っ子の様な口調なのに、腰と手の動きは艶っぽい。ゆるゆると月の尻が動き、私の陰茎を育てている。私が準備したジェルは月の手の中で、たっぷりと中身を掌に出していた。
掌で暖められたジェルが胸一面に広げられる。私のものなど弄っても楽しくないだろうに、時折、月の掌が私の乳首を掠めた。
「っ…」
「気持ちいい?男でもここが気持ちいいって、僕はLに教えられたよ」
ちゅくと舌が絡んで、吸い上げられた。陰茎を攻められる程の快感はないが、それでも下肢に熱は溜まっていく。胸で揺れる茶髪に手を潜ませた。動いても怒られないのは、この程度なら構わないと言うことだろう。
つぅっと舌と体が私の上を滑り降り、やがて芯を持った陰茎に月の熱い呼吸を感じた。ふぅっと息を吹きかけられると、反射で先端が揺れる。月の頭を押し下げようとした矢先、ねっとりと熱い口内に含まれた。
「ぅん、ん…」
下肢で立てられる鼻から抜ける様な呻きを聞きながら、月が私を含んでいくのを感じた。纏わりつく熱い月の中が窄まり、吸い上げられた。腰が浮くほどの強烈な快感に思わず瞳を閉じていた。
「ラ、イト…」
茶色の頭が上下するたびに、唾液がじゅぶじゅぶと音を立てる。指が根元を擽り、重たくなった袋を月の掌で転がされる。慣れた手にすぐに放ってしまいそうだった。
「月君、止めて下さい…」
「どうして?」
含んだまま問われる。言葉の振動が新たな快感になって、更に熱を煽る。月もそれを知っていて、やっているのだろう。
「このまま達っていいのに」
月の言う通り、このまま放ってしまいたい欲望に負けそうになるが、月の頭を上げさせ限界まで張り詰めた陰茎を抜いた。
「くっ…!」
先端を舌で弾かれて、危うく限界の箍が外れそうになる。寸前の所で月の誘惑をなんとか耐え切り、ストップを掛けた私を見上げてくる月の頬を撫でた。
「達くなら貴方の中で達きたいです」
「うん…」
小さく頷いた月の身体を持ち上げ、腰に再び座らせる。ジェルを取って月に手渡した。手伝おうとすると怒られたからだ。
「ん、ん…。ふっ…」
私の胸に手を置きバランスを取ると、もう一方の手を下肢に伸ばした。首を伸ばすと、月の指が自身の後孔を解すのが見える。私の首元に顔を埋める月。自分で引き起こした快感に、額を私に擦り付けていた。顔を上げさせ唇を合わせる。指が悦いところを掠めたのか、私の口内に喘ぎを漏らした。
ジェルを残した月の手が私を掴み、後孔へガイドする。先端が潜ると、私の上で浮く月の体が震えた。
「はっ、はぁ…」
呼吸を繰り返して息を整えると、月の腰が一息に沈んだ。
「ん、あああ!」
挿入の衝撃に月の顎が上がる。私も月に放ちたい衝動を必死に抑えた。月は気にしないだろうが、もう少し月を楽しませたかった。
震える手が私の胸に置かれ、月の腰が動き始める。動きにあわせて波打つ腹が酷く卑猥だった。この中に怒張した私が納まっている。
自分を支えきれなくなった月の腕が折れ、熱い体が私の上に倒れた。双丘に手を下ろし、私が限界まで広げて蹂躙する孔を労わった。月の陰茎が私の腹に擦り付けられて、溢れた滴が繰り返し線を描く。月の腰を押さえ込んで、下から突き上げた。
「あ!はっ、…んんん」
辿りつく手当たり次第の私の肌に、月の唇が這う。顎を掴んで顔を覗きこむと、快感に濡れた瞳が瞬いた。顎を掴んだ手を取られる。掌にキスを押し当てられ、熱い舌がねっとりと這わされた。
「う…、くっ…」
ぞくぞくとした快感が体を走り、腰が浮き上がる。掌がこんなに快感をもたらす器官だと知らなかった。腰を振り続けながら、月は私の五指を順番に含んで、先ほど陰茎に施した動きを再現する。
「月、月…」
切羽詰った私の声に月の内壁が強烈に締めつけ、そのままグラインドを繰り返す。指の跡が残る程、月の腰を掴んだ。
「っ…!!」
短く唸りを上げ、月の中に白い熱を解放した。
*** *** ***
下腹に熱が広がった。目蓋が細かく痙攣して、薄く開いた唇から荒く息が吐かれる。ゆっくり体が弛緩して、腰を掴んだ指からも力が抜けた。僕はLから目を離せなかった。まだ僕の体内では彼がびくびくと余韻に震えている。
「月君…」
残念。もう戻ってしまった。Lが僕の名前を呼び腕を広げた。僕は大人しく彼の腕の中に納まり、額にキスを受け取った。
「Lが達くところを見るのが好きだよ」
そう言って頬に軽い音を立ててキスをすると、目を見開いて驚いた顔をするL。行為の後の所為か、微かに耳が赤い。
「誰でも、Lでもその瞬間は無防備になるからね。警戒心も自制も強いお前を僕がそうさせている事も、そして、それをお前が許している事もとても特別な事だから」
「貴方は何時だって特別です」
「うん」
汗で重くなった髪を撫でてくるLの手。蜘蛛の様に長い指が起こす穏やかな快感にうっとりと浸っていると、あっという間に身体を入れ替えられた。
「今度は月君の番です。どんな体位で達きたいですか?今日は選ばせて上げましょう」
圧し掛かってきたLがそんな事を言って、にやりと笑う。僕はそれに黙ったまま、両足を折り畳んで引き寄せた。ぱかりと口を開けたLがそんな僕を凝視している。
両足を自分で抱えて、Lを受け入れる場所を晒す。さっき放ったものが口から溢れ、さぞかし淫蕩な姿なのだろう。意趣返しは成功したが、Lが固まったままなので、自分からこんな姿をしておきながら徐々に恥ずかしさが湧いてきた。降ろしかけた足をLの手が阻む。
「はしたないですよ、月君」
Lの声が欲望で満たされている。言葉はそのままの意味じゃない。
「お前にだけ」
見つめてくる黒い瞳を見つめ返すと、ふっと瞳に優しさが差し込んだ。
「えぇ、私にだけです。他の者にこんな貴方を見せる事は許しませんよ。貴方は私のですから」
唇と体が重なり合い、すぐに新しい熱に焼かれる。
体を二つに折られて、上からLを叩き込まれる。ベッドのスプリングがより深くLを受け入れさせていた。背中に回した手で必死にLにしがみ付く。繰り返し前立腺を擦られて、前を触れられていないにも関わらず絶頂を果たしていた。
「月君、すみません。手加減が…」
がくがく震える腕を何とか持ち上げ、僕の上に圧し掛かるLの汗ばんだ額から前髪を払った。
「しなくていい。明日、歩けなくてもいいから」
Lから獣の様な唸りが上がり、背骨が軋むほどLに抱き殺された。
*** *** ***
今日も海は朝から天気が良かった。子供たちはワタリさんに手伝ってもらって、日焼け止めを塗っていた。
「鼻も忘れずに塗るんだよ。赤くなってしまうからね」
「パパ、今日は泳がないんですか?」
もう既にマスクをつけたエルが、服を着たままベンチに座った僕を見上げてくる。
「ちょっと具合が悪くてね。でも、今日はLが一緒に入るよ」
「…染みるんですよね」
日焼け止めを塗ってやっていたLがぼそりと子供たちに聞こえない様に呟く。その通りなのだが、わざわざ言うLに膝を蹴った。
「痛いですよ、月君」
ちっとも痛そうじゃない。それどころか、嬉しそうなLが憎らしい。
「それじゃ、行って来ます。いい子にしてて下さいね」
ちゅっとキスを掠め取ったLを怒る間もなく、子供たちを連れてクルーザーから降りていく。キャーキャーと喜ぶ子供たち。手摺から身を乗り出して覗き込むと、Lの上にキラ、ミサが乗りLが沈んでいた。
「早く乗って、エル!!」
「ダディが起きちゃうじゃない、早く!」
「そんな高いところ乗れません」
キラがLの背に腕をついて、Lを更に沈めた。ぶくぶくと派手に泡が海面に昇ってくる。
「これなら大丈夫だよ」
ミサの腕にしがみ付いて、Lとキラとミサが積み重なった上に身体を放り投げたエル。ぶくーと子供たちが沈んで、いっそう笑い声が上がった。
「ぶはっ!」
ようやく水中から起き上がったLが咳き込む。それに子供たちがまた笑う。
「貴方たち、私を殺す気ですか?」
海面に浮いたLは長い髪が張り付いて、顔のほとんどを隠している。それを見たキラがお化けだーと叫んで、海面に倒れるほどけらけらと笑っていた。結んでやれば良かったかな。
追いかけ始めたLから逃げる子供たち。捕まえては、ほぃっと海に放り投げる。放り投げられながらも笑っている子供たちが楽しそうだ。エルさえも声を上げて笑っていた。
「皆様、楽しそうでございますな」
いつの間にか傍に立っていたワタリさんがアイスティを差し出す。海で遊ぶ子供たちを見る目は穏やかだった。
「本当に。みんな、幸せそうです」
遊ぶLと子供たちをもう少し見たら、僕も海に入ろう。きっと傷が染みるだろうけど、それと引き換えにして余りあるものが待っている。
END
