Title :会話
Author:ちきー
DATE:2008/05/27
Series:Death Note
Rating:PG-13
Category:Drama、AU
Paring:L/月、mention OMC/月
Warning:OOC-ness
Archive:Yes
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。
Summary:
L月団地妻の後日談。あの人、再登場です。
よく眠っている。
シーツに膝を立てた私は、隣で横たわる月の顔を覗きこんだ。太陽が昇ってしばらく経つが、彼が目覚める様子はまだない。
今日は月の休日で出勤する必要は無かった。魅上の狂死により彼の一連の言葉は信頼性が疑わしいとされ、同時に一部の刑事達が抱いた月への疑いも霧散した。元よりアドバイザーとして捜査に参加していた月はすでに情報課に戻り、解決後の後処理は相沢さんたち捜査一課預かりとなった。魅上をキラと呼ぶにはおこがましいが、彼には感謝している。魅上のおかげで私は月を取り戻せた。
柔らかい茶色の髪に指を差し入れ、そっと撫で梳いた。顔を隠していた髪が消え、疲労の残る月の顔が現れる。感極まった月が流した涙の跡を辿った。
昨夜、私は月の休みを確かめると、思う存分に月を貪った。絡んだ体を離してやれたのは、朝日が夜の闇を薄めた頃だった。彼の体に無数に散った跡。首もとに特別濃い紅。
こうしておけば、私以外の前で彼はネクタイを緩める事はない。そして、もし誰かが緩めたとしても月には印を付ける事を許す相手がいると知らしめる。身を屈め、その紅に口付けた。こうして何度でも口付けよう。もう二度と彼から私の跡を消させないように。月に触れた唇のカーブが上向いた。
月に触れる私の身体にも紅が散らばっている。誰の前に姿を現すつもりはないが、もしそうなったとしたら、私は誇りを持って月がつけた印を見せられるだろう。
私に印をつける行為もそうだが、彼の身体は愛し、愛される事を知っていた。かつての同居生活の時、身体を繋げると言う行為自体に不慣れな月は、快感を感じる事に後ろめたさを感じていた。私の起こす快感に悦びはするが、どこか戸惑いを残したまま。
だが、再会した後の月にはそれがない。私は月を変えた男たちに、黒い嫉妬を抱かずにはいられなかった。たとえ、それが不条理な事だとしても。
電子音がサイドテーブルから流れた。そこに置かれていた月の携帯が震えていた。
「ん…」
眉を顰め、小さく呻いた月。目蓋が震え、彼の意識が浮上しようとしている。
私は彼の携帯を摘んだ。疲れている彼を眠らせたい。気付けばきっと怒るだろうが、電源を切ってしまうつもりだった。
だが…。
開いた携帯の小さなディスプレイに表示された発信者の名前。それを見て、気が変わった。通話ボタンを押し、耳に摘んだ携帯を押し当てた。
「はい…」
『…ライト、…ではありませんね?彼は…』
「眠っています」
『それは珍しい。彼は朝は弱くないはずだが』
「昨夜、疲れさせましたので。電話があった事は月くんに伝えます。それでは…」
『待って。……リュウザキ、ですね?』
「…そうです」
『一度、あなたとお話したいと思っていました』
「……」
『ライトは、…あなたの元に戻ったんですね』
通話の先で、私に言うでもない微かな呟き。
彼が私と話したいと思うように、私も彼に言いたいと思う事があった。
「月くんを愛して下さって、ありがとうございます」
私に裏切られた月は、誰かに感情を持つ事にひどく臆病になっていた。プライドの高さが差し出された手を拒み、冷淡なまでに振り払った。自分が傷付いている事さえ認められず、その頃の彼はひどくアンバランスで危うかった。
彼の上を多くの男女が通り過ぎ、彼らが与える快感にのみ浸った。そんな生活を繰り返しても、彼に巻きついた茨は依然として存在し、傷つけ続けた。月も巻きつかれている事から目を逸らし、そこから出て行こうとはしなかった。月の夜は昼の明るさと比例するかのように闇が濃かった。彼がジャンとフランスで再会するまでは。
彼を忍耐強く、そして穏やかに愛し続けた男は、ついには月のテリトリーの中に入り込む事に成功した。ジャンの傍で徐々に月が警戒を解き、綻び始める。ジャンの傍でかつての様に笑う月を見て、私は満足だった。それでいいと。私の抱く感情は関係ない。私の望みは、月が幸せであることだったから。だから、月を一時でも満たしてくれた電話の相手には感謝していた。
私の本心からの言葉にジャンが笑う。その反応で彼もまた同じ思いなのだと理解した。
『ライトに伝言をお願いできますか?』
「どうぞ。彼が起きたら伝えます」
『ライトの場所は空けておくから、いつでも帰っておいで、と伝えてください』
「…気が変わりました」
『先ほど伝えると言いましたよね?ジャンがそう言っていたと必ず伝えてください。それでは、よろしくお願いします』
声音に笑いを含んだフランス人は一方的に私にそう言付けると、通話を切った。
*** *** ***
近くで、短くて大きな音がした。
「んんん…」
ぱかりと目を開けると、竜崎の顔があった。
「おはよう」
「おはようございます」
ん~と強張りを伸ばしながら腕を上げる。そして、眠気が散った頭をシーツに肘を突いた手に乗せた。下から竜崎を眺める。朝から不機嫌な顔。隈に縁取られた目の間に皺が寄り、親指をがりがりと噛んでいる。
「どうかした?」
噛んでいた指を外させ、手を絡める。指先で手の甲をゆるゆると撫でた。
「…電話がありました」
握り込んでいた携帯を僕にちらりと見せた。
「出たのか?」
プライバシーを侵害された事に少々の不快を感じても、この程度で怒っていては竜崎と付き合っていられない。それにずっと僕の人生を監視していた竜崎相手に今更の事だった。
僕の質問に悪怯れるでもなく頷いた。
「ジャン、からでした」
「あぁ、帰国前に逢う事が出来なかったから。きっと心配してくれたんだろうな。相変わらずの人だ」
ふさふさの髭を湛えた元恋人の顔を思い出して、僕の顔は微笑んでいた。
「何か伝言は?」
「………」
「竜崎?」
もの凄く、もの凄く嫌そうに竜崎がジャンの言葉を伝えた。
「ライトの場所は空けておくから、いつでも帰っておいで、…だそうです」
「ははっ。ジャンらしい」
僕の笑みが深くなるほど、不機嫌が増す竜崎。
「それで?」
「それで、とは…?」
「負けず嫌いのお前の事だ。そのままでは済まさなかったんだろう?」
「…写真を送ってやりました」
「写真?もしかして目が覚めた時に聞こえた音は…。竜崎、携帯を返せ」
「嫌です」
「僕の携帯だ」
「まだ私の端末に画像を送っていないんです。っと、手を離してください、月くん」
僕の携帯なのに返さないどころか、手の届かない所に遠ざけられた。
「写真なんて有り余るほど持ってるだろうが!」
「再会後のアップの写真はないんです。しかも裸なんて…」
「竜崎…!お前、ジャンにどんな写真を送ったんだ!?」
ベッドの上で携帯を求めて暴れまわる二人の様子は、幼い子供が戯れるようなものだった。けれど、すぐにその戯れも子供と言うには爛れるほど甘いものに変わった。
一方、フランスの空の下では、寂しさを纏った穏やかな声が、幸せにおなりと呟いていた。
END
