Side R

するり、と分厚い本の黄ばんだ頁を繰る白い指。素早いその動作を終えた指は、コーヒーカップの持ち手に緩く絡み、その手の主の次の指令に備える。時折その主の額に落ちかかる黄金の髪の房を物憂げにかき上げ、定期的に頁を繰り、コーヒーカップを主の口に運んでいた勤勉なその手が、いつしか机に頭を預けて眠りに落ちた主の支配から暫し解放されてはたりと机から垂れたとき、僕はその手をそっと掬い上げたい誘惑に打ち勝つことができなかった。そうさ、君は知るまい、だから僕が君の手を握るのは今が初めてじゃない。

ああ、君の手は何て美しいんだろう!最高級の雪花石膏を、神に祝福された名工が彫り上げればこうなるだろうか。いや、どんな匠にもこの美は生み出せまい。君の手、否、手のみならず君の姿の全てが神の最高傑作であると信じさせるほどのこの美は。

そのあまりにも完成された美しさ故に、君の手には花は似合わなかった。その手の中では、どんな美しい花も色褪せてありふれたものに見えるから。またスプーンやフォークも似合わなかった、その芸術品のような手にそれらの日常的な道具はどうにもちぐはぐな印象を与えるのだった。もっとも、君がこれらのものを進んで手にするのは珍しいことではあったが。

君の手はいつも、君の発する輝ける言葉に勢いを与えるように宙を踊り高く天を指すか、固くペンを握り一晩中紙の上に君の意志を記し続けるか、地図や集められた武器の上を滑って休むことを知らなかった。

君の手の中で黒光りして重く撃鉄を鳴らす銃を見たとき、僕はこの日が来ることを知っていた、と思った。既視感を覚えるほど、君の美しい手にその恐ろしい武器は似合っていた。君はそれまで銃など握ったこともなかったというのに。

もはや敵のものか味方のものか、君自身のものかもわからぬ血に塗れ、弾が切れ銃身の曲ったカラビンを握った君の手は、哀しいほど、今までのどんなときよりも美しかった。君の手はこんな時にも君に忠実で、君の意思通りに武器を床に放棄し、12の銃口の前に立つ君の身体の横に静かに垂れて震えもしない。

冷たい手だ。この温度だけが、君の意思に反して恐怖を伝える。
ああ、君の手にもっとも相応しくないものが、君が握る最後のものになるのか。皮肉屋で懐疑屋の、無骨で醜い僕の手が。これは僕の我儘だ、許してくれるか?

ーThey were schoolboys never held a gun…