Title :光の人
Author:ちきー
DATE:2006/12/29
Series:Death Note
Rating:R
Category:Angst,AU,Crossover(harry Potter)
Character:月、Harry(Harry Potter)、L
Warning:Child Abuse
Archive:Yes
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。

Note:
キラの裁きは悪なだけなのか?物事は常に複数の側面を持ちます。そこを偏った私見ですが書いてみました。
ストーリーの発展上、ハリー・ポッターとのクロスオーバーがあります。そして、かなりの捏造と浅はかな知識だけで書かれています。また、児童虐待が出てきますので、お気をつけ下さい。ベータはおりません。誤字脱字がありましたら、お許しください。
Summary:
月は幼いころに出逢った、忘れられない人に街の中で会う。幼い頃の彼との出会いがキラの土壌を生んでいたのだった。

人ごみの中に彼の姿を見つけた。
移住した先を幼い時に聞いたが、日常に紛れ忘れてしまった。だが、僕の心の中の特別な場所に常に居た。それは恋愛とも友情とも異なり、もっと特別な繋がりだった。
今思えば、僕がキラとなるきっかけになった人でもあったのだろう。

移動中のリムジンの中、現在手がけている事件についてLと意見を交わしていた。その最中に、車窓の中に彼の姿を見つけ、車を止めさせた。見失う前にと、車が完全に停止するのを待たずに飛び出した。後ろからLが声を掛けてきたが、構っていられなかった。

『ハリー!』

随分と久しぶりに呼ぶ彼の名前に、驚いたように振り返る顔。子供の頃の面影が垣間見え、懐かしかった。走り寄る僕を呆然と見上げる彼。たしか僕と同じ歳だったはずなのに、身長はニアよりも少し高いくらいか。いずれにせよ、成長期に十分の栄養を摂取できなかったのだろう。彼が親戚と共に僕の隣に住んでいた、幼い頃と同じように。

隣に越して来たと挨拶しに来た家族に、彼は含まれてはいなかった。そんな彼に僕が初めて会ったのは、彼の叔父から虐待を受けていた時だった。

ある冬の夜、隣家の窓が乱暴に開き、彼の叔父がまるで汚いものみたいに彼をつまみ出すと、庭のホースで水を掛け始めた。彼の肩に引っかかっている状態の、サイズの合っていない、使い古したシャツは、容赦なく浴びせられる冷水から彼を守ることもなく、濡れて骨の浮かぶ体を顕わにした。

全身がずぶ濡れになると叔父は彼を庭に残し、乱暴に窓を閉めると鍵をかけた。がたがたと寒さに震える体を自分の両手で抱き、閉められた窓を叩くこともなく、じっと下を向いて立っていた。しばらくすれば彼の親戚が彼を招き入れると思ったが、カーテンの隙間から見える、彼を除いた家族団欒にその気配はない。

父は仕事が忙しく、一緒に遊ぶことは多くないが、それでも両親から愛されて育っていた僕は、大人が子供に虐待をするのを見てショックを受けた。僕は母を呼んだ。庭で震える彼の姿を見た母は、かつてないほど憤り、庭つてに彼に声をかけた。

母が声を掛けても、なかなか庭から動こうとしない彼の手を取り、僕は家に入った。彼の手は氷よりも冷たかった。

家に入っても彼は一言も口を聞かず、ただ黙ってうなだれていた。嵐が過ぎるのをじっと耐えているように。膝を着き、彼と同じ目線になって、名前を聞く母に、彼は消え入りそうな声で「boy(ガキ)」と答えた。それを聞き、泣きそうになった母は、何かを振り切るかのようにして、冷え切った彼を浴室に連れて行った。「月は部屋にいなさい」と母に言われたが、冷たい手をした、自分と同じ子供が心配で入り口で見ていた。

険しい顔をした母が一度、浴室から出て、救急箱を手に戻ってきた。「部屋にいなさい」と再び強く言われ、常にない母の険しい顔に驚き、大人しく自分の部屋に行った。階下では母が父と電話で話をする声が聞こえていた。

しばらくして、夕食の時間になり、リビングに呼ばれた。僕のパジャマの袖や裾を折った彼もいた。暖かな食事が並ぶ。箸が使えないだろうと気遣って出されたフォークをぎゅうと握り、彼は誰にも取られないように皿を抱え込み、ろくに噛みもせず必死に飲み込んでいた。母がそっと彼の皿にお代わりを足した。

父が帰ってきて、また僕と妹は部屋に行くよう言われていたが、廊下から両親と彼の話し合いの様子を伺った。話し合いは続き、しばらくして父が隣の家に行った。家に戻った時、温厚な父にしては珍しく怒った顔だった。

父が僕の部屋に彼を連れ、しばらく一緒に住むことになったと言われた。妹を可愛がってはいたが、遊び相手としては物足りなかった僕は、単純に同い年の男の子と暮らせることを喜んだ。

その日から、僕は彼とたくさんの時間を過ごした。彼は学校には行かず、日中は妹と遊んだり、母の手伝いをしたりして、僕の家族と馴染み始めた。母の努力により体重も少しずつ増え始め、時折ほんの少しの笑顔も覗かせた。笑うと緑の瞳が優しく瞬き、胸がほっこりした。彼は言葉を多く話せないが、僕の名前を一番先に覚え、よく呼んでくれた。

仲の良い友人と遊ぶことが少なくなり、学校から急いで帰って彼と過ごすことが多くなった。一緒にリビングに寝そべりながら本を読み聞かせ、ゲームをしたり、彼に日本語を教えた。そして、夜には彼と一緒にベッドに入り、眠るまで学校であったこと、動物園やプラネタリウムの話をした。たいてい話すのは僕だったが、彼は時折頷いたり、小さな声で相槌をいれていた。

だが、ある日学校から帰ると誰もおず、父が迎えに来て病院に連れて行かれた。ベッドに包帯だらけの痛々しい彼がいた。看護士たちの話を漏れ聞くと、母が買い物で留守にしている間、彼の叔父が来て彼を連れ出すと、自宅で彼を殴る蹴るの虐待をしていたらしい。帰宅した母は妹から彼が連れて行かれたのを知ると、彼の自宅に向かったが、そこで血の海に浮かぶ彼を発見し通報したそうだ。

彼は病院に運ばれ治療を施されたが、しばらく意識がなかった。彼の叔父は児童虐待の容疑で警察で取り調べを受けていたが、怪我は階段から落ちたと主張し、逆に母を誘拐の容疑で訴えた。

母は実際に彼が殴られる場面を見ておらず、いくら庭から連れ出した時怪我をしていて治療したことを話しても、虐待の証拠不十分で彼の叔父はすぐ釈放された。そして、病院にやってきた彼の叔父と叔母は怪我が治っていないにも関わらず、包帯に覆われた腕を掴み退院させた。彼はまた嵐が過ぎるのを耐える彼に戻っていた。

その翌日、自国に戻ると、隣家は荷物を運びだした。
僕たちの眼の届かないところに行ってしまっては、誰が彼を助けるのか。このままではいつか彼が死んでしまうと、母にも父にも訴えた。だが、二人とも痛ましい顔をして、何もできないのだと、悔しくて涙を滲ませる僕を諭した。

僕は納得がいかなかった。彼は何もしていないのに、なぜ大きな大人に殴られなければならないのか。彼はあんなに優しくていい子なのに。一緒に暮らしたから知っている。妹がぐずって泣くと、彼が涙を拭いてあげていた。日本語が上手くなったと褒めると、はにかんで笑う。母だってよく手伝ってくれるから、僕たちよりも頼りになると笑っていた。

リビングの窓が叩かれる。カーテンを引くと頬を腫らした彼が立っていた。急いで窓を開けると、彼は僕の涙に気づき、そっと拭った。そして、何度も「ありがとう」と言った。僕は何も出来なかったのに。

隣の家から彼を呼ぶ声が聞こえる。咄嗟に手を掴んだ僕を見て、空いた手で僕に抱き着くと、拙い覚えたての日本語で「名前、ハリー。ライトだけ、教えてあげる。忘れないで」と言うと、叔母のところに向かった。

それから何日も彼を思って泣いた。だが、幼い子供の日常は慌しく、いつの間にか思い出すことが少なくなった。それでも、ふいに思い出すときは、彼が虐待されることの憤りと、何もできない自分への歯がゆさがあった。

往来の真ん中で再会した彼は、小柄ながらも病的な体形ではない。身なりはきちんとしていて、左手に指輪をしていた。良かった。彼は彼のための誰かに逢えたのだ。

追いついてきたLに簡単に紹介した後、積もる話もあるからと、Lを残して近くのカフェに向かおうとしたら、Lが離れようとせず、仕方なく近くのホテルに部屋を取った。

ワタリさんが入れてくれた紅茶を飲み、ハリーと近況を話し合った。英国に戻った後、入学許可証が届いても、叔父に阻まれ最初の数年間は学校に行けなかったこと。彼は同性と結婚し、もう2年になること。相手は彼よりもかなり年上で、彼の先生だったこと。昔と違って、僕の方が聞き役に回っていた。

話に入れないLがソファーにいつもの座り方をして、機嫌が悪そうに体を揺らしていた。僕と彼の話が一通り落ち着いた時、切り出した。

『ハリー、僕はキラだった』

横でLが眼をむく。L以外、自分の口からキラだと肯定したことはない。僕の告白にも落ち着いたままのハリーは、手にしたカップをソーサーに戻した。

『…そうだと思っていた。キラが出始めた頃に、叔父さんと叔母さんが同じ時間に心臓麻痺で死んだから』

僕から視線をそらさない瞳。幼い頃にあった生への憂いは消えていた。

『ありがとう、ライト』

礼を言うハリー。それを見て、僕は少なくとも1人、デスノートで人を幸せにできたと思った。心優しい人が報われた。

どんな事情があれ、人を殺すのは悪いことだ。聞かれれば、皆がそう答えるだろう。
だが、それは世の中が表層上、上手く回るための、キレイごとだ。あいつさえいなくなれば、死んでくれた方が世の中のためだ。と、一度もそう思わなかった人間は、ただ幸運なだけだ。

飢えて死を待つばかりの国民を省みず、他国を脅かす独裁者。子供を虐待死させる親。単なる気晴らしの為に他人を、他人の家族を殺す者。感情のままに親を、恋人を、配偶者を傷つける者。

そう言った者たちが死ななければ、陥った状況から抜け出せない者も確かにいるのだ。虐待されている者は、ただ安らかな日々が欲しく、家族が殺されたものは、それを忘れることはできないが、だが、それでも苦しみに区切りがつけられる。

そう言った人間全てを救うのは無理なことだ。だが、僕が関わったことで、関われた分の人間を救うことはできただろう。

『ライトがダーズリーを裁いてくれたから、僕は今、生きられる。
月が僕に人生を、未来をくれた。ダーズリーが生きていたら、僕はまともに学ぶ機会も得ず、獣のままだった。もっと運が悪ければ、餓死か、殴り殺されていた。

人を殺すキラは悪かもしれない。だけど、僕にとってはキラは正義だ。
月がいなければ、僕はいない。僕は僕になれなかった。毎日必死に祈っても何の救いもくれない神などより、僕に人生をくれた月が僕にとっての神だ』

何度も「ありがとう」と繰り返すハリーに、幼い頃の別れ際を思い出す。あの時と異なっているのは、僕の胸に沸いたある種の達成感だった。

*** *** ***

今度は夫と逢いに来ると言うハリーと別れた。おそらくもう逢うことはない。隣の男がそれを許さないだろう。僕は自由に動けるとはいえ、Lの元で保護観察を受けているのだから。

「………私がLではなかったら、キラを肯定できたでしょう。世の中には確かに裁かれた方が良い人間はいます。ハリーのような人間たちも救うことができる。…だが、それでも私はLです」

ソファーに座り、立てた膝に顔を埋めるL。言葉より彼の心情が伝わる。

「分かっている。だからこそ、君はそのままでいてくれ、L」

Lに凭れて、瞳を閉じた。

END