それは小6の冬、薄暗い夜の出来事。閑静な住宅街の中を歩いていた少女は、「グール」に遭遇した。

外には少女とグールの少年以外、誰もいない。街灯の明かりの真下に立っている少年は、数メートル離れた所にいる少女をじっと見た。彼は髪も服も暗い色で、雰囲気も暗かったが、目だけは明るい赤色だった。彼の口には、赤く新鮮な血がついていた。

「グール...なの?」

少女が唯一絞り出せた言葉は、答えの分かりきった質問。ランドセルの取っ手を握った手が汗ばんできた。心臓の鼓動がどんどん速く、大きくなり、足がすくんだ。

少女は、頭の中が真っ白になった。

ーーもう、終わりだ。

少年と見つめ合いながら、少女はそう思った。

しばらくすると、少年は口についていた血を舐め、黒いマスクのような物で口を覆った。そして少女の方に向かって歩き出した。少女はぎゅっと目を瞑り、首をすくめた。少年は数歩離れたところまで来ると、足を止め、ため息をついた。

「...なんだかなぁ...」

そう呟くと、少女の横を通り過ぎ、歩いて行った。

少女は目を開けた。何が起こったのかよく理解できず、しばらくそこに立ちすくんでいた。心臓の鼓動がだんだん落ち着いていき、

「見逃して...くれるの?」

と小さな声で聞いた。しかし、返事はない。

振り返った頃には、少年の姿はもう見えなかった。