Episode 7.0 Diversion(side:Jim)
Summary : GSR. Sequel to "Another Gum Drops". /ワンショット。ブラス警部は、友人二人の訪問を受けた。/ One shot. GS & Jim friendship.
Genre : Friendship / Romance
Rating : K
Spoilers : S6#7-8(銃弾のカオス/A Bullet Runs Through It)
AN : このエピソードの後、二人がどう対応したのか気になっていたのですが、ちょっと視点を変えて書いてみました。/ Time set after S6#8(銃弾のカオス: 後編/A Bullet Runs Through It: Part 2)
「やあ、グリッソム」
ジム・ブラスは玄関のドアを開けて、皮肉気味に友人に挨拶をした。
「心配してきてくれたんだろうが、そんなに思い詰めてないから大丈夫だぞ」
そこに立っていたグリッソムの方が、よっぽど悲痛な顔をしているのを、ジムは笑い飛ばした。
「まあ、入れ」
怪訝そうにしながらジムの家に入って、リビングに足を踏み入れたとき、グリッソムは予想外の人物の顔を見て驚いた。
「サラ」
彼女はソファに座ったまま、ヒラヒラと手を振った。
「ハイ、グリス」
グリッソムはジムとサラの顔を見比べた。
「サラ、何してるんだ」
グリッソムの問いに、サラは肩をすくめた。
「あたしも、ジムの友達なのよ、知らなかった?」
そう言ってニカッと笑う。
アイスティーのグラスを持って現れたジムが、なぜか困惑しているグリッソムの腕を軽く叩いた。
「飲むか?」
振り向いたグリッソムは、グラスと、ジムの顔を何度か見比べた。
「あ、ああ。ありがとう・・・」
何となくグラスを受け取って、グリッソムはふらふらとサラの隣に座った。
それを見ていたジムは、片方の眉を小さく上げたが、二人はそれに気付かなかった。
「今日は予定があると言ってたが、ここだったのか」
アイスティーを一口飲んで、グリッソムが言う。サラは微笑みながら、頷いた。
「あたしも非番で時間を持て余してたし」
そう言ってちらりとジムに笑いかける。ジムもそれににこりと笑い返した。
「あー、それで」
グリッソムは左の眉を左手で掻いた。
「復帰は、どれくらいになりそうだ?」
「謹慎は一週間ほどで解ける」
ジムはそう言って、自分のグラスを煽った。彼のグラスには、明らかに紅茶とは異なる、深い琥珀色の液体が数センチ溜まっていた。彼はそれをちびりと舐めるように飲んだ。
「まあでも、せっかくだから、少し休むよ」
「それがいいわ」
すかさず、相づちを入れたのはサラだった。
「あー、そうか・・・」
紅茶をもう一口飲んで、ジムを窺うように上目遣いをしながら、グリッソムは切り出した。
「ベル巡査の、葬儀に行ったと聞いたが・・・」
「おいおい」
ジムはわざとらしく片腕を上げた。
「君は私の傷に塩を塗りに来たのか?」
「・・・いや」
目を丸くして、グリッソムは首を横に振った。
「まったく。サラの方がよっぽど、友達を慰める役には向いているな」
「は?」
グリッソムは、怪訝そうに、サラとジムの顔を見比べた。サラはとぼけたように、肩をすくめて見せた。
「気に掛けてくれるのは有り難いが、中年の男の同情した顔を見るより、若い娘と映画の話でもしている方が、正直、よっぽど気が休まるよ」
ジムの皮肉のこもった言葉に、グリッソムは一瞬呆気にとられたが、やがて苦笑を浮かべた。
「そうか、悪かったな」
口をすぼめて、俯いたグリッソムは、彼の膝にそっとサラの手が乗るのを見た。
「拗ねないの」
「拗ねてなどいない」
「拗ねてるくせに」
ふん、と鼻を鳴らして、グリッソムはゴクゴクとアイスティーを飲んだ。そんなグリッソムの顔を少し覗き込んで、
「ジムは、照れてるだけよ。悪ぶって皮肉を言ってるだけ。知ってるでしょ?」
サラは言った。
「おいおい、サラ」
ジムはわざとらしく声を上げた。
「本人が目の前に、いるんだが?」
サラはジムを見上げ、ニッと笑って見せた。
アイスティーを飲み干して、グリッソムはグラスをコーヒーテーブルの上に勢いよく置いた。
「もしかして、お邪魔虫かな?」
そう言いながら、グリッソムはジムとサラの間に指を交互に行き来させた。
サラは少しおかしそうに、ちらりとジムの顔を窺った。
ジムは盛大にすっとぼけた顔をした。
「ああ、お邪魔だな」
グリッソムは一瞬目を見開き、そしてやや眉をひそめて唇を尖らせた。
「そうか・・・」
「拗ねないの」
「拗ねてなどいない」
「拗ねてるじゃない」
会話がループしていることに、小さく笑ったジムは、しかしすぐに、グリッソムの膝に置かれたサラの手に気付いた。
二人に気付かれない程度に、軽く目を細め、ジムは二人の様子を観察した。
・・・最近、妙に二人の距離が近いとは思っていたが。
サラの指が、グリッソムの膝をそっと撫でるのを、ジムは見た。
・・・いやはや、まさか。
軽く舌なめずりして、それを誤魔化すかのように、グラスのアルコールを一口呷った。その間も、彼の目は二人の様子をじっと捉えていた。
・・・ふむ、まさかな?
二人が家主をそっちのけに、何かを話し込み始めるのを、ジムはさりげなく観察し続けた。
・・・これは、興味深い。
ジムは勿論、二人の友人が、彼を気遣って様子を見に来てくれたことに、最大限感謝していた。グリッソムにはああ言ったが、サラの指摘は遠からず当たっていた。つまり、彼は照れ臭かったのだ。
そして、恥ずかしかった。
銃撃戦の最中に、無意識に立ち上がってしまっていた自分の、軽率な動きが、一人の巡査の命を奪ってしまったことが。
何年も訓練と実績を積んできた自負が、崩れ去っていた。
ともすれば、その自責の念に押しつぶされそうになるのを、辛うじて支えてくれているのは、こうして気を配ってくれる友人の存在と、そして、何より、ベル夫人の温かな理解だった。
彼女が「あなたのせいじゃない」と、身重の体で彼を抱き締めてくれたとき、ジムは、ガラにもなく、涙を流した。声を上げて、泣いた。
罪の意識を、もう感じていないわけではない。だが、そこに止まっていてはダメだと、彼女が背中を押してくれていた。
だからジムは、サラが事件の話はせずに、ひたすら軽口に付き合ってくれたのが、心底有り難かった。
そして、今、彼が目の当たりにしている、実に考察しがいのありそうなシーンが、彼の関心をさらっていくことを、彼は諸手を挙げて歓迎した。
・・・しばらく、いい気晴らしが出来そうだ。
その間、余計なことを考えることもなくなるだろう。
三人はそれから数時間を一緒に過ごしたが、ほとんどは、グリッソムとサラが二人で会話をしていた。
通常なら、疎外感で、「何をしに来たんだ」とふてくされそうなものだが、ジムはその間、たっぷり二人を観察することが出来て、大いに満足していた。
・・・面白いネタを掴んだかもしれん。
そう思ってホクホクしていたジムは、「そろそろ帰ろうか」と、グリッソムがサラを促し、サラが自然に頷いて立ち上がったとき、ウイスキーを噴き出さなかった自分を褒めたかった。
End.
