ジャズ復活のシナリオ

これは、実写版映画トランスフォーマー (2007) で死んだジャズを生き返らせる様子を描いた短編です。

時間は、トランスフォーマー2リベンジ (2009) の事件が起きた半年後です。

(主なキャラクター:Ratchet, Ironhide, Optimus Prime, Jazz, Lennox, Beachbreak)

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ジャズ復活のシナリオ

(1)復活の背景

アカバ湾西岸でのディセプティコンとの大規模な戦いから半年が経った。
落ち着きを取り戻した今から考えれば、あの戦いは、人間とオートボットとのアライアンスの重要さをアピールする格好の事件だった。
もちろん、その重要性は当初から理論的には理解されてはいた。
だからこそ、ミッション・シティでの最初の戦いの後でNESTが創設され、人間とオートボットは、共にディセプティコンの脅威に立ち向かうべく準備を進めてきたのだ。
それでもあの戦いが起こるまでは、オートボットたちはディセプティコンと同郷のエイリアンとして、必ずしも各国政府から好意的には扱われてこなかった。
オートボットたちを地球から追い払うべきだという声は、時にNESTの存続を脅かすほどに大きくなることもあった。

しかし人類は、作動直前にオートボットらによって破壊された巨大なエネルギー収集装置(太陽破壊装置)を目の当たりにした。オートボットらはまさに、地球上の生物の救世主だったのだ。

この事実はまた、彼らの種族は、人類の有史以前から、恒星を破壊できるほどの技術を持ち合わせていたことを人類に見せつけた。
人類をはるかに凌ぐ破壊力と機械文明を持つ地球外生命体。その脅威から地球を守るには、それに対抗できる力を持ち合わせた者、すなわちオートボットたちに頼る他ないことは明らかだった。
このようにしてオートボットたちは、ディセプティコンの脅威から人類を守るために欠かすことのできない存在として認められるに至った。

少し前までは、偽装と隠蔽を第一とし、自由な行動もままならなかったオートボットたちであったが、遅まきながら人類の信頼を勝ち取ったことで、彼らはこれまでになく人間に対して自由に発言し行動することができるようになった。
そして人間の方も、彼らの要求をより真剣に受け止める準備が整ってきていた。とは言っても、依然として限られた範囲の話ではあったが・・・・・・。

そのような中、オプティマスが実行しようとしたのは、2年半前にミッション・シティの戦いで破壊され、ディセプティコンの残骸と共に北大西洋の海底に沈められた仲間を引き上げ、再活性化させることだった。

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あの当時は、身体を引き裂かれ、スパークに致命的な傷害を負ったジャズを蘇らせることはほぼ不可能だった。
実際、ラチェットは、一度はそれを試みたのだった。オールスパークと融合して倒れたメガトロンの胸から、オプティマスが回収した最後のかけらを使って。
しかしそれは成功しなかった。ジャズが負ったスパークの傷は、オールスパークのほんの小さなかけらでは修復できないほど深いものだった。

そして人間の側から、すべてのエイリアンの残骸を、ディセプティコンかオートボットかを問わず深海に投棄するという要請があったときに、仲間たちがみな反対する中、オプティマスはその要請を受け入れることを決めたのだった。

オプティマスは人間に借りがあると感じていた。

なにより地球が戦いの場となったのは、自分たちに原因があるか、そうでなければ運命の結びつきとも言うべきものであって、少なくとも人間たちには何の責任もなかった。
それにも関わらず、ミッション・シティで命をかけてメガトロンを倒し、彼を救ったのは人間だった。
だからオプティマスは、人間の要求に対しては、たとえそれがオートボットたちにとって突飛なものであり、ときに屈辱的でさえあったとしても、可能ならばそれを受け入れようと決めていた。
そしてジャズの身体を差し出すよう人間から要請があったときに、彼を蘇らせる手段が見当たらない以上、彼を復活させる試みを断念するよう仲間を説得したのだった。

しかしそれから2年半が経ち、すべての状況が変わっていた。
あのピラミッドでのオートボットらの献身的な戦いを経て、人間たちは彼らをより信頼するようになっていた。ジャズを海底に沈めておくべきだと主張することはもはやなかった。
そしてなにより重要なことは、オールスパークのかけらよりも、はるかに強力なエネルギーの源を手に入れたことだった。
機知に富んだ人間の青年サムの働きによりマトリックスを手に入れるに至った今なら、ジャズの復活は、現実性に富んだ計画だ。
もとより一旦は機能が停止したオプティマス自身が、このマトリックスのおかげで、ここにこうしているのだから。

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この計画をオプティマスが最初にレノックスに話したとき、レノックスは自分がその可能性にもっと早く気づき、彼らの方からオプティマスに提案できなかったことを残念がった。
彼はジャズのことはよくは知らなかったが、ミッション・シティでの戦いの際に、巨大な戦車に果敢に立ち向かう姿を見ていた。
それに────、あの巨大な敵、メガトロンが現れたときに、レノックスらの前に立ちはだかり、メガトロンの注意を人間からそらしたのが彼だった。

メガトロンが倒れた直後、レノックスは、オートボットの仲間の一人が、痛々しく破壊されたジャズの身体を抱えてくるのを見た。
手渡されたその身体を抱えながら、オートボットのリーダーは、仲間の不幸を短く嘆いた後、レノックスたちに向かって、むしろ感謝の言葉を口にしたのだった。
人間にとってオートボットたちの見た目は、まさに巨大で恐ろしい怪物かも知れない。
しかしレノックスは、彼らが人間と同じように、深い思いやりと共に、強い責任感をも持ち合わせていることを知ったのだった。

戦いが終わった後、セクター・セブンのエージェントたちは、ミッション・シティにある戦いの痕跡の一切合切を持ち去りに来た。
彼らが来る前に、オートボットたちがジャズの身体を街の外に持ち出すのに、いち早く協力したのはレノックスのチームだった。

セクター・セブンはその後解体された。しかし結局は、ジャズの身体を人間が奪い取るのをレノックスは止められなかった。
海底投棄の計画が実行に移されたとき、ディセプティコンの残骸やジャズを運ぶ船にレノックスも乗っていた。
彼は、ジャズがローレンシア海の海底に沈んでゆくのを、甲板の上で、オートボットたちとただ見守るしかなかった。

だからジャズを復活させる計画をオプティマスから聞いたとき、レノックスもまた、長い間胸につかえていたものが解消できる気がした。

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マトリックスは、オートボットたちに、既にいくつかの命をもたらしていた。
ラチェットとジョルトの驚嘆すべき修復能力もさることながら、腹部に重傷を負っていた上、スパークが引きちぎられ、一旦は部品にまで解体された老いたトランスフォーマーの復活は、マトリックスがなければ望むべくもなかった。
またマトリックスは、ザンベジ川にある巨大な滝つぼに落ちた仲間を助けもした。

そして次はジャズの番だ。

オプティマスは公正と平等を信条としている。彼にとって仲間はみな、同じようにかけがえのない存在だった。
しかし、長い間にわたってアーク号で共に旅を続けてきたジャズは、彼の短期メモリーの中でも大きな領域を占めている存在だった。
そのことはアーク号に乗っていた他の仲間にとっても同じだ。誰もがジャズの復活を望んでいた。
だからオプティマスにとって、彼を蘇らせることは、機が熟せば真っ先に実行に移すべき課題だったのだ。そのときが今、やっと訪れようとしていた───。