Episode 6 Another Gum Drops
Summary : GSR. Sequel to "Lovin' you". / 創作事件の捜査がメイン。田舎町で"一家失踪事件"を調べることになった夜番チーム。しかしその家族の歪な形が分かったとき、サラは・・・。そして彼女を見守るグリッソムは?初の長編です。(全 11 章) /
A case file. "A family" is missing and the team investigate the case. Was the family really "a family"? Can Sara confront her past? Grissom is watching over her. There will be 11 chapters.
Genre : Mystery/Romance/Humor/Angst(a lot!)
Spoilers : NONE
Rating : T (several chapters will be rated M)
AN : 本来であれば、S6#5(生きる定め/Gum Drops) で、二人の交際が発覚するはずだったそうです。GSR 界隈では有名な話ですが、グリッソム役のウィリアム・ピーターセンが親族の不幸で撮影を続行できなくなり、急遽脚本が書き換えられたそうです。だからあのエピソードにはグリッソムが登場しないんですね。そんなわけで、オリジナルはどうだったのかなあと想像してみた感じの作品です。なので無理矢理ガムが出てきます(笑) /
We all know that the original episode of S6#5(Gum Drops) was going to be revealing their relationship. This is my fantasy of "How did it go in the original scenario?". So, I borrowed some gum drops! :P
Chapter 1:First day
その日、捜査班はラスベガスの喧騒から離れた砂漠の町にいた。
初動で向かったのはグリッソム、サラ、グレッグの三人だった。
車で何時間も何時間も、倦むほど走った。
車内の会話はほとんど途絶えた。運転はずっとグリッソムがしていた。サラが時々、
「代わる?」
と申し出ていたが、
「大丈夫だ」
とグリッソムが断っていた。
代わり映えのしない砂漠の景色の中を、厭くほどに何時間も走り、ようやく、全米にその名を知られることもなさそうな小さな小さな町に着いた。
サラは車を降りてすぐに屈伸をした。
「あーもう、お尻が痛い」
「ボクも」
グレッグも賛同して自分のお尻を揉む仕草をする。
「痩せすぎなんだ、二人とも」
グリッソムが言うのを、サラはしかめっ面で聞いた。
「これでも最近太ったんだけど」
「そうなの?」
グレッグが驚いてサラのお尻をのぞき込むのを、サラは軽く小突いた。
「・・・まだ足りない」
グリッソムの言葉に、サラが眉を跳ね上げたが、何も言わなかった。
グレッグは不思議そうに二人を見た。
部下に太れと言う上司も珍しいなあ、などと思いながら。
「数時間のドライブで泣き言を言うなんて、若いのに情けないな」
グリッソムが得意げに言って、保安官らしき人物に挨拶に向かった。
「・・・自分だって降りたとき腰揉んでたくせに」
サラが呟くのを、グレッグは面白そうに見つめた。
なんか随分可愛く拗ねたなあ、と思いながら。
一年に一度、警察沙汰が起きるかどうかという長閑な町で起きたのは、一家の失踪事件だった。
家には遺体が二体あった以外にも、大量の血だまりがあったが、それ以外の遺体は見つからず誰とも連絡が取れないという状況だった。
一家は祖父母、両親、高校生と小学生の二人の娘という話だった。遺体は、祖父母のものと思われ、実際、保安官が顔を確認して彼らだと断定した。
グリッソムはすぐに、ラボに応援を送るよう連絡した。
応援要請に応えてキャサリンが送ったのはウォリックとニックだった。キャサリンはリンゼイの送迎があるとのことでベガスへ残った。
一家の家には、家中に血痕があったが、引きずった跡はなく、入り乱れた靴跡から、少なくとも事件後出入りした人間は複数いるのは明らかだった。
町の保安官は一家についてグリッソムに説明した。
祖父母は働いておらず、両親は働いていたはずだが不思議なことに誰も職場を知らなかった。
娘二人は成績は比較的よく、派手な行動もなくどちらかというと大人しいタイプで学校での評判は悪くなかった。というよりほとんど評判がなかった。
学校にはきちんと通っていたが、友達は少なく、かといって暗い雰囲気でもなく、クラスには馴染んでいたようだったという。
保安官は両親の職場探しに戻っていき、現場には鑑識チームが残された。
グリッソムが二階、サラが一階、グレッグが広大な庭を見ている間に、ウォリックとニックが合流した。
二人はまずグレッグと協力して、庭に探査機をくまなくかけて、人体やその他の「埋められた何か」の痕跡を捜した。
半日かけて見つかったのは、大型犬二体の死体だった。片方は完全に白骨化しており、明らかに埋められてから数年が経過していた。もう片方は腐敗臭がしない程度の時間が経過していた。
近所の話では、一家にはずっと大型犬が一匹いて、死ぬと新しいのを飼うようだった。つい最近犬を見たかという質問には、答えられる住人がいなかった。
そもそも一家は、先に祖父母が住んでいた。定年後に移り住んできたという。
20年ほど、近所付き合いも良く、皆が顔見知りだった。
ある時夫婦が子供連れで同居し始めた。5年ほど前だという。近所の住人達は、この夫婦を、先住の祖父母を「老夫婦」と呼ぶのと対照して「若夫婦」と呼んでいた。
若夫婦は毎朝車で別々に出掛け、夜遅く帰ってきていたようだという。というのも、ご近所たちはこの夫婦とはほとんど交流が無かったのだという。
そして、同じ頃から、老夫婦とも交流が途絶えていったという。
二人は家からほとんど出なくなった。
子供の声も聞いたことがないという。
「娘さん二人だからかしらねえ」
隣家の老婆が言った。
「子供なら、泣いたり喚いたりするものだと思うけどねえ」
ご近所さんたちには、なぜかニックが人気で、いつの間にか彼が聞き込みをやっていた。
子供たちは毎朝スクールバスで登校していたという。
学校から子供たちが登校しないが、家族とも連絡が取れないと通報があって、事件が発覚した。
つまり、近隣住民たちは何も聞いたり見たりしていなかった。
ニックの聞き込みによれば、さらに、ご近所たちは、若夫婦が、老夫婦の娘夫婦なのか、息子夫婦なのか、それすら知る者がいなかった。そもそも老夫婦に子供が何人いてどこに住んでいるかなど、知っている者が皆無だった。
血縁関係の解明は、グリッソムとサラが収集した血痕サンプルと、日用品から採取したサンプルの照合にかかっていた。
「中、手伝いましょうか?」
庭の探索から聞き込みに回ってそれも終えたニックが家の中の捜査のヘルプに来た。グリッソムは彼に、
「二階を頼む。妹の部屋が残ってる」
自分の後を頼むと、居間に入った。
そこではサラが室内の写真を撮っていた。
「どんな感じだ?」
カップボードの前で少し考え事をしているサラに声をかける。
サラはグリッソムをちらりと振り向き、写真立てを示した。
「この写真、現像したものよね」
「ああ、おそらく」
「随分前の写真に見える」
「そうだなあ。この家に越してきたときに記念に撮ったものじゃないか?」
「20年ほど前なら、フィルムカメラね」
「どこかにネガがあるかも知れないな」
グリッソムは居間を見回し、それから違和感を覚えてもう一度注意深く居間を眺めた。
「なあ、おかしいと思わないか?」
「何が?」
「他の家族の写真がない」
サラは顔を上げてグリッソムを見た。
それから全体をぐるりと見回し、
「そういえば、そうね」
そう言って一瞬、カメラに目を落とした。だが直ぐにグリッソムの違和感の説明に意識を戻した。
「若夫婦の写真もないし、女の子たちの写真もない」
「ええ」
サラは奥にあったもう一つの写真立てを指した。
「恐らく老夫婦の、若い頃の二人の写真はあるけど、彼らの子供と撮ったものもない」
「孫との写真もないな」
二人は顔を見合わせた。
「犯人が持ち去った?」
グリッソムの問いに、サラは首を振る。
「埃の跡から考えると、別の写真立てはなかった。犯人が取り去ったあとで掃除した可能性もあるけど、指紋はたくさん残ってるから、掃除したとは思えない」
そう言ってサラは少し咳払いをした。
「おかげで、指紋パウダー吸い込みすぎて喉がいがらっぽい」
苦笑するサラに、グリッソムも苦笑を返した。
「何か飲み物取りに行くか?」
「いえ、大丈夫」
グリッソムは壁にライトを当てた。
「肖像画の類はないな」
そしてもう一度棚を見回した。
「アルバムはあったか?」
「ここや書斎も見たけど、ほとんど空だった。本読まない人たちみたい」
そういう人種がいることが信じられない、とでも言いたげなサラに、グリッソムは少し微笑みかけた。
「普通、家族の写真は飾るものだ。記念日毎に撮ったものをな」
サラは無言だった。
「子供や孫がいるのに、写真が一枚もないというのはおかしいな」
サラは老夫婦の写真立てを見つめた。
「あたしは、飾らないからよく分からない」
それだけ言って、グリッソムの側を離れた。
「写真、持ってないのか?」
ライトだけ向けて問うグリッソムに、サラは視線を向けないまま答えた。
「さあ・・・うんと小さいときのを1枚、持ってるはずだけど。どこにあるのやら」
私との写真は、と聞きかけて、さすがにグリッソムは思いとどまった。
「写真を見返したりしないのか?」
しゃがんでいたサラは、そこからライトをグリッソムに向かって照射した。
「それを見て、何を思えと?」
グリッソムは思わず眉を寄せた。
サラはまた床にライトと視線を戻した。何かを見つけたようで、ピンセットでつまんで持ち上げた。
「繊維みたいだけど、床の素材とは違う」
それから床の上を舐めるようにライトを照らした。
「ね、そこから何か見える?」
「なにか反射しているな」
「この辺りだけ、何か反射材を含んだ繊維か何か、落ちてるみたい」
グリッソムはフラッシュをたいて何枚か写真を撮った。
撮り終わったのを確認して、サラが粘着テープでその微細物を採取する。
「スパンコールか?キャサリンならすぐに分かりそうだが」
「もっと小さい。ネイルのラメか、それとも、砂?」
「繊維に絡んでるように見えるが」
「ラメ入りの、衣装?」
「分からん。ホッジス行きだな」
証拠袋に収め、立ち上がったとき、玄関から人影が入ってきた。
「外はもう真っ暗でダメです。犬以外、収穫無し」
グレッグがお手上げというように手を肩付近に上げた。
「今夜、宿はどうなさるんで?」
訊いたのは後に続いてきた保安官だった。
「夫婦の職場は分かりましたか?」
「いや、まだです」
グリッソムは溜め息をついた。若夫婦(と呼ばれてはいたが実際には中年の)両親はまったく得体が知れない状況だった。
「指紋やDNA鑑定で何か分かることを祈りましょう」
最後に入ってきたウォリックが溜め息交じりに言った。
「それには証拠をいったんラボに持ち帰らないと」
サラがグリッソムに言うと、
「今夜誰かベガスに帰します?」
グレッグがなぜか嬉しそうに聞いた。自分が帰れると思ったのだろうか。
「今夜はもう遅いでしょう」
保安官が心配そうに言った。
「俺はこれから長時間運転はやだなあ。疲れたし」
階段を下りてきたニックが疲れた表情で言う。
「超過勤務になるから、全員で泊まる」
そう言って、グリッソムは保安官を向いた。
「宿の手配を願えますか?」
「1km程向こうに、モーテルがありますよ。何部屋空いてるか、確認します」
保安官が手配してくれたモーテルには、3部屋しか空き部屋がなかった。
こんな小さな町なのに、週末と言うこともあってキャンプの客がいるようだった。
「ニックとウォリックが302号室、グレッグ、君は208、私と相部屋だ」
「はい」
グレッグは肩をすくめる。上司と一緒じゃ、寝た気がしないだろうな、と考えながら。
「サラは209に一人だ」
「悪いわね」
鍵を受け取りながら、にやりと口角を上げて、サラは笑った。女性が一人なら、そうならざるを得まい。
「サラとボクが相部屋じゃダメですか?」
グレッグの言葉に、全員が口をぽかんと開けた。
「・・・おまえなあ」
ウォリックが呆れて言ったきり、誰も言葉が続かない。
「いや、だって、主任は一人の方が、いいんじゃないかなって」
真面目に力説するグレッグに、サラは肩を落とした。
「あー、グレッグ」
グリッソムが困ったように、そしてどういうわけか少し苛立ったように言葉を詰まらせた。サラはちらりとそれを上目遣いで見た。
「本気で言ってるのか?」
「はい」
あっけらかんと答えるグレッグに、グリッソムは顎を落とした。
ついにニックが笑い出した。
「おまえなあ、サラをベッドに誘うならもうちょっと他の方法を考えないと」
「は?」
サラがこめかみを指で押さえる。
グレッグはやっとはっとして目を見開いた。
「や、やだなあ、そういう意味じゃないですよ」
「じゃどういう意味よ」
ニヤニヤしながらニックが言う。
「だって、サラとそんなことになるわけないじゃないですか」
「男女が同じ部屋で寝てたら何が起こっても不思議はないだろう」
ウォリックまで茶化しに入る。もうやめて、とサラは、頬をピクピクさせているグリッソムを見ないようにしながら思った。
「単に、主任とじゃくつろげないなって・・・あっ」
慌てて口を押さえたが、もう遅かった。
「寛ぐために泊まるんじゃない。仕事だぞ」
「は・・・はい・・・」
「どうしても私と一緒が嫌なら、車で寝るんだな」
グリッソムはぷりぷり怒って言い放ち、一人さっさと部屋に入っていった。
「あーあ、ご機嫌損ねちゃった」
「まーすます居心地悪くなっちゃったねえ」
ウォリックとニックがグレッグの肩をポンポンと叩きながら、それでも笑って、そして隣の棟へ向かっていった。
彼が怒ったのは、多分、グレッグが「くつろげない」と言ったからではないことに気づいているのは、おそらく一人だけだった。
その「一人」であるサラは、溜め息をついて、首を小さく振りながら、部屋の扉を開けた。
「あ、サラ」
グレッグが慌てて呼び止める。
「なに」
「ホントに、そういう意味じゃないから。気を悪くしたなら、ごめん」
「別に」
「彼氏いるの知ってるのに、そんな気、全然ないから」
「分かってる」
「彼氏に言わないよね?」
サラはグレッグを見つめ、何か言いかけて、やめた。
眉をわざとらしく上げて、何も言わず、部屋に入った。
・・・もう遅いから。扉を閉めてから、そう、呟いた。
TBC.
