~恋の病~(短編)
銀魂二次小説-沖田xオリキャラ


~上~『恋の病』


不覚にも重傷を負い、病院へ運ばれてしまった新撰組の一番隊隊長、沖田総悟。

・・・そして不覚にも一人の看護婦に惚れてしまった俺がいた!(怒)

なんでこうなるかねィ。
俺には人を好きになる心すらねぇと思っていやしたのに。
まさかこんな事になるとは・・・

だけど自分がこの女に惚れてしまった事については以外にも早く認めたわけでして・・・(心の中だけではでいっ!万が一にもそんな事実を自分の口から滑らしたら即切腹すらァ!(怒))

そして気付いた事も分かったもんも沢山あった。
「恋」というものは考えるもんじゃねぇ。
論理も道徳も関係ねぇ。
心臓が勝手に暴れまくりやがって、体が勝手に動きやがるって事でい!
どこまで恐ろしい「病」なんだろうか。

そして直りが早ぇ俺は、全治一ヶ月のはずの足で松葉杖をついて、また自分の個室から抜け出した。
足が勝手に向かう先は、パタパタしてるあいつの姿が一番見えるレセプションの前に並んでいたソファー。

はぁぁ、と自分に対してため息をつき、ソファーに腰を下ろした。
すると廊下の方から自分の名前が呼ばれるのが聞こえた。

「あーーーーー!沖田君!また出歩いて!安静にしてなきゃダメってなんども言ってるじゃないですか!」

プンプン怒りながらこっちへズカズカ向かってくるのは、俺の心拍数を上げてしまう看護婦・・・ほんっとこいつは看護婦失格だねィ。


「寿さん!沖田さんです!」

「・・・す、すみません」
慌てて謝るものの、元といえば沖田k―・・・さんがそういう呼び方をするなと言ったわけで・・・

「ねィ、看護婦さん。ちょっと頭がくらくらしてきやしたんで、部屋まで付き添ってくれやせんかィ?」

ソファーから見上げる沖田く、さんの顔はほんの少しニヤけていた。

「ここまで歩けたなら戻れるはずです!自分で歩いて下さい!」

「寿さん!手術から一週間しか経っていない患者様に対してなんという態度を取っているのですか!ちゃんとお部屋まで送って差し上げなさい!」

沖田さんに発言した直後に婦長さんに叱られてしまった。

必死に謝り、承知の言葉を繰り返してから、この叱られた原因の元に向かって怒った顔をするとそのにくったらしい顔が更にニヤける。

「患者様に睨んだりして良いんですかねィ?また婦長さんに叱られますよ、看護婦さん。」

絶対にからかわれている。遊ばれている。

―年下の癖に!

だけどやっぱり許してしまう自分がいた。
こんなイタズラ好きな沖田君がかわいく思えた・・・

小さくため息を吐くと、沖田君を立ち上がらせ、腰あたりを支え、寄り添って沖田君の個室まで歩いた。

重い筈の沖田君の体が軽々と支えられた。
沖田君は気を付けて重心をなるべく私の方へ移さないようにしている。
本来なら私なんかが沖田君なんかを支えることなどできるはずがない!

なら何故こんなことをやらされているかと言うと…間違いなく私への嫌がらせ!

・・・とは文句を言いながらも、実は凄く嬉しかったりもする。
こんなに沖田君に触れられることに嬉しくて、その感情をちゃんと隠し通せているかすごく心配だった。

「なァ」

「はい?」

沖田君がベッドに横になると私は沖田君に布団を被せ、そんな時にまた話しかけられた。

「名前、なに?」

―また嫌がらせ?

「ここに書いてあるじゃないですか。こ・と・ぶ・き、と読みます。」
とんとん、と名札に指をさしながら私は言った。

それに対し、バカにされる沖田君はちょっとムスっとした顔をした。
それがまた不覚にもかわいいと思ってしまう・・・

―この弟オーラ、絶対沖田君、おねえさんがいる!
何か思い当たるとすぐ実行する私。

「あのー、沖田君ってもしかしておねえさんとかいたりしますか?」

「ん?あぁ・・・いやしたけど?」

一瞬キョトンとしてから答える沖田君の答え方に何か引っかかる。

―・・・過去形?

「去年・・・亡くなりやした。」

心を読まれたかのように聞いていない質問の答えが返ってくる。
ちょっと悲しそうな笑みを浮かべながら言う沖田君を見て、おねえさんがすごく好きだったのだと気付く。

「あ、ごめんなさい・・・」

胸が苦しくなる。

「別に。それより、名前。」

「え?あの・・・寿です・・・」

「名前」

「だから寿―」

「名前」

「こと―」

「名前」

沖田君の嫌がらせにうんざりしそうになったけど、文句を言おうと沖田君の眼をまっすぐみたら、その紅い瞳はまっすぐ真剣に見詰め返されていて、嫌がらせなんかじゃないことに気付いた。

―としたら・・・

「・・・栗茄、です」

と、下の名前を名乗ってみた。
そしたらやっぱり弟オーラの真ん丸くした眼で驚いていた。

「へぇ、随分と可愛い名前だねィ。」

すぐにニヤけ顔に戻った沖田君はまたかっこよくセリフを決める。

―や~め~て~!!顔赤くなるじゃない!

「そ、そうでしょうか・・・普通だと思いますけど」

顔が真っ赤なんだろうね。沖田君が私の顔をみてプッと笑った。

「り・つ・な。じゃあ、「りっちゃん」って事だねィ」

急にあだ名を付けられて驚く私に、また沖田君は笑ってみせる。

この調子でいつもこの人に流されている・・・
まだ出会って一週間しか経っていないと言うのに・・・

はぁ~。


初めて沖田君が病院に運ばれて来た時、彼は意識を失っていた。
仲間を庇って爆弾に巻き込まれ、吹っ飛ばされて近くにあった建物と衝突して足を折り、内臓に圧迫があり、数箇所の打撲等々。

―たったの十九歳の子がこんな…

頭からじゃなくて足から建物に衝突して本当に良かった・・・
彼の情報を聞いてそう思い、ホッとため息をした時、彼の口から苦しそうな声が漏れ、意識が戻ってきた事に気付いた。

「沖田さん。分かりますか?ここ、病院ですよ。」

眼が歪み、そして薄っすらと瞳を見せる。
とてもきれいな紅い眼でこちらを見詰めてきて、一瞬ドキッとする。

「沖田さん?分かりますか?ここ、びょ―」

「うるせぇ、一回言えば分かる。」

「・・・」

あまりの衝撃に口篭ってしまった。
―なんという口の利き方・・・

そして彼は何故か凄く腹を立てていた。
そのあとは腕で自分の顔を隠し、ずっと無言だった。

手術が終わり、一晩休んで、その次の日に様子を見に行った時、相変わらず不機嫌な顔をしていて、ちょっと近付くのに躊躇った。

でも看護師としての仕事はちゃんと勤める!
そういう心意気を持ち直した。

「お体の調子はいかがでしょうか?」

思い切って話しかけ、彼の点滴のチェックなどに取り掛かかった。
けど返事がなく、目を患者の方に移した。

「お体の調子はいかかでしょうか?」

聞き直しても返事が来ない。
こっちに見向きもせずにただ窓の外を睨む様子を見てため息が吐きそうになる。

―まぁ、こういう患者さんもたまにいる・・・

諦めて次の患者の方へとチェックをしに行こうと思ったその時、紅い瞳が一瞬こちらの方へ向いた気がした。

―えっ?

目を凝らして見詰めてもなんら換わらない顔をして窓の方を見続ける彼を見て気のせいかと思うけど、気のせいじゃないということを彼が証明してくれる。

「・・・昨日の看護婦さん?」

「え?あ、はい・・・」

そう答えると、彼はスーっと、ゆっくりこちらの方に顔を向けた。
そしていつのまにかあの怖い表情は消えていた。

「・・・悪かった。」

たったその一言だけ言うとまた目を逸らされた。
だけどそのたった一言が心に暖かく、鈴の音のように響いた。

それから彼は少しづつ私に話しかけてくれるようになった。
だけどほかの看護師たちによると、人見知りなのか、ほかの看護師には口を利かないらしい。
けど私も'さん'付けをしたら無視される・・・
彼が言うには、年下なのにおかしい・・・と。

私だけに情が沸いて、私は彼にとって特別だそうだ。
どう特別かというと、それは恐らくイジメがいがあると思われているからだ。

―何故なら最初に喋りかけた時からハメられているからだ!

「・・・看護婦さん、この味噌汁ちょっと俺には刺激的でさァ…」

「え?なんででしょう・・・おかしいですね、そんなはずは―」

「ちょっと飲んでみて下せー。」

反抗できる前にお椀を口元につけられ、仕方なく一口飲んでみる。

「~~~~!」

声にならない声を出し、目から涙が出た。
なんと・・・

・・・辛い!

確かに刺激的だった。これは・・・マスタードの味。

―しかも大量!

絶対に入っているはずの無いもの。
誰がそんなものを入れたのかは考えるまでもない。
横でケラケラ笑っていたのは悪戯思考に満ちた紅いの瞳の本人だった。


そんなこんなで、いつも沖田君には何かを仕掛けられてきた。
さすが新撰組のドS、沖田総悟。

噂によると新撰組の一番の拷問者、でもあるそうだ。
確かに最初に見たときの眼つきや、あの険しい顔は、背筋が凍るほどゾッとして、恐怖を覚えた。
綺麗な顔立ちなのに恐ろしい表情。

虎の如く。

だけどそんなのはただの強がりだと最近気付き始めた。
弱い自分を隠す建前。
悪戯を仕掛け、成功するとキバを抜かれた虎猫かのようにケラケラ笑う、悪戯っ子で可愛い彼が本当の沖田君の素の姿な気がした。

最初会った時だって、強がりだからそんな大怪我をする程のヘマをしてしまった自分に嫌気が差し、情けなさと悔しさに溺れて私に当たってしまったのだと思う。
それを自分でも理解していて、だからちゃんと謝ってくれたし。

そして知らないうちに私はただそんな彼の姿が見たくて、何か企んでいるとは知っていながらも、仕掛けにわざと飛び込むようにしてしょっちゅう様子を見に行っていた。

沖田君は・・・皆が言うほど恐れ多い人ではない。
ただちょっと友達を作るのが不器用なだけ。
ただちょっと「強がり」で鎧を塗り固め過ぎて外したい時に外せなくなってるだけ。

中身はただの優しい心を持った人だと・・・私は思う。


そして早くも二週間が経ち、沖田君は退院することになった。

「では、気をつけて下さいね。また無茶をして大怪我をしないように!ここに来るのはこれっきりにして下さいよ?」
にこやかにそう言って沖田君を外まで見送った。

「分かりやした。じゃぁ、大怪我したらまた来こにきやす。」
ニヤけて沖田君はそう言った。

「人の話ちゃんと聞いてる!?だから二度と来るなって今言ったでしょ!もうほんと、大怪我なんて負わないで下さい!」

ちゃかされてる私の目の前にはお腹を押さえ、前に屈みながら笑う沖田君がいた。

―そんなにおかしいこと!?

「ははっ、それは約束できねぇよ、りっちゃん。そういう仕事柄なんでねィ。」

冗談みたいに笑って答える沖田君。

―笑い事じゃないでしょ!

最初に会った沖田君のことをふと思い出した。

あの血まみれた傷だらけの姿・・・
あの自分の有様に自己嫌悪で溺れている表情・・・

「・・・もう、あんな悔しそうな・・・苦しそうな沖田君の顔、見たくないです。」

私とした事が・・・患者さんは必ず笑って見送らなきゃいけないのに、悲しい顔をしたんだろうね。

沖田君が少し困った顔をした。

「まァ、りっちゃんに免じてもうちょっと気を付けるとするかねィ。」

そう言ってそっと大きく、優しい彼の手が私の頭にポンと置かれた。
その撫でられた手の感触は忘れないように心に刻み、覚えた。

そして彼は振り返ることなく手を上げ、病院から去っていった。

「世話になりやした。」