Title:Dec 15

AN:2008 DN Advent calendar。2008年度 クリスマス企画よりちきーの作品です。

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街には買い物客が溢れていた。手軽なインターネットでのショッピングも増えて来たとは言え、やはり主流はリストを片手に人で溢れる店を回る事。いつも行くマーケットも赤と緑のデコレーションで華やいでいた。日本とは明らかにレベルの異なる盛り上がりを10月を過ぎてからひしひしと月は感じていた。そして、Lはどんな風にクリスマスを過ごすつもりなのか不思議に思った。

「クリスマスはどうするんだ?」

「は…?」

窓の外は灰色の雲が厚く、もう少ししたら既に真っ白の庭を更に白く覆うのだろう。暖かくした部屋に戻った月は、外がどんな季節でも変わらずロングの白シャツにジーンズ姿の男にブランデーを垂らした紅茶を手渡した。

「日本だとクリスマスはすっかり恋人たちのイベントだけど、ここは…違うだろう?」

「まぁ、そうですね。ですが、私にとって25日は24日と26日を繋ぐ、ただの24時間でした」

「え…。だって、ハウスは?ワイミーズハウスで何もやらなかったのか?」

「やりましたよ。クリスマス当日はささやかですがクリスマスディナーも振る舞われましたし、ハウスの子供たちにもワタリや慈善団体からプレゼントが贈られました」

「…ごめん」

月は手にしたままのナプキンを弄んだ。全く意識していなかったから理解が遅れたが、孤児であった過去を言わせてしまったと月は後悔したのだ。だが、孤児なのは自分だけでなくメロやマット、ニアたちもそうだ。Lが育った場所では特に珍しい事ではなかった。

「気にしないで下さい。ファザー・クリスマスが私のところに来るはずがない。私は良い子ではありませんでしたから」

「L…」

Lは幼いときから嘘が得意だったし、それが孤児だった自分を助けた。そして、探偵の仕事を手がける様になってからは、嘘だけでなく犯罪すれすれの策略を張り巡らせる事は息をするよりも容易かった。月と出会う前のLの生活がどんなものなのか察していた月が顔を曇らせる。平和な日本で両親に慈しまれて普通の子供時代を過ごしたから、クリスマスを楽しむ子供の特権を与えられなかったLが悲しかった。

Lは月の頬を両手で包み、こつりと額が合わさるまで引き寄せた。ついばむキスを繰り返し、そして感情を乗せたキスに深める。

キスではれた唇を楽しげに触れたLから逃れて、月はLの肩に顔を埋める。笑う雰囲気が伝わり、ウエストに手が回った。そして、首に触れた満足の溜息が月は嬉しかった。

「今は月くんがいますから」

愛しい者の香りに包まれて満たされる。何度でも彼と恋に落ちる。月を捕らえた事が自分の探偵のキャリアの中で一番の手柄だった。

「はい、これ」

買い物に出かけていた月がLに赤い包みを差し出した。端末の前にいつもの推理スタイルで座っていたLは、噛んでいた指を外してそれを受け取った。本よりも2回りは大きいが、サイズの割に大して重くない。

「なんですか?」

「開けてみて」

Lの反応を期待して、月の琥珀色の瞳は輝いていた。小さく肩をすくめて、Lはびりびりと包装紙を破いた。中から出て来たのは、一面に描かれたクリスマスツリー。そして、数字の書かれたクリスマス・オーナメントがツリーを飾っていた。

「これは…アドベント・カレンダー、ですか」

「そう。クリスマスまで毎日一つずつ開けていくアドベント・カレンダー。実物を見たのは初めてだよ。日本じゃあんまり見かけないけど、こっちはやっぱりメジャーなんだな。選ぶのが大変なくらいたくさんあったよ」

「私に…?」

「うん、Lに買って来た。楽しいだろう?」

「はぁ」

「なんだよ、気のない返事だな」

クリスマスがなかったLのために買って来たと分かっているが、月にどう反応したらいいのかLは分からなかった。とりあえず礼を言っておく。

「ありがとうございます」

「今日は15日だから、15日までの分開けていいよ」

1と書かれた部分を押し開く。紙が破れて中から丸いチョコレートが出て来た。

「チョコレートが入ってました…」

「良かったな」

甘いですとチョコレートを口に放り込んだLに、目を細めて月が笑った。続きを急かされて、パリパリと15日分までカレンダーを開けていく。中からはチョコレートの他にキャンディやツリーを象ったグミなどお菓子の他に、小さなブリキのおもちゃ、ツリーに飾るオーナメントも入っていた。

おもちゃは後でニアに渡すとして、Lは次々にお菓子を口に放り込んだ。いつもなら食べ過ぎだと怒る月も笑って見ていた。

「月くん」

「ん?」

顎を掴んで唇を合わせる。歯列を撫でたLの舌に月は口を開いて彼を迎え入れた。絡まるLの舌は甘かった。

「っ…ん…」

するりと舌の上にLが食べていたキャンディが乗せられた。独特の香りが鼻を抜けた。

「お前…」

「薄荷は嫌いです」

「だからって!普通に渡せば良いだろう?」

二人の舌の熱で暖かくなったキャンディを月は噛んで砕いた。ようやくキスする事には慣れたけど、こんな親密な仕草をいきなりされると気恥ずかしい。頬に熱が溜まるのが分かった。

「それでは恋人の楽しみはどこにあるんです?」

グリーンのグミを口に放り込んで、Lは肩をすくめた。