チョコドーナツ

あらすじ: 彼は何故チョコドーナツが好きなのか。

ジャンル: コメディ、一般

主要キャラクター: 海馬、モクバ

作者註: この話は、元々「パンダドーナツ」の一部として書いたのですが、どうしても話の流れの中にうまく組み込めず、独立した短編になりました。英語版も"Chocolate Donuts"と言うタイトルで投稿しています。


父様と一緒に公園から帰ってくると、台所から甘くていい匂いが漂ってきた。

「母様、ただいま! 今日のおやつ何?」

瀬人は期待を込めて尋ねる。

「お帰りなさい、瀬人ちゃん。今日のおやつはドーナツよ。おてて洗っていらっしゃい」

ドーナツ! 瀬人は待ち切れなくなって、急いで洗面所に走った。瀬人はドーナツが大好きだ。中でも、母様の作るチョコドーナツは最高だ。

でも…。

「母様、チョコドーナツもっとちょうだい」

「だーめ。チョコレートは大人の味なの。子供は一人1個よ」

ずるい! きっと、僕に隠れて、父様と母様だけでこっそりチョコドーナツを沢山食べているんだ。瀬人は不満だったけれど、大好きな母様に口答えをしたくなかったので、代わりにこう尋ねた。

「じゃあ、大人になったら沢山食べられるの?」

「そうよ。瀬人ちゃんがもっと大きくなったらね」

母様はそう言って、瀬人の口元に付いていたドーナツのかけらを指でつまんで取った。瀬人は、早く大人になって、チョコドーナツを沢山食べてみたくて堪らなくなった。


貰ったおやつのチョコドーナツは小さくて、甘いものが大好きなモクバはすぐに食べてしまった。

「兄サマ、ドーナツもっと食べたいよー」

「だめだ。チョコレートは大人の味だからな。子供は一人1個だ」

モクバは悲しそうな顔をしたけれど、何も言わなかった。代わりに、瀬人を見上げてこう尋ねた。

「じゃあ、大人になったら沢山食べられるの?」

「ああ。オレは大人になったら、大金持ちになって、食べきれないほどチョコドーナツを買ってやる! それだけじゃない、モクバが好きなものは何でも買ってやる!」

「兄サマすっげー!」


「あ~! 兄サマ! まーた買い食いなんかして!」

ぎくうっ! な、何故ばれた? オレはいつもと変わりなくデスクに向かった筈だ! オレはきまりが悪かった。モクバには、学校帰りに買い食いをしてはいけないと言い聞かせているからだ。

「な、何のことだ(汗汗)」

「とぼけたって、ムダだぜぃ! あーあ、制服にドーナツの粉がいっぱい付いちゃってるじゃん。しっかりしてよね、もう子供じゃないんだから、だぜ!」

モクバは片手を腰に当てて説教して見せた。むむう。かっこ悪いぞ、オレ様としたことが。

「パンダドーナツの日本一号店だろ。兄サマ、自分だけ買い食いなんて、ずるい!」

オレは、小さい頃に、モクバにチョコドーナツを沢山買ってやると約束したことを思い出した。

「すまなかった、今度の休みに一緒に買いに行こう、モクバ」

「本当!?」

「ああ、約束だ。お前が好きな味を、いくらでも買ってやる」

「じゃあオレ、チョコドーナツ! あとはね…」

オレ達はああでもないこうでもないと、次の休みの計画を立て始めた。

-おわり-