Title :紡がれるもの
Author:ちきー
DATE:2007/03/04
Series:Death Note
Rating:PG-13
Category:Romance,Drama,AU
Paring:L/Light
Warning:slash,MPreg
Archive:Yes
Sequel:紡ぐもの
Disclaimer:
 ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。作者は溢れる月とLへの愛情から、彼らにいろんなことをして、させて、喜んでいるだけです。ただし、本作品に関しては、私が著作権を保有します。
Note:
「紡ぐもの」の続きではありますが、時間軸的には幕間の出来事になります。
Summary:
 月の誕生日に二人の息子・キラが望んだ事によって、Lの恐れていることが発覚する。そして、Lの月へのプレゼントとは・・・。

「L、少々よろしいですか?」

端末の前から立ち上がり、月と息子の元に向かう途中だった私は、ワタリのその言葉に足を止めた。そして、ワタリの手にしたものを見せられた。

それは、数少ないワタリの私物だった。

「今日はパパは入っちゃダメだからね」

「分かったよ、キラ」

絶対だからね!と、キッチンに消えていく息子を見送った。僕とLの子供。男でありながら、僕が生んだ愛しい子供だった。

今日は僕の誕生日だから、ワタリさんに手伝って貰って、ケーキを焼いてくれるらしい。様々な事を覚え、手が掛からなくなったのは嬉しいが、自立が始まって寂しかった。

キラが出て行ったドアから、のそりとLが入ってきた。

「賑やかですね」

「キラが僕にケーキを焼いてくれるらしいよ」

「それは凄いですね」

僕たちの子供だものと誇らしげに笑う僕の髪に手を入れ、引き寄せられてキスを交わす。

「依頼は片付いた?」

ソファーの上をずれ、彼の座る場所を空けた。

「もちろんです。貴方の誕生日に仕事を持ち込むつもりはありません。貴方のほうは?」

「昨日のうちに依頼人に報告書を送ったよ。気に入る結果ではないだろうが、納得するしかないだろうね」

せっかく場所を空けたのに、Lは僕のすぐ横に座ると、開いた膝の間に僕を抱き寄せた。顎を肩に乗せ、首筋にあたる髪がくすぐったい。

「月君…」

「駄目。夜まで待てよ」

Lの話すトーンが変わり、欲情したのが分かった。だが、キラが僕を祝ってくれるのに、行為で疲れた顔を見せたくない。

「キラならしばらくはケーキ作りに夢中です」

「駄目だって言ってる」

するりと内股を撫でる手を抓った。

「ニアから問い合わせが来ていたぞ。僕の誕生日には仕事を持ち込まないんだろう?片付けて来いよ」

恨めしそうな視線に追いかけられ、僕は部屋で本を読むことにした。

::*::::*::::*::::*::

夕食の後、キラが焼いてくれたケーキにローソクを立てた。ケーキの上には、キラの好きな苺が一面に並べてある。側面に塗られた生クリームは厚い場所があったり、生地が見えている部分もあるが、子供が初めて作ったにしては、なかなかの出来だった。

ローソクの明かりに照らされ、キラが僕の願い事を聞いてきた。

「パパ、誕生日のお願いは?」

「パパは皆が幸せで居てくれるのが、お願いだよ」

「えー、それじゃダメなの。他にはないの?何か欲しいとか」

不服そうに頬を膨らませるキラが微笑ましい。最近ありがとうと言われるのが嬉しいのか、僕やL、ワタリさんの喜びそうな事をしようとする。

「そうだな。キラだったら何が欲しい?」

ぱっとキラの顔が輝いた。

「あのね、僕ね、兄弟が欲しいの」

無邪気なキラの言葉に笑って返事をしようとした矢先、Lの厳しい声が飛んだ。

「キラ!」

滅多にLから怒られたことのないキラが、Lの怒気を孕んだ声にびくりと体を震わせた。すでに涙が盛り上がってきている。

「そんな事を望むのは許しません」

「ごめ、ごめんなさい、ダディ」

怒られた理由も分からないだろうに、ぼろぼろと泣きながら謝るキラを抱いた。

「大丈夫だよ、キラ。キラは悪いことは言ってないよ。パパはダディとお話があるから、ワタリさんとお部屋に戻っていてくれる?」

控えていてくれたワタリさんにキラを預け、部屋を出るよう促した。
だが、僕の手を握り離そうとしないキラの涙に濡れた瞼や頬にキスをし、後で部屋に行く約束をして、やっとワタリさんの手を握って部屋から出て行く。部屋から出る最後、Lを振り返り、もう一度「ごめんなさい」と言って。

ドアが閉まり、声が聞こえない程離れたのを見計らい、Lに詰め寄った。

「どう言うつもりだ!キラが兄弟を望んで何が悪い?お前がこれ以上子供が欲しくないとしても、キラにそれを押し付けるな」

「子供が欲しくないなど言っていません」

「なら、どうして!」

「月君は!月君は忘れたのですか?キラを孕んでいた時、どんなに貴方が苦しんだか。命さえ危なかった時もあったのですよ?朝も夜もなく吐いて、食事が取れずに点滴をして、ベッドで休む貴方がやつれていくのを見るのが怖かった。貴方を失う危険があるなら、子供など望むのではなかったと後悔しました」

「でも、無事にキラが生まれてきてくれた」

「えぇ、キラは私たちにとって奇跡です。とても貴重な息子です。月君の次に愛しています。でも、月君を失うような事を望むのは許せません」

Lの恐れが分かり、椅子に座ったままの彼を抱きしめた。

「僕は生みたい。キラとお前に子供を与えたい」

「嫌です。月君が苦しむのを見たくない」

「二度目は初産より軽いと言うよ」

「それは女性の場合です」

「L、二人目は欲しくない?」

「…欲しい、です。でも、」

その先はキスで封じた。

「僕は粧裕がいたから、色々成長できた。独りだったら、とても退屈だったと思う。キラは良いお兄ちゃんになると思わないか?」

「思います」

Lは椅子の上に立てていた膝を下ろし、僕の腰を抱いて、その上に座らせた。見下ろした先にある四方に跳ねるLの髪を撫でた。

「キラの時、悪阻は3ヶ月くらいで終わった。だから、3ヶ月の辛抱だ」

「3ヶ月も、です」

腰を掻き抱き、僕の胸に懐いて来るLはまるで子供のようだった。泣いてしまった、もう一人の子供を思い出し、Lの膝から立ち上がろうと動いた。

「キラのところに行って来る」

「いえ、私に行かせて下さい。ですが、その前に…。夜に渡そうと思ったのですが、今の方が良さそうです」

ごそりとジーンズのポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。年を経た小さな箱。手を取られ、開かされた掌の上に置かれた。

「これ…」

「キラも授かりましたし、二人目の話をしているのに、順番が逆だと言うのは分かっています。私は今まで家族と言うものを味わってきませんでした。だから、愛と言う物を知らなかった。私が唯一知っていた愛は、手がけてきた依頼の中で、諍いを起こす原因の一つでしかなかった。その私が貴方を愛し、貴方も愛し返してくれた。私に愛すると言うことを教え、家族をも与えてくれた貴方に縛られたい。…結婚して頂けませんか?」

いきなりの展開に驚いた。彼がこう言った関係を欲しがると思わなかったから。箱を開けると、箱と同じく年を経たが、それでも、なお美しいデザインの指輪。

「その指輪はワタリ、ワイミーから譲り受けたものです。ワイミーの家族に伝わるものだそうです」

「ワタリさんの?」

指輪を箱から取り出して眺めた。シンプルの中に美しさと品の良さがある。

「あの、気に入りませんか?やはり新しいものの方がいいでしょうか?明日、新しいものを取り寄せ…」

猫背の背を更に丸めて、指輪を眺めて何も言わない僕を見上げるL。口調は変わらないがそれでも慌てたように言葉を並べ始めた彼の手を取り指輪を置いた。

「嵌めて」

指輪と僕を眺め、差し出した僕の手を取った。Lは僕の指先にキスをし、摘むように指輪を持って僕の薬指に嵌めた。

「愛しています、月君」

「僕も愛してる、L」

指輪を嵌めた指に再びキスをし、下から掬い上げるように唇にもキスされた。体液を交し合うような情熱的なそれに、身体の熱が一気に高まった。

「貴方をこのまま頂きたいのですが、」

僕の濡れた唇を名残惜しそうに舐め、身を離したLの肩に手を置き立ち上がった。

「うん、キラを僕達の部屋に連れてきて。祝うのは明日にしよう」

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受け取ってくれた。彼が私を愛しているのは間違いないし、彼もそう言ってくれるので、承諾してくれると思っていたが、指輪を嵌めた彼を見た時、自分が予測していた以上に喜びを感じていた。まるで、舞い上がっているかの様だった。

彼が嵌めてくれた指輪は、半年程前、ワタリから譲り受けたものだった。依頼を終え家族の元に向かおうとした所を呼び止められた。

「こちらを受け取って頂けないでしょうか?」

「なんだ?」

差し出したされた箱には、ワイミーの家族の紋様があった。

「私が母から譲り受けたものです。私の家族に伝わるものだとか。あいにくと私には渡す相手がございませんでした」

箱を開けると綺麗に磨かれた指輪があった。

「ワタリは貴方様と幼い時に出逢い、恐れ多くも私が決して持ち得なかった息子か孫のように心の中で思い、お育てして参りました。これは使用人としての域を超えるものだと分かっておりますが、貴方様にお渡ししたかった」

月と出逢った事で私は変わったが、ワタリもまた変わった。片腕として、その信頼が揺らいだことはないが、以前の私たちの関係ならワタリはこの様な事を言い出しはしなかっただろう。私たちが彼を家族と思ってくれる様に、ワタリもまた私たちを家族と思ってくれているのだろうか。

「月君は受け取ってくれるでしょうか?」

「お子まで設けられたのに、何をおっしゃいますか」

ほっほっと笑うワタリに礼を言い、彼の誕生日まで見つからないように隠しておいた。その指輪は、今、彼の指を美しく飾る。私たちの関係を示す証。

そして、もう一つの私たちの関係の証である、キラ。何も分からないまま私に怒鳴られ、小さな頬を涙で濡らさせてしまった。

キラの部屋のドアをノックをした。

「はい」

ワタリの声が聞こえ、ドアを開けてくれた。

「私は、これで」

私が来た理由を察してくれたワタリが、入れ替わりに部屋から出て行こうとする。

「ありがとう、ワタリ。あぁ、そうだ。月君は受け取ってくれた」

にこりと私に笑いかけ、ワタリは一礼をしてドアをくぐった。

ベッドに入り、ぐすぐすとまだ涙を零すキラの横に座った。私を見上げ、再び怒られるかと思ったのか、膝を抱えた身体を更に小さくしようとする。

「ダディ、ごめんなさい」

「キラは悪くありません。謝らなくてはならないのは私の方です。すみませんでした。泣かせるつもりはなかったのですよ」

「もう怒ってないの?」

「元より怒ってはいませんよ。キラは私が怖いと思っているものが、何か分かりますか?」

「パパ」

「まぁ、間違っていませんが…。私が怖いのは、月君とキラが私の元からいなくなってしまうことです。月君が貴方を生んだとき、命の危険があったのですよ」

「パパは死んじゃいそうだったの?だから、ダディは僕が兄弟が欲しいって言ったから怒ったの?」

幼子にしては理解が速いのは、さすが私たちの子供ですね。

「えぇ、そうです」

「ごめんなさい、ダディ」

「謝る必要はありませんよ。さて、行きましょうか。パパが待っています」

「でも、今日はダディがパパにスペシャルなプレゼントをするんでしょ。僕、邪魔しないよ?」

「…それ、誰が言いました?」

「ニアちゃん。パパの誕生日の夜はダディがパパにスペシャルなプレゼントをするから、僕は邪魔しちゃ駄目だって」

「…ニアと話をしなければいけませんね。それより、子供が遠慮するものじゃありませんよ」

「いいの?」

「もちろん」

キラを掴み肩に放ると、キラが声を上げて喜んだ。そして、キラは私の首に腕を回すと、頬にキスをした。

「ダディ、大好き!」

「私もですよ、キラ」

「あとね~、パパも大好きだし、ワタリお爺ちゃんもでしょ。それから、メロちゃんとニアちゃんに…」

様々なキラの好きな人や物を聞きながら、私と月の寝室に向かった。

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廊下からキラの笑いが混ざった声が聞こえる。
無事仲直りが出来たようだ。ドアが開いて、猫背に捕まったキラと、キラをしがみ付かせたままポケットに手を入れて歩くLが入ってきた。近寄ってきたLから背中のキラを貰い、ベッドに座らせた。キラを挟んで反対側にLが座る。同じ座り方をする二人に溜息をつきたくなる。この座り方は遺伝なのだろうか…。

「今日だけだからね」

気を取り直して、ベッドサイドに用意した切り分けたケーキを乗せた皿をキラに渡した。途端に笑みを浮かべるキラに僕も笑みが零れた。

「僕のケーキ!」

「ベッドに零さない様に気をつけて食べるんだよ、キラ。…と、Lも」

じとりと見るLにもケーキを渡してやった。

「子供と一緒ですか、私」

Lの拗ねた言葉を無視して、ケーキにフォークを入れた。

「パパ、美味しい?」

「美味しいよ。上手に出来たね、キラ」

「ダディも美味しい?」

「えぇ、とても。料理の腕はパパに似ましたね」

「ダディの時も作ってあげるからね。苺がた~くさん乗ったの」

「楽しみにしてます」

口の端にクリームをつけた二人を拭ってやり、歯磨きに行かせた。Lではキラの歯磨きを上手に出来ないが、それでも親子のコミュニケーションだ。一日くらいは大丈夫だろう。

皿を片付け、二人が待つベッドに入った。

「おやすみ、キラ」

首元までシーツをかけてやり、キラの頬にキスをする。

「おやすみなさい、パパ。おやすみなさい、ダディ」

くるりと反対を向いて、キラがLの頬にもキスをした。

「おやすみなさい、キラ」

明かりを消した部屋に寝息が聞こえるのはもうすぐだろう。

「…月君、明日スペシャルなプレゼントを楽しみにしていて下さいね」

「スペシャルなプレゼントって?」

ふふふと笑うキラとLを訝しんだが、親子の仲がいい事だし良しとしよう。

END