こちらが英語版のオリジナルとなる日本語版です。Hope you enjoy!
I see the moon, the moon sees me.
もうすぐ明日に時計の針が進もうとしていた。
インテグラはすでに執務室のある公的エリアを離れ、
私的エリアにある自室に戻ってきていた。
翌日に時計の針が進んでから自室に戻る事が多いので、
今日のペースは上々だ。
今日の仕事は終わった。
バスに入って、ダマスクローズのソープで体も清めた。
メイドが用意してくれたサテンのナイトドレスを羽織り、
ローズウォーターを肌にパシャパシャと付け、乾いた髪もとかした。
伸びかけていた爪をヤスリで整え、オイルを塗りこむ。
あとは寝るだけ。
でもそのままベッドには入らず、
シルクの布ずれの音を静かに響かせながら、
窓辺から差し込む月明かりをたどって夜空を見上げる。
夜空には夜族達が心惹かれてならない満月が朧に光っていた。
いや。
片目に慣れていないので、月が滲んでみえるのだろう。
多分自分にそう見えるだけ。
きっと本当はもっと鮮明に、美しく光り輝いているだろうに。
あるはずのものが無くなった痛みと、
今まであったものが無くなった痛みに、
心が月に惹かれるのです。
そして、残った片目から涙があふれて滲むのです。
月の光が滲むのです。
あの子は「きっと戻ってきます」というのだけれど、
あまりの多忙さに己の思考が停止するような日々を過ごす中、
たまに、本当にたまに、それが信じられなくなってしまう時があって、
月明かりに映る自分の影を振り返り、どうしようもない喪失感を味わうのです。
その喪失感を消し去る為に、彼が好きだった花の香りで
気を紛らわすのです。
自分の手を優しく取り、恭しく口づけされた事を思い出し、
爪を整え、指先を手入れするのです。
自分の頬を優しく撫でながら、肌を誉めてくれた時を思いだし、
肌をいたわるのです。
自分の髪を一房掴んで指先に絡めるのが好きだった事を思い出し、
髪を梳かすのです。
当時の記憶は少しずつ鮮明さを失い、
忘却の彼方に葬られた記憶が徐々に増えていく中、
しかし、絶対に忘れる事の出来ない記憶の中に必ず彼がいるのです。
彼が心惹かれて止まなかった満月の夜になると、
私は夜空に浮かぶその美しい月を仰ぎ見ます。
そして月が私を見ます。
朧に見えてしまうのが申し訳なくなるくらい、
その月は美しく、神々しい光を放っています。
彼が私を包み込んでくれたように、
その月明かりは私を照らします。
そして、小さく、小さく、
残された片目で泣くのです。
「・・・お前だけだからな」
こんな涙を流すのは。
fin
Solid & etcのとしみち様の作品に感化され書いたものです。
