Title:DW
Author:ちきー
Series:Death Note
Rating:PG-13
Category:Angst、Drama、AU
Paring:L/月 mention アイバー/月 OMC/月
Warning:slash,Sexual Situations,OOC-ness
Challenge:お題「L月団地妻」より
Disclaimer:
ここに登場しているキャラクターの著作権はすべて集英社及び、小畑、大場両先生にあります。作者は楽しみたいだけであり、著作権を侵害するものではありません。また、この作品で利益を得るものでもありません。私が著作権をもっているなら第三部でハッピーエンドで暮らしている二人を書いているところです。
Summary:
L月団地妻のお題1「いってらっしゃい」です。二人が暮らし始めるまでとなります。
AN:
ホームページで掲載していた「L月団地妻」です。タイトルがちょっと恥ずかしかったものでDWと誤魔化しました。お題の10のタイトルはそのままです。

part 1 いってらっしゃい

ファンの音が微かに部屋に響いている。

あぁ、まただ。またこの夢を見ている。夢の中の自分とは別の自分が呟いた。
以前は良く見ていたが、ここ数年は見ていなかった。それなのに、最近になって再び頻繁に見ている。
原因は、近づく帰国のせいかもしれない。僕が見ているのは、正確には夢じゃないから。以前、実際に起きた事だ。

コール音が端末から鳴り、僕は待っていた連絡が来たと思った。そして、マウスをクリック。夢を観察する自分が何度も辿った僕の行動を先じて呟いた。

クリック。

画面が切り替わり、流れ出す声。立ち尽くす自分。ゆっくりと頭が項垂れた。

*** *** *** *** ***

まだ薄暗い部屋で目を覚ました。

どうにも夢見が悪いと思ったら、隣の男が僕に腕を回していた。日本人にはない深い彫り立ち。昨夜は帰らなかったのか。見知らぬ人ではないから好きにすればいいと言ったが、恋人にするような真似は戯れが過ぎる。溜息を吐いて、自分に絡んだ腕を乱暴に解いた。

キッチンに立ち、コーヒーを落とす。フランスの朝は速い。まだ夜が明け切らない薄暗い街にも、すでに人の蠢く気配を感じた。

「・・・ライト、私にもコーヒー」

寝室からのそりと出てきてコーヒーをねだる。

「おはよう、アイバー。昨日は帰らなかったんですね」

「ライトを可愛がっていたら、随分と遅くなってしまったからね」

日本人には出来ない完璧な仕草で肩を竦める。そして、昨夜を思い出したのか、髭を撫でながら浮かべた笑みは、朝には相応しくないほどセクシャルだった。

取り出したカップにコーヒーを注いで手渡す。手にしたカップから昇る香りを味わってから、やっと一口。代わりに吐き出した溜息は満足気だった。

「目が覚めたよ」

「貴方がカフェイン中毒とは知りませんでした」

「なら、私たちはもっと一緒に朝を過ごす必要がありそうだな」

この人はどこまで本気なのか分からない。片目を瞑って見せた彼を無視して、朝食の準備に冷蔵庫を開いた。

「・・・アイバー、僕は朝食をとって出勤したいんですよ」

いつの間にか背後に立った男に腰を抱かれた。開いた冷蔵庫の扉を閉められる。身体を反転させられ、冷蔵庫に押し付けられた。近づいて来るアイバーの顔を背けることで逃げた。

「それは、ライトの協力次第だな」

顎を掴まれ、背けた顔を正面に戻される。合わせた唇を過ぎ、潜り込んだ舌を受け入れた。まだ握っていたカップは奪われて、カウンターに置かれた。

*** *** ***

結局、朝食を食べる事は出来ず、机で甘すぎるドーナツをコーヒーで流し込む羽目になった。これでは寝坊しましたとアピールしている様なもので、非常に不快だった。

「ライト、珍しいな。寝坊か?」

「少し忙しかったもので・・・」

「朝から?まぁ、いい。ちょっと来てくれるか?」

机から立ち上がり後を追う。彼は僕の所属するチームをまとめる人間で、お世辞めいたことは一切言わず、口を開けば苦い皮肉ばかりが出てくる人であったが、僕は嫌いではなかった。

オフィスの中に入り、机を挟んで対面するように座った。

「どうしました?」

「もうすぐ帰国だな」

「えぇ」

「ライトが来たとき、俺は綺麗なお人形さんが来たとしか思わなかった。見目が整っているだけの中身が空のな。だけど、すぐにそうじゃないと思い知った。お前はICPOの歴史の中でもトップクラスの人間だ。ライトが作ったシステムはいまやICPO全体で採用されたし、その効果は以前のものとは比較にならない。おまけに、ライトが関わった事件で解決できなかったものはない。正直、日本に帰らずこのまま残って欲しいくらいだ」

「僕には過ぎた言葉です。でも、ありがとうございます」

「ライト、俺はお前が好きだよ。俺と違って人当たりもいいし、人間としても上等な奴だ。だから、言っておく。彼がライトの情報を求めた時、俺は渡してきた。お前の赴任が決まった時からずっとだ」

「・・・」

「俺を恨むか?」

「いいえ。ICPOと彼の繋がりが、僕より強固なのは分かっていましたから」

もし彼が要求すれば、ICPOは簡単に僕を差し出すだろう。どんなに強引でも、彼のすることに異を唱えられる者なんていない。短い任期の間に、僕がどれだけの業績を上げようと、日本から派遣された一介の警察官と比べられるはずがなかった。

「それだけですか?」

「あぁ。日本でも頑張ってくれ」

彼の言葉に頷き、オフィスの扉を閉めた。

午後は、荷物の整理と退任の挨拶まわりで潰れた。何処の部署に行ってもハグの嵐で、挨拶を交わしたこともない人まで集まってきた。

日本にはない過剰な愛情表現に赴任当初は戸惑ったはずなのに、今はハグどころか頬へのキスにも慣れてしまった。彼らの国に行く事があれば必ず連絡するようにと、たくさんの連絡先でポケットが膨らんでいた。

今朝植えつけられた喉の奥の苦いものは、いつのまにか気にならなくなっていた。

「お帰り、ライト」

「まだ居たんですか・・・?」

フランスでの借家に戻るとアイバーが寛いでいた。僕の手から私物の入った箱を受け取り、部屋の片隅に積み重ねたダンボールの上に置いた。

「もうすぐ日本に帰ってしまうから、残り少ない時間をライトと過ごそうと思っていたんだが迷惑か?」

食事を用意しておいた、との言葉通り、テーブルには二人分の食事とワインが用意されていた。

「メインを仕上げるから、着替えてきたらどうだ?」

「アイバー、貴方もですか?」

「何の事だ?」

「あいつに関わることで本当のものなんて何もない・・・」

「・・・疲れているのか?」

気遣う手が頬を撫でようとする。けれど、僕は身体を引き、その手を逃れた。アイバーが怪訝そうに僕を伺う。

「ライト?」

彼はプロの詐欺師だ。特に相手に好意を抱かせることが得意な・・・。

「着替えてきます」

フランスでアイバーと逢う。
これまでその事に対し不審を抱いていなかった訳じゃない。アイバーは彼が連れてきた人間だったから。

だが、悩んだところで、僕に何が出来る?何が変えられる?だから、僕は考えることを放棄し、アイバーが傍にいることを黙認した。どちらだろうと、いずれ僕は日本に帰る身だからだ。

退任の挨拶を終えた数日後、僕は日本に帰国した。

そのまま登庁するからと、家族の出迎えは断った。空港で拾った車から見る久しぶりの日本は、何も変わっていないように見えた。それなのに、その風景の中でどうしても感じる異邦人の感覚。しばらくすれば消えるだろうが、今は自分だけが周囲から浮いている感覚を拭えなかった。

やがて車窓が空港からの閑散とした風景から高層ビル郡へ変わる。狭い地面を奪い合うようにして建てられたビルが空を切り取っている。僕はそれを見てもまだ帰ってきたと言う実感が湧かなかった。

久しぶりの警察庁。扉の脇に立つ制服警官と礼を交わして、中に入った。ロビーには人々が行きかっていた。運良く独占したエレベーターの中で、眉間を軽く押した。日本に帰国すると決まってから、ちりちりと神経が炙られていた。それに囚われる程のものではないが、何もないと見過ごすものでもなかった。帰国してしまえば治まると思っていたのだが・・・。

軽いベルの音が耳に届いた。誰も乗り込むことの無いまま、目的フロアに辿りついたのだ。これから会う人に心配掛けさせないよう、エレベーターの扉を潜った後の僕の足取りは揺るぎの無いものだった。

「次長、ただいま戻りました」

「ICPOでの任期、ご苦労だったな、月」

「父さん、警察庁では夜神次長じゃないの?」

からかうように笑うと、それに答えて父が鷹揚に笑い返す。

久しぶりに見る父は白髪が増えていた。キラ事件の解決で、メンバー全員は警察庁への復帰、昇進で、父は次長のポストにいた。キャリアではあるが事件が起きれば所轄と一緒になって現場で捜査をしていた父には、次長のポストがストレスになっているのかもしれない。もう若くないし、倒れたこともある。無理はしないで欲しかった。

「久しぶりの再会なんだから許してくれ。フランスでの生活はどうだった?今日は家に帰ってくるんだろう?」

矢継ぎ早の質問に、父が僕を気遣っているのを感じられた。

「そのつもり。話は夕食の時にでもゆっくりするよ。父さんの邪魔はしたくないから、今日は帰国の報告だけ。後で情報管理課にも顔を出して帰るよ」

「月、本当に情報管理課に復帰で良かったのか?今ならお前が望む部署につくことも可能だぞ」

「ICPOで成し遂げたことを日本にも持ち込みたいんだ。それには情報管理課が一番適しているんだよ。必要なら、以前のように捜査本部にアドバイザーで参加もするから」

「お前がいいなら言う事は無いが・・・」

若い刑事がお茶を運んできて会話が途切れた。刑事が退出した後、父が戸惑うように口を開いた。

「月、その・・・最近身の回りで変わりはないか?」

「変わり?」

「漠然とした感覚でもいいんだ。なにか違和感があるとか、不可解なことを感じたり、・・・上手く言えないが、そう言った類のことだ」

「帰ってきたばかりだから、まだ日本に馴染んだ気はしないけど・・・。父さん、何かあるの?」

「・・・いや、いいんだ。きっと私の考えすぎだろう。母さんがお前の好きなものを作ると張り切っていたぞ。送らせるから帰りなさい」

「ありがとう。そうさせて貰うよ」

お茶を頂いた後、椅子から立ち上がった。

「じゃあ、家で」

「・・・月、気をつけるんだぞ」

「え?」

その言葉を不審に思ったが、鳴り出した電話を取った父に意図を尋ねる事は出来なかった。歯切れが悪いのは何か隠しているのだろう。家でゆっくり聞けばいい。一礼し部屋から退出した。その後、情報管理課に顔を出し、見慣れた顔と再会を果たした。

「夜神刑事」

警察庁を出たところで、車にもたれていた男に声を掛けられた。

「どうぞ」

後部座席のドアを開け、乗るよう促される。父が寄越したのだろう。長時間のフライトで疲れを感じていたので正直有難かった。

「ありがとう」

車はスムーズに動き出した。

霞ヶ関の周辺は、さすがにはっきりとした時間の変化があった。僕の知らない高層ビルがいくつも建ち、覚えていた風景を変えていた。

おかしな事を言うようだが、僕がいない間、日本でもちゃんと時間が経過していることに安堵していた。あの日から更に年月を重ね、きっと今は昔のことになっているはずだ。

しばらくそんな感慨でもって車窓を眺めていた。けれど、車のルートの異変に気づいた。道が変わったのかと思ったが、今の交差点を過ぎたところで、明らかに実家に続くルートから外れた。窓に手を置き、外を眺める振りをして静かに扉のロックを解除した。

「僕が日本にいない間、道が変わったようですね」

「・・・」

尋ねた言葉に、ミラー越しに見えるドライバーの表情は全く変化が見られなかった。

「誰に頼まれましたか?」

「・・・」

聞いても無駄なのを知り、次の行動に移る。信号に近づいて車のスピードが落ちたのを見計らい脱出するつもりだった。開錠した扉に身を寄せる。

だが、僕の思惑に反して、信号が近づいても車はスピードを緩めるどころか更に上げて交差点に進入した。クラクションが響き渡る中、車体をきしませて交差点を曲がる。僕は遠心力で座席の反対側に崩れた。そして、開錠した扉が運転席で操作され再びロックされる。

「もうすぐ着きますので、大人しくお待ち下さい」

その後、再チャレンジの機会は訪れず、脱出を諦めてシートに座りなおした。

車は進み続け、やがて現れた道。いつも夢の最後に出てくる道。沈めたはずの記憶の深みから迫り上がってくるものに、喉が詰まった。

「・・・っ」

じっとりとシャツの下で肌が汗ばむ。

車は夢で僕が辿った方向とは逆に進み続ける。そして、見えてきた要塞。車は滑らかに地下に潜り、無駄に広い駐車場に停まる。ドアが開けられ、車内に外気が忍び込んだ。

のろのろと車から出ると、ドライバーは僕を置いて走り去った。ここまで来たら、僕を待っているものが何なのか分かっている。もう十分だ、もう関わるべきじゃないと囁き続ける声。僕の身体はその声に反して、中央にあるエレベーターに向かっていた。

階数表示を排除したエレベーターに乗り込む。慣れた指は迷わず一つのボタンを押していた。

10人以上は乗れる箱の中に、僕だけが乗り込んだ。全く上昇の感覚を感じさせない。階数を教えられなければ、自分が今どのくらいの高さにいるか分からないだろう。

すぐにエレベーターは目的階に到着する。その僅かな間、僕を待っているだろう男に掛けるべき正しい言葉を探していた。僕が黙って出て以来、初めて逢う。あの時、非があるのは彼だと言うことに間違いない。だが、それを許す隙を与えた自分は?自分にとって若さとは愚かと同義だった。

チャイムの音の後、扉が左右に開く。そこから覗いた風景は、記憶のままだった。僕や東京と言う街自身にも、時の経過があったはずなのに・・・。

僕が出るまで閉じようとしない箱から降り、このフロアにただ一つだけ存在する部屋の前に立った。眼の前の扉はきっと施錠されていない。このビルに来るまでは拉致まがいの事をして連れておきながら、この部屋の扉を僕自身に潜らせる。

沸き起こった感情を奥歯でかみ殺した。かつて、ここにいた僕はもういない。

だから、話しを済ませて、すぐに帰る。そう声に出さずに呟いて、扉を開け放った。

「お久しぶりです、月くん」

「・・・・・・竜崎」

背を丸め指を銜えて立つ男は、嫌味なほど記憶のままだった。

「えぇー!なに、これ!」

「これから火口確保に向かいます。ミサさんはここでしばらく動けないようにさせて貰います」

竜崎がミサの手足を拘束し、全身にも鎖を巻きつけていく。

「行こう、竜崎」

二人を繋ぐ手錠を引き、急ぐよう竜崎を促した。だが、逆に鎖が引かれミサの隣の椅子に、彼が繋がっていた輪が止められる。

「月くんも待機して頂きます」

「僕も?どうして?」

話しながらも、ミサと同じように僕の手足を拘束していく竜崎。

「キラの能力がどうやって移動したか分からない以上、キラの能力を保有していた月くんを同行させる訳にはいきません」

「でも・・・」

僕の膝に手を置き、見上げてきた竜崎には、これから容疑者を確保しに行くのに緊張や気負いなど伺えなかった。これが踏んだ場数の違いなのだろう。

「もし誰も帰って来なかったら、助けが来る様になっていますから」

「分かった。・・・竜崎」

床から立ち上がった竜崎を引きとめた。肩越しに隈に縁取られた瞳が振り返る。

「はい」

「気を付けて」

「ありがとうございます」

僕の言葉にそう返して、竜崎は本部から出ていった。

数時間後、帰ってきた捜査員たちの表情は冴えなかった。火口を一度は確保したものの、突然現れた白い化物に殺されてしまった。その化物も間もなく姿が崩れ、砂になってしまったそうだ。

砂の上に残されたノートの最後のページには火口の名前があった。それによって殺人ノートの効果は分かったものの、僕にはただの黒いノートにしか見えなかった。竜崎が僕にはノートを一切触れさせなかったので、その印象はいっそう強まった。

竜崎はまだ僕とミサがキラだったと考えているようだが、容疑者死亡でキラ事件は終息することになる。

「竜崎、月くんと弥の疑いは晴れたはずだ」

「疑問は残ったままです」

「だが、キラ事件は終わった。そうだろう?二人の監視を終わらせるんだ」

「・・・・・・・・・分かりました。今まですみませんでした。ミサさんは、このビルから出て行って貰ってかまいません」

「僕は?」

「申し訳ないですが、まだ駄目です」

「竜崎!」

複数から声が上がり、竜崎に非難のまなざしが集まる。

「これまで通り監視を続けさせて頂きます」

抗議に開いた口は、続けられた言葉で閉じられた。

「ただし、手錠は妥協しましょう。大学に行く事も認めてもいいです」

「え?それじゃあ・・・」

「月くんには、このビルで暮らして貰います」

その宣言通り、その夜からビルの住居フロアで竜崎と一緒に暮らすことになった。

あの日、突然終わってしまうまで。

*** *** *** *** ***

同居を打ち切って以来、初めての再会。

「元気でしたか?」

二人の間には何も起きていなかった様な口振り。彼にとって、同居は最初の言葉通りただの監視であり、僕の存在は、一緒に暮らした日々は、何の意味も持たなかった。それを改めて突きつけられた。

「・・・僕がどうしていたかなんて知っているはずだ。ずっと報告を受けていただろう」

「直接会うのは久しぶりです」

「そうだな。こんな真似までして、僕に何の用だ?」

「長くなります。こちらにどうぞ」

「ここでいい。聞いたらすぐに帰らせて貰う」

閉めた扉に背を預け、自分を守るよう腕を組んだ。

「あいにくですが、それは出来ません」

「何故だ?」

「キラが再び現れました」

「え・・・?」

思わず身を乗り出していた。
火口が死んでキラの犯罪と思われる事件は起きていなかった。だから、キラの能力は火口から移ることなく、葬ることが出来たと思われていたのに・・・。

「半年ほど前から連続して犯罪者が心臓発作によって死んでいます。火口の時のように殺害によって利を得る存在はなく、事件に共通するのは被害者が犯罪者だという事だけ。もっとも、オリジナルキラよりも犯罪者の選別が厳しくないようですが」

「・・・だから、また僕を監視する?無茶を言うな、竜崎!僕が日本の犯罪者を知る事なんて出来なかった。それはお前も知っているはずだろう!」

「貴方がICPOで導入したシステムは?あれなら、貴方はフランスに居ても、日本の犯罪者を知ることが出来る」

「・・・好きなだけ疑えよ。僕は帰らせてもらう」

振り返り、ドアノブを掴む。だが、びくともしなかった。背後で竜崎が話しを続ける。

「先ほど夜神さんに連絡しました。警察庁に復帰して構いませんが、キラ捜査にアドバイザーとして参加して頂きます」

アドバイザー!そんな薄っぺらい見せ掛けをよく言えたものだ。体のいい監視のくせに。

「・・・・・・僕の意思は必要ないか?」

「以前の月くんでしたら、ご自身に掛かった疑いを晴らそうとしましたよ」

「・・・っ」

「以前と同じ部屋を使ってください。荷物はすでに運んであります」

遠ざかる足音。竜崎の気配がなくなるまで振り返れなかった。喉が震え出す。押し止めていたものが一気に飛び出してしまいそうで、細い呼吸を繰り返した。

すがり付いていた扉からのろのろと身体を起こした。かつて僕が暮らしていた部屋に向かう。それまでの廊下もリビングも記憶のままだった。

・・・再び始まる同居生活。僕だけが、苦しい。

かつて僕のものであり、そして二人のものになった部屋の扉を開ける。僕がここを出て何年も経ったはずの部屋は、綺麗に掃除されていた。以前の同居が始まった日の様に。

糊の利いたシーツに横たわり、目蓋を覆った。帰国してこんな事になるなんて。フランスでの生活が既に懐かしかった。

この部屋があの時のままなら、きっと監視カメラもそのままのはず。今度こそ彼に付け入る隙を与えない。どこかで見ているだろう竜崎に、その決意を新たにした。

*** *** ***

明け方になっても眠気は訪れず、うつらうつらしただけで起床の時刻が来た。身支度をしてキッチンに立ち、食事を作り始める。

「おはようございます」

「・・・おはよう」

テーブルに皿を並べ、用意した朝食を食べる。

「月くん、私のは・・・」

「勝手に食え」

竜崎に全てを言わせず、会話を叩き切った。一分、一秒でも竜崎と一緒に居る事が耐えられない。食欲なんて無いからトーストにコーヒーだけの朝食を済ませて、食器を洗い、ジャケットを片手に竜崎の隣をすり抜けた。

「月くん」

後からの声に歩みを止めた。背中には竜崎の視線を物理的な痛みで感じていた。

「いってらっしゃい」

その言葉に何の反応も返さず、僕はビルを出た。