Episode 0.6/謝罪

Summary : GSR. Sequel to "Episode 0.5 Suspension". / サラの停職明けのちょっとした小話。恋人未満。/ Sara apologized to...

Spoilers : S5#13(人形の牢獄 /Nesting Dolls)

AN : サラ、キャサリン、ソフィア。板挟み風グリッソム。ショートショート。


「グリッソム、呼んだ?もうシフト終わったから帰るんだけど」

オフィスにせわしげに入ってきたキャサリンは、グリッソムを見て、それから彼の視線が促す先に目をやり、息を飲んだ。
机の前の椅子に座っていた人物が、ちらりと振り向いた。
「サラ」
キャサリンに呼ばれて、彼女は唇を噛みしめた。
「・・・停職は終わり?」
「ええ・・・まあ」
俯いて視線を合わさないまま、サラは小さく答えた。
キャサリンは物問いたげにグリッソムを見やった。
「サラ」
グリッソムが声をかけると、サラは目線をあげて彼を見た。
視線が合い、グリッソムは眼鏡を持った手と目で、何かを促すように合図した。
サラはもう一度うつむき、小さくはない溜息を吐いて、それから立ち上がった。
「あの、キャサリン」
キャサリンは腕を組み、顎をやや上げてサラを見た。
彼女が何かを言いよどむのを、ただ見つめた。
「その・・・」
サラは唇をもう一度噛んでから、息を大きく吸い、そして一気に吐き出しながら、言った。
「その・・・・・、ごめんなさい」
キャサリンは眉を上げた。が、まだ何も言わなかった。
サラもまた腕を組み、俯いた。
「あの・・・、言い過ぎた。あたし、カッとなって。思ってもないことを・・・」
キャサリンは首を傾け、それから少し意地悪く口をゆがめた。
「思ってもないこと?」
「ええ、もちろん」
サラは弾かれたように顔を上げ、それでようやくキャサリンと視線が合った。
「もちろん」
強くもう一度繰り返すサラを、キャサリンはしばらく黙って見つめた。
彼女が不安そうに目を伏せ、また唇を噛むのを見ながら、キャサリンはちらりとグリッソムに視線を投げた。
グリッソムは肩をすくめた。
「思ってもないことねえ・・・」
敢えて冷たく言うと、サラが泣きそうな顔を上げた。
キャサリンは腕を解いた。勢いよく落ちた両腕が、彼女の身体の横で乾いた音を立てた。
「話はおしまい?」
グリッソムに向かって聞くと、グリッソムは首を軽く傾けた。
「じゃ、もう行くわ」
キャサリンは身を翻した。
「キャサリン」
グリッソムの声が呼び止めた。
キャサリンは立ち止まり、ほんの僅か思案してから、振り向いて彼を指さした。
「謝罪を受け入れたって、エクリーへの報告書に書いときなさい」
ちらりとサラに視線をやり、彼女が小さく口を開いたのを見て、キャサリンは満足げににやりと笑うと、オフィスを出て行った。

盛大な溜め息をついて、サラは椅子に座り込んだ。
グリッソムはほんの少し微笑みを浮かべたが、彼女が顔を上げたとき、彼はそれをすでに消していた。
「頑張ったな」
不安そうな彼女に、グリッソムは優しく声をかけた。
誰かに謝罪をするというのは、誰であっても勇気の要ることだ。彼はただ素直に、彼女が実行出来たことに安堵していた。
サラはもう一度小さく息を吐いた。
「修復出来ると思う?」
サラの心細そうな声に、グリッソムは僅かに驚いた。
キャサリンとの友情がどの程度の物かは彼には計り知れないが、少なくとも彼女がそれを修復したがっていると分かって、なぜか彼は嬉しかった。
彼がそうであるように、彼女がニックやウォリック、グレッグと、同僚以上の友情を育んでいるのは分かっている。だが、女性同士はとかく、難しい。特にサラとキャサリンは、女性のタイプで言えば水と油。まったく違う。しかしだからこそ、チームとしては非常に噛み合っていたとも言えるのだ。
グリッソムは二人が同じチームで働いていたときのことを懐かしく思った。そんなに昔の話ではないのに、チームが別れてから、もう随分経ってしまったかのように感じた。
「グリッソム?」
サラの声が彼の沈みかけた思考を引き上げた。
「ああ、何でも無い」
言ってから、グリッソムは肩をすくめた。
「女性の友情は複雑らしいからな・・・私には、なんとも」
サラは小さく笑った。
「女性同士と言えば、ソフィアとはどうだ?」
サラは笑みを凍らせた。
「・・・何が?」
「同じチームになってしばらく経つが、うまく、やってるか?」
グリッソムは、なぜサラが氷のように冷たい目で彼を見たのか分からなかった。
「彼女に聞けば?」
目を細めてそう言うと、サラはまるで蹴るようにして椅子から立ち上がり、大股で部屋を出ていた。
「・・・何を怒ってるんだ?」
グリッソムの問いに答える人物は、もちろん、オフィスにいなかった。


End.