Purikurismas
By:Satashi
Translated By: Female Trouble
「美墨さ~んっ!」
支倉一樹が大きく手を振り、なぎさが気づかないふりをして
いるのもお構いなく、ひょこひょことなぎさの前に歩み寄って
きた。
「僕を待っていてくれたの?」
支倉が愉快そうに訊いた。数人の生徒が立ち止まって二人の
様子を見ていたが、支倉は気にもせずに言葉を続けた。
「冗談だよ!藤村先輩だろ?」
その言葉に、なぎさが軽く頷く。
「今日は木曜だから、裏門で待つべきだったね」
「ど、どうして?」
やっとなぎさが振り返って、まじまじと支倉を見上げた。
「サッカー部の練習さ。あっちの方が駅に近いから、いつもは
裏門から帰るんだ」
「まずい!」
駆け出そうとしたなぎさの腕を、支倉が引き止めた。
「落ち着いて!今日の練習は中止だよ。いつもは、って言った
だろ」
ニヤッと笑うと、支倉は回れ右して大げさに手を振った。
「お~~~い!藤村先輩~!美墨さんが待ってますよ~~~!」
『まったく、ありえないんだからっ』
周囲の注目が全て自分に集まっているのをひしひし感じて、
なぎさは気後れしてしまった。
二人に気づいた藤村は、苦笑しながら歩み寄ってきた。サッ
カー部の先輩後輩で挨拶を交わすと、支倉は駆け去ってしまっ
た。まるで、穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい思いを
なぎさにさせる任務が完了した、とでも言うかのように。
「やあ、美墨さん」
藤村が声をかけた。
「何だか久しぶりだね?どうしてたんだい?」
「え、あの、それは…
なぎさは頬をポリポリ掻いた。藤P先輩にのぼせ上がってい
たことはとっくに済んだ話だったが、それでも周りのみんなの
視線になぎさはまだどこかむず痒いものを感じてしまった。
「あの、校門のところに人を待たせちゃマズイんじゃ…?」
「え?」
藤村は肩越しに振り返って、微かに苦笑した。
「ああ、気にしなくていいさ。で、何の用事?」
「えっと、その、実は、アドバイスしてほしくて」
「何のアドバイス?」
小首を傾げる藤村。
「あの、クリスマスが近いんで…
すうっと息を吸うなぎさ。
「手作りのプレゼントをいっぱい作ろうと思って、その、お金
はあんまりないんですけど、だけどアカネさんのお店でひかり
と一緒にバイトしてて、それで…。今年は…
ほのかにぷれぜんとしたくって!」
終わりの方の声はあまりに早口すぎて、藤村はその意味を理
解するのにしばらく足を停めて考えなくてはならなかった。
「そうか!」
ニッコリ笑う藤村。
「ほのかはきっと、何でも喜ぶと思うよ」
「ええ、でも…今年は特別なものにしたくって…
うなだれたなぎさの目に、自分の口から吐き出された息が白
くなるのが見えて、それが妙におかしく思えた。
「なるほどね…
顎に手を当てて藤村が考えこんだ。
「そうだな、実はほのかはおめかししたり、アクセサリーを付
けたりするのが好きなんだ」
「ええ?」
藤村を見上げたなぎさ。
「でも今まで、ほのかがそういうのに夢中な姿って一度も見た
ことないのに!」
「ほら、ご両親が宝石商だろ、だからほのかは、そんなのには
あんまり興味がないってふりをしてるんだ。でないと、あのご
両親だ、娘かわいさで宝石を買いあさってしまいかねないから
ね」
「なるほどお…
「だから、ほのかへの『特別』なプレゼントをしたいなら、き
れいな服やネックレスや指輪…そんなものがいいと思うよ」
なぎさの肩に手をかけた藤村に、なぎさははっと顔を上げた。
「でも、何をあげても最高だと思うな。美墨さんからの贈り物
なんだから」
「そうでしょうか?」
「もちろんだよ。だって僕はほのかを子供の頃から知ってるん
だからね」
思わず笑いあう二人に、別の声が割って入った。
「省吾くんっ」
女生徒が声をかけて、藤村の腕に抱きついた。
「ごめんね、遅れちゃって、私…
その女生徒がふとなぎさを見やって、言葉を切った。
「あ、ごめんなさい、話の邪魔しちゃって」
そして藤村の顔を見上げた。
「あ、彼女は中等部の美墨なぎささんだよ。ラクロス部のキャ
プテンなんだ」
そして藤村は腕に抱きついている女生徒を見やった。
「へえ?」
高等部の女生徒がなぎさを見つめる。
「あ、いや、わたしなんかマジで、ダメキャプテンだから、ほ
んと…
なぎさは笑ってごまかしながら、この女生徒が藤P先輩のガ
ールフレンドらしいことを察した。
「あ、あたしはただ、すれちがっただけで…
「気にしなくていいのよ」
女生徒が首を振った。
「省吾くんが他の女の子と話をしたって、それは本人の自由な
んだし」
その様子が、少し神経質になっているようになぎさには見え
た。
『そうか、わたしと藤P先輩との間に何かあると思って、でも、
自分の気持ちは隠そうとしてるんだ…』
溜息をつくなぎさ。
『いい人だな…邪魔しちゃマズイよね!』
なぎさはニッコリ笑った。
「気にしないで下さい。大好きな女の子へのプレゼントを何に
しようか、アドバイスしてもらってたんです」
「女の子への?」
女生徒が訊き返す。
「ええ、女の子」
なぎさは頬が赤くなるのを感じた。こういう感情を口に出し
て言ったのは初めてだった。
「藤P先輩の幼なじみの女の子だから、アドバイスをもらうの
には一番適任だったんですよ」
振り返って、なぎさは二人に手を振った。
「藤P先輩、アドバイスありがとうございました!わたしが訊
いたこと、ほのかには内緒にしてくださいね」
「わかったよ!」
手を振る藤村を背にして、なぎさは駆けていった。
***
「遅れてすみません!」
そう叫びながら、なぎさはアカネのタコ焼きスタンドに到着
した。
「途中で高等部に寄らなきゃならなくって」
ハアハアと息を切らし、なぎさは屋台のワゴン車にもたれか
かった。
「全速力で走ってきたんですけど…
「なぎさ、言ったでしょ」
ワゴンの扉のところにいるなぎさを、アカネが見やった。
「できる範囲で手伝ってくれればいいって。なぎさにはずいぶ
ん世話になってるんだから」
「ええ、でも」
まだ息を切らしているなぎさ。
「もう、時間がないんです」
なぎさはようやく呼吸を落ち着かせた。
「クリスマスセールはイヴで終わっちゃうし、今日がこの店の
年末休み前の最後の日だし。プレゼントを買うのを遅らせる余
裕はないんですっ」
「なぎさにはボーナスあげるから…
「いいえっ、自分の手で稼ぎたいんです!」
なぎさがドアを開けて中に入り、エプロンを着けた。
「プレゼントを買うからって特別扱いされたら、ほのかに渡す
のに顔向けできないですから」
「ほのか?ほのかへのプレゼントのためにこんなに必死に?」
アカネが苦笑した。
「そっか、二人だけの関係、どこまで行ったのかな?」
「注文入りました!」
ワゴンに入ってきたひかりが挨拶した。
「こんにちは、なぎささん」
「ね、ひかり、なぎさがバイトしてるのはほのかにプレゼント
を買うためなんだって」
「知ってます」
ブロンドの少女はあっさり言った。
「なぎささん、女の子が好きだ、って言ってますから」
「あ、あのねえっ!」
腰に両手を当てるなぎさ。
「私もですけどね」
ひかりはなぎさにウィンクして、さっと通り過ぎた。
「だからスッと言えるんですよ」
肩越しに振り返り、ひかりはニッコリ笑った。
「お二人とも、お似合いのカップルですよ」
「すいませ~ん!」
ワゴンの外から男の人の声がした。
「はい、いま行きます!」
なぎさがメニューをわしづかみにして、ドアから外に飛び出
した。
「いらっしゃいませっ」
接客するなぎさ。
「こちらでお食事ですか?お持ち帰りですか?」
***
時間はあっという間に過ぎ、その日も終わりになろうとして
いた。明日は学校が休みであることに、なぎさはホッとしてい
た。カクンと頭を垂れ、目を閉じて、腰掛けているテーブルに
もたれこんだ。
しばらくすると、背中に誰かの手が触れ、目の前にホットチ
ョコレートの入ったカップが置かれた。ハッとして横を見やる
と、隣にほのかが寄り添うように座っていて、ほとんど密着す
るほどだった。
「疲れた?」
そっと声をかけながら、ほのかが手袋をはめた手でカップを
ちょんと押し出す。
「うん」
なぎさはそう言うと、ホットココアをずずーっと啜った。
「科学部の会議はどうだったの?」
「うん、最初の一年だもの、長い道のりだったわ」
さらに一口ココアを飲むなぎさを見つめて、ほのかは思わず
クスッと笑った。
「ホイップクリーム、顔についちゃってる」
「そう?」
なぎさが頬を手で拭った。
「取れた?」
だがほのかが口に手を当てて笑い続けたので、なぎさはもう
一度拭う。
「これでどう?」
「ほら、まかせて」
ほのかが前に身を寄せると、なぎさの頬からクリームをゆっ
くりと舐めとった。
「ね、これでOK」
「ほのかってば…
ポッと顔を赤らめて、まだ顔を寄せたままの少女になぎさは
笑いかけた。
その時、カシャッと音がして、はっと振り返った二人の前に
いたひかりが、目の高さからカメラを下ろそうとしていた。
「ひ、ひかり!」
「ベストショットですよ」
嬉しそうにひかりが言った。
「焼き増ししたら進呈します」
「必ずね!」
ほのかは目を閉じてひかりに笑いかけた。
「ぴったりのステキな写真立てがあるの」
***
なぎさはオドオドしながら店内を見回した。店中の金縁のシ
ョーケースがどれもダイヤモンドでキラキラ光り輝いている。
プレゼントを探そうにも、なぎさにはどこから手をつけたらい
いかすらわからなかった。目に見える何もかもが高価で、自分
のお金ではその半分もまかなえそうにない。ほんのちょっと歩
き回っただけで、なぎさは溜息をついてしまった。
「いらっしゃいませ」
その声になぎさが振り向くと、女性店員が前に立っていた。
「何かお探しですか?」
「あ、いや、その…
なぎさは赤面した。
「と、友達への贈り物なんですけど、こんなアクセサリーを買
うなんて初めてで…
なぎさは情けない笑みを浮かべた。しかもなぎさが今着てい
たのはお気に入りのジーンズで、よりにもよって少しぶかぶか
なやつだった。その上フード付きで前にポケットのついたトレ
ーナーという姿だったものだから、このような場所にはまるっ
きりそぐわない格好であることはイヤというほど感じてしまっ
ていた。
「そういうものをお探しでしたら、こちらにございます」
店員はなぎさを陳列棚の狭い一角に連れて行った。
「ここならきっとお気に入りのものが見つかりますよ」
ショーケースを覗き込んだなぎさは、「Best Friends」など
と刻印が読めるネックレス類を目にして頬を紅潮させた。
「う~ん…、すごくキレイだけど、わたしの欲しいのは…その、
もうちょっと…友達系じゃないっていうか…
なぎさは頬をポリポリ掻いた。
「プレゼントしたあとは『友達以上』になれればなあ、って」
「なるほど」
店員は納得顔で微笑んだ。
「それでは、男性向けのお品はあちらに…
「あ、いや」
なぎさはますますはにかみながら、店員を引き止めた。
「相手は、女の子なんで…
「あら、そういうことでしたら、こちらをご覧下さいませ」
店員は再びなぎさを別の陳列棚に案内した。そこは指輪が並
んでいて、なぎさは思わず夢中になってしまった。
「うわあ、すごくキレイ…
たくさんの指輪やネックレスに、なぎさは顔を寄せた。
「どれが気に入ってもらえるかなあ…
見回しているうちに、なぎさがようやく目を留めたのは、二
つのハートがついているシンプルな金の指輪だった。その二つ
のハートは二つの小さな宝石を組み合わせてとりつけられてい
る。
「これ、いいな」
なぎさが指差した。
「あんまり立派すぎないから、好きな時に気軽に着けてもらえ
そう…
「見る目をお持ちですね。これは当店のトップセラーなんです
よ」
店員はその指輪をケースから取り出し、なぎさにもっと近く
で見せた。
「追加料金無料で、誕生石をはめることもできますが」
「ホントに?」
なぎさが有頂天になって叫んだ。
「それ、最高!」
「これになさいますか?他の店でもお探しになります?」
「もう二日間もずっと足を棒にして探し回ったから」
陽気に応えるなぎさ。
「これがいいです」
「承知いたしました。お値段は…45000円になります」
心臓麻痺を起こしそうになったなぎさ。
「あ、あの~、もうちょっと安くなりません?」
***
ほのかとジュースで乾杯しながら、なぎさは陽気に笑ってい
た。ラクロス部の全部員と、ほのかの科学部部員のほとんどが
学校の体育館に集合し、恒例のクリスマスイブパーティーを開
いているのだ。笑い声がさんざめく中で、全員がプレゼントを
交換した。感謝の喝采と拍手が、少女たちのあちこちに交わさ
れた。
「なぎさ」
ほのかがなぎさの腕をとって微笑みかけた。
「メリークリスマス」
そしてなぎさに箱を手渡した。
「気に入ってくれるといいんだけど」
「絶対気に入っちゃう!」
なぎさは包み紙を開ける時間ももどかしく、白い箱のふたを
開けた。
「うわあ、かわいいっ!」
小さなピンクのベストつきの、タイトな黒のセーターを手に
とったなぎさが、さらに箱の中を覗いた。
「え、まだあるの?」
上着にマッチしたローカットのダークブルーのジーンズを手
にして、なぎさは息が詰まってしまった。
「あ~ん、ほのかぁっ!」
なぎさは親友をひしと抱きしめた。
「ありがとうっ!」
「なぎさ、かわいいものが好きでしょ」
そう言って、ほのかも親友を嬉しそうに抱き返した。
「だから、ピンクが似合うかなって」
「もう、最高っ」
なぎさがほのかの頬にキスした。
「ほんと、ありがとっ!!」
「なぎさったら」
ほのかは真っ赤になって、キスされたところに手を当てた。
「わたしもね、ほのかにプレゼントがあるんだ」
なぎさはハンドバッグに手を入れて箱を探した。
「あれ、他に何も入れておいた憶えはないんだけど…
チラッと目を落とし、なぎさは不安に襲われた。
「あ…
手にしたコンパクトに目を白黒させるなぎさ。
「…ポルン!?」
コンパクトがパカッと開き、ポルンが歓声をあげた。
「ポルンもパーティに来たポポ!」
「ポルン!」
ほのかが後ろからなぎさの両肩に手を置いて、覗き込むよう
にポルンを見つめた。
「ひかりさんは知ってるの?」
「知ってるポポ!」
「ポルン、バッグの中に入る時に何か外に出さなかった?」
不安そうになぎさが訊いた。
「箱があったポポ!」
あっけらかんと答えながら音楽に合わせて首を振るポルン。
「ヒラヒラがいっぱいで、中に入れなかったポポ!」
なぎさが溜息をついた。
「プレゼントはほのかの家だぁ…
「気にしないで」
ほのかはなぎさの手をとって、ポルンに向かって笑いかけた。
「良い子にして、みんなに見られないようにしてね」
「わかったポポ!」
「さ、踊ろうなぎさ!」
ほのかは親友をテーブルから連れ出し、ダンスフロアに立っ
たちょうどその時にスローな歌がかかった。ほのかはなぎさに
歩み寄って、顔をなぎさの胸に預けて両腕を首に回した。お返
しにほのかはぎゅっと引き寄せられて、完全に抱き合った。
「なぎさ、いい匂い」
ほのかが首筋に囁いた。
「ほのかだって」
なぎさも笑みを浮かべて囁き返す。
「でも、ほのかはいつもいい匂いだから、いつもと変わんない
か」
なぎさはほのかの髪に手をやって、そっと梳いた。
「それより、ほのかの髪がいちばん好き」
「そう?」
ほのかが顔を上げて微笑む。
「どこが?」
「とっても柔らかいし…
なぎさが少女の黒髪に指を滑らせる。
「わたしの髪じゃ、こんなことできないもん」
「なぎさの髪だってすてき」
ほのかも、もの憂げになぎさのうなじを上下に指でなぞる。
「私はなぎさみたいな髪の方がいいな」
「ありがと。それならヘアケア用品を変えなくてすむもん」
なぎさが冗談を叩く。
「ね、この後どうする?」
「予定は何もないけど」
「じゃあ…一緒にさ…ね、どう?」
「嬉しいっ」
ほのかはなぎさの首筋に後頭部をもたれさせながら、嬉しそ
うに息をついた。
「でも今は、二人で踊りましょ」
***
ほのかと一緒に帰り道を行くなぎさは、ごきげんだった。雪
が厚く辺りに降りつもり、傘をさした下で雪がかからないよう
に、ほのかがなぎさにピッタリ寄り添ってくれていたからであ
る。右手で傘を持って二人分をカバーしているなぎさに、ほの
かは両手を回して抱いていた。
「今年もホワイトクリスマスになったわね」
ほのかの言葉に、なぎさもハッとした。
「こんな時にザケンナーが襲って来なきゃいいんだけど」
「まったくだよね」
なぎさが呟く。
「きょう一日はたっぷり楽しもうよ」
門を開け、中庭を歩き、忠太郎に声をかけてから、二人は軒
下を通った。
「あ、なぎさ、肩に雪が」
ほのかが手を伸ばして親友の肩から雪を払う。
「気にしないで傘をもっと自分の方にしておけばよかったのに」
「それだとほのかに雪がかかっちゃうもん」
そう言うと、なぎさは腕を振るって粉雪を払った。
「だめよ、もう濡れちゃってる」
ほのかが少し眉を寄せた。
「着替えないと風邪をひくわ」
親友と言い争いなんかしたくないなぎさは、あっさり頷いた。
「わかった、そうする」
「おばあさまに帰ったって言ってくるから」
そう言って、ほのかは早足で出て行った。
なぎさはほのかの部屋に向かい、中に入って扉を閉じると、
すぐにストーブに火を点けた。
ポルンとメップルが元の姿に戻り、ベッドに飛び乗ると、な
ぎさは服を脱ぎ始めた。濡れたセーターを脱いでベッドの前に
放り、脚をくねらせてジーンズを脱ぐ。
「遊んでポポ!」
ポルンがそう言って、ほのかの机の上に飛び移り、贈り物を
飾るのに使っていたらしい一巻きのリボンを手にした。
「受けとるポポ!」
小さな生きものはそのリボン巻きをメップルに放り、真っ赤
なリボンをピーッと長く伸ばした。メップルがわっかをキャッ
チすると同時に、ポルンはもう一個のリボン巻きを投げた。
「そんなコトしちゃダメ!」
ふたりを叱りつけてリボンを取り上げようとしたなぎさだっ
たが、すでにリボンが伸ばされきってしまっていたので、巻き
戻すことはできなかった。
「逃げるメポ!」
メップルが調子づいて二つともポルンに渡す。
「言うことききなさいっ!」
叱りつけたなぎさが再び手を伸ばしたが、すでにほどけきっ
たリボンが腕に絡まってしまった。
「ちょっと、あとでひどいわよ!」
振り返ったなぎさがメップルを見ると、メップルはまたリボ
ン巻きをポルンに投げ返していた。光の王子は今度は一つを持
ったまま、もう一つをなぎさの周りをグルグル回るメップルに
投げ返した。
「もうっ!」
何とかしようとする試みもまた失敗に終わり、しばらくする
とリボン巻きは空っぽになって、なぎさはベッドに転がってし
まった。
「やだあっ!」
なぎさは全身に巻かれたリボンをほどこうとしたが、もがけ
ばもがくほどますます絡まるばかり。
「ポポ!」
跳び上がったポルンが、なぎさの肩に大きな飾りリボンを付
けた。メップルがなぎさのプレゼントにのり付けしていたリボ
ン飾りを取って、これもなぎさの胸に貼り付けた。
「なぎさ、お待たせ」
ほのかが声をかけて、障子を開けた。ほのかが部屋に入ると
同時に、メップルとポロンはベッドの下に滑り込んでしまった。
二人が目を合わせた途端、ほのかは親友の姿にまじまじと見入
ってしまった。
なぎさは下着だけの姿でベッドに転がり、全身をリボンで縛
られ、「ほのかへ」と書かれたカードのついた飾りリボンまで
付けられてしまっていたのだから。
なぎさはゴクッと息を呑んだ。
「め、…メリー・クリスマス?」
ほのかは自分の手を唇に当て、笑いをこらえて指先をそっと
噛んだ。なぎさはひきつった笑いを浮かべ、何があったのかほ
のかに説明しようとしたが、その前にほのかが歩み寄って、両
手をなぎさの肩にかけた。
「ほ、ほのか?」
なぎさはそっと仰向けに押し倒され、その上にほのかがのし
かかってきた。
「ほどいて中を見てもいい?」
ほのかがなぎさと鼻先を触れ合わせながら、そっと訊いた。
なぎさは真っ赤になったが、それでもコクンと頷いた。
「うん…好きにして…
***
なぎさはゆっくりと目を覚まし、ベッドの上に起き直って、
軽く顔をしかめた。首筋に手をやって、なぎさは肩に付いた小
さな歯形に、それから露わな乳房にほのかがつけたキスマーク
にそっと触れた。なぎさはシーツを掴んでひっかぶると、まだ
眠っている親友を見やった。ほのかはなぎさが起き上がる前に
背中をすり寄せていた。その背中に幾筋も軽く引っかいた跡が
残っていて、それを見たなぎさは夜のひととき自分のしてしま
ったことを思いだして真っ赤になった。
頭を振って気を取り直し、なぎさはほのかの机に歩み寄って、
ほのかに渡そうと用意していた本物のプレゼントを取りに行っ
たが、その時ほのかがもぞもぞと動き出した。
「おはよう、ほのか」
なぎさが陽気に声をかける。
ほのかは早く目を覚まそうと、目をパチクリさせた。肩越し
になぎさを見やって、ほのかははにかんだような笑顔を浮かべ
た。
「おはよう、なぎさ」
ほのかはシーツをあご先にまで上げて、起き直った。
「メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
なぎさがきれいに包装した小箱を差し出した。
「これ、ほのかに」
「ありがとう」
ほのかが滑るようになぎさの横に並んで座り、シーツを床に
落としたままゆっくりと包み紙を解いた。なぎさはプレゼント
を凝視し、一糸もまとわぬ親友の裸身に目を奪われないよう必
死で我慢した。
「あら?」
包みを解いた小さな指輪箱を、ほのかはきょとんと見つめる。
「何なのかしら?」
ニッコリ笑ったほのかは、まるでこの時間をじっくり堪能す
るかのように開けるのをためらった。
「開けたらイヤでもわかるって」
なぎさがからかうと、ほのかがベーッと舌を出す。
ゆっくり、ゆっくりと、ほのかは箱のふたをずらし、これ以
上は我慢できない限界に達すると一気にパカッと開いた。
「まあっ!」
「気にいった?」
二人の誕生石が嵌め込まれた小さな指輪を見ながら、なぎさ
が訊く。
「すてきっ!」
喜びの歓声をあげ、ほのかは箱から指輪を取り出し、指には
めた。
「これ、ずっと着けたままにするね!」
振り向いたほのかが、なぎさをギュッと抱きしめ、その背中
越しに指輪を見つめた。
「もしかして、これのためにアカネさんのところでバイトを?」
「まあね」
なぎさはほのかが痛がらないように、背中の引っかき跡には
触らないようにした。
「でも実際に買ったのはイブギリギリだったけど…えへへ」
「ありがとうっ!」
身を離したほのかが、なぎさを見つめて微笑み、再び抱きし
めると、そのままベッドに押し倒した。その笑顔が落ち着くと、
ほのかはなぎさの横に身を寄せ、なぎさのお腹に指を上下に這
わせた。
「こんな最高のクリスマス、初めて」
「わたしも…っ」
なぎさがゾクゾクッと身を震わせる。
「寒いの?」
そう訊いたほのかが、シーツを引いてかけ直すと、再び指を
なぎさのお腹に這わせる。
「そ、そうじゃなくって…っ」
目をギュッと閉じたなぎさは、ムズムズしてきて息を乱し始
めた。
「そうなの?」
ほのかが指先をお腹からすっと顎までなぞっていく。
「じゃあ、どうして?」
愛くるしく尋ねたほのかへのお返しに、なぎさが激しくキス
をした。
キスが終わると、黒髪の美少女は恥ずかしそうに唇をペロッ
と舐めた。
「ね、なぎさ…
「え?」
ほのかがなぎさの上にのしかかり、馬乗りにまたがった。
「ふたりは、恋人ね」
「うん…
そう返事をしたなぎさだったが、自分でもその声は聞き取れ
ないほどだった。
ほのかはニッコリ笑いかけて、上半身を寄せ、大きく口を開
けて唇いっぱいに激しくキスした。
「メリー・クリスマス」
ほのかはほっと息をもらすと、キスしたまま激しく腰を使い
始めた。
なぎさは、やはりキスしたまま大きく喘いだ。
完
