Episode 7.1 Joker
Summary : GSR. Sequel to "Diversion(side:Jim)". / サラのタトゥーの秘密。グリッソムが秘めている、暗い情念。そしてもう一人、二人の関係に気付いたのは・・・/ The secret of Sara's tatoo. And Grissom's a little dark emotion which he is hiding. Who was noticed the relationship between the two?
Rating : M
Spoilers : S3#1(ギャンブラーの切り札/Revenge Is Best Served Cold)
Genre : Romance/Angst
AN : Time set before S6#11(誰も知らない存在/Werewolves)
サラはカードを見つめていた。見つめすぎて、寄り目になっていることには、気づいていないようだ。
グリッソムは密かに笑った。
何度やっても結果は見えているのに、彼女は懲りずにゲームを続けていた。
グリッソムがカードを引くと、彼女の手に1枚のカードが残された。
「あー、もう!」
29連敗目を喫したサラは、カードを投げ落とした。
「なんで?なんで分かっちゃうの?」
「だから君が素直すぎると言っただろう」
サラはむぅっと膨れた。いまだに納得がいかないらしい。
「私に挑むのが間違ってる。私はポーカーで死体農場の費用を稼いだ人間だぞ。ポーカーフェイスは得意だし、表情を読むのも得意だ」
グリッソムはカードを集め、慣れた手つきで切り始めた。
事の発端は単純だった。グリッソムが彼女のことを「素直すぎる」と評したら、サラは口をあんぐり開けた。ひねくれ者を自負する彼女には、相当意外な言葉だったらしい。その後、いかに自分がひねくれ者かを並べ立て始めたので、グリッソムが提案したのだ。
「じゃ、証明してあげよう。ババ抜きでもしようか」
というわけで、ジョーカーが最後まで手元に残ったら負けの単純なカードゲームを続けること29回、サラは見事に負け続けていた。
「君は、とても分かりやすい」
サラは悔しそうに抱えた枕を叩いている。
「まだやるか?」
「次が30回できりがいいから」
「無駄だと思うが」
「いいから配って」
笑いながら、グリッソムはカードを配った。
真剣な顔でグリッソムの手のカードを引いていく彼女が、グリッソムにはおかしくてたまらない。
彼の表情に、簡単にだまされる様子には、少々心配になるほどだ。
残り枚数が僅かになってきたとき、サラはずっと顔をしかめたままになった。
お、ちょっとは考えたかな、とグリッソムが思ったときだった。
「ねえ」
ふとサラが話しかけてきた。その手には乗らないぞ、と思ったグリッソムだったが、
「なんで、時々、乱暴になるの?」
虚を突かれた。
「乱暴?」
何の話だ、と思いながら彼女のカードを引く。
「そう。ベッドで」
グリッソムはハッとしたように彼女を見た。
サラは彼には視線を向けず、カードを凝視していた。
「いつもは、結構、その、・・・気遣ってくれるのに」
グリッソムは焦った。
やはり、彼女に気づかれていた。
時々、情熱が制御出来なくなってしまうことがあるのを、彼自身は勿論気づいていた。彼女も何か感づいているとは思っていたが、率直に「乱暴だ」と言われると、動揺した。
「あー、それは・・・その・・・」
彼女のカードを選びながら、グリッソムはしどろもどろになった。
どう言えばいい。そもそも理由は自分でも分からないのだ。なぜ、そんな気分になるのか。
気がつくと、余裕をなくしているのだ。
彼女を、自分だけのものにしたい、その強烈な願望が、止まらなくなってしまう。本来、すでに彼女は彼のもののはずなのに。
「あー、その、・・・嫌なら、言ってくれれば、・・・やめ・・・」
そう言いさしながら、本当に自分はやめられるだろうか、とグリッソムは懐疑的に思った。
「あたし、何かしたかなって思っちゃう」
「いや、そうじゃない」
「ふーん」
君を誰にも届かない場所に閉じ込めてしまいたくなる、なんて、彼女に言えるわけがない。
だが、何か説明してあげないと、サラだって困るだろう。実際、困ってるから聞いてきたのだろうし。
グリッソムは懸命に最もらしい理由を考えようとしたが、全く思いつかなかった。
「あー、その、・・・うまく、言えない」
それは、どちらかというとサラが良く使う言葉だった。それに気づいたのか、カードを引いた後で、サラがちらりと笑った。
「ま、いいわ」
「いいのか?」
サラは肩をすくめた。
「あたしだって、あなたに言いたくないって言わないでいることあるし」
グリッソムはホッとした。じゃあなんで聞いたんだ、と思ったことは、次のサラの言葉で吹っ飛んだ。
「性欲が溜まっちゃうんだと思っとくことにする」
「溜ま・・・」
グリッソムは唖然とサラを見た。
彼女にしてはかなり大胆な言葉が飛び出たものだ。
「そういう趣向だって言われたら困ったけど」
「趣向・・・」
ああ、その手があったか、と思いながら、彼女が引いていくカードを見て、グリッソムは
「あっ」
と声を上げた。
「やった」
サラがカードを放り投げた。
「やっと勝った」
グリッソムは手元に残ったジョーカーを睨み付けた。
「やられた」
恨めしそうにサラを見る。
彼女はにやにやとグリッソムを見ていた。
「ずるいぞ」
「奥の手よ」
「・・・どこまで本気で言ったんだ?」
「一応全部本気だけど」
グリッソムは悔しそうに唇を噛んだ。
彼女の策略にまんまとかかったことも悔しかったが、同時に、彼女がやっとで表明した抗議に、軽くショックを受けてもいた。
「もう1回やるか?」
そのショックを隠すように、カードを集めながら言った。
「やだ。勝ち逃げする」
サラはからからと笑った。彼女のそんな笑顔を見ると、彼の胸は、甘く疼く。そしてその笑顔を、閉じ込めておきたくなるのだ。
グリッソムは頭を軽く振り、敢えて軽い声を出した。
「1勝29敗で勝ち逃げとはいかに」
「いいの、最後に勝ったから気分いいの」
そう言ってサラは、彼の手からカードの束を奪うと、丁寧に整え始めた。
細く長い指が、カードを揃えていくのを、グリッソムは眺めていた。
ナイトテーブルの上にあった箱に手を伸ばしてカードをしまう。
その手が戻るのを、グリッソムは捕らえた。
指を絡めて、彼女を押し倒しながら、唇に口づける。
「覚悟した方が、いいのかしら?」
サラが皮肉交じりに言ってグリッソムを見上げた。
「・・・十日ぶりだな」
「・・・そうね」
サラは少し、引きつったように笑った。
「君の言う・・・溜ま・・・」
グリッソムは彼女の頬を撫で、さっきのサラの言葉を引用しようとして、がくりとうなだれた。
「さっきのあれは、ダメだ」
「・・・うん・・・」
「ちょっと、生々しすぎるぞ」
「ええ」
サラの声色にも、後悔が滲んでいた。
彼女の鎖骨に指を這わせ、グリッソムはわずかに考えた。
「なあ、サラ」
「ん?」
目を閉じかけていたサラが、うっすらと目を開いた。
「もし、どうしても嫌なときは、ちゃんと言ってくれ」
「・・・分かってる」
「止められるかは、分からないが」
「・・・正直ね」
「君を、傷つけるつもりは、ないんだ・・・」
ふと合わせた視線に、サラは目を細めた。
なぜ、あなたがもう傷ついたような顔をしているの。
彼が時々、こういう表情をするのを、サラは気づいていた。
とても繊細な、少年のような顔だ。私がまるで、拒絶したかのように、傷ついた顔をして。
サラは彼の背に両腕を回しながら、耳元で囁いた。
「分かってる」
あんな貌(かお)を見たら、彼の望みを、拒めるわけがない。
彼のすべてを、受け止めてあげたい。すべてを、受け入れたい。そんなことで、私は何も、傷つかない。
「大丈夫よ」
もう一度囁いて、彼を引き寄せた。
その日、グリッソムは出来るだけ丁寧に抑制して事を進めた。
だが、最後の段階になって、結局努力は徒労に終わったことを悟った。
彼女が指摘したおかげで、かえってそれは強烈なものに変わっていた。
強烈な、破壊的な、衝動に。
グリッソムは、彼女を壊してしまいたかった。
彼女がとても傷つきやすい繊細な心を持っていることを知っている。
そのガラスのような心を、粉々に砕いたら、どんなに綺麗だろう。
そして、砕けた欠片を、彼の手で集めて、もう一度つなぎ合わせたら、それは・・・
それは、やはり、彼女、だろうか?
彼女を傷つけたくないと言いながら、彼女を傷つけたいと望んでいる。
自分で自分が訳が分からなかった。
そのやるせなさを、彼はただ、彼のために乱れている彼女に、ただただ、注ぎ込むしか、なかった。
彼女に高みを与えられることは、もう分かっている。
そして不思議なことに、彼女が昇り詰めると、彼のそういった昏い情念は消え去り、ひたすら幸福に包まれた。
互いに高め合った余韻の中で、グリッソムはふと思った。
結局、彼女がきわどい言葉で指摘したとおりなだけなのかも知れない。
女を征服したいと望む、男のエゴと欲望が、彼の理性を突き破ってくることがある、ただそれだけのことなのかも知れない。
そう思えば、少しは気が晴れるだろうか。
彼女の細い指が、彼の頭を撫でるのを感じながら、彼は幸福を噛みしめた。
互いの呼吸が冷静を取り戻していく。
グリッソムは体を起こし、彼女に背を向けた。
サラはその背中を見つめながら、ふと、言った。
「男がコンドームの後始末してる姿って、ちょっと・・・間抜け」
グリッソムは思わず振り向いた。両手にそれを持ったまま。
サラは苦笑を浮かべた。
「あたしに見せないで」
そう言ってゴソゴソとベッドカバーに潜った。
グリッソムは「片付け」を終え、もう一度サラに振り返った。
「なら言わせてもらうが、女性がそうやって下着を探す姿も、結構おかしいぞ」
「じゃあ外さないで」
「外さないと、できないだろう?」
サラはちらりと上目遣いで彼を見て、また捜索に戻った。
「はじめから着けてなければ、外す必要はないな」
「外すのが醍醐味なんでしょ、男には」
ゴソゴソと着替えて出てきたサラを見て、グリッソムはちょっと上を見て考えた。
「・・・一理ある」
真面目な顔をする彼を笑い、サラは枕の位置を整え、横になった。眠る体勢だ。
普段は、もう少し甘い言葉を交わす二人だったが、彼が少し「荒れた」時は、サラは何も言わないことが多かった。それが今日は、こんな軽い話題をしてきたのは、彼の気を逸らすためか、あるいは自分の何かを誤魔化すためか。ただ、グリッソムには少し、いやかなり有り難かった。
彼女の隣に身を横たえ、彼女の頭を抱える。腕枕を拒むこともある彼女だが、今日は素直に従った。
サラは彼の髭や胸毛をいじりながら、眠りに落ちるのが常だった。今日も彼の胸板に口づけを1つ落とし、満足げな吐息をはき、目を閉じた。
だがふと再び瞼を開けると、彼を見上げて、訊いた。
「ねえ、今日はついでだからいろいろ訊いちゃう」
「今度は何だ?」
グリッソムは少し身構えた。今日は意外な言葉ばかり聞かされている。今度は何が飛び出すかと、少しドキドキした。
「なんで、足を見ながらするの?」
「足?」
「そう。左足。気にしてるわよね」
彼女の左足を脳裏に思い描き、ああ、とグリッソムは思った。
「・・・タトゥーのせいだ」
「タトゥーが、気になるの?」
「あんなとこにあってはな」
「どうして?」
「あれは・・・なんていうか、すごく・・・」
グリッソムは言葉を探した。
「エロティシズムがある」
「ふーん」
サラは思いの外、真面目な反応をした。
「だからみんな気にするんだ」
「みんな?」
グリッソムは思わず彼女を見下ろした。
サラは彼を上目遣いで見上げ、ふふっと笑った。
グリッソムはふと気になって尋ねた。
「いつ入れたんだ。あんなとこに」
なぜか答えず、サラは視線を逸らした。
「若気の至りってやつか?」
冗談めかして言ったが、彼女が吐いた長めの息に、グリッソムは少し驚いた。
それは彼女が話を拒みたいときに立ち上る、壁の気配だった。たいていそれは、彼女の両親の話と直結していた。
グリッソムは話を諦めるかのように、彼女の肩を優しく撫でた。
サラは少し、彼の胸毛をいじった。
「・・・11歳のときに、パパが」
グリッソムは驚いて飛び起きた。未成年にタトゥーを入れるには、当然親の同意書が必要だが、まず滅多に子供に入れさせる親などいない。
それを・・・。
グリッソムが困惑してサラを見ていると、彼女は宥めるかのように肩をすくめた。
「ほら、たぶん、うちの親はヒッピーだったから」
だから抵抗なかったんじゃない、とサラは言った。
「でも、なぜ・・・11歳で?何か、あったのか?」
グリッソムは体を横に戻しながら、尋ねた。
サラはなぜか苦笑を浮かべた。
「あー、まあ、記念というか、お祝いというか」
「お祝い?」
サラはちらりとグリッソムを見上げ、それから頬を掻いた。
「だから、その・・・つまり、女の子の・・・初めての・・・」
「女の子の、初めて?」
サラが咳払いする。だがグリッソムが怪訝にサラを見つめているのに気付いて、サラは溜め息をついた。そして半ばやけっぱちに言った。
「初潮が来たの」
グリッソムは口を薄く開けた。サラが恥ずかしそうに顔を背けた。
「ああ、そうか」
そう言ったきり、しばらく、グリッソムは絶句していた。
「ママはすごく、怒ってたけど」
「・・・だろうな」
落ち着いた声で返したが、その実、グリッソムは衝撃を受けていた。
まず第一に、父親がタトゥーを入れさせたと言うこと自体が、ショックだった。しかし、何よりもショックだったのは、その理由、そして場所だった。
父親なら、男なら、あんなところに入れる意味を、分かっていたはずだ。
それは単純に、「女性」になった娘への象徴的なものだったのか、それとも。
いずれ父親から娘を奪っていく男達に対しての牽制だったのか、あるいは、彼自身が、娘を自分のものとして刻印を刻んだのか。
男なら誰だって、自分の女に自分の印を刻み込みたいと思うものだ。男には、女を自身の所有物と見なしたい側面があるからだ。たいていは、指輪などのアクセサリーで縛ることが多いが、実際に名前を彫らせたりする男もいる。
しかし、父親が、娘にそれをしたというのなら、話はかなり深刻だ。
グリッソムは、サラの父親が母親に対して家庭内暴力を働いていたということしか聞いていない。まさか、それ以上のことがあったとはこれまで考えたことはなかった。
グリッソムはぞっとした。
まさか、父親は、彼女に。
悪い想像が浮かびかけて、グリッソムは慌てて振り払った。
養父の件も、気になり続けている。考えないようにしているが。そのうえまだ実の父親と何かあったとまで、考えたくなかった。
それに、今まで、彼女にそれらしい兆候はない。あれから注意して観察しているが、彼女自身に、過去に虐待を受けたと思われるような反応はなかった。
彼女はもともと、セクシャルな話題には疎かったり距離を置きたがるところがあるが、それは倫理観や単に性格の問題としか、考えられなかった。考えたくなかった。
ふと、思う。
彼女の母親が、父親の娘への異常な感情を察知していたのだとしたら。
それが、受け続けた暴力への溜まった怒りとないまぜになって発揮されたのだとしたら?
グリッソムは長い溜め息を吐いて、そっとサラを見た。
彼女はすでに、穏やかな息をして、眠っているように見えた。
寝顔を眺めていると、穏やかで優しい気分がじわりと湧き上がり、不穏な想像は次第に押しやられていった。彼女の寝顔を見ているのが、彼は好きだった。
彼女の頭をしばらく撫で、それから、起こさなければいいがと願いながら、そっと額に口づけた。
愛おしい彼女。彼女の心の闇は、深い。彼は彼女の心の鎧を外すことに躍起になっているが、果たして、それが正しい行為だろうかと、時々不安にもなった。
だが、彼女が心から笑う笑顔は、とても生き生きとしてキュートで、そんな笑顔をもっと見たいと思うのだった。だから、彼女が纏わざるを得なかった鎧は、やはり下ろして欲しい。そうした方が、彼女自身も生きやすいはずだと、信じていた。
彼女に壁を崩された彼が、壁などない方がいいと思うのだから、それは正しいはずだ。壁がある頃は、息苦しかった。生きていることに真の意味で楽しみなど見いだせていなかった。
彼女にも同じように感じて欲しかったし、それは成功しつつあると思っていた。彼女の壁を感じることは減ってきていた。仮に先ほどのように感じても、彼女の方からそれを乗り越えてくるようになった。彼女も努力しているのだ。それを彼は喜んでいた。
そうすることで、彼女との魂の結びつきも強くなると、信じていたし、そう感じていた。
この年まで、彼だって少なくない恋愛を経験してきた。だが、サラとの交際は今までのどれとも違っていた。
年が離れているせいなのかもしれないが、それだけでもないように思う。
彼女を守りたい、助けたい、その思いが強いのは、確かに年齢差により彼の父性が刺激されているのはあるかもしれない。
これまで、熱愛だと思ってきた恋愛もある。しかし、彼女を見ていると、彼の心は過去の恋愛よりも、もっと鮮やかに激しく動いた。
彼女といると、彼女を見ていると、彼女のことを考えると、切なくて、愉しくて、そして幸福だった。
より直接、魂が揺さぶられているような気がしてならないのだ。
年齢差もあるし、実際の年齢も考えれば、彼は落ち着いてどっしりと構えてこの交際はやっていけるはずだと、誰もが思うだろう。実際、彼自身も、意識せずにそんな風に考えていた節はある。
しかし実際には、彼は彼女の言葉、彼女の行動、彼女の笑顔1つに、翻弄されていた。
彼がいつの間にか築き上げていた孤高の壁を、遂に崩したのが彼女だからなのだろうか。
彼の心は、彼女の前では、いつも無防備に剥き出しになっている気がした。
そして、彼女はそれを優しく抱き締めてくれていた。
時に驚くほど、彼女は慈愛のある表情を見せた。それを母性と呼んで正しければ、そうなのだとしか思えなかった。
彼より遥かに若いこの女性に、母のように抱き止められていると、自分の魂が甦るような感覚に陥ることもあった。
彼の人生に、もう彼女がいないことは、想像が出来なくなっていた。
彼女と付き合う前、いや、彼女と出会う以前の人生は、もはや彼にとって空虚な過去でしか無かった。
彼女と出会って、やっと、彼の人生が、正しく始まったのだと。あるべき形になったのだと。
探していたピースが、あまりに見事に嵌まったのだとしか、思えなかった。
彼女を愛している。
言葉では何度も伝えているが、これほどの想いだということは、恐らく彼女は知らないだろうし、理解も出来ないだろう。
彼女との関係を進める覚悟をしたとき、ありったけの愛を彼女に与えようと決めた。
惜しんでも惜しんでも溢れるくらい、それは今や彼の心を満たしていた。
誓い通り、彼は彼女に愛を注いでいた。
密かに寝顔を眺める時間だけでなく、喧嘩をする時間さえ、愛おしかった。
彼女が彼のものになったのではない。
恐らく、彼が、彼女のものになったのだ。
だから、彼女を真の意味で手に入れたくて、足掻いてしまうのだろうか。
それが時に、彼女をどこかに閉じ込めたくなったり、彼女を壊してしまいたくなったりする要因なのかも知れない。
そんなことをする必要は無いことは、理性では分かっている。
二人でいるときの彼女は、彼を信頼しきって安心している。たまに思い切り甘えてくるときは、本当に可愛らしい。皮肉な切り返しがきいているときは、痛快だ。
彼女の気持ちを疑ってなどいない。
何年も何年も、優柔不断な彼の心の壁をコツコツと叩き続け、ついにこじ開けた彼女だ。
心変わりなど、あるわけがない。
それなのに、なぜ、彼は時々、彼女が腕をすり抜けていくような感覚に陥るのだろう。
彼はその時、彼女の腕を掴み損ねずにいられるだろうか。
TBC.
AN2 : あのタトゥーは、役者さんご本人のJorja Foxが実際に入れてるものなので、あまり深い意味を付けるのもどうかと思ったのですが、妄想が止まらなくて(汗)
実際には、サーフィンされる方は足首に入れることが多いようですね。ウェットスーツ着たら、足首くらいしか見えないですもんね。Jorjaも確かに、サーファーです。
グリッソムは多分、足首フェチなんです(笑)
