Title:Dec 16
[L月:R18]
AN:2008 DN Advent calendar。2008年度 クリスマス企画よりちきーの作品です。
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目が覚めると、昨日抱えて眠ったはずなのに月がいなかった。ベッドサイドに置いたアドベンドカレンダーを掴んで、月を探しに部屋から出た。踵を潰した靴を引き摺って歩いていると、リビングから声が漏れていた。それも聞き慣れた複数の声。
「…何しているんですか?」
リビングの隅に置かれたツリーを中心にして月、メロ、マット、ニアがいた。それぞれの手にはオーナメントがあり、思い思いにツリーを飾っていた。
「見て分からないほど耄碌したんですか、L」
ジンジャーブレッド・マンのオーナメントを弄びながらニアが平たく言った。
「ツリーを飾り付けしている事くらい分かっています。私が分からないのは、今朝はなぜ月くんと私の愛の巣に邪魔者が3人もいるのか、と言う事です」
愛の巣だって、愛されてる~と奥でメロとマットが月をからかっていた。だが、月が二人の名前を呼ぶと大人しく飾り付けに戻った。
「ツリーを買ったから皆で飾り付けしたかったんだけど、…嫌だったか?」
アドベント・カレンダーを買った店にはクリスマスツリーの一式も並んでいた。作り物のツリーが一般的な日本と違って、売られているのは本物のもみの木だった。珍しくて近づいて見ていると、買いに来た親子がどんな風に飾り付けるのか楽しそうに話していた。それを聞いていて月はツリーを買う事に決めた。ワタリを含めて三人しか住んでいない屋敷には大きすぎるサイズのもみの木を。
「嫌ではありませんが…」
仲間はずれにされたから拗ねてんだよ、嫉妬深い奴は嫌われるぞーと、またしてもメロとマットの声。今度はLにじろりと睨まれると、こわ~!と示し合わせた様に二人は大げさに体を震わせた後、盛大な笑い声を爆発させた。
「L?」
やんわりとした微笑みで月がLの顔を覗き込む。それに促されてLはぽつりと話し出した。
「…カレンダーを開けようとしたんですが」
「うん?」
「貴方がいなかったので…」
Lと彼が掴んでいたカレンダーを見た。カレンダーの16日はまだ開けられていない。昨夜、ベッドに向かった時にもLの手にはカレンダーがあり、横になる前にベッドサイドのテーブルに飾っていた。Lが子供時代に与えられなかった特権を自分が与えるのだと思い上がるつもりはない。だが、Lを愛する一人の人間として彼が楽しんでくれる姿にほっこりと胸が暖かくなった。
「今日のカレンダーを開けようか?」
「えぇ」
16と言う数宇は、赤いクリスマスボールのオーナメントに描かれていた。紙を破き、Lの指が中から何かをつまみ出した。それが何か知る前に、月はLにキスをされていた。唇を重ねるものではなく、最初から恋人のキス。
月は頭の片隅できゃーと甲高い偽物の女の子の叫び声を聞いた。
「いきなり…!」
顔を真っ赤にして月はLから離れた。ぐぃと唇を拭う。親しいとは言え、メロたちの前でキスなんて憤死しそうだった。
「ヤドリギ、です」
「は?」
「今日はヤドリギが入ってました」
ほらとLの指が掲げたのは、小さなヤドリギの枝。ヤドリギの下にいる者にキスをしてもいいと言う慣習に従ったのだと言いたいらしい。元々はヤドリギの下にいる若い女性がキスされること拒むと、翌年は結婚のチャンスがないと言うものだったらしいが、それは形を変えて家族同士のキス、友人同士のキス、恋人同士のキス、そしてきっかけの欲しい恋人未満の二人の背を押すものになっている。
「これで気兼ねなく月くんにキスが出来ます」
にやりと悪い笑みでLの唇が持ち上がる。まだ頬を赤らめたまま、月は髪をかき上げた。ヤドリギの言い訳があるけれど、先ほど友人たちに見せてしまったキスにまだ戸惑っていた。けれど、それを言ってもLは分からないだろうなと、月は諦めて溜息を吐いた。
「…お前が気兼ねなんてした事はあったか?」
「月くんが料理している時は遠慮してますよ?」
指をくわえて、Lはかくりと首を傾けた。
「それは当たり前だ。お前に包丁で刺されたいと言う願望があるなんて知らなかったよ」
ははっと嫌みたっぷりで笑うと、ぐいと顔を掴まれて口を塞がれた。またか…!
「ん、ん…」
忍び込んで来た舌先が敏感な粘膜をくすぐる。思わず呻きが月の鼻から抜けた。ウエストに回った腕に反応して月もLの頭を抱えた。キスに夢中になった体は、無意識に二人の隙間を埋めた。筋肉に覆われた自分と同じ男性の体が重なる。
だが・・・。
突然、何かが頭にぶつかった衝撃。見下ろした床にはジンジャーブレッド・マンのオーナメントが転がっていた。
「あーーーー、それ以上はさすがに二人の時にしてもらえると…」
控えめな声に振り返ると、気まずそうに床に視線を落とすメロと、赤い頬を掻くマットと、相変わらず髪を弄るニアの姿があった。びくりと抱き締めた体が跳ねた。腕の中を覗くと自分と同じ位の長身を小さくしている月がいた。髪からは茹だった色の耳が覗いていた。ちょうど良く熟して美味しそうだった。
「・・・では、そうさせて頂きます」
「え…?」
片手に月の腕、もう片方にカレンダーを掴んでLは歩き出す。
「えぇっ…!?」
そのままLに引き摺られて月は数時間前に出たばかりのベッドに舞い戻ってしまった。
しばらくして、月は頬を青くしてるのにどこか嬉しそうなLと共にそうっとリビングを覗いた。
曇った空からは鈍い陽射ししか差し込まない。だから、誰もいない部屋は薄暗いはずなのにリビングの一角だけ明るかった。ゆっくりと点滅を繰り返すオレンジ色のライトがツリーを周囲から浮かび上がせている。見慣れたリビングのはずなのに、ひどく幻想的な光景だった。
リビングのドアで立ち尽くし、二人はしばらくの間ツリーを見ていた。伝統的なオーナメントに混ざって、飾り付けた本人たちの個性を感じさせるオーナメントが誇らしげに枝に掛かっていた。ロボットやおもちゃの銃、ミニのゴーグルは一般的ではないかもしれないが、それでも自分たちらしいツリーだと思った。
「きれいだな」
「えぇ」
いつの間にか二人の手は繋がれていた。
