title:特別な林檎(G)
AN:「一人ぼっちの神さま」のサイドストーリーです。
作中のスミレに関する素晴らしい感想により、この小話が出来上がりました!ありがとうございました~v
Ryuk point of view.
「まったく騒々しいんだから」
ライトが呟いた声が耳に届いた。ライトには忘れ物を取りに行くと言ったが、実際は地上に戻らずにライトの私室に向かった。
弱すぎる俺では相手にならないからと、もう持ち出すことのないクリスタルのチェスセット。対戦する相手がいなくなっても、埃を被っているところを見た事がない。手にしたバッグにチェスセットを詰めた。
そして、もう一つ忘れてはならないものがある。永遠に枯れることのないスミレ。アクリルの中で時間を止めていた。
ある日、自分の望みなんて口にした事がないライトが、頼みがあると俺に言い出した。それが、このスミレだった。エルから貰った初めての花。枯れることのないよう、ずっときれいなまま保存が出来るようにと加工を頼まれたのだ。
俺は地上に戻るとすぐに加工した。アクリルで固められたスミレは時間を止められ枯れることもなく、ライトと共にずっとある。手のひらに収まるほどの小さなそれ。だが、それが持つ意味はとても大きい。
願わくは、終わりの見えない時間をただ一人で生きる事を強制されたライトの慰めになってくれるように。加工を終え、アクリルの中で永遠に花を咲かせるスミレにそう祈った。
そして、今も同じことを祈っている。隣の部屋でライトは特別な林檎と再会した頃だろう。ライトはどんなに驚いた顔をしているだろう。きっと飴色の瞳は月よりも丸くなったことだろう。
良かったなぁ、ライト。もう神さまなんてしないでいいんだ。お前が地上を平和にしてくれたから、人々はみんな穏やかで幸せに暮らしている。だから、もうライトが幸せになってもいい頃だ。
開けたままの扉から、ライトともう一人の声が聞こえる。ずっと昔は舌足らずで幼い声の持ち主。
エルのお陰で、ようやくライトを地上に戻せる。エルのたまあわせから、こんなにも時間が掛かってしまったのは、神さまと言うシステムをなくそうとしたからだ。
本当はエルはたまあわせの日にライトを連れ出したかった。けれど、このままではライトは戻らないとエルは知っていた。
どこからか俺が神さまの世話係と知って、ライトに会えなくなったエルは俺にライトの様子を尋ねるようになった。俺はエルにライトの様子を伝えてやり、エルがライトにと用意したものを他の貢物と一緒に持って行ってやった。
そんな風にしてエルの子ども時代は過ぎ、たまあわせの日が来た。いつもは表情の乏しい顔に興奮を乗せて、自分の半身はライトだと俺に告げた。俺はエルと同じくらい喜んだ。叫んだ。ライトの哀しさを知っていたから。
俺はすぐにでもライトを地下から連れ出したかった。けれど、意外なことにエルはそれは出来ないと言った。半身が見つかったと言っても、ライトはきっと地下から出てこない。他の誰かが自分と同じ目に会うなら、ライトは神さまを続けるだろうと。
説得すればいい。無理やりでも連れ出せばいいと、そんな考えが頭をよぎった。けれど、それは言葉にする前に消えた。外に出たいかと聞いた時のライトの顔を思い出したからだ。家族を守ると誓った言葉の真摯さと、高潔すぎるほどの使命感。誰かと引き換えの幸せをライトは認めないだろう。
そして、今日ようやくライトを地上に戻せる。バッグにスミレも入れてやった。その他の彼が使っていた日用品も一緒に。
荷物を詰めたバッグを持って、扉で二人を待つ。
ずっと、俺が生まれる前からずっとここにライトは住んでいたと言うのに、彼の荷物を詰めたバッグはこんなにも軽く小さい。どれだけのものをライトは諦めたのだろう。
でも、これからは違う。陽がさす森の奥の屋敷で好きなように生きられるんだ。
良かったなぁ、ライト。
END
