最近ファンフィクションをあまり書いていませんが、これからはもう少しストーリーを続けたいと思います。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます!
海
僕はキミを守るから、キミはそこで笑ってて...
歴史上、リリアンヌ王女はルシフィニア革命の終わりに処刑された。強く愛していた婚約者には捨てられ、忠誠を誓ったものには裏切られ、最後には、気に入っていた召使いさえも宮殿から逃げ出した。すべてを失った彼女の最後の言葉:
「あら、おやつの時間だわ。」
―
(砂の中に、小さな鏡を一つ見つけた。)
暗くなる前に帰ったとはいえ、やはり遅い。
リリアンヌは海が大好きだ。あの白く輝く砂、珍重なサファイアのような海は、王女の心に訴えるものだったらしい。アレクシエルはその気持ちを理解できなかったわけではない。責任も、礼儀も、息苦しい法則も、何もかも忘れて、気持ちいい涼し気を抱える風を楽しむことは、アレクシエルだって好きだった。
しかし、周りの人にこれだけ大胆に迷惑をかけるのは、やはりリリアンヌにしかできない芸だ。
「アレクシエル!ドレスが汚れているではないか!」
アレクシエル向こうの空がかすかに赤く燃えていることを気にしていた。また父親に怒られる。
また、あの底知れぬ違和感に襲われた。無視して、笑顔を浮かべた。
「宮殿まで運んであげようか、お嬢様?」と、半分冗談でアレクシエルは答えた。リリアンヌは獲物を見つけたオオカミのような鋭い目で笑った。
「もちろんだよ、王子様。」
リリアンヌは両手でアレクシエルにつかむと、ひょいっと飛び上がった。落ちそうなので、慌ててアレクシエルは膝の下に手をひっかけた。そのままずっしりとリリアンヌの体重はアレクシエルの腕にかかる。
ドレスを着ていたせいかもしれないが、リリアンヌは想像以上重かった。女性は全員ドレスを着ていることを考えるとアレクシエルは何となく尊敬する。きついし、重いし、動きづらそう。
アレクシエルは歩きだした。リリアンヌをはこんでいると、足元が見えない。森の中の道は何年も整備されてなく、足元は木の根がじゅうたんのように張ってある。一回か二回つまずくと、リリアンヌは心配そうな目でアレクシエルを見た。
「歩こうか?」
そっちから何かをしようと、リリアンヌが自ら言うのは珍しい。よっぽどおとしそうなのだろう、とアレクシエルは思った。
「大丈夫。」とだけ答え、腕が痛くないようにリリアンヌの体重を腰のほうに移した。
そのうち、木々の間の薄暗さはかすかな光に変わっていった。次第に暗くなる森の中からは、宮殿の明かりがきれいに見える。森の奥にあるのしっとりした、重い空気ももう感じない。
「もうすぐだよ。」アレクシエルは言った。
返事がないので、驚いて下を見た。リリアンヌの頬はアレクシエルの肩についいていて、目は閉じてある。その安らかな呼吸を聞いていると、お腹当たりが暖かくなっていく。腕はまだ痛いが気にしなくなる。リリアンヌはきっと疲れていたのをやせ我慢していたのだろう。
まえもこういうことがあったような気がした。幼いリリアンヌの映像が頭に浮かんだ。まだ、あの大きな白いリボンを髪の毛につけていたころ、リリアンヌは海岸で転んで膝を怪我した。何か重要なことを思い出したような得体の知れない緊張感はあるが、やはり突き止められなかった。
森を出ると、急に明るくなった。後ろの空は真っ赤に染まっていて、当たりの芝生はほのかな桃色に輝いていた。
「アレクシエル様!リリアンヌ様!」
見上げると、夕日に溶け込むような赤い鎧を着ている男がこちらんに向かっている。
「ライオンハルトさん。」
ライオンハルトの表情は心配と酷い動揺を物語っている。何かおかしいとアレクシエルは感じた。リリアンヌはこれ以前何回も宮殿を出ている。今回は帰りが少し遅かったとはいえ、それほどの問題になることはしていないと思ったのだ。しかし、燃える表情でライオンハルトはアレクシエルとリリアンヌに向かって歩いた。
「遅くてごめんなさい...」とアレクシエルは呟いた。アレクシエルの不安を察したらしく、リリアンヌも動いた。
レオンハルトは一歩先に立ち止まった。後ろは炎のような太陽が沈みかけていて、オレンジの光はすべてを包んでいた。それなのに、レオンハルトの顔は青白く見えた。
「アルス様が...」言葉を飲み込むように、レオンハルトは止まった。「すまん、早く来てくれ。」
鉄の爪がアレクシエルの心臓を握っている。胃がねじれる。
リリアンヌは半分起き上がり、アレクシエルの肩に手をのせる。
「はなして。」
一言で十分だ。リリアンヌの声は静かだったが、二人とも感じるどす黒い恐れを十分込めていた。アレクシエルはリリアンヌを芝生においた。
その時、ポケットの中の固い形が足に食い込んだ。その金属の冷たい感触は厚い布の間からも感じ取れる。アレクシエルの頭から記憶がグルグルと回る。今日、海岸で見つけた箱のことと、その中にあった小さな鏡は、まるで呪いのように感じた。
(それで、すべてが始まったのだ。)
―
砂の中に埋まってあったのは、両手に乗るぐらいの真っ黒の箱だった。海水に砂が流されたのか、角が一つ白い海に浮いている島のように出ていた。沈み込むような暗い表面には模様や印はなかった。ただ、銀の金具が高い太陽に照らされ、ギラリと光っている。
「あれ、何だろう。」
一瞬、記憶のような、夢のような映像が現実と重なる。幼いリリアンヌが足を怪我して泣いていた。そして、箱から現れたどす黒い影、そこからゆがむ運命の歯。
瞬きをすると、リリアンヌはいつもと変わらない、若いが大人気の美しさをかすかに持つ少女だった。ドレスは綺麗な黄色で、豪華なフリルやが何重にもついている。髪には大きなリボン一つの代わりに、黒いバラがついたピンを付けていた。リリアンヌはいつから、これほど見た目を気にするようになったのだろう。
その不思議さと同時に、ずっとする。どうしてかは分からない。
「リ...リリアンヌ!」アレクシエルは叫ぶ。
だが遅い。リリアンヌはもう箱に手を置いていた。
心臓が鼓動を一つ外したように感じた。胸が痛く、頭の中は真っ白に染まる。息は喉に突っかかった。
しかし、ナニモナイ。
何も起こっていない。横からはザーッと、海が砂を引きずる音が響いた。空から、海鳥の甲高い声が風に乗って走っていった。太陽は、さっきと変わらず、暖かく照っていた。
それなのに、冷や汗が出るほどの恐怖が辺りを包んでいた。
「どうしたの?」リリアンヌは、無邪気な声で聴く。何も気づいていなかったらしい。
アレクシエルは大きく息を吸って、震える手を隠した。自分でもどうしてこんな気持ちが襲ってきたのか分からないし、リリアンヌに心配されたくなかった。
「何でもないよ。単に...危ないかもしれないと思って...」
リリアンヌは笑った。
「なんだ!アレクシエルはいつも心配しているね。」とリリアンヌは言って、また箱を眺めた。片手でつかんで砂から掬いだした。
パチッと音がした。箱のふたは音なく開いた。いかにも不気味な雰囲気だと、アレクシエルは思った。
「お!アレクシエル、見て、鏡だ。」
アレクシエルはかけついて、箱の中を覗き込んだ。リリアンぬが言った通り、箱の中には手鏡が一つ入っている。
「どうして、こんなところにあるんだろう...」アレクシエルは呟いた。
飾り気はあまりない、丸い形をした鏡だった。後ろは黒い金属でできている。リリアンヌが腕を傾けると、銀色の銀色の表面が光を反射して、白く輝いた。砂に埋まっていることは少し不思議ではあるが、ほんとに普通の鏡だとしか思えない。
「誰か失恋したのかな。」リリアンヌが小さな声で言った。
アレクシエルは驚いた。リリアンヌの顔には悲しみの面影がかかっている。珍しい表情だった。普段のリリアンヌは、他人の心をあまり気にしない。
「どうしてこれが失恋になるんだよ?」アレクシエルは聞いた。
「だって、忘れたかったら埋めるでしょ。」リリアンヌはその一言を告げると、静かになった。そのシーンとした空気は、太陽を遮る雲のようだった。
そういえば、カイル陛下はリリアンヌの婚約をまた断った。最初から、妹のようで、どうしても恋心を持てないと言っていたので、驚きはしない。政治の網に囲まれている王様が恋愛して結婚するのは珍しいが、母親を深く愛した二人の父親はその心を理解したのだろう。カイル陛下は双子と近いので、どうせいマーロンとの貿易協定には困らないという原因もあった。
それでも、リリアンヌには辛かったみただ。王女様の要求が断られるのはめったにない。
「ねえ、アレクシエル。」リリアンヌが言った。
アレクシエルはそっちを見た。
「これ、あげるよ。」
リリアンヌは鏡を差し出していた。
「アレクシエルが持っているなら、きっとその人も幸せになれるよ。」
理屈はたどりにくいが、文句を言わずにアレクシエルは鏡を取った。小さいので、簡単にズボンのポケットに入る。金属の冷たさは足の肌で感じられる。
リリアンヌは微笑んだ。いつもの明るく、無邪気な笑いだった。
「だって、アレクシエルは、どんな願いでもかなえてくれるから。」
どんな願いでも...
海は宝石のように青く輝いていた。風に吹かれて波がたち、一つずつが太陽の光を鏡のように反射していた。風は水の上を掛け抜いて、波はそれにつられて踊る。地平線を眺めるリリアンヌの目は、その綺麗な海をそのままとらえたサファイヤだった。
