家族との別れを惜しみつつ城を去ったソフィアが次に向かったのは、村の外れにある小さな森の小さな家。3体の不気味なガーゴイル像が出迎える。

ソフィアはガーゴイルたちに微笑むと、ドアを開け家の中へと進んだ。

「そろそろ来る頃だと思ったわ。」
そう言ってソフィアを迎えたのはティリー公爵夫人。満面の笑みを浮かべると、力強くソフィアを抱きしめ彼女の訪問を心から喜んだ。ソフィアは小柄なティリーの身長を追い抜き、今では伯母を見下ろすことが出来る。けれど伯母を尊敬する気持ちに変わりはない。

「私も会えて嬉しい!」
ソフィアも大好きな伯母との再会を喜び、彼女を優しく抱きしめた。

「調子はどう?」
「うん、絶好調!…って言いたいけど」

ソフィアは荷物を床におろしながらため息をついた。

「何か悩みがあるのね?」
ティリーはソフィアの髪を優しく撫で、そのまま頬から顎へと手を滑らせた。ソフィアが不安な時はいつもそうして慰めてくれる。
「あのね、今でも不安になるの。時々だけど…上手くいかない時にね。」

ソフィアはポツリポツリと話し始めた。ストーリーキーパーとして相談出来るのはティリーだけだった。
「伯母さんはどうして私を選んだの?どうして私をストーリーキーパーの後継人にしようと思ったの?」

そう、ソフィアをストーリーキーパーに任命したのは他でもない。ティリーだった。ティリーは目を細めて微笑むと、ソフィアの手を取り語り始めた。

「話したことはなかったかしら?あなたを選んだのは私じゃないのよ。」

「そうなの?」

「あなたを選んだのは、アヴァローのペンダント。」

「ペンダント…?ペンダントが私を選んだの?」

「ええ、そうよ。だから、初めてあなたに会った時は驚いたわ。そして嬉しかった。」

「初めて会った日…一緒に冒険して、アップルパイを作った日!」

「そうよ。よく覚えてたわね。あの時、私はあなたをアンバーと間違えた。アンバーがペンダントを受け継ぐと思っていたからよ。でも違った。」

ティリーは幼い頃、ソフィアと同じように常にペンダントを身につけていた。そして不思議な体験をし多くを学んだ。けれど別れの日がやってきた。それはティリー本人が望んだことではなく、ペンダントの意思によるものだった。

「ペンダントは最初から分かっていたのね。ソフィア、あなたがアヴァローのペンダントを受け継ぐことを。そして、ストーリーキーパーの命を受けることを。」

「ペンダントが、私を選んだ…。昔、パパにも同じ事を言われた事がある!」

「あら、そうなの?だったら自信を持って。あなたが一番相応しいって証拠じゃない。」
ティリーは続けた。
「勇気があって、強い心を持っている人。賢くて、思いやりの気持ちを大切にする人。誰にでも同じように優しく出来る人。みんなを幸せに出来るのはそういう人だわ。つまり、ソフィア。あなたのような立派なプリンセスのことよ。」

「私が立派なプリンセス?」

お城にきたばかりの頃を思い出す。誰よりも立派なプリンセスになること。それがソフィアの目標だった。

大好きな伯母に褒められることは嬉しいけれど、なんだか少しくすぐったい。
ティリーはいつも希望をくれる。ティリーはいつも元気をくれる。そしていつも、幸せをくれる。

私もおばさんのように、素敵な人になりたい。これはソフィアの本音だった。

みんなを幸せにすること。
私に出来るだろうか?
時々不安になった。
でもここに来れば元気になれる。

ティリーはソフィアにとって、幸せへと導いてくれるストーリーキーパーそのものだった。

「誰かを幸せにしたいなら、あなたが幸せでなくちゃ!」
ティリーはソフィアの背中をトンと叩き笑ってみせた。
「うん、そうだよね!」
ソフィアもつられて笑った。