3.幸せにしたい人

これまでソフィアを助けてくれたアヴァローのペンダント。その手を胸に当てても輝くペンダントはそこにない。

ティリーの時と同じように、それはペンダントの意思だった。ペンダントを手放すには覚悟が必要だった。困った時はいつでも助けてくれたペンダント。
動物たちと言葉をかわすことが出来る力。ソフィアはそれが永遠に続くと思っていた。最初は辛かったけれど、その辛さは次第に薄れていった。言葉をかわすことが出来なくても、心は通じることをヒシヒシと感じた。長年一緒にいたクローバーのことは、何を伝えようとしているのかが手に取るように分かった。

この力はもう私には必要ない。

人魚になる力も、小さくなる力も。
知恵と工夫でなんとか出来る。

困った時にはプリンセスが現れ、助けてくれる力も。
今度は私が誰かを助けてあげる番。

昔から、何か問題が起こればすぐに"どうすればいいか"、"何が最善か"ばかり考えていた気もする。元々そういう素質を持っていた。そうすることが好きだった。

自分の力を必要としてくれる人がいること。それが嬉しかった。
それが幸せだと思っていた。

ソフィアはストーリーキーパーに適任だった。ティリーの後継人としてストーリーキーパーの仕事を任され、多くの物語をハッピーエンドに導いた。たくさんの笑顔がうまれた。けれど、物語の中には幸せな結末を迎えることのない人がいることも事実。

本当の幸せって何?

ティリーの言葉が胸に引っかかる。
「誰かを幸せにしたいなら、あなたが幸せでなくちゃ!」

私の幸せってなんだろう?

平和な世界、優しい家族、大好きな友達。

今、目の前には豊かな緑が広がる。
家に帰れば暖かく迎えられ
友の輪に入れば絶えない笑い声。

私は十分に幸せ。

ソフィアは今ある全てに満足し感謝していた。けれど何かが引っかかる。

誰かを幸せにしたいなら…
誰かを…幸せにしたいなら…?

私は誰を幸せにしたいのだろう?

幸せにしたい人…。

ふと頭をよぎる笑顔にハッとする。
首をふり否定する。

『大丈夫。
あの人は充分に幸せなはず。』

否定してはみたけれど、再び浮かんだのは笑顔ではなく憂いを帯びた横顔だった。