(訳註) 本ページの内容は、(訳註)または(TRANSLATOR'S NOTE)と明記してある場合を除き、全てNenya85さんが書き本サイトに投稿した"I Guess it was in the Cards"を、ねこまが翻訳し、作者であるNenya85さんの許可を得て公開したものです。(訳註)または(TRANSLATOR'S NOTE)と書いてあるものは、翻訳者であるねこまが書き加えたものです。

TRANSLATOR NOTE: The contents on this page are the Japanese translation of "I Guess it was in the Cards" written by Nenya85 and posted on this web site except indicated by (訳註)or (TRANSLATOR'S NOTE). The texts indicated by (訳註) or (TRANSLATOR'S NOTE) are written by Nekoma, the translator of this fic. The contents are posted by Nekoma upon the author's permission.


読まれたら批評をよろしくお願いします。私はあなた方が作品を気に入ってくださるか、今後はどうなると予想されるか、そして皆がキャラクターに沿っているか知りたいのです。多くのレビューを頂いて、本当に元気付けられています。


第6章:悪夢

闇遊戯の話

オレは相棒の家での、騒音や雑音に満ちた単調な日常リズムが恋しくなることがあった。学校へ行き、友達に会い、じいさんと夕食を食べ、夜遅くまで相棒と喋る心地よい繰り返しが懐かしかった。オレたちは常に二人の独立した人間だったが、何年かの間により近しい存在になっていた。彼と別れた今となっても、ときどき、まるでオレの良心が彼の声を借りて話しているかのように、確かに彼の声を聞いたと思うことがある。彼の中に沈み、彼の思考や気持ちを感じとることが出来たのが懐かしかった。

オレは今や海馬邸に住んでいた。全ての部屋は空っぽか、もしくは幽霊の住処になっているだけだった。そこでオレは、自分の知りうる限りもっとも自力本願な人物の面倒を見ようというのだった。オレは相棒に従うことに慣れすぎていたために、海馬邸に滞在すればいいという彼の言葉に、よく考えずに同意してしまった。だが今は、彼が助けようとしているのは、オレと海馬のどちらなのだろうかと思っていた。初めて相棒と離れ離れになって、オレは融合したものではなく単独の存在として、独りで生きることを学び始めていた。オレは独りでいること、自分自身の声に耳を傾けること、自分自身の判断に依ることを知り始めていた。そしてオレは、その欠点にもかかわらず―その凶暴さにもかかわらず、このような生活を送る術を心得ている男と共に住んでいた。自分自身の人生に向かい合うに際して並外れた勇気を示した男、10歳の時点で自分自身の決断をし、その結果を受入れることを知っていた男と。

オレは心を親密に通い合わせた人々と共に生きることに慣れてきた。オレは海馬の心を砕いたが、彼の心はオレにとって謎のままだ。ときどき、シャーディーの失われた千年錠があれば彼の魂を覗けるのに、と思う。他の方法では、彼を理解することは出来そうにない気がした。彼の会話は短く事実のみを述べるもので、それは何も明らかにしはしない。オレは、彼の考えと感情は、彼自身からすらも隠されているのではないか、と疑っていた。彼の顔は表情の読み取れない、感情の無い仮面のようだ。

「表情を読み取ろうとしても意味無いよ」俺の思考に割り込んできたモクバが言った。オレは、自分が考えを口に出していたのかと訝った。オレ達は昼ごはんを食べている最中で、海馬は姿が見えなかった。「目をよく見なくちゃ。それか肩と手。彼が何か深い感情を抱いているとき、緊張しているのが分かるよ」オレはモクバに微笑んだ。オレは彼のことを、小さな共犯者のように感じだしていた。オレは、それはいくらか哀しいことだったが、モクバが自然に話しているように見える言葉の殆どは、実際にはそうでないのだ、ということが分かりだしていた。

彼らはチームだ。海馬兄弟は、遊戯とオレのように深く結びついている。オレは彼らの過去について殆ど知らなかった。モクバが海馬に聞こえないように急いで囁いた秘密と、乃亜の世界で見聞きした情報だけだ。だが、オレは、モクバの陽気なオプティミズムを守るために、海馬が何を犠牲にしたのか推測するようになってきた。それはまるで、彼の過剰さと欠点とに、この幼い少年の快活さが対比されているようだった。そしてどういうわけか、そのお蔭で彼の心臓を載せた秤のバランスは保たれていた。

もし人生が思いがけなく複雑なものだとしたら、海馬は少なくとも模範的な患者だった。もしくは彼は新しいデュエルディスクシステムにあまりにも没頭していたのかもしれない。彼は長いすに横になってコンピューターをしかめ面で見ることに甘んじ、時折スピーカーフォンに命令を怒鳴ったり、本社からの電話に思考を中断されてかんしゃくを起こしたりしていた。従業員たちはこの全てを淡々と受け止めているようだったので、オレはこれが痛みや動きを制限されているためではなくて、いつもの彼の行動なのだと結論付けた。

彼が少しでも寛容さを見せるのは、ゲームデザイナーとシステム設計者が定期的に問題報告の電話をしてくるときだけで、問題が複雑であればあるほど良いようだった。彼は自分のコンピューターにプログラムや回路略図を呼び出して、モクバに対してしか見せないような根気強さで彼らと話し合った。オレはこれまで彼をデュエリストとして、オレのライバルとしてしか認識していなかった。だが、それは彼の生活の一部に過ぎない。実際、彼にはその趣味に費やす時間は殆どなかった。オレは彼が易々と別の世界へと入っていくのを見て、ビジネスの才覚を尊敬し、卓越した技術的才能に感服した。彼の細い肩には、彼とモクバの生活だけでなく、この国際企業全体の命運がかかっていることを、オレは今までも知ってはいたものの、初めて実感した。オレには国を統治していたおぼろげな記憶がある。しかしオレは、前世の彼を含め、家族や友人、宰相に囲まれていた。海馬にはモクバしかいない。

オレはモクバの学校が終わった後迎えに行く役を申し出、海馬はしぶしぶ承認した。モクバの安全を他人にゆだねることが不本意だというだけではなさそうだった。彼は明らかにその役目が出来ないのを寂しがっていたが、オレにはどうしても理由が分からなかった。モクバの友人についてオレが最も鮮明に覚えているのは、彼らが遊戯を怖がらせたことだ。もっとも、彼らがオレの記憶にある程には悪質でないことは認めざるを得なかったが、煩さはそれ以上だった。彼らは海馬のリムジンの窓から身を乗り出して他の友達に、時には通行人にさえ叫び声を上げたものだ。そして、特別運の悪い場合は、彼らは更に騒々しいゲームセンターに行って殺し合いごっこをする。オレは海馬の不在にもかかわらず彼を思い起こした。モクバとそのうっとうしい友人を見ればどんな風に目を和らげるだろうか。また別の約束が守られている証である、彼らが元気いっぱいにうるさく騒ぐ様を見たならば。

オレたちが帰ってくると、海馬はまだ仕事をしている。モクバは彼の隣に座り込んで、ぶつぶつ言いながら宿題を始める。彼の兄同様、大抵のときは大人として働いているモクバが、宿題について愚痴をこぼしている様は面白かった。それに彼の主張ももっともだ。ペガサスのデータベースにハッキングできるほどの人間が、何ページもの簡単な方程式を解かなければならないのはおかしい。海馬は共感は示したものの、断固たる調子で、宿題が完璧に仕上がっているか1ページ1ページ厳しくチェックした。彼はモクバが質問に正しく答えられているかどうか知るために、課題の小説や物語に目を通しさえした。もっとも、それらについて語りあうのは拒否したが。彼はオレに、何故想像上の人物の架空の問題に時間を浪費したがるような人間がいるのかが分からない、と打ち明け、オレを微笑させた。これに関しても、他の多くのことと同様に、モクバはより柔軟だった。彼は宿題は嫌いだったが、ファンタジーや漫画を愛読していた。

オレは、その自己犠牲的な性質が心配だったものの、海馬のモクバに対する深い愛情には以前から感心していた。しかし、彼が弟を育てるという挑戦に日々奮闘している様は微笑ましかった。実際、彼はそんな責任を負うには彼自身若すぎたし、不安定すぎた。彼は後ろに付きまとう弟を殆ど無視していたかと思うと、次の瞬間には突然、彼のデッキやシステム設計に向けるのと同様の、不安になるほどの激しさで弟に注意を向けるのだった。一方モクバは、彼の兄サマをなだめすかして食事をさせ、休憩させ、そして心を刺すのは、海馬には沢山の約束以外に生きる意味があると納得させようとしていた。ときどき、どちらがどちらの面倒を見ているのか分からないことがあった。

夕食の後、兄弟はまた長いすに寝そべる。海馬は仕事に戻り、モクバはゲームボーイで遊んだり、学校のコンピューターに侵入しようとしたりしているうちに眠ってしまう。

海馬が怪我をしたことで最も悔しがっていたのは、オレにモクバをベッドまで運ぶ役を任せねばならなかったことだ。彼はオレの後に着いてきて、オレが居なくなるまで待ってからベッドに近づく。ドアから出て行くときに振り返ると、彼がモクバの髪を撫でたり、身を屈めて頬にキスしたりしている様子がちらっと見える。彼らはとても近しい関係だったが、オレは海馬が最愛の弟を抱きしめるのを一度しか見た事がない。決闘者の王国で再会したときだけだ。モクバは、彼の兄サマが毎夜、やっと自由に愛情を表せるようになって、彼を抱きしめてキスしているのを知っているのだろうか。

海馬が戻ってきたら、オレたちは夜遅くまで話をする。オレには、彼がオレに一緒に居て欲しかったのか、単に眠らない口実が欲しかっただけなのか分からない。寝室の薄闇は打ち明け話をするには絶好の場所だった。しかしこの場合は海馬なので、オレたちは代わりにデュエルモンスターズの話をした。相棒は決闘者の王国で、彼にカードの心を見つけたか、と訪ねた。彼がぽつりぽつりと不器用に話す様子から、彼が未だに答えを捜し求めていることが感じ取れた。

「ハーピィ・レディは見た目の通り何にも心を動かされなかったか? 彼女の目は傲慢だったか、それとも悲しげだったか? バスター・ブレイダーはドラゴンを嫌っていたのか、それとも愛していたのか、墓地に葬るときでさえも? ドラゴンを破壊するとき、彼は勝利に酔っていたのか、それとも悲しんでいたのか? エルフの剣士は自らの無力を悔しがっていたか?」

オレは彼の大げさな質問に答えようとしながら、オレ達はやはり打ち明け話をしているのではないか、と思った。

そしてオレは、オレの記憶の欠片について話す。過去に押し戻され、もはや思い出すことの出来ない王国を救おうとしたこと。記憶の番人との契約、どのようにしてオレは新たなチャンスを望んだのか、現世で生きていこうと思ったのか、過去の欠落を受け入れたのかを。海馬は聞き上手だった。彼は話を聞いていることを示すためにときどき相槌を打ったり、まるでオレを安心させるためかのように、オレの腕にためらい勝ちに触れたりするほかは無言だった。彼の青い目は初めて表情を映し出し、オレを気遣っていた。

彼は、オレが毎夜傍に付いて、彼が眠るのを見守り、彼の悪夢を待っていることに気付いていなかった。彼は決して意識的にそこまで自分自身をさらけ出すリスクを取らなかっただろうし、その忌々しいプライドは、眠っているときですら、自分が助けを必要としているなどと認めようとはしなかっただろう。

しかし、彼が拒絶する過去は夜に戻ってきた。彼は自分より大きくて強い相手と戦っているかのようにベッドの中でのたうった。耳障りな叫び、ぞっとするような笑い声、昼間は決して漏らされない声が、今は発せられた。最初の夜、オレは彼を押さえつけようとし、彼の名を呼んだ。しかしオレの腕も、「海馬」と叫ぶ声も彼をより興奮させただけで、オレは彼が腕を振り回して、オレ達のどちらか又は両方を傷つけるんじゃないかと思った。それに、もし彼が今目を覚まして、オレにこんな状態を見られていたと知ったら、決して許してくれないだろうと心配になってきた。

オレは医師のことを思い出し、ありそうにもない解決方法だとは思ったが、彼を両腕で抱きかかえた。「瀬人」オレは優しく、初めて彼の名を呼んだ。「大丈夫だ。安心しろ」腕の中に抱いていると、彼は徐々に静かになって穏やかに眠りだした。その時初めて、耳慣れないビープ音がずっと聞こえていて、それが止んだことに気付いた。

オレは相棒の家で夜通し起きて、彼が眠るのを見ていたものだ。オレは相棒が夢と追いかけっこをしている表情を見て、彼の安全を確かめて満足した。あの必要とされている感覚が懐かしかった。暗く眠れぬ夜に世界と調和する感覚が。皮肉なことに、海馬のお蔭でその感覚が帰ってきた。

彼が横向きに丸くなって眠る様子は、少しばかり相棒を思い出させさえした。彼は眠っているときですら握った拳を緩めようとはしなかったが、寝顔は安らかだった。オレは唐突に、何故彼がしょっちゅう、あんなにもオレを怒らせるのか理解した。オレは長いこと、オレ達は基本的な点で似ているところがあると思い、それを受け入れてきた。しかし、彼がオレに似ている道理などない。彼は少年といくらも変わらない。相棒か、モクバに似ていてさえ良い筈なのだ。オレは彼が闇雲に突っ走るのを見ているのが嫌だった。彼自身には与えない慰めをモクバに与え、幾度も戦い、事業を経営し―過去に交錯する影を否定し続けながら―自分が深みにはまっていることを認めるにはプライドが高すぎ、頑固すぎるのを。ある意味では、オレの怒りは祝福だった。海馬は犠牲者ではなく、戦士になることを選んだのだ。オレ達はどちらも、哀れみに繋がりかねない他の感情よりも、怒りのほうを好んだ。

毎晩が前の夜の繰り返しだった。4日目に、モクバが隣とつながるドアから部屋に入ってきて、やっとビープ音の正体が分かった。彼は電子錠の暗号を解いたのだ。彼は、オレが海馬を腕に抱いている光景に一瞬立ち止まった。ラッキーなことに、海馬は静かになっていた。しかし、モクバが彼の兄サマの身動きしない姿を見て表したのは、安堵ではなく疑いだった。「大丈夫だ。オレを信じろ」モクバはベッドに駆け寄った。彼は薄紫色の目に恐怖を浮かべており、オレは前にこの言葉を告げたとき、彼の兄は昏睡状態に陥ったのだということを思い出した。彼は海馬の規則的な呼吸を聞いて緊張を解き、オレと一緒に長いすに腰掛けた。「約束する」オレは言った。「オレは二度と彼を傷つけない」

「でも、兄サマはお前のライバルだ。友達だったことはない。どうして彼が悪夢を見るからって気に掛けるんだ? どうして助けようとするの?」

「オレもお前が知っているのと同じ兄サマを知り始めたんだと思うぜ」

彼は満足そうにため息をついてオレに寄りかかった。「オレが眠ってしまったら、オレのベッドまで運んで、ドアの鍵をかけてくれ。そうじゃないと、兄サマはまた暗号を変えてしまうから」彼はそう言った途端眠りに落ちた。オレは兄弟の密かなゲームに微笑んだ。そして心の中で相棒に敬意を表した。彼は正しかった。海馬兄弟にはどこか捨てられた動物のようなところがあった。どこか勇ましく、守るに値するものが。