亜門もトーカと同じところが引っかかったようで、眉を顰めた。
「喰種を始末する以外で、東京の平和は保てないぞ」
「…」
ユキナはサンドイッチをまた手に取り、一口かじった。どう説明するか考えていたようだが、飲み込むと、考えがまとまったような顔つきで話し始めた。気まずそうに、視線はサンドイッチに向けていたが。
「確かに、喰種のやっていることは酷いと思いますし、市民の安全のために、始末しなければならないと思います。でも、大食いや美食家なんかがいる中で…喰種の中にも、本当は人なんて殺したくない。仕方なくやってる…そういう喰種くらい、助けられないか。喰種についてもっと調べれば、何か見えてくるのではないでしょうか」
亜門は首を振った。
「無理だ。捕食を止めるには、赫包を摘出するしかないが、そうして喰種が生き延びる証拠はない。確かに一部の喰種は君の言う通りかもしれないが、凶暴な喰種が多いし、そもそも喰種が捕食以外で生きる方法はない」
ユキナはミルクティーのカップを持ち、ゴクゴク飲んだ。カップを口から話すと、少し残念そうな目で話した。
「そうですよね…理想、ですよね。ただ、私たちは、自分のことは主観的に見るけど…他人のことはすぐ何か決めつけちゃうっていうか…何だろうな。もっと広い心で、色々な角度から、喰種を見たほうがいいかなって思って…。なんか、生意気なこと言ってすみません」
ユキナは俯いた。
「あ、いや、理想は決して悪いことではない、物の見方は人それぞれだ。ただ、喰種を研究するのは科学班の仕事だし、俺たちにできること…俺たちがやるべきことは、喰種を始末して、市民の安全を守ることだ」
ユキナは頷き、またサンドイッチを食べ始めた。
「まあでも、なぜ喰種が人を襲わない時があるのか…それはやはり知りたいな、と思います」
ユキナは少し話を変えようと、自分を見逃した喰種について触れた。
亜門はふと、最近自分に起こったことを連想した。
「そういえば、実は俺も最近、喰種に逃がしてもらったんだ」
「え!?そうなんですか?」
ユキナは驚いた。亜門は頷き、眼帯の喰種について話した。殺そうと思えば殺せたものの、眼帯の喰種は、亜門を殺したくないようだったこと。その理由が、今でも謎だということ…。
ユキナは亜門の話を聞き終えると、奇妙な出来事に首を傾げた。
「それは…不思議としか言いようがありませんね。とくに『人殺しにしないでくれ』という言葉…喰種であるのに、まだ一度も人を殺したことがないのでしょうか?」
「さあな。もしかしたら、親が代わりに殺してるかもしれない。でも、何かが違うような気がする…まあ、考えてわかることじゃないけどな」
亜門とユキナはサンドイッチを食べ終え、飲み物を飲み干した。2人は足元に置いてあったクインケのケースを持ち、ユキナはも片方の手で白いバッグを持ち、立ち上がった。亜門がレジで会計を済ませていると、店長がユキナに話しかけてきた。
「お味はいかがでしたか?」
「あ、はい。サンドイッチもミルクティーも、とても美味しかったです。強いて言うなら、もう少しサンドイッチを薄味にすると良いと思います」
ーーたしかに、俺のサンドイッチも少し塩辛かった、と亜門は心の中で思った。コーヒーは本当に美味しかったが。
芳村はにこやかに頷いた。
「ありがとうございます。サンドイッチの方は、改善しますね」
芳村はそう言うと、ふと上を見上げ、顎に手を当てた。
「ところで、うちの店はどちらでお聞きになりましたか?」
ユキナはパッと明るい表情になった。
「ネットで、この時間に開いてる喫茶店やカフェを調べてて…ここは母に聞いたことがあったので、来ました」
このことは初耳だったため、亜門は驚いた。
ーーそうか、ここを知っているとは、そう言う意味だったのか…
「ほう、ではお母様はここに来られていたのですか」
「はい。かなり前のことですが、このお店の前を通った時、『父と付き合い始めた頃に何回かここに来た』と言ってました。いつか私と行こう、と言っていたのですが…母は病気で亡くなってしまいました」
「そうですか…それは残念です」
ユキナは、少し悲しげに微笑んだ。
「…私は、つい最近20区に引っ越してきたばかりなんですが、今日、ここに来れてよかったです」
亜門が財布をしまうと、2人はドアの方へ歩いて行った。
「ありがとうございましたー」
亜門がドアを開けると、店員は皆、穏やかな雰囲気でそう言った。入ってきた時の、ピリッとした感じは、もうなかった。
「ありがとうございました」
ユキナと亜門もそう言い、2人はあんていくを出た。
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