(訳註) 本ページの内容は、(訳註)または(TRANSLATOR'S NOTE)と明記してある場合を除き、全てNenya85さんが書き本サイトに投稿した"I Guess it was in the Cards"を、ねこまが翻訳し、作者であるNenya85さんの許可を得て公開したものです。(訳註)または(TRANSLATOR'S NOTE)と書いてあるものは、翻訳者であるねこまが書き加えたものです。
TRANSLATOR NOTE: The contents on this page are the Japanese translation of "I Guess it was in the Cards" written by Nenya85 and posted on this web site except indicated by (訳註)or (TRANSLATOR'S NOTE). The texts indicated by (訳註) or (TRANSLATOR'S NOTE) are written by Nekoma, the translator of this fic. The contents are posted by Nekoma upon the author's permission.
読まれたらレビューをよろしくお願いします。これは本作の結末に向けた5と1/2章の始まりの部分です。皆さんのレビューは素晴らしいです。私は皆さんがどのような結末になると考えているか知りたいのです。
作者註: 話の連続性について: 私は話の連続性を保つために小さな修正作業をしている途中です。本章に関わりがあるのは、モクバは私が以前言ったように11歳ではなく、12歳のはずだということです。
感謝: Spirit Starは以前、表遊戯と闇遊戯の絆に対する海馬の気持ちについて質問しました。私は自分の頭の中では非常にはっきりと思い描いていたにもかかわらず、本章にはそれについて数文しか入れていなかったことに気がつきました。話を頭の中に留めておくだけでは充分ではありませんので、私は闇遊戯と瀬人にこのことについて真面目な話をさせるときだと思いました。(「話をする」と言うのは間違った表現かもしれませんが。)
彼らの会話文を批評し、それをより良いものにするために鋭い指摘をくれたKagemihariに感謝します。また、海馬瀬人のような無表情の感情を表せない馬鹿の視点から章を語ることに付き纏う問題について、何週間も愚痴を聞いてくれた彼女とsamurai-ashesに感謝します。
第23章: 挑戦状
海馬瀬人の話
オレは杏子が魔女だということを忘れていた。
それは疲れる一日だった。オレはついに遊戯にオレのデュエルカフを見せた。それはオレが初めて自分のためだけに創ったものだった。オレはモクバとの多くの約束の一つを果たすために海馬ランドを創っていた。オレは海馬コーポレーションの兵器工場を破壊した。オレ達の名誉を挽回しようとする無益な試みの中で、オレ自身の本質を変えようと苦闘すると共に、海馬コーポレーションの本質を変えた。しかしデュエルカフは、単に最初の闇のゲームで垣間見たモンスター達を見たい、彼らに生命を吹き込み、それを遊戯と共有したいという欲求のみから設計した。それを彼への贈り物…または捧げ物として提示したいという。
オレは成功の喜びで真っ赤になっていた―同様にまた、決まり悪さで。デモンストレーションはオレ自身のコンピューターラボの床で、オレが誘惑することで終わった。後になって、遊戯の優しい眼差しを感じて、オレは無理やり淡々とした表情を保った。彼の腕の中にいた喜びを思い出して、恥ずかしさにニヤつくのを抑えた。オレが今望むのは、モクバと遊戯と共に家で丸まって寝ることだけだった。正直なところ、オレが毎晩望むのはそれだけだ。しかし遊戯は既に予定を作っていた―オレ達は代わりに、もう一人の遊戯と杏子と一緒に夕食をとることになっていた。
オレは以前、遊戯はオレにどんな代価を要求するのだろうと考えた。今分かった。オレが孤立を手放すことだ。家では、オレは自分が氷の壁の内側に生きていることを忘れていられた。仕事場ではそれが普通に思われた。もう一人の遊戯とその友人たちだけが、オレにそのオレ自身が作り出した障壁に直面することを強い、その凍った支配力でやけどするほど近づくことを強いた。
だから、オレは亀のゲーム屋でもう一人の遊戯の友人たちに囲まれて過ごした夕べを、ある種の支払形式だと捉えていた。オレは未だに彼らを著しく愚鈍な連中だと思っていた。彼らのうち誰一人として剛三郎の家で一週間と持たなかっただろうし、それがオレの他人を評価する基準だった。しかし退屈な連中ではあっても、遊戯にとっては、オレにとってのモクバと殆ど同じくらい大切なのだ。そして遊戯はオレの弟に果てしなく親切だった。オレは自分にかき集められる限りの礼儀をもって返済する負債を抱えていた。
遊戯は奴らに話したに違いなかった。以前なら奴らにそっくりな蚊のようにオレに襲い掛かってきたことだろう。奴らはオレを質問攻めにし、要求攻めにし、最後には答えを返さないオレに侮辱を浴びせかけたことだろう。今は彼らは双六の慈悲深い眼差し―彼はオレを嫌うべきであるのに―の下に、隅に座っているオレを放っておいた。(何故こいつらの誰も今まで怨恨を抱かなかったのだろうか?) オレは彼らがオレを仲間として受入れ、彼らが互いにそうするようにオレの奇癖を許容したと考えるような愚は犯さなかった。と言うよりは寧ろ、彼らはオレの存在に慣れたのだ。まるでオレが単に遊戯が持ち歩くアクセサリーで、彼の腕輪やベルトの妙なコレクションの一つか何かであるように。
オレはよくあることだが、無慈悲な態度を取っていた。だがオレはまた、めったに起こらないことを願うが、不誠実な態度を取っていた。何故なら、オレはもう一人の遊戯が無価値だとは考えていないからだ。たとえそれが、ただ単に彼についてどう考え、何を感じるべきかもう分からなかったからかも知れないにしても。そして、オレの性質ではない不明確さはオレを悩ませた。
と言うのも、オレは決して認めたりしないが、もう一人の遊戯はオレにモクバを思い出させるからだ。より厳密に言えば、彼はモクバが成長したらそうなって欲しいとオレが密かに願っている人物像を思い出させる。オレを怖れさせるのは、モクバがどんなに簡単にオレの代役になり得たかという考えだ―モクバに避けて欲しい全ての青写真がオレだというのに。そしてもう一人の遊戯は、モクバの温かみと心の広さを持ち、多くの点でオレと反対だ。
そして、何と言っても、もう一人の遊戯はオレの命を救った―オレは未だに彼の選択は間違っていたと思っているが。オレは今まで充分な感謝の念を表したとも、感じたとさえも言えない―しかし、少なくともオレは時間を有効に使おうと努力してきた。
だが、もしもう一人の遊戯がオレの命を取り戻したのなら、彼はまた、もしオレ達の立場が反対だったならば、オレは海に石ころを投げ入れるように無造作に、彼をペガサス城の塔から落としただろうという認識と共に生きていくことを強いた。
遊戯がオレの心を砕いたとき、彼はオレの良心を元に戻した(これもまた価値のあやしいプレゼントだ)。だからオレはもう一人の遊戯について考えると、羞恥心からちくちく刺されるような気がした。彼はモクバの命を救った。更に悪いことに、それはオレが彼のじいちゃんを殺しかけた後だった。彼は可能な限り最も完全な方法で復讐をする機会があったのに、そうしなかった。だがオレは、もはや情けをかけるなど彼は愚かだとはとても言えなかった。彼は愚かではなかった。彼は勿論、殺人者ではないだけだった。そしてオレはもはやそれを下に見ることは無かった。彼は遊戯にふさわしい相棒だ―オレよりもずっと。
恐らくそれが、遊戯の口から彼の名前が出る度に聞くのがつらい原因だ。と言ってもオレはありきたりの意味での裏切りを恐れていたのではなかったが。そしてオレが沈黙を守っていた多くの事柄のうち、まさにこの沈黙が遊戯の耳に入っていたとは気がついていなかった。言い換えるなら、彼にも同じようにオレの再保証が必要なことがあるのかもしれないとは気がついていなかった―モクバとオレが新たなデュエルカフのテストのために籠もる前の晩までは。
「お前は彼をどれくらい学校から連れ出すつもりなんだ?」遊戯は疑うように尋ねた。
尋ねたいことがあるとき、オレが答えたがらないと分かっている質問のときは、彼はいつも夜ベッドに入るまで待った。オレ達が愛し合った後、言い換えるなら互いをヤった後、言い換えるなら何でも好きな動詞を当てはめればいいが、その後を好んだ。もしかしたら、彼はそれが、オレが怒鳴らないで彼の話を最後まで聞くほどリラックスしうる唯一のときだと判断したのかも知れない。もしかしたら彼は単に、オレが避けられない喧嘩を始めた後の和解の場として、居心地の良い場所が欲しかったのかも知れない。
「システムのテストに必要な期間だ」オレは我慢して言った。「フン、貴様は彼が海馬コーポレーションの副社長だということを忘れたのか? それともそれが冗談だとでも思っていたのか?」
「彼はまだ十二歳だ。彼は学校に行くべきだ」
遊戯は彼の名を出さなかったが、オレにはその考えがどこから来たか分かっていた。そしてオレのかんしゃくの手綱は外れだしていた。結局のところ、怒りがオレの初期設定だ。そしてもう一人の遊戯のコメントなど聞かせられなくとも、自分がどんなに酷くモクバを失望させたか知っているだけで充分に苦しかった。
「当ててやろうか。それももう一人の貴様のありがたいご忠告だろう」オレはせせら笑った。「貴様が見落としていた場合に備えて言ってやるが―彼はビジネスをしていない―兄弟もいない。だったらオレにこういうことについて指図をするな。
ああ、それが何になる? 貴様はオレを信用していない、そうだろう? これからも決して信用しない」オレはうんざりして言った。「もういいだろう」
「もういいだろう?」彼は苛立ちを増して繰り返した。「何故だ? それでお前がここにじっとして、オレが言ったこと全部を内心で勝手にねじ曲げて、自分の怒りに油を注いでいるのを、オレは見ていられるって訳か? そしてお前が自分の感情を葬り、それが悪夢の山の一つとなるまで、お前の心を食い尽くす様を見ていられると?」
激しい怒りが喉をせり上がってくるのが感じられた。オレはそれを無理やり飲み込んだ。だがこの方法が長くは効かないことは分かっていた。
「遊戯、放っておけ。こんなのはごめんだ」
「だったらオレは、相棒とモクバの名を一緒に口に出す度に躊躇わなければならないなんてごめんだぜ」彼は反応した。「何をそんなに怒っているんだ? 悪い提案じゃないだろう。お前は普通の十二歳の子はホログラムを弄くるために学校を休んだりしないものだと知っているはずだ。それともそれが相棒の考えだからっていうだけではねつけるのか?」彼は一呼吸置いた。「瀬人、オレはお前が何を考えているのか知らなきゃならない。お前が何を感じているのか知りたいんだ」
オレが何を感じているか知りたいだと? オレは自分の血液が静脈を逆流するのを感じていた。オレは怒りがオレのドラゴンのように身体中を駆け巡り、解放を求めて叫びたてるのを感じていた。オレは崖っぷちにしがみ付く男のように、持ちこたえようとした。
オレはそんなことはしたくなかった。
「貴様と相棒にニュース速報だ。モクバが典型的な、幸せな子供時代を過ごした事があるなどと主張するにはとっくに手遅れだ。オレは努力した。だが与えられなかった」オレは苦々しい気持ちで言った。「だから、オレは自分に与えられるものを与えている。オレは彼がいつか会社を経営できるように教育している」
遊戯は何も言わなかったが、オレは聞いた―いや、想像した―「…剛三郎がお前を教育したのと同じように」―その言葉が空中に響き渡るのを。遊戯はそんなことは言わなかった。考えてさえいなかった。だがそれでもオレにはそう聞こえた。だから出来る限り意地悪く反応した。
「オレは二度とモクバを傷つけない。貴様はそれを分かっているべきだ。なのに貴様は分かっていない。それがオレのやることなすこと全てをもう一人と検査する理由か? 貴様がオレをヤる前にもあいつの許可が要ったのか? フン、次にオレの兄としての失点についての、貴様の大事なヒカリとの率直なスモールトークの結果、オレの背中を刺すことに決めたなら、貴様の胸にしまっておくことだな!」
「お前はそんなこと思って…」遊戯がつぶやいた。
初めて、彼の眼差しはオレの混乱と共鳴した。初めて、オレは彼の最も弱い部分を、狙ったとおりに傷つけた。
遊戯はこれまでにオレに起こった出来事のうち最高のこと―唯一のいいことだった―モクバ以外で。そしてオレはそれをめちゃくちゃにしようとしていた。オレが驚いたとは言えない。オレはいつだって、自分の人間関係を保つ能力を非常に低く評価していた。いつだって、自分がついには彼を追い払ってしまう日が遠くはないだろうことを知っていた。これは予想されたことだった。受入可能でさえあった。
だがオレは、自分には不可能だと誓って言えたはずのことをしたのだった。オレは遊戯に自分自身を疑わせた。彼の人格のかなめを疑わせた。オレはオレだ。オレはとどめを刺さねば気が済まない。だがオレがどんなにののしっても、遊戯はいつだって穏やかで、辛抱強かった。オレは自分が彼を傷つけられるとは全く思ったことがなかった。今オレは遊戯の心を内部分裂させた。そしてオレはそれを反射的に、殆ど考えずにやった―そしてそれは受入可能ではなかった。
オレが自分で言った言葉を信じていたというのでさえなかった。遊戯がオレを大事にしているのは、もしかしたら愛してさえいるのは知っていた。オレはただ思いつく限り一番嫌らしい、傷つくことを言っただけだった。そしてどんな裏切りも意図されていないと知っていながら、彼に自身の気持ちに対する不信感を無理やり抱かせた。
不意にオレの怒りは消えてしまった。怒りが去ったショックでオレは正気に返った。オレはフィールド上の破壊を調査する間、茫然と舌がもつれた状態で取り残された。オレの怒りは外に向かって爆発するもので、オレはそれを解き放つのを大いに楽しんでいた―遊戯を傷つけるまでは。
もう一人の遊戯は、彼の大きな弱点だからだ。オレにとってのモクバのように。オレの捻じ曲がった言葉が間違った対象を攻撃することで引き起こすであろうダメージについて、オレは知っていた―いや、知っていなければならなかった。遊戯は決してオレの敵では無かった。彼はオレの恋人だった。他の事はともかく、オレは彼に誠実でいる義務があった。
初めて、オレが彼を慰める番だった。
「くそ、遊戯―あんなことを言うつもりではなかった。自分でも何故自分が貴様を遠ざけようとし続けるのか分からない。オレが望むのは貴様の腕の中に留まることだけだというのに。いつか貴様が目覚めて、オレが貴様を失う日に恐れをなしているというのに。いつかオレが目を覚ましたら、貴様が行ってしまった事に気がつく日を。オレが望んだものの全ては夜と共に消え去ってしまったことに気がつくのを。
だが何が起ころうと、貴様に分かって欲しいのは…オレは理解している…つまり、貴様ともう一人のことをだ。彼はお前の光だ。フン、オレには分かっている。貴様は彼の存在を渇望している…太陽電池が発電するには太陽が必要なようなものだ。
もう一人とオレと―ここには両方がいる」 オレは彼の心臓の上に手を置いて言った。「オレが貴様の気持ちを何も知らないと―もしくは貴様を責めるとでも思っていたのか? フン、オレは二つに分かれた忠誠心をよく知っている。結局、オレの心のつぎはぎの当たった残骸に、第一の所有権を持っているのはモクバなのだ」
「お前の思っている以上のことがあるんだぜ」彼は囁いた。
オレは信じられなかった。この期に及んで、彼は依然としてオレを慰めようとしていた。
「くそ、忌々しい…! 遊戯。こんなことに一体何の価値があるというんだ」
その通りだった。彼がオレの執務室に押しかけてきてオレにあんなに怒った日から、オレの理解はちっとも進んでいなかった。彼が初めてオレにキスをした夜からも。オレは不本意ながら、何故彼が構うのかはっきりさせようとするのを諦めてしまった。何故彼が気に掛けるのかを。オレは理解できないままに、それを受け入れようと努力していた―だがそれは苦難の連続だった。根拠の無い盲信と信用は決してオレの流儀ではなかった。
彼はああ言ったが、彼の目にはオレが植えつけた罪悪感が未だに影を落としていた。誓って言うが、オレは自分に彼を傷つける力があるとは知らなかった―こんな風には。そしてオレは、自分には破壊するだけでなく、治す力があるのかを見つけ出さなければならなかった。
「遊戯、オレは人の心を読む術なしに、こんなにも長い間、ここまでやっては来られなかった。貴様の言葉は信用に足る。オレ自身の言葉よりもずっと確実なくらいだ」
くそ、やりにくい。オレはいっそのこと遊戯がオレの心をもう一度砕いて、望みのピースを抜き取ってしまえれば良いと願った。その方が恐らくどちらにとっても痛みが少なかっただろう。オレは大きく息を吸い込んで、自分がそれらを止めたり削除したり出来ないように、急いで言葉を放った。
「貴様はオレのためにモクバを守った。オレの心を砕いた―その後オレがそれを組み立てなおす間、オレを保護する暗闇となった。今分かった。貴様はオレも逆に貴様の心の中に入り込むとは考えなかったのか―それを近しく知るとは? 忘れたのか―オレは貴様がマリクと戦ったとき、貴様を安全に守るデビルズ・サンクチュアリだった。オレ達の魂はあの日に交差した。オレは貴様を知っている。貴様は自分の身体で刻印した約束を決して破れなかっただろう」
今回は、驚きで開かれたのは彼の唇だった。今回は、抵抗できなかったのはオレのほうだった。オレは屈みこんで、ゆっくりと、優しく、オレの唇でそれに触れた。オレの魂はかつてカードに囚われ、彼に解放された。今、オレはそれを彼の保護下に返そうとしていた。オレがそれを彼の身体に吹き込めるかのように。オレの唇は彼の首筋を、平坦な胸を辿った。舌で彼の乳首を捕らえ、彼の身体に火をつけていった。
オレは彼の上になり、キスをし、触れられるところ全てに愛撫をした。勿論、以前にも、こちらの役割になったことはあった―オレが身を委ねる方だという考えにもはや耐えられなくなったときや、興奮させられたり挑発されたと感じたとき、それに―なんてことだ―ふざけ回りたい気分だったときには。
だがこれは違った。彼にまたがって、彼を撫でさすって、彼を愛撫して、彼を高みに導き、彼をオレのものにするというのは―まるで、彼を所有することによってのみオレの信頼が証明できるかのようだった…彼と共にいることによって…彼の中に入ることによって。オレは自分の中にあったとは知らなかった優しさで彼を抱いた。今一度、オレの身体ならオレがどうしても言う事が出来ない言葉を見つけると信じて。
今回は、眠りに滑り落ちる遊戯を腕に抱いていたのはオレのほうだった。
いや、オレはありきたりの意味でもう一人に嫉妬していたわけではなかった。また、彼を嫌っているわけではなかった。何故そんなことが出来ようか? 結局、彼は遊戯の一部なのだ。
勿論、あの夜を振り返ってみれば、オレはその後、コンピューターラボ(この邸宅内で、オレの真の家だ)に隠れてオレの設計をテストする代わりに、遊戯に話すか書いて渡すかすべきだったのだろう。しかしラボから出たときに彼と会いたいという望み―いや、必要はあまりに強く、それはオレを動けなくさせた。もしオレの希望を口にすれば、それは決して実現しないと確定するような気がした…
それに、もしオレが別に何もしなければ、モクバがオレよりずっと簡単に正しい言葉を見つけるだろう。(結局、弟とは何のためにいるのだ?)
オレは認めよう、オレは杏子のことも幾らか我慢できる。彼女は他の人間がモクバに「海馬のうるさい弟」だとレッテルを貼っていたときから彼に親切だった。もしオレがモクバが彼女を信頼しているという事実に腹を立てていたとするなら、(事実立てていた)、オレはまた彼女に感謝していた。そしてモクバは、彼女を気に入っているという以上だった。彼らが共にいるところは、彼がどんなに早く成長しているかをオレに実感させた。あと一年もすれば彼はティーンエイジャーだ。彼はもうすぐ現実のガールフレンドを求めるようになるのだと思うと、奇妙で恐ろしく、そして…素晴らしい気持ちだった。そしてオレは認めざるを得ないが、その時が来たら、彼は杏子のような誰かを見つけるのが断然良いだろう。彼女は幾度と無く誠実さを証明して見せた。
例え彼女が魔女であってもだ。
時代が時代なら、彼女は恐らくとっくに石打ちか火刑に処せられていただろう。もしかしたら、オレは古き良き童実野高校にもう少し長く留まるべきだったかもしれない。わざわざオレが聞きたくないことを寸分の狂いも無く言ってのけるヤツにふさわしい封建時代の刑罰を学ぶためにもな。
遊戯はデュエルカフについて延々と話し続けた。もし彼がそれを無視したり、または嫌ってさえいたとしても、それはチクチクと痛みはしただろうが、他の致命的でない打撃と同様、軽くあしらうことが出来ただろう。彼の大絶賛の方がずっと苦痛だった。彼は単にオレの専門的な技術や経営ノウハウを賞賛しているわけではなかった。そんなものには慣れていた。彼はオレが創り出したものの中にオレの心のピースを見つけ、それこそを気に入ったのだった。この認識は殆どオレが耐えられる限界を超えていた。殆どオレが社会的にまとっている仮面にひびが入りそうだった。
軽蔑や、憎しみですらもオレは平気だ。それは馴染みがあり、それを呼び起こすのはたやすい。しかしオレはモクバを除いては、殆ど愛情の経験が無かった。だからオレはそこに座って(黙ったまま全ての言葉を真に受けて)、動くことも出来ず、表情も凍らせていた。オレがただ単に退屈していたように見えていたことを願う。
幸いなことに、話はこれをどうやって売り出すかという方向に逸れた。オレは前回のデュエルディスクを紹介するためにバトルシティを主催した。オレは確かに当分の間は、もう一度同じことをするつもりは無かった。
もう一人の遊戯が第二の素晴らしいアイデアを思いついた。遊戯をオレの家に、オレを彼の腕の中にいる羽目に陥らせたちょっとした名案と殆ど同じくらい壊滅的な。「大々的なトーナメントにする必要は無いんだよ。キミともう一人の僕がデュエルすればいいだけさ。皆大騒ぎだよ!」
「却下だ」オレはきっぱりと言った。決定的な答えのつもりだった。
「大丈夫よ、海馬。怖がる必要はないわ」杏子が甲高い声で言った。
「オレは遊戯を怖がってなどいない」オレは彼女の言ったことを故意に曲解してせせら笑った。オレは彼女が魔女だということを思い出すべきだった。
彼女は目を細めた。「私は貴方が遊戯を怖がってるなんて言ってないわ。私は貴方は怖がってるって言ったの。遊戯が貴方のところに行ってから、貴方達二人は一度も対戦したことが無いんでしょう。
それに忘れないでよね―私は貴方がモクバと一緒にいるところを見ているのよ。貴方は全てのデュエルでサイドラインに立って、戦略を延々と説明するけど、彼にどうやってプレイするのか教えたことは無いじゃない。貴方は乃亜と対戦したときに自分自身で言ったわ、彼とは戦えないって。貴方は彼を貴方の隣に置いて戦うことしか出来ないのよ。一度デッキを取ったなら、自分が彼を破壊すべき敵としか見なせなくなるのが怖いんだわ。貴方がデュエルの度に呼び起こしている怒りが、貴方のモクバや、遊戯に対する愛情を壊すほど強力になるのが怖いんだわ」
誰がオレが遊戯を愛しているなどと言った? オレは確かに決してそんな甘ったるい言葉を使わなかった。モクバに言及するときでもだ。だが杏子は恐らくあらゆる点で正しかった。オレは認めたりなどしなかったが。
「オレは今まで挑戦から引き下がったことは無い」オレは怒鳴るように言った。「そして今回も同じだ」その言葉を放った途端、オレは以前どこでそれを聞いたのかを思い出した―遊戯がオレをペガサス城の塔から突き落とそうと準備していたときだ。オレが予感を信じないのは幸いだった。
実際には、杏子は半分しか正しくなかった。有難いことに、彼女はオレが最も恐れていることを見逃した。彼女がそれを当てられなかったのも無理は無い。彼女はオレがデュエルで対戦した遊戯と一対一で向かい合ったことは無いのだ。オレは彼が城之内と友情を持って、思いやりすら持って戦ったのを見たことがある。オレは確かに彼とデュエルするとき、そのどちらも感じたことは無い。ああ、オレ達の試合のいくつかは尊敬と、心配すら伴って始まったことはある。だがそれはいつも長くは続かなかった。Death-Tからバトルシティに至るまで、オレの知っている遊戯はオレについて知っている全てを冷酷に利用した。彼のオレに対する蔑みをこれまでの過程でオレに確信させてきた。それは構わない。尤もなことだ。競争相手は互いにそうするものだ―敵同士はそうするものだ。
しかし今の遊戯は以前よりずっとオレのことを知っていた。ずっと簡単にオレを破壊することが出来た。彼はどこに傷跡があるか知っていた。彼は剛三郎がしたようにオレを引き裂くことができ、オレには彼はそうしないだろうと考える理由が見つからなかった。
オレは自分の願望が作り出したバーチャルワールドで生活していたのだ。遊戯がオレを愛している世界だ。杏子の言葉を聞いた途端、オレが彼女の挑戦を受けた途端、それは誰かがデリートキーを押したように消えてしまった。今オレは現実の世界に戻って来ていた―オレの世界だ、とにかく。そしてオレは何が待ち受けているのか知っていた。オレは弱みを見せた。その報いを受けるだろう。これが人生の仕組みだ―少なくとも、オレの人生の。
オレ達のデュエルは、共に過ごした時間が、オレが決して信じたくなかった、しかし常にそうだと知っていたまがい物だったことを明らかにするだろう。オレは、彼にとっては勝利の方がオレなどよりずっと重要だったのだというぞっとするような実感以外、何も持たずに取り残されるだろう。彼は、結局、オレと同じだ―第一に競争者であり、肉食動物なのだ。オレが彼を信用しないのと同様、自分自身をも信用しないというのは気休めにもならなかった。
オレは自分が何を考えているか遊戯から隠そうとした。オレはよく彫像と同じくらい表情が豊かだと非難されるが、今その技が必要なときになって、それはオレを見捨てた。遊戯はその夜まで待った。オレは彼と共にベッドに行くのに何の不都合も感じなかった。オレは自分に言い聞かせた。結局、そこで行われることは、互いへの尊敬も、愛情も必要とされる行為ではないのだと。だがオレは、遊戯がそんなに簡単にオレを放免するはずが無いと知っておくべきだった。
彼はオレの上に屈みこんで、オレの顔を手で掬い、無理やり目を合わせた。「オレはお前を傷つけないし、お前はオレを傷つけない」彼はゆっくりと言った。まるで彼の言葉の力が、もしくはその深紅の眼差しが、オレの信条を屈服させることが出来るかのように。「全く…瀬人、お前をそこなうってことはオレの鏡像を砕くのと同じなんだ。オレを信じろよ。そして自分を信じろ」
自分を信じるというのは、遊戯の力の及ぶ範囲を超えた贈り物だ。だが彼は同時に、彼への信頼を求めた。そして、モクバに対してと同様、オレはもう、遊戯が本当にオレに望むなら何一つ拒否できなかった。オレはあの最初の夜に選択をしていた。今は、それがどこに続くにせよ、選んだ道をやり通すだけだ。
オレは彼に結び付けられている。まるで何千年も昔に、彼は本当にオレのファラオであったかのようだ。今のオレは苦難がオレの心に植え付けた決意にもかかわらず、この紐帯にしがみ付いた。剛三郎の教育が、オレがやっとのことで手に入れた知識が頭の中を駆け巡った。義父の声が耳の中で響き渡った。それに対して、オレはこのか細い繋がりを防波堤、もしくは盾にした。オレはその日に何が起こるのか分からなかったが、オレにその夜を持ちこたえさせてくれればいいと祈った。
遊戯はオレの信頼を求めた。オレは出来る限り、彼にそれを与えよう。それが賢明なのか愚かなのかはもはや問題ではなかった。オレは彼の抱擁の中で力を抜き、彼の言葉がオレをなだめ眠りに誘うのに任せた。
作者註: 折角海馬は克服した(ブレイク・スルー)ようだったのに(もしくはそれは破綻(ブレイク・ダウン)だったのでしょうか―海馬にとっては。その区別は時に難しいです)。いいえ、私は実際、彼は克服したと思います。彼は遊戯が彼を大事にしていること、彼の言葉が重要なことを学びました。彼はもし怒りに身を任せたなら、自分の人生の中の良いことを壊してしまうことになるかもしれないと学びました。そして必要なときには、彼は剛三郎の教育や、人生が彼に教えてきた教訓の枠を越えることができると学びました。しかし比較的安全な環境下で彼に何が出来るかということと、ストレスや困難な状況下で何が出来るかということは、もしかしたら違っているかも知れません…。
服装について: 漫画には、表遊戯は明らかに服にうるさくて、闇遊戯がそれを着るのに戸惑っている可愛らしいシーンがあります。彼はたとえ少し恥かしがってはいても、表遊戯の趣味を支持します。しかし私が思うに、今彼が同じ格好をし続けるのは、その格好が安心するからであり、彼に未だに表遊戯と繋がっていることを感じさせるからだと思います。
デュエルについて: 闇遊戯が、彼らがデュエルしているときであっても海馬を気に掛けているのは明らかです。と言っても、同時に本物の怒りも表されていますが。それぞれのデュエルの結果、海馬は友情について何かを学んだり、過去を手放すことを学んだり、彼の人生を組み立てることを学んだりしていきます。しかし私は、ストレスがかかった海馬は、思いやりではなく、怒りしか思い出せないだろうと思います。
レビューへの返事:
AnimeFan Artemis, Crimson Violet Eyes, Desidera, Kagemihari, Ryo0oki, samurai-ashesへ―カードについて: AnimeFan Artemisは海馬のデッキを、生贄と力、そして苦しみに関するものだと表現しました―私はこれは非常に上手いまとめだと思います。私の考えでは、海馬がウィルスカードを使うのは、彼が作り出した兵器と、継続する罰を覚えておくためです。私は元々、闇遊戯が海馬にこれらのカードを除くように頼み、海馬が「これらのカードは、オレの兵器がこの世に存在し続ける限り、オレのデッキに留まり続ける」と答える展開を考えていました。でも、闇遊戯が誰かのデッキに干渉しようとするのはあまりにもオリキャラっぽすぎると判断しました。
第6章(悪夢)で、海馬は闇遊戯に、バスター・ブレイダーはドラゴンを破壊するときですらも愛していたのかと尋ねます。私はこの質問を闇遊戯と海馬の関係に当てはめることを意図していました。彼らのどのデュエルでも、闇遊戯が勝つのは海馬のために必要なことでした。彼は彼の心を砕かれる必要があった―あの時点では、それ以外に彼を救う方法は無かった。アルカトラズの塔で、彼は負けることによって初めて、自分の怒りを手放そうとしなければならないと学んだ。どの場合も、闇遊戯は彼に対して戦うと同時に、彼の為に戦いました。ですからバスター・ブレイダーに、闇遊戯は彼の性格の暗黒面を見ると同時に、必要であった面も見るのです。私はまた、これは闇遊戯の、海馬が否応なしに惹かれずにはいられない部分、彼が本能的なレベルで認識する部分だと思います―だから、このカードが彼を最初に興奮させたのです。
Ryo0okiへ―カードについてのサイトを教えてくれてありがとう。
L musichへ―第6章での質問について: 第6章での質問が、16章後の今、答えられようとしています(気付いたのですが、私はこの話の読者に多くを要求しています)。私は海馬は打ち解けてきていると思いますが、それを彼と闇遊戯の間の出来事にカードを通じて言及するという、いくらかなぞめいた形で行っています。海馬がハーピィ・レディについて尋ねたとき、彼は闇遊戯に、彼は見た目ほど傲慢でも心を動かされないわけでもないと伝えようとしていました。彼がエルフの剣士について話したとき、彼は実際は、彼と闇遊戯の両方がどれほど彼らの大事な人間を守る衝動に駆られているか、そして時にそれが出来ないかについて話していました。
Samurai-ashesへ―闇遊戯の瀬人への愛撫について: 気がついてくれてありがとうございます。私は時々私の性的描写はあまりにも曖昧で、簡単に見逃されるのではないかと心配になります―そしてこれはラブストーリーのはずです。
L musichへ―カードのデモンストレーションについて: 海馬は彼の発明のデモンストレーションをしています―彼らはカードを見ているのであって、デュエルをしているわけではありません。デュエルリングのようにデュエリストがモンスター達の動きを上から見ているのとは違って、ここでは彼らはどのカードがプレイされるかによって常に移り変わるバーチャルワールドの中にいます。ですから彼らはミノタウルスと共に森におり、エルフの剣士と共に城の胸壁にいるのです。
Samurai ashesへ―モクバのメモについて: もうお分かりのように、モクバが闇遊戯に書いてよこしたことは、より重要な意味を帯びるようになりました。どういう訳か海馬はこの感動的なシーンの後、2週間姿を消す必要があったようなので。
Unsolvable Riddleへ―闇遊戯の海馬の最初のデュエルについて: その通りだと思います、最後には驚くほどの優しさが示されており、闇遊戯がただ海馬を罰するだけでなく、助けようとしているのは明らかです。
Unsolvable Riddleへ―カードの心について: 海馬は自分がカードの心を信じていることを認めまいと抵抗していますが、彼は最も自分のカードと同調している人物の一人です。彼はイシズとのデュエルでブルーアイズを彼の心であり魂であると呼び、ペガサスとのデュエルの前には、遊戯に、彼はいつでも彼のドラゴンと共に戦うと言います。ですから、私は彼は実際にはそれを見つけていると思います―ただ、認めたくないのです。
Lightning Sageへ―ありがとうございます。私はこの感情とロマンスを発展させようとしています。
Ryo0okiへ―ありがとうございます。私はキャラクターとストーリーラインの両方をじっくり考えようと努力しています―それが表れて嬉しいです。
Blue September, Tuulikkiへ―おかえりなさい!
Lone Wolf 55へ―DVDを気に入ってくれますように。
Blackknightmare, Chibi Angelic Slayer, mOoNiTe rApHsOdy, NiiGeni, Sunrise and Sunsetへ―ありがとうございます。あなた方がこの話を楽しんでくれて、キャラクター達が引続き興味を引くものであることが嬉しいです。癖になるという以上の褒め言葉はありません。
