篠原とユキナは、少し離れたところの路地裏に入ると、向き合った。
「さて、では話してもらおうか。同族、というのは…君と喰種がか?」
「喰種も人間も、私の同族です。先日、アオギリのアジトを襲撃した時に私はジェイソンに命を狙われ、それをきっかけに私の赫子が出現しました。数日後に、私宛の母の遺書を見つけて読んでみると、父方の祖父が喰種だと知りました」
「つまり、君は喰種のクオーター…なのか?ハーフでさえ稀有な存在なのに」
「…証拠はありません。今まで、私は人間として生きてきましたが、赫子が短時間だけだけど発動して、母の手紙を読んで、このことを事実だと認めないことはできませんでした」
篠原は腕を組み、しばらく考えた。
「…で、君はどうするつもりなんだ?約束通り、このことは他言しないでおこう。だが、お前はCCGにいる限り、同族殺しを続けることになる」
「さっきまでは…一部の喰種を犠牲にしてでも、CCG内で自分の地位を高めて、CCGが喰種を保護する方針にするよう努めようと思っていました。でも、少女が母と兄を呼んでて気付いたんです。この子には家族がいる…この子には、この子の人生がある。私はそういう一人一人の人生を守りたいから、喰種を守れるような権力を持つ捜査官になりたいって思ったんです。だから1人でも喰種を犠牲にするのは、本末転倒だと、気付いたんです」
「つまり…捜査官をやめると?」
「はい。例えば、悪いことをする人間を逮捕する警察のように、私は悪い喰種のみを処罰したいんです。無差別に喰種を殺すのは、ただの同族殺しですから」
篠原は眉をひそめた。
「…勅使川原、俺はな。たとえ捕獲対象が子供の喰種でも、今その喰種を殺せば救われる命がある。そう考えて、今までどんな喰種でも殺してきた。こういう風には考えられないのか?」
「…考えられませんよ。だって、彼らは生きているんですもの。生きる権利は、生まれてきた人全てにあります。生き物の命が、他の生き物に奪われるのは自然の掟だから、彼らにはどうしようもないんです。捕食者であるからといって、皆殺しにするような態度はダメです」
「でも、喰種は人間を食うんだぞ?人間の生きる権利を守らないといけないのでは?」
「人間の生きる権利も大事だとは思いますよ。でも、生き物の命が他の生き物に奪われるのは自然の掟で、彼らにはどうしようもないことなんです。捕食者であるからといって、皆殺しにするような態度はダメです。彼らには心があります。そして私たちは同じ言葉を話し、通じ合える。だから私は、人間と喰種は、他の動物たちとは違うと思うんです。論理的に考えれば、お互いを認め合いながら生きれるんです」
「…そうか」
篠原は曇り空を見上げ、しばらく考えた。ユキナは沈黙を気まずく感じ、不安げに指で服の裾をぎゅっと握った。
「君が捜査局を去るというのなら、捜査局から謀反を疑われるのを避けるためにも、君が戦闘中に亡くなったことにしておいた方がいいだろう。捜査局に疑われたら、君のRc値を調べられるかもしれないからな…もし高かったらもうおしまいだ。これからは名前を変えて姿を隠しながら生きなければならないが…それでいいか?」
「あ…ありがとうございます!」
ユキナは深くお辞儀をした。
「クインケは俺が預かろう。喰種は大概クインケまでは喰わないから、これを持ち帰らないとお前が逃げたって思われるかもしれないしな」
「はい」
ユキナは篠原にクインケを渡した。
「行く場所はあるのか?家には帰れんぞ」
「えっと…父の知り合いを訪ねてみます。父と親しい方で、私の存在も知ってますし…」
「そうか。じゃあ、気をつけて」
「はい!本当にありがとうございます、篠原さん!」
ユキナはそう言うと、路地裏を走り抜け、現在地点からわりと近いあんていくに向かった。
