「…!」
トーカは息を飲んだ。トーカもヒナミも入見も、呆気にとられた表情でユキナを見た。芳村だけ、彼女を厳しい顔つきで見た。
「…ユキナくん、先日私が話したことを覚えていての行動だよね?」
ユキナは芳村を見ると、微かに声を震わせながら返事した。
「はい」
ユキナはそう言うと、羽をしまった。そして途端にその場に座り込み、前のめりになって床に両手をついた。
「お姉さん…!」
ヒナミはユキナに寄り添った。
「大丈夫…私は赫包があるけど、Rc値がかなり低いから、長い間発動できないだけです。けど、食事…しないといけませんね。正気を失う前に…」
「お前は…いったい…!?」
トーカが困惑してユキナを見ていると、ユキナは弱々しく笑ってトーカに説明した。
「つい数週間前知ったんですが、私はグールクオーターなんです。そしてそのすぐ後、親の知り合いである芳村さんにこのことを相談しに来たんです。そしたら、芳村さんはもうカグネを発動させなければこれからも普通に生きていけるけど、また発動させたら二度と人間として生きていけなくなると言いました」
「じゃあ、なんでーー」
「いいんです。私はこれからも、自分の出来る範囲で、善良な喰種に協力し、人間を過度に捕食する喰種を始末するつもりです。でも、クインケがない以上、遅かれ早かれ赫子を発動させなければならくなります。だったら早めにやった方がいいかなと」
「…なんで…人間と喰種、両方の味方をするような無茶な選択をするんだ?」
「通じ合えるってわかってるから。私は人間の祖母と喰種の祖父、人間の母と喰種のハーフの父が結ばれた結果生まれました。それも、人間は相手の正体を知った上で子供を産んだんです。喰種と人間は、たしかに喰う側と喰われる側ですが…ただの捕食者と捕食対象ではありません。私の存在が、グールと人間は分かり合えるという証拠です。だから私はなりたいんです。人間とグールを繋ぐ人に…」
「けど、そんなの…どうやって…」
「…そうですね。今、ほとんどの喰種と人間は、喰う側と喰われる側であるため互いを蔑み、憎しみ合っています。でも、この世界は変えられると思います。まず、例えば生きている人間を殺して喰うのではなく、自殺者の死体を拾って喰うという方法。人を喰うことには変わりない以上、この方法に罪がないとは言えませんが、方針としては良いと思います。だって、人間が喰種を恐れるのは、自分が喰われるかもしれないから。その可能性が少なければ、恐怖が薄れるのでは?」
「それは…そうだけど…」
「その他にも、悪行が目立つ喰種の始末または通報。そうしていくうちに、喰種がいるのに、ここは平和な区になって…いつか人間たちは、喰種を滅するのではなく、喰種と共存したい考えるようになれると思います。私に人の心を変えることはできませんが…人の心は変われます。私はそう信じています!」
「…!」
トーカは唾を飲むと、ふと笑った。
「…負けたよ。店長、私たちのこと言っていいですよね?私のこともヒナミのことも知られてますし」
芳村はユキナを見た。
「ユキナくん、さっき君は捜査官をやめると言ったね?つまり、君はもう捜査局と関わりはないのかい?」
「はい。私は死亡扱いにされました」
「そうか。ならいいよ、トーカくん」
トーカは床に正座し、ユキナに話した。
「さっき君が言った自殺者の死体を集めるって言ったのさ、今、私たちがやってることなんだ。私たちあんていくの従業員は、喰種なの。そして弱い喰種を助けるのが、私たちの目標」
「そうだったんですか…だから芳村さんは喰種にお詳しいんですね」
ユキナは納得した顔で芳村を見た。
「なあ、私にも協力させてくれないか?人間と喰種の共存を実現するの」
「えっ…でもさっきまであんなに…」
「私が今一番望んでるのは、ある人に帰ってきてもらうことなんだ。20区が変われば、あいつは帰ってくる…そう思えてきた」
「どうして…ですか?」
「あいつが出て行ったのは、自分のやりたくないはずのことをやってでも、私たちを守るくらい強くなりたいとか…きっとそんな理由だと思うからさ」
「自分のやりたくないこと…?」
「あいつは今、人間だけでなく、喰種も喰ってると聞く。あれほど拒んでいた捕食を過度にしてるんだ。だからこそあいつに叫んでやりたい。あんたがそんなことする必要がない。あんていくに戻って来いよ!って。…ずいぶん前に出て行った兄にも、叫んでやりたい」
「私にも、ぜひ協力させて欲しいわ。20区を変えよう」
入見はユキナに笑いかけた。
「…そうですね。叫んで…やりましょう…」
ユキナはそう言うと、腕が体を保てなくなり、床に倒れ伏した。
「おい!どうした!?」
「そろそろ体が限界のようです…芳村さん…お願いします…」
「分かった。奥の部屋に行こう」
芳村はそう言うと、ユキナを抱き抱えて廊下を歩いて行った。ユキナは手の甲で溢れ出した涙を拭った。
ーーついに私も…喰種になってしまうのか…
ユキナはそっと目を閉じた。
ーーCCG…変わってくれるかな。亜門さん…篠原さん…鈴屋さん…みんな優しい人。『喰種』をもっと理解して…くれる…かな…
そして、ユキナは意識を失った。
