英雄ヒーロー
この世界ではよく聞く名だ。
そんなヒーロー達が活躍する東京都の銀行では、現在銀行強盗の被害に遭っていた。
世の中ヒーローだらけのこの世界で銀行強盗など、普通ならバカだとしか言いようがない。だが、ヒーロー達とは真逆な存在もいるのが、世の中の摂理である。
敵ヴィラン
ヒーロー達とは正反対で、自分達の力を暴力つまり、人を傷つける事や欲を満たすのに使う者達。
光あるところ、必ず影あり。
この言葉が実にしっくり来るように、ヒーロー達にはしっかりと敵がいるのだ。
そんな敵ヴィラン達の手によって、現在銀行強盗は行われていた。
「オラオラ! さっさと金を詰めやがれ!」
「大人しくしろよ」
見た目からしてもう化け物の様な身なりをしている男達。
その姿はアニメなどで見る怪人そのものである。自分達の力つまり、「個性」を使って人々を脅しているのだ。
"個性"
それは先天的な超常能力。
人によって個人差はあるが、超能力のような、火をだしたり水をだしたり、触れずに物を動かすものなどいる。
強盗ヴィラン達はその力の使い方を誤っているのだ。
まあ、基本的に生活面などでは必要の無い能力。強盗や暴力などに使うのが一番効率がいい事も分からない訳では無いのだが。
ヂリリリリ
警報音が鳴り響く。
きっと銀行マンが非常ベルを鳴らしたのだろう。
すぐさま警察、またはヒーロー達がやってくるだろう。
そんな状況を望んでいなかったヴィラン達は、思わぬ行動にでた。それは自分の手からレーザーの様なモノを発射して暴れ始めたのだ。
当然、銀行内にいる者に抗う術すべなどなく、皆地面にひれ伏してビクビクと怯えている。
そんな中、ヴィラン達は母親と来ていた小さな子供の首根っこを掴み。
「テメーは来てもらうぜェ……人質って奴だな! ギャハハ!」
と、嘲笑うかのように子供を持ち上げて笑う。
母親は目から涙を零し、必死に離してくれる様にお願いした。
自分が代わりに人質になる。だから、どうか息子だけは許してくれと。
子供はビービーと泣き喚いていたが、強烈な右フックを浴びせられると、グッタリした様子で黙り込んだ。
きっと息がしづらいのだろう。襟を掴まれ、ただでさえ呼吸がままならないのに、成人男性の拳を腹に受けたのだ。当然だろう。
こんな時、ヒーローがいれば。何処にでも駆けつけてくれるヒーローがいれば、などと。周りの人々は思っている。だが、そう都合よくヒーローはやってこない。来るのには、もう少し時間がかかるだろう。
ヒーローと言えど、人間。
その事件に気づかぬ者も多い。
が、ある一人の少年が、銀行の自動ドアをくぐって来た。
この時、誰もが警察? ヒーロー? などと、期待したが、どうもそんな感じには見えない。
ヒーローコスチュームなどは疎か、警察の服すら来ていない。ただの一般人だ。
そんな状況に居合わせた一般人など、可哀想な程哀れである。
「なんだ、テメー? 殺されてーのか?」
「あァ?」
青年の白い髪がユラッと揺れる。長い前髪から透けて見える赤い目は、この世の裏を見てきたかの様に冷徹で鋭く光っている。
背丈は167〜169程であろうか。
見た目は痩せ細っており、黒い半袖のシャツに紺色のジーパンを着用している。
「状況わかってんのかテメー!」
男の怒鳴り声に対し、白髪の少年は首をポキポキと鳴らしてから周りを見渡す。
そして状況を判断したのか、フッと口を歪ませ。
「成る程ねェ……ヒーローばっかのこの世界で銀行強盗たァ、随分と間抜けな奴が居たもンだ」
「はぁ!? テメーいい加減にしろよっ」
そこまで言いかけた所で、男は体が硬直したように喋るのをやめた。
殺される。
そう思ったからだ。
「あァ? なンだァ? 急に黙りやがって」
白髪の青年は気分を害された、と言わんばかりの表情を浮かべATMの方に歩いていく。
そして銀行のカードを機械の中へ入れ、現金を取り出す。作業そのものは短い作業だった。だが、彼が金を下ろしている間、何故か誰も動こうとしなかった。
金を下ろし終わると、白髪の少年は再び男の方へ歩いていく。
「で、いくらだ?」
「あ? 何がだよあーっ、そうかそうか! お前も俺達と同じ部類の人間だと思ってたよ。このガキいたぶるのに交ぜろってんだな」
強盗は笑いつつ、大声で言い放つ。
白髪の少年は顔色変えず、その男に再び、いくらだ?と問う。
「そうだなー、どうしてもってんなら、80くらいでやらせてやんぜ?」
「80? 随分と安いもンじゃねェかよ」
白髪の少年は笑い、金を詰め込んでいたバッグを逆さまにする。
すると、札の束がガサガサと流れ落ちる。
「はっ! テメーも物好きだな! そんな」
男は金を拾いながら、高笑う、だが、その時
グシャリ
「ごっ、ばっ、ァァああああああああああああああああッ!?」
強盗の悲鳴が店内に響き渡る。
「な、なん、にし、やばる……」
強盗は何がなんだかわからない。
気付けば鼻が折られていた。
気付けば自分が倒れていた。
気付けば目の前の仏頂面決め込んでいた男は笑っていた。
「そっかそっか、なンか勘違いさせちまったみてェだな」
銀行強盗の質問に対して、白髪の少年は軽い調子で答える。
「俺が買ったのは、オマエの横でグッタリしてる奴じゃねェよ」
「ッ!?」
「オ・マ・エ・等・の・方・だ・」
その言葉を聞いた瞬間、銀行強盗ヴィラン達は背筋が凍る。
間違いなく、自分達よりも深い闇。
決して触れてはいけない、底なし沼の様な闇。
ヒーローなど、可愛く見える程、目の前の白髪の少年は深く深く、黒い。
しかし、黙ってやられるヴィラン達ではない。
強い敵を倒す時は数で圧倒するに限る、いっせいに攻撃開始。
攻撃型の"個性"ではない者は拳銃を乱射。
パワー型の"個性"は近くにある柱を折り、投げつけ。
精神攻撃型の"個性"は洗脳を試みる。
中には太陽光の様なレーザーを放つ者もいた。
だが、
白髪の少年は一歩も動こうとしない。
全ての攻撃が、弾幕が、柱が、洗脳が、レーザーが、彼の皮膚に触れようとした刹那、
その攻撃は向きを変え、真逆に、正反対に、戻ってくる。
文字通りの『反射』。
全ての攻撃が意味をなさず、向きベクトルを変えた。
残るは最初に鼻を潰されたヴィランのみ。
「ひ、ひぃ! い、命だけは」
「あ? 悪ィ……聞こえねェ」
白髪の少年が触れた瞬間に爆散する。
死ぬ間際、彼が見たのは自分の鼻を潰した武器。それは柔らかそうな手提げ袋だった。
白髪の少年は残った死体を爪先で蹴り、大きくため息を吐いて出口へと向かっていく。
ヒーローならば、ここまで残酷な事はしないだろう。店内にいた人々は彼に怯えた。冷酷かつ残虐な彼に。
銀行を襲ったヴィランよりも、化け物らしく。返り血一つ付いていない彼に。
だが、そんな彼に一人人質になっていた少年だけが声をかけた。
「お、お兄さんは、ヒーロー?」
「悪党だ」
白髪の少年は店内のドアをくぐりながら、謳うように答える。
「クソッタレな悪党だよ」
彼の名は、誰もしらない。
だが、ヒーローや敵ヴィランの中で、彼はこう呼ばれた。
一方通行アクセラレータ
その力。謎に満ちており、彼と戦った者は文字通り一方的に倒される。
まるで、一方通行の嵐のように。決して後ろを振り返らず進んでいく。
俺が一方通行アクセラレータになったのは、16年前。
いや、正確にはその頃は、まだちゃんとした名前があった。親もいて、産まれたての赤子だったのだから、当然と言えば当然なんだが。
ともあれ、俺は転生者だ。
生前はごくごく普通な高校生。ひょんなことから、死んでしまい。神様に気まぐれで異世界に転生させてもらった、ただの男。
生前、俺はある小説ライトノベルが好きだった。
それは、『とある魔術の禁書目録インデックス』というライトノベル。
その中のキャラで、特に好きだったのが『一方通行アクセラレータ』
まあ、これで大体はわかるだろう。
転生特典で神様から好きなキャラの能力を貰ったわけだ。
一方通行アクセラレータになれば、異世界いっても楽できるし、最強になれると思った。まあ、禁書の中で一方通行アクセラレータが一番強い? と友人に聞かれたら、それは絶対にないと、答えてしまう俺だが。
ともあれ、好きだから選んだ。これ以上はない。
これで、異世界ウハウハライフとか思ってた。
だが、転生して目覚めてみれば、生前と大して変わらない世界。
というより、神様の特別サポートで、その世界の知識は学園都市一番の頭脳になった俺にぶち込んでくれたから、知っていたのだが。
想像してた異世界と違った。むしろ、パラレルワールド的な奴だった。
しかし、俺の元いた世界とは違い、"個性"という。超能力的な力を駆使して闘う、ヒーローがいる事がわかった。
なので、俺は大人しく、ヒーローの"最強"になろうと決めた。
が、
4歳になるある日。
俺と両親はヴィランに襲われた。
俺は両親を守ろうと、初めて本気で己の能力を使った。"個性"とは異なる、異質な学園都市"最強"の能力一方通行アクセラレータを。
ヴィランは簡単に倒せた。この時、俺は自分の強さに酔っていたのかもしれない。褒めてもらえると思った。だが、
『化け物』
ピクピクと痙攣していたヴィランは少ししたら動かなくなっていた。俺はヴィランの肌に触れる、そして漸く俺は気が付いた。
心臓が止まっている、と。
両親、俺の戦いを見ていた人々。
誰もが口を揃え、まるで別世界から来た化け物を見る目で俺の事を見ていた。
すぐさまヒーロー達が駆けつけた。
何故か知らないが、俺に攻撃を仕掛けてきた。きっと、暴れているのが俺だと思ったのだろう。
俺は怖かったので、攻撃を反射した。
そしたら、ヒーローの腕を折ってしまった。
次々と別のヒーロー達が押し寄せ、俺を殺そうとした。
こんな子供に本気でヒーローが殺しにかかるなんて馬鹿げてる。コイツらはヒーローなんかじゃない。 ただの暴力集団じゃないか。
………いや、俺が人間じゃないから、こういう事になってるのか。
そこで、気が付いた。
俺は、『化け物』だと。
俺の持っている能力は、人を守る為に使える代物ではない事を。
だから、だから、一方通行アクセラレータもあんな実験をして、最強から無敵を目指し、全てを拒絶したのだと。
本当に一方通行の代わり身をしているような気分だった。
俺が暴れたら、世界そのものを壊しかねない。だから、俺は大人しくヒーロー達警察達に自ら投降した。
転生特典を神様から受け取る時、ある言葉が引っかかったんだ。
『まあ、せいぜい頑張って生きろ。我々を楽しませてくれ』
あの意味が漸くわかった。
ただ、俺は神々の暇つぶしにこの能力を渡されたのだと。
俺が欲しがる能力が、一方通行アクセラレータだと、わかっていて。
こうなる事がわかっていて。
無性に苛立ちを覚えた。
いつか後悔させてやる。
神・な・ら・ざ・る・身・に・し・て・、・天・上・の・意・思・に・辿・り・着・く・も・の・、になれると言われた、この能力を渡した事を。
だからせいぜい、俺は俺なりに生きる。足掻いてやる。
この能力をもっと使いこなせるようになって。絶対に絶対能力者Level6を目指してやる。
こうして俺は一方通行アクセラレータ悪党になった。
