アルベドは現在、ナザリック外での単独任務についていた。

裏では王国を支配するための準備を進め、表では無能な馬鹿貴族である

フィリップのパートナーとして振舞っていた。

「ハァ……」

アルベドはもの憂げにため息をつく。その理由は単純で、フィリップがあまり

にも馬鹿すぎたからであった。普通自国の兵を皆殺しにした魔導士が収める国

から派遣された人物が己のパートナーになったなら、何かしら疑ってかかる

ものある。しかしこのフィリップという男はそこまで考える知能も無いら

しい。王国兵を殺したことに関しては、自分の競争相手が減ったと感謝してお

り、私がパートナーにと申し出た理由に関しては本当に一目ぼれだと信じこん

でいるのである。無能な貴族であることはこちらにとっても好都合だが、まさ

かここまで自尊心が高い人物だとは思わなかったのだ。などと考えていると

フィリップが私の執務室に入ってきた。

「仕事はまだ終わらぬのか、アルベドよ」

そう言いながら私のそばまで近寄り、汚らわしい手で私の髪を掬い上げる。

「やはり貴様はいつ見ても美しいな。私の花嫁になるにふさわしい」

などと気色の悪いセリフを発しながら顔や首筋をツーッとなぞってくる。

これが任務じゃなければとっとと八つ裂きにしたいところだが、その感情を

抑え、笑顔を張り付けた顔でフィリップの方へ振り向く。

「勿体ないお言葉ですわ、フィリップ様。仕事が終わるまで今しばらくかかり

そうですので、どうぞ先にお休みください。もうすぐ日も暮れますから」

「ふむ……ならば私もここで待っているとしよう」

アルベドの思惑に反して、フィリップはドカッと部屋のソファに腰かけた。

アルベドは思わず出そうになるため息を抑え込む。フィリップに夜伽に誘われた

アルベドが、心の準備をしたいから一週間待ってほしいと言ってから今日が

ちょうど一週間目だった。これもアルベドが憂鬱だった理由の一つである。

仕事などと言っているがそれはほとんどフィリップに見せられるような内容

ではないので、今日のために溜めておいた彼に見せてもいい内容の資料に

目を通していく。その間にも特に妙案は浮かばず、悩んだ末にアルベドは諦めた。

個人的な感情よりも、ナザリックの利益を優先すべきだと思ったからだ。

なるべく自然な様子を装い、窓の外を眺めるフィリップの前まで歩いていく。

「遅くなって申し訳ありません、フィリップ様。お疲れではありませんか?」

「気にすることはない。それに今日は特別な日だからな。貴様も待ち望んで

いたのだろう?」

「勿論でございます。逸る心を抑えられず、仕事が少し遅れてしまいました」

「フッフッ、そうかそうか」

笑いながらこちらを見つめるフィリップの目の奥には、その情欲が見え隠れし

ており、そのことにアルベドは不快感を覚えた。しかし意外なことに彼の

エスコートは決していやらしくなく、むしろこちらが身を任せてしまいたく

なるほど綺麗な動作だった。一瞬驚いたアルベドだったが取り乱すことはなく、

極めて自然な動作で彼の腕に手を回す。こちらもフィリップに負けず劣らずの

思わず見惚れてしまうような動作だった。

「では、行こうかアルベド」

「……はい」

薄暗くなりつつある中庭を、二人の男女が歩く。女の方は目を見張るような美

女で、男の方も整った顔立ちをしていた。そしてなんといってもその美しい

動作に、見るものは全て心を奪われた。はたから見ればまるで仲睦まじい夫婦

といった様子で、二人をみて微笑んでいたメイドもいたが、二人が寝室に入っ

行くところを目撃した衛兵は顔を真っ赤にして俯いていた。

寝室につき、カチャリと後ろ手に鍵を閉めたフィリップは、腰に回している

腕でそのまま私を抱き寄せた。屈辱的な行為だが、所詮は下等生物。体力的に

も性行為はすぐに終わるだろう、と思っていたアルベドだったが、その予想は

裏切られることになる。アルベドの顔に手を添え、軽い口づけをするフィリップ。

おでこや、首筋などにキスを落とした後、唇同士を合わせる。

チュチュプ、ピチャピチャ

「フゥ……ンッ……プハッ」

予想外の快楽に、思わずフィリップの肩を掴み、自分から引き離すアルベド。

息を整えると、再びフィリップの舌がアルベドの口内に侵入する。

しっかりと後頭部を左手で支えられ、逃れられない快楽の波が脳内に押し寄せる。

「ンフーッフッ、フーッ」

目を瞑り、口づけの快楽に身をゆだねているアルベドの様子を確認しながら、

フィリップはもう片方の手で彼女の体の輪郭をなぞっていく。

「ンウッ!んッふ…ンン」

驚いた様子の彼女を、フィリップは左手とキスのテクニックをつかってうまく

なだめていく。二人の舌が絡み合い、ビチュピチョと湿った音をたてていく。

先程までフィリップに触られることに不快感を覚えていたアルベドだったが、

彼の情熱的なキスに翻弄されているうちに、徐々に彼が触った場所から甘い痺れを

感じ始めていた。下へ下へとアルベドの輪郭をなぞっていたフィリップの右手は、

ついに太ももから彼女の柔らかな尻肉へと到達しようとしていた。

フィリップはプルンとアルベドの尻肉を下からはじき、続けてグニィ、ムニィー

と優しく尻をもみ上げる。

「ンヒッ!んぅ……ぷはぁ……」

手に吸い付くような尻肉の感触を楽しんだフィリップが、アルベドから唇を離すと

ぬろぉ……と二人の間にテラテラと光る糸が出来上がっていた。

すかっり彼のキスの虜になっていたアルベドは、互いの唇が離れていく感覚で

ハッと我に返り、目を開けた。アルベドの熱に溶かされたような瞳とフィリップ

の妖しく光る眼が交差し、ゾクリ……とアルベドの背筋が震える。

「まったく、手に吸い付いて離れんイヤらしい尻肉だ……」

「ンアッ……!そんなイヤらしいことをおっしゃらないで……」

そう言いながらアルベドはフィリップの体にその豊満な胸を押し付け、少し

困ったような顔をする。本能を直接刺激されるようなその魅惑的な仕草の裏で、

自分が主導権を握ることでこの男、ひいては王国が操りやすくなる、と冷静な判断を

下すアルベド。しかし、彼女には二つの誤算があった。

フィリップは確かに馬鹿で無能な貴族である。親や兄弟が他貴族との人脈作りに勤し

んでいる間も、毎日日が暮れると飽きもせず娼館へと通い、その階級を振り回して

様々な女を抱きつくしていた。しかしそのテクニックは彼の薄情な性格を知った

娼婦からも、もう一度抱いてほしいと願うものが続出するほどであり、プライドの

高い貴族の中にも彼の隠れファンや、喜んで彼に股を開く貴族もいるほどだった。

そしてもう一つの誤算。それは自分の体が、先ほどまで下等種族だと蔑んでいた

フィリップに触れられ悦びを覚えていることに気づいていないことである。