Title: The unexpected occurrence
Author: hogebon
Codes: K/S
Rating: K+
Summary: カークとスポックは初めて精神融合をします。
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Disclaimer: Paramount owns them. I get no money for this.

The unexpected occurrence 01
あるいは偶発事故

スポックはすれ違うクルーの目線を痛いほど感じながら、黙々と通路を歩いていた。
思わずため息をつきたくなる欲求と戦うのはこれで何度目だろう。

全ては自分の技術的不手際が招いた災いだ。
従って当然、誰かに抗議するのは非論理的だ。
スポックはこちらを見ているクルーと目を合わせた。
好奇心満点の顔、小声で話しながらちらちらと見ている女性達、何か言いたそうな顔、
皆、目が合うと慌ててそそくさと歩いてゆく。

スポックは天井を向いて深呼吸した。

始まりは部品交換からだった―――

私的記録
目的:インシデントレポート作成
作成者:スポック中佐 U.S.S.エンタープライズ-1701 副長兼科学主任

その日非番だった私は、自室の端末の部品を交換していた。
先日壊れた端末を修理した際に、何点かの部品の補充が間に合わず、
応急的に代用した品を正規のものと交換する目的だった。
その作業自体はすぐに終わったが、改めて点検してみたところ、
メインコンピュータに接続する基盤がかなり傷んでいることが判明した。

言うまでもなく、船長と副長の個室は隣同士だ。
それらは緊急時に備えて通常の通信システムとは別に、互いの部屋同士の独自の配線を持っていた。

その複雑な回路を調べているうちに、どうやら基盤は隣の船長側にも影響していることがわかった。
非常事態が発生した際に、使い物にならないのでは意味がない。

幸いにも私はA-7のコンピュータ技術の資格とともに、その修理の知識を持っていた。
さらに、ミスター・スコットと共同で開発した新しい通信機器を組み込むのによい機会だと考え、
本格的に取り組むために帯電防止フローターの上に仰向けに寝転び、コンソールの下に潜りこんだ。

新しい装置はまだ正式な使用許可は下りていないが、テスト環境では良好な成績を修めていた。
私が私的通信に使用するのは問題にならないだろう。
そのようなことを考えながら3時間ほど作業を続けていたところ、船長の個人端末が呼び出された事を示すシグナルが点灯した。
連邦からの亜空間通信だ。コードは――プライベートコールだ。
私は個人のプライバシーを侵害するつもりはなかったので、即座に回路を閉じた。
映像は問題なくオフに出来た。だが、音声をオフにするとこれまでの作業を再びやり直さなくてはならない。

そこで私は論理的に考えた。
この通信は私信であり、暗号化されていない。ということは、戦略的重要度が低い。
私はこの船内では、船長に次ぐ権限を持っている。
従って偶然それを耳にしたとしても、保安上は問題にならない。
もちろん、個人のプライバシーの保護に関しては、私は沈黙を守るつもりだ。
バルカン人は決して噂話をしない。

結局私は音声通話はそのままで作業を続けることにした。

「…ところで、君の報告書によると、スポック中佐は随分と優秀らしいな。」
この声はコーマック提督だ。

「ええ。彼は私の知る限り、最も優れた科学士官です。」
船長の張りのある声が答えた。

「実を言うと、私は彼を次の異動で『トゥ・ラル』の船長に任命しようと思っている。
科学調査船だし、なによりあれはクルーが全員バルカン人だ。」
提督の声が響いた。

「『トゥ・ラル』…既存の無人惑星を詳細に調査する船ですね…」
船長が呟いた。

「そうだ。無感情なバルカン人にうってつけの仕事だ。
君はとうとう念願の『人間の』副長を持つことができるぞ!
うん? もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?」

――船長が地球人の副長を望むのは当然かもしれない。
信頼のおける副官の存在は、物理面のサポートはもとより、深宇宙の探査という任務においては、
精神面でも指揮官の支えになる存在でなくてはならない。
『人間の』という単語を強調した提督の言葉を聞いて、私は何かが胸の辺りにつかえたように感じた。

「…ちょっとお待ちください。私がいつそのようなことを言いましたか?」
船長の低い声が尋ねた。彼がこのような声で話すときは要注意だ。
怒りの感情を制御している確率が高い。

だが提督は全くそれに気づいていないようだ。
「なんだジム。あんまり待たされたので拗ねているのか?
君がエンタープライズに乗船するときに、『どうして私の副長がバルカン人なのですか!』といって
喰って掛かってきたじゃないか。
怒った山猫のような君をなだめる私は大変だったんだぞ。」

「新しく船長に任命された士官は、副長として自分の信頼する人物を連れてくるのが通例だと聞いたからです。
私はゲイリーを指名しました。彼には充分その資格があると判断したからです。しかし当時それは却下されました。
それで私はあなたに質問をしただけです。」
カークは必要以上にゆっくりとした口調で話した。

提督の鼻を鳴らす音が聞こえた。
「だから今回はその穴埋めをしようといっているじゃないか。誰でも好きな人物を連れてくるがいい。」

「そしてスポックは辺境に飛ばされ、一生飼い殺しにされるわけですか。
彼に私のような人間の副長職を無理やり押し付け、それが思いのほかうまくやっているとわかると、途端に異動しろという。
まるで彼が失敗するか、自ら辞職したくなるような退屈な仕事を故意に与えているように見えます。
提督、あなたは彼に個人的な恨みでもあるのですか。それとも…」
相手の心に刺さるような鋭い口調だ。

「カーク!口が過ぎるぞ。」
厳しい口調で提督が遮り、室内に張り詰めた空気が流れた。

少し間をおいて、なだめる調子で弁解する提督の声が緊張を解いた。
「ジム、私は彼に個人的な恨みがあるわけではない。だが、バルカン人というのは感情のないコンピュータのような人種だ。
論理の塊のような彼らは所詮、我々地球人とは相容れない。――澄ました顔をして、感情的な地球人を見下しているんだ。
君の船はクルーの大半が地球人だ。副長がバルカン人というのは、やはり君もやりにくいだろう。」

「いいえ。ミスター・スポックは自分の職務を大変忠実に果たしています。
私は彼に不満はありませんし、彼の部下から何か問題があるという報告もありません。
提督の今の発言は人種差別と受け取られかねない内容です。
彼はこの上なく有能な副長です。私としては、今後も傍にいて欲しいと思っています。」

ため息をつく音がした。
「これは君にとって悪い話ではないはずだぞ、ジム。
君が欲しいというなら、バルカン人の科学士官を与えてやってもいい。もちろん、君の指名する副長とは別に、だ。
――だが、スポックはだめだ。他のバルカン人にしろ。」
提督は言い聞かせるように話した。

焦げたような匂いがした。

――大きく息を吸う音がした。同時に何かが弾けるような小さな音も。

「私が欲しいのはスポックです! 彼の他には誰もいりません。」

一音一音区切りながら発音したその声は、これまでよりも随分大きなものに聞こえた。
そのよく響く声はまるで全艦放送をしているかのようだった。

――「かのようだった」ではなく、本当に全艦放送になっている!

素早く辺りを見回した私は、先ほど作業を終えたばかりの基盤が火花を散らしているのを発見した。
焦げた匂いの原因はこれだ。
そして、このショートが原因で船長の私信が全艦に一斉に放送されてしまったようだ。

私は原因の特定と同時に、コネクタをバイパスするようにプラグを差し替える、という修正処置を講じた。
これで通信は途切れることなく正常な回線に復帰するはずだ。

提督はこの事故には気づかない様子で話を続けた。
「これは私の意向だけではないんだ。
オフレコだが、実をいうとバルカンの大使の要望でもある。
彼はスポックの結婚を望んでいる。そういう訳でも『トゥ・ラル』への転属はうってつけだ。」

船長もやや興奮されていたためか、ご自分の声がいつもより響いていたことには気づかなかったようだ。

「もし、彼がそう望むのなら結婚しても構いません。」
彼の声が聞こえたと同時に異音がした。

私は嫌な予感――ではなく、不確定要素が災いしているという直感が働き、先ほどのバイパスに目を向けた。
そしてそれが見事に当たったことを確認した。私としたことが、一ヶ所差違えている。
慌てて――ではなく、出来うる限りの速さでコネクタを繋ぎ直した。

船長の話が続いていた。
「しかし、彼の話も聞かずに正当な理由もなく一方的な意見を言って転属させるのはフェアではありません。
連邦の規則では、彼は結婚を理由に配置転換させられることはないはずです。私は彼の異動に反対します。」
これまで以上に真剣な口調だった。

提督は暫くの間、沈黙した。

「ようし、いいだろう。君がそこまで言うのなら私もそれなりの考えがある。
見方によっては君は部下の出世を妨害したことになるかもしれないぞ。
どんな船にせよ、船長職を蹴るんだからな。」

提督の苦々しい声とは別に、船長のほうはすっきりしたような声だった。
「はい、提督。本官は処分を覚悟しています。」

二人の会話はその後しばらく続いていたが、私にはそれを聞いている余裕はなかった。
私は配線のダブルチェックを行って、それが問題ないことを確認してから全艦放送のスイッチを入れた。
「こちらはスポックだ。先程プライベートな通信が混線するという通信事故が発生した。
既に原因は特定し、是正処置が講じられた。
繰り返す、混線事故が発生したが既に問題は解決した。以上。」

それから事実を確認してインシデントレポートを作成するためにブリッジへ向かった。

私的記録終了

続く

20050723