Title: The unexpected occurrence
Author: hogebon
Codes:
K/S
Rating: K+
Summary:
カークとスポックは初めて精神融合をします。
Feedback:Yes,
I wish.
Please visit my homepage, and write to the bulletin board,
or give me email.
Disclaimer: Paramount owns them. I get no money
for this.
The
unexpected occurrence
02
あるいは偶発事故
船長の張り上げた声が、インターコムのスピーカーから勢いよく流れて来た時、
ドクター・マッコイはスコット機関士長と個室で酒を酌み交していた。
突然聞こえてきた大きな声とその内容に、思わず口に含んでいた酒を吹き出してしまった。
スコットは赤い顔で笑いながら声を掛けた。
「あたしの話に吹き出すほど面白いところはなかったはずですよ、ドクター。」
「ち、違う。いま、今の、声…」
涙目になりながら咳込むマッコイに、スコットはさすがに心配になったらしく、
自分のグラスをテーブルに置いてドクターの背中をさすりはじめた。
なんとか気管に入ったアルコールに決着をつけたマッコイは、真顔でスコットを見て言った。
「今のキャプテンの話は何だったんだ?」
スコットはきょとんとした顔をした。
「え?なんですって? キャプテン・ジミー・ボーイの話なんてしてませんよ。
あたしはこの前の休暇で知り合ったミス・ジャネットの話をしてたんですよ。
ドクター、ちゃんと聞いてくれてましたか?」
どうやら自分の恋愛談に夢中だった彼には、今の放送は耳に入っていなかったらしい。
普段のスコットなら何をしていても船長の声が聞こえれば注意を向けるだろう。
だが、今夜は特別だった。なにしろ何事もない日々が続き、退屈していたところに、
何事もないが故に患者がおらず、同じく暇を持て余していたマッコイが上物の酒を持って現れたのだ。
知らず知らずのうちに酒の量が増え、放送よりも大きな声で話をしたとしてもおかしくはない。
「ジムがスポックの事がどうとか言っていたんだが…」
ドクターは聞こえた言葉をそっくりそのまま言える程飲んではいなかった。
「我々の若きキャプテンはミスター・スポックがちゃーんと面倒を見ていてくれますから、ドクターはなぁんにも心配しなくていいんですって。
ドクターには患者、あたしにはエンジン、キャプテンにはスポック。
このエンタープライズでは、みぃんな…ヒック、適材適所に収まっているってことでさぁ。」
そう言って機関室でこっそり蒸留した「特上の」ウィスキーをマッコイのグラスになみなみと注いだ。
「さ、遠慮はいりません。ぐいっといってください。」
スコットランド訛りでにこにこ笑いながらドクターを見た。
マッコイはまだ何か腑に落ちない様子だったが、やがて唇を片方だけ吊り上げて笑い、グラスの中身を一気に飲み干した。
高純度のアルコールが全身に回り、カッと体が熱くなる。
スコットは満足そうな顔で頷いた。
「ところで、あたしがミス・ジャネットとその後どうなったかというと――」
機関士長はまた話を元に戻しながら自らもグラスを傾けた。
「ねえ、スールー、今の聞いた?」
チェコフはブリッジのコンソールに座ったまま、小声でスールーに呼びかけた。
「ああ。キャプテンは一体何が言いたかったんだろうな。」
前を向いたまま、低い声でスールーが答えた。
「僕が思うに、キャプテンはミスター・スポックと結婚したいってことじゃないのかな。
ミスター・スポックと一緒に誰かにそれを相談していたところが、どういうわけか艦内放送に切り替わってしまった。とか。」
物事をはっきり表現するのは、若さのためか、それとも彼の性格なのだろうか。
チェコフが例の顔でずばりと言った。
スールーは謎めいた微笑を浮かべた。
「それはどうかな。副長はバルカン人だっていうことを忘れてないかい、チェコフ?」
「キャプテンならたとえ相手がアンドリア人でもバルカン人でも関係ないさ。
一旦決めたら堕ちるまで絶対に諦めないと思うな。
彼の数々の伝説は君だって知っているだろ?『宇宙一伝説』とかさ。」
チェコフが面白そうにスールーに向かって話しかけた。
通信コンソールから、わざとらしい咳払いの音がした。
「ブリッジでは、意見があるときは大きな声で発言してください。――そうでないなら口を閉じていた方が懸命ですわ。」
ウフーラがブリッジ全体に聞こえるように大きな声で言った。
それまでひそひそ声で話していた他の部署の夜勤担当者も、彼女の的を得た発言に、ぴたりと私語をやめて各自の作業に専念した。
通路で散々クルーの視線を浴び、ようやくターボリフトに乗り込み、その扉が開いた途端、
今度はブリッジに漂う妙な気配を感じたスポックは、扉の前に立ち止まり、無表情で全体を見渡した。
さすがにブリッジ勤務の士官は好奇の目で彼を見ることはなかったが、
敢えて「見るまい」と努力しているような不自然な静けさに支配されていた。
スポックはそのような気配を無視してつかつかと通信コンソールに近寄り、
勤務中のウフーラに話しかけた。
「ウフーラ中尉。先程の通信事故についての記録を私のコンソールに回すように。」
ウフーラはやや困惑した目でスポックを見た。
「私はあの件に関しては何も関与して……」
「君があの事故に関係していない事は既に解っている、中尉。
だが君は通信士官として、当船の全ての通信を管理しているはずだ。
私は事実を把握してキャプテンに報告する義務がある。
そのためにどうか私の言ったことを実行して欲しい。」
スポックは普段の仕事中の感情を含まない声で言った。
「はい。ミスター・スポック。直ちに」
ウフーラはくるりと自分のコンソールに向き直るといくつかのスイッチを調節した。
両手が何度か軽やかにパネルの上を舞い、すぐに返事があった。
「そちらに記録を回しました。どうぞ。」
「…ご苦労」
普段は言わないであろう言葉を掛けられ、ウフーラは振り返って笑顔で応じた。
スポックは自席でイヤホンを装着してから記録を再生した。
『StarDate:2284.1892…』
イヤホンからコンピュータの日付を読み上げる音声が流れ始めた。
船のメイン・コンピュータには、船内のあらゆる通信が常時記録されている。
それは膨大な量に及び、なかなか目的の箇所まで進んでゆかなかった。
スポックは素早くコマンドを打ち込んだ。
『検索:過去1時間以内、全艦内放送、非ブリッジコントロール』
一瞬の間をおいてコンピュータの音声がイヤホンから聞こえた。
『StarDate:2284.2011。場所:船長私室。通信者:船長。対象:全艦』
これだ。『連続再生』。
空電の音が少し続いた。
「――私が欲しいのはスポックです!」
突如カークの歯切れのよい声が大きく耳の中で響いた。
キーンという甲高い雑音がそれに続く。
スポックは僅かに眉をしかめて音量を調節した。
空電がきっちり20秒続いた後、少し抑え気味の声が再び聞こえた。
「――もし、彼がそう望むのなら結婚しても構いません。
しかし、彼の話も聞かずに正当な理由もなく一方的な意見を言――」
"ボツッ" という鈍い音とともに突然声が途絶えた。
数十秒後、再び放送が始まった。
「こちらはスポックだ。先程プライベートな通信が――」
スポックは『停止』のコマンドを入力してから通信の録音を自分のディスクにコピーした。
それから、自分のパスワードを使って――当然副長の権限として認められている――メイン・コンピュータの記録を削除した。
事実から言えば、私信の内容が特定できるものではなかった。
しかし、事故は事故だ。
スポックは、それを起した当事者として生真面目かつ迅速に報告書を作成し、
船長にそれを届けるために先程コピーしたディスクも一緒に持ってブリッジを後にした。
ターボリフトのドアが開いた途端に中から飛び出してきた人物は、スポックにぶつかりそうになった。
バルカン人の反射神経がなければ、お互いに額に大きなあざを作っていただろう。
猪のような勢いで飛び出してきたドクター・マッコイは、入れ替わりにスポックが乗るのを
見て、扉が閉まる前に彼の後を追うように再びリフトに乗り込んだ。
二人だけなのを確認してから、マッコイは相手に話しかけた。
「おい、スポック。ジムのプロポーズは受けるのか?」
前を向いていたバルカン人がゆっくりとドクターの方を振り返った。
マッコイは口元のにやにや笑いを隠そうともせず、視線が合うと青い目をからかうように大きく見開いた。
船内標準時では既に夜間になっている。マッコイは少しばかり酔っているような顔つきをしていた。
「仰っている意味がわかりません。ドクター。」
片方の眉を上げて冷ややかにスポックが応じた。
「とぼけるなよ。決まっているじゃないか。さっきのジムの台詞さ。
あれが君の事を言ってるのは間違いないだろう?
ブリッジの士官から倉庫番に至るまで、このエンタープライズに乗っている人間は全員、
彼の告白を聞いたぞ。君にも当然、聞こえたと思うがね。
もちろん、そのデリケートなバルカン人の耳がいかれていなければ、の話だが。」
スポックは再び前を向くと感情を排除した声で言った。
「私の耳は地球人のあなたよりも遥かによく聞こえます。
当然、ドクターに指摘されるまでもなく先程の会話が私に関する事なのは明白です。
しかしながら、あれが個人的なもので、事故により外部に漏洩したことを考慮すると、
分別のあるスターフリートの士官であれば、然るべき対応をするのではありませんか。」
そして、マッコイを一瞥してから徐に言葉を続けた。
「少なくとも私なら、敢えて当事者に問いただすような愚かな真似はしません。」
ターボリフトがデッキ5で停止した。
扉が開くのを待ってスポックが降りようとすると、マッコイがターボリフトをロックした。
スポックの鼻先でしゅっという音とともに扉が閉まった。
「待てよ。どこへ行くつもりだ? まだ話は終わっていないぞ。」
アルコールを摂取しているせいか、マッコイが絡んできた。
このような状態のドクターを無視すると、さらに厄介な事態になることは、今までの経験から明らかだった。
スポックはターボリフトのコントロールパネルを開いてロックを解除しながら応じた。
「私は出来るだけ早くキャプテンの所に行く必要があります。
――報告しなくてはいけない事があるのです。」
スポックは事実を言ったが、マッコイは ははぁ という顔をした。
口元の笑いがいっそう深くなる。
「なるほど。それは早く行ったほうがいいな。」
それから、スポックが手に持っているパッドとディスクに目を留めた。
――婚姻書と添付する証明用音声ディスクか?事務処理も悪魔の契約のように早いな。
パッドを指差しながら、物知り顔で語り始めた。
「それにはもう、君のサインがしてあるんだろう? あとはジムのサインだけ。
ディスクには…そうだな、後からも確認が出来るように音声が録音されているんじゃないか?
どうだ、違うか?」
「ドクターがどのような推理でその結論に達したのか、興味をそそられます。
確かにあなたの仰るとおりです。これは私の事…」
言葉を終えないうちに、笑顔のマッコイに痛いくらいにバシバシと背中を叩かれたスポックは、
前にのめるようにしてターボリフトから降ろされた。
『―故報告書で、従って当然私のサインは終わっています。』という言葉の続きは永久に発せられなかった。
「じゃあな、スポック。頑張れよ。」
ドクターが昔の海軍式に敬礼をしたまま、ターボリフトの扉が閉まった。
かすかに左右に揺れていたところを見ると、かなりの量のアルコールを摂取していたようだ。
スポックは神妙な顔で二秒ほど閉まった扉を見つめていたが、そのままくるりと向きをかえて
船長個室に向かって歩き出した。
続く
20050723
