Episode 9 Letting in

AN : ホッジスの受難 / Hodges is in trouble because of himself. As usual.


Chapter 5 Shampoo(side:Hodges)

タクシーで出勤するサラを見送り、ハンクの散歩へ行き、それから書斎で調べ物をしているとき、彼の携帯電話が鳴った。
発信者を見て、グリッソムはげんなり溜め息をついた。出来れば無視したかったが、6コール放置しても切れなかったので、仕方なく携帯電話を開いた。
「グリッソム」
「ギル、副保安官が・・・」
「今日は非番なんだが」
「ロイス・オニールの件で副保安官が発表する内容を確認したいと言ってる」
「もうメディアには発表したんじゃなかったか」
「定例会見で突っ込まれそうなんだそうだ。来てくれ」
「定例会見なら明日の正午だろう。なぜこんな夜中に打ち合わせなんだ」
「市長が早朝の便で発つからだ」
グリッソムは溜め息をついた。
「30分で来てくれ。頼んだぞ」
エクリーは返事を聞かずに勝手に電話を切った。
もう一度溜め息をついて、グリッソムは急いでバスルームへ向かった。

お湯の下で、シャンプーを出そうとポンプを何度も押したグリッソムは、空気と僅かな泡しか出てこないボトルに思わず悪態をついた。
買い置きはそういえば忘れている。
ボトルの棚を見つめ、グリッソムは小ぶりなシャンプーボトルを手に取った。
使わないでね、と言われたのを思い出す。
だが、緊急事態だったと言えば、きっと分かってくれるだろう。
グリッソムはそっとポンプを押した。
彼女の匂いが、バスルームに充満した。
微笑を浮かべ、鼻歌を歌いながら、グリッソムは髪を洗った。

************

エクリー、副保安官との打ち合わせを終えたグリッソムは、サラの様子を一目見ていこうと、ラボの中をウロウロしていた。
「あ、大将!」
呼び止めてきたのはホッジスだった。
彼の長い講釈を聞く気分ではなかったので、グリッソムは一瞬気付かなかったフリをして素通りしようかと思ったが、彼が熱心に手招きしているのを見て、仕方なく足を向けた。
「どうした、ホッジス」
「Mt.チャールストンで出た遺体から取れた正体不明の無機物の破片、あったでしょ?」
「ああ、あったな」
グリッソムはちょっと興味を引かれた。
「正体が分かったのか?」
「いいえ、まだです。でも、すんごいことが・・・」
グリッソムは興味を完全に失った。
「ホッジス。正体が判明してから、呼んでくれ」
そう言って踵を返したとき、ふと、ホッジスが身を乗り出してきたのに気付いた。
「あれ?大将??」
グリッソムは思わず身を引いた。
「なんだ?」
距離が近いぞ。
グリッソムは眉をひそめた。
ホッジスは鼻をひくつかせた。
「ん?」
そう言ってますますホッジスは顔を、鼻を、グリッソムに、グリッソムの頭に近づけた。
グリッソムはますます身を引いた。
「シャンプー、変えました?」
グリッソムは思わず息を止めた。

--匂いフェチに気をつけて。

しまった。
はっきり「ホッジスの鼻に気をつけろ」と言ってくれていれば・・・!

「この匂い、なんか、どこかで・・・」

まずい。
グリッソムはホッジスの体を押しやりながら、高速で脳みそを回転させた。

「あー、多分、試供品を使ったからだ」

情けない。そんなものか、ギル・グリッソムよ?

「ふむ、なるほど」
ホッジスは体を戻した。
「もう行くぞ」
グリッソムはそれ以上の会話は危険と、逃げ出すようにトレースラボを出た。

休憩室を覗くと、サラがゼリーを食べているところだった。
「サラ」
息を切らせてグリッソムは部屋に飛び込んだ。
「エクリーに呼ばれたって?ご愁傷様」
サラは意地悪く笑いながら言った。
それから、手にしているゼリーを軽く持ち上げて見せた。
「冷蔵庫の大量のゼリー、あなた?」
「あ、ああ・・・飲み込みやすいかと思って」
「うん。助かる。ありがと」
スプーンにすくったゼリーを口に運びかけてから、サラは、あ、そうだ、と口を開いた。
「言いつけ通り、現場にはまだ出てないわよ」
「あ、ああ・・・」
休憩室の外をチラチラ気にしているグリッソムに、サラは気付いた。
「どうしたの?」
「サラ。今日、ホッジスに会ったか?」
サラはスプーンをくわえて、少し考えた。
「まだだけど」
「会わない方が良い」
サラは眉をひそめた。
「なんで?」
「あー・・・」
グリッソムは思わず頭を掻いた。
それを見て、サラが目を見開いた。
「まさか、使ったの?」
声を荒げてから、サラは軽くむせた。
「だから・・・使わないでって言ったのに!」
慌てて声を落としながらも責める口調で、サラはグリッソムを睨んだ。
「緊急事態、だったんだ」
サラは首を細かく振った。
「分かった。近くには行かない・・・ように努力する」
額に手を当てて、サラは諦めたように言った。
「同じ部屋にいない方が、いい」
そう言うグリッソムを、サラはもう一度睨み付けた。そしてふと、笑顔になると、首を傾けながら尋ねた。
「じゃ、現場に出ていい?」
うっかり、「いい」と言いかけて、慌ててグリッソムは首を横に振った。
「それとこれは別問題だ」
サラは膨れた。
そしてグリッソムを無視するように、ゼリーを食べ続けた。
「サラ・・・」
何かを言いかけてグリッソムが一歩サラに近寄ったとき、
「おつかれーっす」
ニックが入ってきた。
「あれ?グリッソム。呼び出されたんですか?」
「やあ、ニック」
グリッソムは急いで笑顔を返した。
それから、グリッソムは休憩室を出て行きかけたが、ふとサラを振り返ると、
「今日は現場は禁止だ」
上司然として命じた。
サラはスプーンをくわえたまま、不満そうに頷いた。それを見て、グリッソムは去って行った。
「病み上がりなんだからしょうがないさ」
コーヒーをカップに入れて隣の席に座ったニックが、ポンポン、と軽くサラの背中を叩いた。そしてサラの手元を覗き込んで、
「冷蔵庫の大量のゼリーは、君のか」
そう言って笑った。
「喉ごしがいいから」
「まだ痛む?」
「少しね」
サラはニックを見つめ、それから、彼の視線が彼女の手首に注がれていることに気付いた。
「あー、ニック」
「ん?」
ニックは自分の視線に気付いたのか、慌てて逸らして誤魔化すようにコーヒーをすすった。
「手首の痣だけど」
「あ、ああ」
「心配するようなことじゃないから」
「・・・ホントに?」
ニックの眼差しには、誠実さが溢れていた。
「大丈夫よ」
「そっか」
ニックは頷きながら、コーヒーをすすった。
「・・・彼氏?」
サラは唸るように溜め息をついた。
「筋肉ムキムキ?」
サラは思わず軽く噴き出した。
「そうじゃ、ないけど」
「軟弱男ではなさそうだね」
サラはまた噴き出した。
「グレッグではないわ」
それにはニックが噴き出した。
「あいつも結構鍛えてるみたいだけど?」
「そうなの?」
「一緒にシャワー浴びたとき、見たんじゃ無いの?」
ニックの軽口に、サラはニヤリと笑った。
「ああ、そうだった」
二人はしばらく笑い合った。それが落ち着いたところで、
「ほんとに、大丈夫だね?」
ニックはもう一度、真顔で尋ねた。
「ええ」
サラはニックの目を見て答えた。
「な、もし暴力を振るうようなら」
「そういう人じゃない」
サラはニックの腕にそっと手を乗せた。
「大丈夫よ、ニック」
ニックもまた、その手の上に更に自分の手を重ねた。
「少しでも、変だなと思うことがあったら」
「必ず言う」
「約束だよ?」
サラは片方の口角を上げた。
「ええ」
「いい?」
「約束する」
よし、と言って、ニックは片手を上げると、サラの頭を撫でた。
サラは思わず笑ってから、ふと言った。
「あなたとウォリックがハンクに何したか、知ってるわよ」
「あれ、なんだっけ?」
ニックはおどけたように眉を上げて、コーヒーを飲んだ。
サラは肩を揺らせて笑い、それからニックにウィンクしてみせた。
「愛してるわ、ニッキー」
ニックも笑いながら、サラの頬に軽く口づけた。
「愛してるぜ、ベイビー」
サラは笑いながら、軽くニックの胸を小突いた。
そんな二人の様子を、廊下の端から苦虫を噛み潰したような顔でグリッソムが見ていることに、気付いている者はいなかった。

************

サラとニックの友情は分かってる。知ってる。
誰よりも信頼しているのがニックだと言うことも、十分承知している。理解している。
合鍵を渡しているくらいだし。
男女の情ではなくて、兄妹のような情だと言うことも分かってる。
分かってる。
分かってるんだ。
理解してるんだ。
自分は彼女の信頼を裏切り続けてきた。まだそれを取り戻すプロセスにいるんだ。だからまだ合鍵をもらえなくても、仕方ないんだ。
分かってる。
分かってるんだ。
グリッソムは鼻息荒く歩きながら、トレースラボに向かった。

「ホッジス」
イライラとした声で呼びかけられ、ホッジスは弾かれたように顔を上げた。
入り口に仁王立ちしているグリッソムに、しかしホッジスは笑顔を浮かべた。
「大将。さっきの件は、結果まだですけど、でもすんごいのが」
「ホッジス。さっきみたいなのを、女性に対してしてないだろうな?」
「さっきみたいなの?」
「・・・してないだろうな?」
「あー・・・」
「いいか、ホッジス」
イライラと、グリッソムは人差し指を立てた。
「あれは、セクハラになりかねんぞ」
「あ・・・はい・・・」
「気をつけろ」
厳しい声で言われ、ホッジスはしょんぼり項垂れた。
つい先日、サラにも「キモい」と言われたばかりだ。ウェンディは少し慰めてくれたが、彼女も、髪の匂いについて指摘したら怒っていた。
どうせボクは、キモいですよーだ。
空気読めないKYですよーだ。
白髪も増えてきちゃったし。
あーあ、最近いいことないなあ・・・
ウェンディ、食事に誘ったら来てくれるかなあ。
ホッジスは深々と溜め息をついた。


End.

AN2 : 一応このシリーズはここまでで終わりです ^^; よろしければ感想を一言でもいいのでコメントしてください。もちろん日本語で OK です。 どうしても文章を残すのは恥ずかしいという方は(私も日本人ですので、ちょっとコメントするだけでもとても勇気が要るのは分かります!)、 サイトの方の「読んだよ」ボタンをポチッと押してください。(ただし、サイトの方はアップが1週間ほど遅いです。)
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